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12/10^16のキセキ〜異世界で長生きすればいいだけ……だけど妹たちに手を出すなら容赦しない!〜  作者: 嘉神かろ
第五章 時は隔てる

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第二十一話 白狼の成長

5-21 白狼の成長


 五日目となりました。

 昨日の二回戦ではブラン以降、全員が順当に勝ち上がりました。今日は三回戦です。


 今日行われるのはまず、私とブランの第一試合。次にコスコルとSランク冒険者である第二シードさんの第二試合。そして、スズともう一人の師範代による第三試合です。


「さ、ブラン行きましょうか」

「んっ、頑張る……!」


 両手で握り拳を作るブランはどう考えても天使で天使すぎるのですが、試合では手を抜きません。この子の今までの頑張りに失礼ですからね。


「いってらっしゃーい!」

「いってらっしゃいませ」

「お気をつけて」


 控室を出て、途中までは一緒に歩きます。声をかける事はしません。


 然程(さほど)歩かずに辿り着いた別れ道で、ちらりとブランを見ます。

 ……うん。良い感じに集中できてますね。尻込みするような事もないでしょう。


 通路を抜けて入場し、武舞台へ上がります。

 司会が私たちを師弟関係と紹介する声。

 刀形態の『ソード・オブ・ムーン=レンズ』を〈ストレージ〉から取り出してブランに本気を伝えます。


 普段ブランと対峙する時には抑える剣気、そして殺気を全開に。


 さぁ、ブラン。貴女の全てを、私に見せてください!



◆◇◆

 前方、二十メートルほど離れた位置に立つのは、自らが尊敬し、愛して止まない長姉。ブランはその事実を、改めて認識する。


(ホントは嫌。姉様と戦うのは)


 ブランの見据える先、アルジェが彼女の愛刀を取り出した。


(あっ。姉様、本気なんだ。……なんでだろう。姉様と戦うのは嫌なのに、嬉しい)


 そして感じた気迫。


(……! …………恐い)


 ブランはこの時、姉に恐怖した。アルジェから初めて向けられる怜悧な視線に、後退りしそうになる。


(恐い……でも、コレは姉様の期待。応えたい……!)


 姉に与えられた双刀を抜き、姉に教えられた構えをとる。


 震えそうになる体を意識的に制御して、待つ。その時を。


 そして聞こえた試合開始の合図。


 ブランは駆け出そうとして、慌てて左へ跳んだ。


(スキルじゃない縮地……やっぱり、早い!)


 唐竹に割る一撃で白い髪の毛が宙に舞う。

 慌てて体勢を立て直すが、既に刀は斬り上げ始められている。


(ダメ、避けるのは無理)


 速度に乗ってしまう前にと、三重に張った障壁を使って下方で刀を止めようとする。


 しかし止まらない。白刃は三枚の障壁全てを斬り裂き、迫ってくる。


 やや速度が鈍ったおかげでなんとか直撃は免れたが、頬に赤い筋が走る。

 今までは三重障壁で止められていた一太刀。それをこうもアッサリと斬り裂かれた事実に、ブランは姉の本気を感じた。


 見れば、アルジェの身体は伸びきっている。


(でも、これは罠。踏み込んだら蹴りが来る)


 〈縮地〉を使ってブランは距離とった。


「あら、残念」


 さして残念そうな雰囲気も無く、アルジェが呟く。

 対して、ブランに返事をする余裕は無い。今のやり取りだけで大きく精神力を削られ、息が乱れる。


(攻めなきゃ)


 そう思って隙を探るが、相手は遙か高みにいるアルジェだ。今のブランには一切見つけられない。


(なら、つくる!)


 ブランはアルジェに向かって駆け出した。この際に選んだ歩法は、『川上流暗器術』のモノ。その中でも特に、感知能力に優れた相手へ使う技だ。

 これでもアルジェには殆ど影響しないが、ブランはその僅かな効果を求めた。


「ふふっ」


 白狼の視線の先にいる長姉は、何を見せてくれるのかと楽しみにした様子で微笑んでいる。


 ブランの間合まであと三歩、アルジェの間合まであと一歩という所。白狼が跳躍した。 


 アルジェは特に驚いた様子もなく、ブランの姿を目で追っている。


 吸血姫の頭上に至ったブランは、そのまま落下を開始する事なく宙を蹴る。結界の足場だ。


「まぁ、そうよね」


 まさかそれで終わりじゃないでしょう? そう言いたげな姉の期待に応える為、結界を足場にした連続跳躍で円を描く。

 〈縮地〉を用いたその動きは(くう)を蹴る度に加速し、とうとうアルジェの目にもハッキリ見えなくなった。


 それでも白狼は跳躍を止めない。それどころか、〈結界魔導〉の障壁展開を利用してアルジェを攻撃する。一見すると不意をついた形だが、〈魔力視〉によって魔力自体を視認していたアルジェはしっかり対応して見せた。


 その瞬間だ。ブランがアルジェの上空で真下に跳んだのは。


 〈縮地〉と〈限界突破〉で最大限加速した白狼が、師の首を刈らんと迫る。


 しかし、それでも遅かった。


 刀の神に至った彼女は一瞬で、避け、迎撃する準備を整えてしまった。


 この戦いを認識出来ていた者全てが終わりを確信した。


(まだ、終わりじゃない!)


 その白狼を除いて。


 ブランは薄い一枚の障壁で傾斜を作り、刀の軌道を逸らす。


 重力に引かれる白狼自身の身体も、その障壁に沿って目標を変えた。


 ブランの限界を超えた魔法発動速度だ。流石のアルジェもコレは予想していなかった。


 ブランの白黒二本の小太刀は、確かに届いた。


 彼女が視界の端に捉えた姉の笑顔は、悍しく、そして美しい。


(やった! 早く、りだ…………)


 そしてそれが、白狼の見た最後の景色だった。



◆◇◆

 残心を解き、納刀します。


 あぁ、ブランは想定以上に成長してくれていました。私はそれが嬉しくて堪りません。


 この顔にクッキリと刻まれた二本の傷。右目を斬り裂いたモノと、顔を斜めに斬り裂き右頬で一本目と交わるモノ。そして顎を伝う熱い鮮血。


 コレらが全て、ブランによって与えられたものです。

 あの、盗賊のアジトの片隅で全てを諦めていた少女が、雨に打たれ、肩を震わせる事しかできなかった少女が、ここまで成長してくれていました……!


 あぁ、なんて、なんて素晴らしい日なのでしょう!


 こんな機会を得られだ事だけは、ゴミ屑共に感謝します!


 さぁ、ブランを労ってあげましょう。沢山、沢山褒めてあげましょう。


 そして祝いましょう。あの子の、成長を……!



ストックはこれで尽きましたが、問題はないでしょう。たぶん。

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