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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第5章 タスクフォース8492
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9話 雲の上の白兵戦

【視点:3人称】


「まーたアーク溶接か。」



そう感想を吐き捨てるのは、タスクフォース8492のリーダー、ホークである。アーク溶接と言う単語はこの世界では通じないのだが、逆に通じてしまうI.S.A.F.8492出身の者達は、「的確な表現だ」と乾いた笑いを見せていた。

再びこのような表現が出たのは理由があり、現在進行形でヴォルグとハクレンが凄まじい殺気を発しているのだ。とはいえ、それもちゃんとした理由がある。



「先ほどは強烈な連携戦闘を見せられましたからね。血が昂ぶるというやつです、加減できませんよ主様。」

「あーうん、了解。でも洞窟は崩さないようにね、帰るの面倒だから。」

「留意します。」



了解じゃないのかと首を垂れるホークだが、残念ながら夫妻は完全に戦闘モードにスイッチしてしまっている。その際はハクになんとかしてもらおうという他力本願な計画を練り、一行は駆け足で進むのであった。



===10分後===



「主様、なぜ敵が出てこないのですか!!」

「当たり前だろ自分が敵だったらこんな殺気の中に突っ込もうとは思わねぇよ、そんなものはただの自殺志願者だ!」

「まったくです。」

「ぐっ……。」



駆け足で3階層を進んでいった一行だが、まさかの一度も敵に遭遇せずに次層への坂道に到達してしまうことになる。原因はホークがまくしたてハクが同意した通りであるが、超絶不完全燃焼の2名は地面に突っ伏してしまい不貞腐れていた。

そんな光景を後ろから見ているマールとリールだが、伝説的なフェンリル王がこのような態度を見せるとは思いもよらなかった表情である。マクミランが2名を宥めるも、今回ばかりは効果が薄いようだ。


そのためホークが「5秒以内に起きなければ飯抜きだぞ」と吐き捨てると、2名はぜんまい仕掛けのように飛び起きる。このあたりの反応は、餌付けがきっちりと行われている証拠でもあった。

そんな光景を横目見ていたホークは、やれやれと溜息を付き逆を見据える。そこにいたのは彼の妻なのだが、いつもとは若干出で立ちが異なっている。



「さて、いよいよ出番だね。」

「ええ。マスターの御前で奏でる初めての白兵戦、腕が鳴るというものです。」



覇気のある顔で答える彼女の両手には、ホークが双剣と呼んだ瓜二つの剣が握られている。短剣ではないが長剣と呼ぶほどでもなく、なんとも表現の難しい長さであり幅は細い。

細いと言ってもレイピアほどではなく、分類するならばソードの類になるはずだ。煌びやかな宝石はなく白木のような柄が特徴であり、見方によっては反りの無い脇差のように表現できるだろう。


しかしながら刀身は間違いなくソードの類であり、色は彼女の頭髪と似た水色と呼ばれるものである。金属らしい光沢を見せるもののホークの知識に該当する金属は存在しておらず、その輝きだけでも見とれてしまう。

普段の彼女との訓練で見慣れている武器ではあるが、やや薄暗い洞窟で放つ輝きはより一層の濃さがある。彼女に一目惚れしていたという色眼鏡もあるが、ハクが持つ美しさと相まって、彼にとってはいつまでも見ていられる光景だ。


とはいえそんなことを続けている余裕はなく、互いに軽く微笑むと、彼女は先頭を歩き出す。ホーク達一行は、その後に続いた。

しかし、先ほどまでとはやや違う。次の層へと続く道が明らかに長く、マールとリールも不思議がっていた。やがて次の層が見えてきたのだが、その直前でハクが口を開いた。



「これは……マスター、ご注意ください。あまり入り口から離れぬよう、お願い致します。」

「どうした?あれ、ここ広いぞ。」



明らかに、今までの入り組んだトンネルとはワケが違う。ホークが呟いた声の反響程度ですらも今までとは明らかに違っており、目視程度では野球場ドームほどの空間が広がっていた。



「っ!?主様ご注意を、何か居ます!」



その一角だけ、光の落ちた箇所がある。匂いまたは気配を感じ取ったのか、ヴォルグとハクレンは叫ぶと同時に身構えた。

すると演劇の演出かのごとく、その部分に居た魔物がライトアップされる。茶色い肌、2本のツノと牙に赤い瞳。全長は5mと読み取れるが、遠近法の影響もあるために定かではない。ともかく、一般成人男性の倍以上の大きさであることは明白だ。



「うそっミノタウロス!?そんな、Sランクの魔物がなんでこんな低層に!!」



その言葉でホークは再認識したのだが、このダンジョンにおいては知識人であるマールとリールの常識が通用していない。彼も「なんかおかしいな」程度のことは感じ取ることはできるのだが、理由は当然ながら不明である。

そして、決して怯む仕草は見せていない。部隊をまとめる長が怯んでいては隊員に影響があることを理解しているための行動だが、それ以外にも理由はある。前者と後者において、占めるウェイトは半々だ。


そんなホークと睨み合い、演劇で使われるドライアイスの如く息を吐くミノタウロス。その巨体から発せられる呼砲は部屋に響き渡り、8492のメンバーと言えど僅かながら怯んでしまう。

状況を認知しようとするマクミランとディムースだが、相手は待ってくれない上にホークからの指示も無い。ミノタウロスはその体程ある巨大な剣を振りかぶると、間髪居れずに攻撃態勢に移行した。


第三者が状況を口にするならば、突進と横薙ぎの組み合わせ。重量級の突進術から放たれる一撃は筋肉量の多さと相互に作用し、建物すらも粉砕する程のエネルギーを発生させる。

もちろん、彼等のような人間が受ければひとたまりも無い。ナイフ程度の刃物は通さない戦闘服とはいえ、ミノタウロスが相手では紙切れ以下の性能だ。



「総帥様、来ます!」



突進のモーションを見て叫ぶリーシャだが、状況は変化しない。僅か1秒も経過すれば一撃が叩き込まれ、全員の身体は上下が分離しているだろう。



「―――――!?」



獲物が居る右側2mの土煙に映る影は、白と水色のコントラストを織りなす古代神龍。先程の結末は、8492総帥である夫を死守する彼女に止められなければの話である。ホークが無言だったのは、己の妻を絶対的に信用していた故の行動だ。


凄まじい金属音が響いたかと思うと、彼女は双剣の片方でもって、敵が両手で放った一振りを止めている。ミノタウロスは死に物狂いで両腕に力を籠めるも、彼女の剣が微かに動く程度で変化が無い。



「――――!!!」

「フッ!」



直後に展開されるのは、まるでアニメを早送りしているかのような斬撃のスコールだ。1秒間に30回以上発生する斬撃の火花が流星の如く周囲に飛び散り、周囲を一層明るく輝き照らす。

彼女が実力を発揮するには狭すぎるフィールドに木霊する金属音は木霊し続け、四方八方から発生しているかのごとく一体を支配した。それに混じり巨体が地面を踏み込む音も聞こえるが、それも次第に弱いものとなっていく。


戦いに関する素人が見ても、押されているのは明らかにミノタウロスとなっている。額から汗を流し、目の前の女が繰り出す斬撃に驚きを隠せない様子だ。



「―――――!?」



彼女が繰り出す薙ぎ払いの攻撃のモーションがやや大きくなったかと思えば、ミノタウロスが受けた一撃は未知のものだ。巨大な剣で受けたものの接触部分は既に欠けており、息をするのも苦しいほどの衝撃が腕を伝って五臓六腑を圧迫している。

思わず衝撃を後ろに逃がすも、それによって巨体は壁際までに吹き飛ばされた。背中から壁に衝突するも、先ほどの一撃と比べれば、その程度の衝撃は可愛いものである。


しかし、休んでいる暇は無い。すぐさま膝に力を入れ立ち上がり謎の集団に襲い掛かるも、やはり彼女に阻まれる。再び斬撃の雨となるもミノタウロスは1秒ごとに数歩後退しており、既に後がない状況である。

悪あがきで大剣を振りかぶるも、彼女が繰り出した逆袈裟のような攻撃によって手首が切り落とされる。それを確認した彼女は横目を使い、雄叫びにも怯むことなく内心ウズウズしていたマクミランにアイコンタクトを行った。



「―――イケメンで気も回るなど、二枚目の男も顔負けだな。」



射出するは、愛銃M82A3のバレット弾だ。もちろん狙いはヘッドショットであり、脳幹を貫通して絶命させる。筋肉に電気信号を送れなくなった巨体は崩れ落ち、ハクは着弾の直前に飛び退いてホークの横に戻ってくる。

とはいえ、それを見ていたホークやリュック達はポカンとしており、動きがあるのは、何故か平常運転なマクミランだけである。やがてカカシ状態から脱したホークは、彼女の逆に並ぶフェンリル王に問いかけた。



「……なぁヴォルグ。最初の斬撃、見えた?」

「び、秒間27までは追えましたが……いや、凄まじい白兵戦でした。」

「限界も近かったが俺は追えたぞ、36だったな。」

「おお、流石です大尉!」



まさかの正解回答に驚くハクだが、他の全員は呆れており全員の首がマクミランに向いている。この集団において、36と言う数値が出せたのは彼一人だから仕方のない話だ。



「……なぁ。前々から思ってたんだが、お前ホントに人間か?」

「ちょくちょく聞く台詞ですけど、褒めてるんだか貶してるんだか分からない言葉を呟くのはやめてください。」

「まぁ総帥、モリゾー先生が人間辞めてるのは昔からですし。」

「オイこらディムース。」



彼女を除く全員が思ったことをホークが代弁したのだが、このメンツでそれが許されるのは彼だけだろう。例によってこのあと000のメンバーがマクミランを崇めるのだが、それはいつもの流れである。

ミノタウロスが突っ伏してしばらくした後に、その姿は霧のように消えてしまった。さり気なく質量保存の法則が乱れるも、誰も気にしている人物は居なかった。



「そう言えば、なんだかんだでハクの実戦を見たのは初めてだな。」

「そうですね。今までの戦闘は8492の皆さんが処理されていらっしゃったので、出番がありませんでしたし。」



あからさまにツンとした言い方をするのだが、ホークにはその思考がお見通しだ。夫であるホークに活躍する場を見せる機会が無く、その内心はモヤモヤとしていたのである。

今回の戦場においては実力の一角を披露することができたものの、機会が少ないことに変わりは無い。それを一発で抑えるため、彼はハクの頭を撫でて優しい声をかけた。



「普段から気を配ってくれてるのは分かってるさ、頼りにしてるよ。」



そんなストレートな愛情と讃称を受け、ハクの頭にある羽がピコピコと動く。頬も気持ち赤く、明らかに照れていた。ほんわかとした周囲の視線を受け、彼女は自分の行いに照れるのであった。

食い気キャラ返上なるか!


どうでしょう。

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