第二十四話 勇者と魔王の決勝戦
5-24 勇者と魔王の決勝戦
つまらない。本当につまらない試合でした。あの男の剣は当に、真心無き剣。ただただ、傲慢なだけの剣でした。
『龍人族』の寿命を考えれば、あの男は二代目か三代目になるでしょう。初代の影響は色濃く残っている可能性が高いです。ジジイが弟子にとらなかったのも納得する他ありませんね。
「姉様……顔、怖いよ?」
おっと。
そう言って抱きついてきたブランの感触で正気に戻ります。
「……ごめんなさい。さっきの試合を思い出していたの」
謝りながらすぐ下に見えるブランの頭を撫でてやれば、安心したのか、私を抱きしめる腕が緩みました。
軽く深呼吸をして、視線をモニターに戻します。映っているのは、舞い踊る姫。そしてその引き立て役です。
「流石は、スズ様です。あの者を相手に、余裕がある」
私たちの中で三番目に強いコスコルですが、実際に戦った相手とスズの試合を見て、その実力差を改めて認識したようです。これからの修行にはさぞ身が入ることでしょう。
それにしても……。
「楽しそうで少し羨ましいわ」
……なんでそんな安心したような目で見られているのですか?
「いつものマスターに戻ったからです」
っ!? 嘘でしょう?
まさか、アリスまで心を読めるように……!?
「顔に出ていました」
あ、はい。
「……どうやら勝ったみたいね」
「姉様、話、逸らした?」
ぐふっ……! 至近距離からそれはズルイですブラン! 視線を合わせられない!
「……」
「マスター、せめて視線は合わせましょうか」
「……アリス、後で覚えておきなさい」
結局スズも剣だけで勝ち上がってしまいましたね。つまり、決勝戦は私とスズという事です。
決勝戦は、昼食の後。まだ暫く時間がありますね。
「……お昼は三人で食べて来なさい。時間が来たらそのまま入場するから、待たなくて良いわ」
「……わかりました」
ブラン達三人と別れ、食事を摂った後、これまでとは別の待合室を貸してもらいました。あなたもですか、と言われたのはそういう事でしょう。
川上流式の瞑想、『溶我』で精神を統一します。
あらゆる情報に集中して、意識を溶かす。 そうしていると、今は考えないようにしていた迷いまで思い出してしまいました。
スズとの試合前にコレはいけません。今は、スズと戦うシュミレーションだけに集中することにしましょう。
それから一時間後、試合の時間になりました。係の人が呼びに来ています。
何やら演出があるそうですが、まぁ、私はただ出ていけば良いようですね。
誘導に従い、闘技場の入り口で待機します。
準備が出来た合図を出してすぐ、目の前が雷を纏った水の柱で覆われました。……属性のチョイスはアルティカですね。今までの試合だとカウンターメインの戦術しか使っていません。水だけならわかりますが、雷は連想できないでしょうから。
やがて雷と水の柱は破裂して消え去りました。それに合わせ、私も入場します。
そして武舞台の待機位置に着くと、今度は反対側の入り口で花が散りばめられた竜巻が巻き起こりました。
司会が何やら口上を述べています。私の時もしていたのでしょう。『花と舞う妖精の姫』だそうですよ、スズは。
「三人の所には、戻らなかったのね」
「そりゃ、お姉ちゃんとだからね」
私たち二人の関係などを司会が観客に説明している間、少し言葉を交わすことにします。
「思えば、貴女と本気でヤり合うのは初めてね」
「そうだね……。お姉ちゃん」
スズが、今までに見たことが無いほどに真剣な顔で私の事を呼びます。
「……なに?」
「全力で、だよ!」
…………ふふ。
「勿論よ!」
♰♰♰
開始の合図。
同時に居合の構えをとり、魔法を発動する。
生み出された金属の矢はステップを踏んで躱され、タイミングをずらして放った風の刃も[光の守護]で防がれる。
ここまでは想定通り。
全ての強化スキルと、魔導を発動。全開の『迅雷』をお見舞いする。
スズ相手だ。様子見する必要も、手加減する余裕もない。
予想はしていたのだろう。一瞬、魔力が動く気配を感じた。しかしスズの障壁展開速度では間に合わない。
スズはすぐに切り替え、両の剣を交差して受ける。
スズが勢い良く吹き飛んだ。
このまま場外になってくれれば早いが、そうもいかない。
宙で体を反転し、二重の[光の守護]を足場にして勢いを殺した。
更に着地と同時に剣を二振り。近づこうとする私を牽制する『鎌鼬』だ。
一発は刀で弾き、もう一発は左に避ける。
そして、今の一瞬で距離を詰めて来ていたスズの横薙ぎを背後に跳んで躱す。
もう片方の剣による追撃は左脚で上段を蹴って弾く。
その勢いで身体を一回転。刀で薙ぐが、潜り込むように距離を積めることで避けられた。
このままだと腹を突かれてしまう。が、私は気にせずスズの顔面に殴りかかる。
結果は、スズが再度、数歩分吹き飛ばされるというもの。
私の腹部には三枚分の障壁の破片と、ヒビ割れた四枚目の障壁。
間合いは適度に開いた。
構成を破壊され消えゆく魔力の壁はそのままに、袈裟斬りを繰り出す。
更に闇の荊棘で縛り上げて動きを封じた。
闇属性の魔導がスズのあらゆる抵抗力を奪う。
私の刀がスズの心臓に迫り、その命を奪わんとする。
「はぁぁっ!」
「っ!?」
今のは何だ?
〈神聖魔法〉にあんな身体強化は無いはずだし、〈光魔導〉で相殺したにしては発動が滑らか過ぎた。
いや、考察は後だ。とにかく謎の高倍率身体強化があることだけ覚えておこう。
私の袈裟斬りを弾いてから距離をとったスズに話しかける。
「驚いたわ。あんな隠し球があったのね」
「へっへーん! 驚かせようと思ってね!」
さて、ここからどう攻めるか……。





