第二十二話 三回戦終了
短いです。
今夜中にもう一本、頑張ります。
5-22 三回戦終了
「お姉ちゃん、お疲れさま!」
試合を終え控室に戻ると、スズがそう声をかけて来ました。ブランは、もう戻っていたようですね。
「ありがと」
そのブランの様子ですが、少し落ち込み気味です。
「ブラン」
「……姉様、私――」
「よく頑張ったわね」
悔しげに俯いて視線を合わさないブランを抱きしめ、告げます。
「正直、あんな傷を負わせられるなんて思って無かったわ」
「そうだね。私もビックリしたよ」
私とスズの言葉に、垂れ下がっていたブランの耳がピクリと動きます。
「貴女は、私たちが思っている以上に成長してくれていた。それがとっても嬉しいの」
「……ほんと?」
不安気な声です。
ですから、一度身体を離して、ブランの眼を真っ直ぐ見つめます。
「えぇ、本当よ」
「私は、姉様の期待に応えられた……?」
「寧ろ、期待以上よ!」
眼を逸らさず私が答えれば、ブランは視線を落として呟きます。
「そっか、よかった……」
よく見れば頰の辺りが薄い朱に染まり、尻尾が揺ら揺らと揺れています。本当に、可愛い子です。この子は。
「さて、そろそろコスコルは行かなきゃだね!」
「そのようです。では、行って参ります」
コスコルの次の相手は……あぁ。
「コスコル、相手は格上ね」
「はい」
「言いたい事、分かるわよね?」
「勿論です。私も、負けていられません」
コスコルより実力で劣り、年齢でも下のブランが私相手にあそこまでやったのですから。
◆◇◆
今、コスコルの試合が終わりました。
「うん、頑張ったわね」
「そうだね」
コスコルは圧倒的格上に対して、非常に粘りました。
相手が野太刀を使った事は良かった。感覚としては、大剣形態を使う私と近かったですから。
膂力に置いて、『龍人族』のソレは私たち『吸血族』や鬼神の系譜に並びます。その剛力を以て振り回される巨刀を、コスコルはうまく捌いていました。寧ろ、技術面ではコスコルがやや上回っていたかもしれません。
しかし流石はSランク。次から次へと繰り出される必殺級の技の数々に押し切られてしまいました。
骨が折れ、内蔵が潰れて口から血を流すような状態でも、コスコルは楯を構え続けていました。
アリスが涙を抑えきれず見つめる先、決死の戦いをしたコスコル。終いには目も見えなくなっていたのではないでしょうか。
本当によく頑張りました。
◆◇◆
「それじゃ、行ってくるよ」
「えぇ」
これから始まるのは、今日最後の試合。つまり、ゴミ掃除です。
「もう一人の人は、双剣使い?」
「そうね」
「これまた実力差がハッキリ分かる組み合わせですね」
互いに双剣を使う者同士の対決になりますからね。
「あ、出てきた」
ふむ。昨日のブランの相手とは違って油断をしていないようです。寧ろ好都合というものです。
「双剣術は、どこまで伝わってるかしらね」
構えは……基本のモノの一つですね。利き手の剣をダラリと下げ、反対の手に持つ剣の切っ先を相手へ向ける姿勢です。
対してスズは自然体。
試合開始の合図と共に、ゴミ師範代その二が駆け出します。そして正面に構えていた左手を横に薙ぎました。
これは一歩下がって躱すスズ。その後を追うように右手の剣が振り上げられます。
「スピードは、まあまあ」
その一よりその二の方が実力は上の様子。
「でも、まだまだ鈍い剣ね」
右手の剣をゴミその二が振り上げきる前にスズは一歩踏み出し、距離を詰めて右手の剣を一振り。振り下ろそうとしていた左腕の筋を切り裂きました。
筋を切られた左腕が力を失い、ダラリと垂れ下がります。
スズは更に踏み込み、左膝をゴミその二の鳩尾に叩き込みました。
今の一手、本来なら左手の剣で首を撥ねて終わりの筈なのに敢えてしませんでしたね。なかなかにお冠です。
そのまま一回転、右脚で後ろ回し蹴り。ゴミその二が吹き飛んで行きます。
魅せますね。
スズは既に、〈縮地〉を使って吹き飛んだ先に回り込んでいます。
それに気づいたゴミ師範代がなんとか空中で姿勢を立て直し、剣を構えます。
これへのスズの対応は、『渦撃』。ゴミその二を武舞台に叩きつけました。
そのまま追撃……ではなく距離をとるスズです。
ゴミその二は、なんとか立ち上がったようですが……実力差を理解したようで腰がひけています。何やら喚いているようですが、音は聞こえませんからね。
その後ニッコリ笑ったスズが剣を振ること三度。ゴミその二の体が三等分されて試合が終わりました。
◆◇◆
「圧倒的、でしたね」
思わずと言った風にアリスが呟きます。
「……まぁ、こんなものよね」
少々痛ぶってましたが、まあ、私たちのイメージダウンになるような事にはならないでしょう。
「たっだいまー!」
「スズ姉様、おかえりなさい。お疲れさま」
「「お疲れ様です、スズ様」」
「ありがとっ!」
「お疲れさま、スズ。派手にやったわね」
「お姉ちゃんもありがと! えへへー、もちろん!」
スッキリしたようですね。
「まぁ、やり過ぎなくてよかったわ」
「そこはちゃんと気をつけたよ!」
心外! とばかりに頬を膨らませつつドヤッとするなんて器用なことします。
「それで、あのゴミは最後なにを喚いてたの?」
「ん? あぁ、アイツらの奥義がどうとかって。『渦撃』のことじゃない?」
「あらそう」
さてさて、何はともあれ、明日が本番ですね。私たちからしたら。
「それじゃ、帰りましょうか」
まだ師範とやらの実力はハッキリしませんが、精々楽しませてほしいものです。





