19話 お前等の飛び方は、おかしい
???《ローチ……プランBだ。》
【視点:ホーク】
《……あー、なんだ、総帥。作戦行動中とはいえ演技している場合じゃないから喋るが、水面から橋の下側までどれぐらいある?》
突然と無線を飛ばしてきたのは、珍しく作戦中に喋ったガルム0だ。とはいえ言っていることは尤もだ、今はエルフの命がかかっている。
しかし、戦闘機でどうこうできる場面ではない。それとも、何か策があるのか?
《わからん、10メートル以上はあると思うが計測している時間はない。》
《ビッグアイ1よりガルム0、回答します。水面の揺れでブレますが事前の計測結果は約30m、橋脚はありません。》
《十分だ。メビウスと共に橋の下を通過しAIM-9Xにて攻撃、敵バリケードを排除する。》
《了解したガルム。方位2-5-0より進入し北側を通過する、お前は反対側から行け。》
《了解、俺は逆方向から進入し南側を通過だな。お前の破壊後に俺が吹き飛ばす、サッサと回収してトンズラだぞ総帥。》
……えっ?はい?
ちょ待てヨ、何言ってんだコイツ等。おい誰か通訳、あ誰も居ねぇや。
《カウント3、飛ばされるなよ。》
《正面から高速で擦れ違うぞガルム、バンクしろよ。》
あれ?夜、しかも橋の下なのに明るくなったぞ。嫌な予感がして、振り返ってみた。
あれ?なんで目線の高さに、アフターバーナーを焚いたF-15が居るんだ?ここ橋の下だよな?
その光景を見たのは、おそらくコンマ1秒あるかないか。それを判別できるって、自分の動体視力も捨てたもんじゃないなぁ。
という暢気なことを考えた瞬間に、表現できないような凄まじい轟音!「ゴー」とか「ガー」とか、そんなチャチなもんじゃぁ断じてねぇ!
うおおおおおおおお冗談だろ戦闘機が「真横」を飛んでったぞ!!こんな近距離のせいか橋で狭いせいか分らんけど音やべえええってミサイル発射したあああ!!
うっはあああF-22とF-15が互いに90°バンクして交差しやがった!風圧やべえええ飛ばされる飛ばされる!!そうだグラップリングフック!耐えろ耐えろ耐えろ千切れるなよおお!!
……な、なんとかなった!さすが兵器開発チームの結晶だ、なんともないぜ!
って、なんであいつ等はアフターバーナーを焚いて両端からこのトンネルに突っ込めるんだよ!しかも打ち合わせ15秒かつ一発でキメるとか頭おかしいだろ!!
高さ30mの橋下で全翼幅15m弱の戦闘機が90°バンクするとクリアランスは15mしかないよな!?15mもあれば余裕なのか!?わかっちゃいたが8492のエースにはヘンタイしかいねぇのかよ!!
ええい頭の螺子がぶっとんでる奴等が考えることは理解できん!どういう思考回路から今の曲芸飛行が生まれてくるんだよ!無駄に建造物の隙間を飛行するスキマニア・クグロフの称号持ちだからって無茶してんじゃねぇよ!色々と危険だっつうの!!
っ、思考が逸れたソレよりも目標が重要か!
宣言通り、バリケードはメビウスから発射されたAIM-9Xが命中して破壊され、ガルムの二の矢で吹き飛んでやがる!これで牢獄に突入可能だ!
《ええい効果十分だ馬鹿野郎共、本気でビビったぞ!》
《許せ許せ。しかし、両方を解決できる手っ取り早い方法だろ?》
そ、そりゃそうだろうけどさぁ……。
あー駄目だなこれ、歩兵スキャン結果が反応しっぱなしだ。仕方ない上に切り替わるタイミングが早いか遅いかの違いだ、今後はプランBしかないだろう。
《び、ビッグアイ1より総帥。今の突入で周囲が騒ぎ始めています、ポイントA(男性ハイエルフ+狐族)の発覚も時間の問題です。》
《しゃーねーだろプランBに変更だ!ハクとリュック、リーシャは回収地点を確保!ディムースの部隊はポイントAから男エルフと狐族を誘導し回収地点ブラボーに誘導!ヴォルグとハクレンは護衛しながら暴れてこい!!》
《仰せのままに、マスター!》
《承知しました!》
《聞こえるかマクミラン!交戦を許可する、屋根上に怪しいのが居たら片っ端から叩き落せ!》
《OK - スタンバーイ...》
《ホークよりフォーカス隊!回収地点ブラボーへ強行着陸して待機しろ、女エルフを回収したら5分で向かう!》
《了解しました、オスプレイ10機で向かっております!到着まで5分、ご武運を!》
《行くぞテメェ等、小隊突入だ!タンデム対戦車榴弾装填、R・P・G!!》
《ワオッ!?》
おいコラ、ディムース、RPGは無線を切って発射しなさい。うるさいだろ。
外の防壁に穴をあけるためだろうけど、なんでC4を使わないんですかね。そっちの方が楽だし確実だと思うけど、結果オーライということで片付けよう。もしかしなくても、単に叫びたいというだけの可能性が高い。
そんなことは置いといて、自分も大穴が空いた牢獄に突入し、右往左往していた監視兵をP320で射殺する。鍵を回収すると、片っ端から牢屋のカギを開けて回った。
捕らえられていたのは、子供を含めた女性のハイエルフ22名、ってことはこれで全員だ。若干の擦り傷はあるが自力で立ち上がることができ、乱暴された跡も無いようだ。
「詳しい説明は後だ、君達を助けに来た。男のハイエルフは既に脱出ポイントに向かっている、可能な限り走れ!」
それだけ言うと、やや動揺はあったものの、全員が自分の後に続いてくれた。非常に薄い一枚着であり目のやり場に困りそうな状況だったのだが、この時ばかりは気を向ける余裕がない。見えてしまっても、野垂れ死ぬよりはマシだろう。
橋の下を抜け、川沿いに100mも全力疾走すると、流石に動きがある。こちらに気づき、敵の追手が気づいてやってきた。
《こちらフォーカス隊、ランディングゾーンに到着!降下部隊が地上を確保しました、いつでもどうぞ!》
《聞いたなディムース、回収地点への移動を開始しろ!ウェポンズフリー、判断は任せる!》
《Yes, sir! 撃たなきゃ当たらないでしょ!》
《えっ?》
《えっ?》
撃たなきゃ当たらない?当たり前……あぁ、奴のことだから、咄嗟の発言でこのネタが出たのか。
We've got to get to the landing zone.日本人が発言するとありえない話だが、無線の雑音と発音者の活舌次第だけど、「We've got to get to the landing zone.」って聞こえるんだよね……言語の差って恐ろしい。最後の方はややこじつけ感がいがめないものの、「当たらない」までは、本当にそう聞こえてしまう。
ちなみに意味は「急いで着陸地点に行くんだよ!」的な感じで、間違ってないどころか適正言語のため怒るに怒れない。
と、動きがあるのはこちらも同じか。歩兵スキャンに映る敵の大群、あと十数秒で後ろに出現するタイミングだ。
とはいえ、丁度よく、フェンリル王夫妻が迎えに来る。悪天候から突如として現れる姿は、レーダーで接近が分かっていても身構えてしまうほどの迫力だ。
案の定、驚いたエルフたちの足が止まってしまう。するとヴォルグがジャンプで頭上を飛び越えて追手一行を一撃で薙ぎ払い、それらの前に立ち塞がった。
「ポイントAの回収はハク様と兄妹に任せました。主様は妻たちと共に回収地点へ、後方は食い止めます。」
「助かる。だが最低でも100mの距離を維持して付いてこい、無理はするな。」
「承知しました。」
フェンリル王一家が味方と分かり安堵したハイエルフ達と共に、自分は再び走り出す。疲れたらしき子供はハクレンの背中に乗ってもらい、全体の移動速度を維持した。ヴォルグは結界や魔法攻撃を中心に追手を攻撃し、近づけさせる素振りを微塵も見せない。
地上最強の一角と言われるだけはあって、簡単に放っている魔法が凄まじい威力だ、自分でもわかる。敵兵が地面ごと漫画のように吹き飛んでおり、誰も近づける気配がない。どうやら、今のところ敵の弓兵部隊は居ないようだ。もしかしたら居るかもしれないが、出てくる前に撤退を完了したいところである。
その心境がフラグになったのか知らないが、ビッグアイか等報告が飛んでくる。ヴォルグが蹴散らした後方に、敵の弓兵部隊が出現したようだ。
ヴォルグが何かを呟き放った魔法攻撃は、結界のようなもので弾かれ届かないものの凄まじい衝撃波が発生している。直撃してはいないようだが、何らかのダメージは与えていそうだ。
防御を徹底しているのか、100m後方に居る敵の数は50ほどで、一箇所に固まっている。魔法で強化された弓の威力と重力落下を考えれば、自分たちがいるエリアは十分に射程圏内だ。
「チッ、この魔法を相打ちに持って行くとは……Sランクの魔術師が数名か、道理でハイエルフが拉致されるわけだ。主様、後方への突撃許可を。」
「許可できない、この距離では挟まれる可能性も有る。現時点ではそこまで切迫していない、矢を落とすことに集中してくれ。」
「っ、承知しました。」
《こちらガルム0。ヴォルグ、少し休ませてやる。》
あ、これ確実にdanger close(至近弾着)だ。
ガルムが「地上部隊が休める回数が多くなる」と言う時は、「容赦なく、ギリギリ被害がないポイントに爆弾が投下されると言うことだ」と、ディムースがボヤいていたのを思い出す。
すぐさまヴォルグに下がるよう指示すると、追手が沸いてきた地点が機銃掃射で吹き飛んだ。土煙が立ち上がり何も見えないが、サーマルポッドで見る限りでは、そこにいた追手は体が千切れている。ご愁傷様です。
問題となった脅威が呆れるほどアッサリと排除され、思わずため息が出る。直後、F-15C戦闘機が、瞬きするうちに通過していった。
アフターバーナーの大きさ的に数百m上空だが、それでもジェットエンジンの轟音は凄まじい。その後、F-15に搭載されている20㎜バルカン砲の「プゥー」という甲高い発射音が木霊した。
《9名排除、逃げ足だけは一流か。》
《こちらマクミラン、3名排除。アサシンらしき連中が屋根の上に数匹散っているが、000にお任せを。総帥たちは前進して下さい。》
うん、相変わらず音の聞こえる順番がおかしいね。なんで着弾音、戦闘機の通過音、発射音の順番に聞こえるんだろうね。アフターバーナー見えてたし、たぶん超音速飛行で打ち込んだんだろうな。
それでいてこの命中精度、流石AoA最強と名高いパイロットだ。丘の上に居るモリゾーさんも、相変わらず頼もしい。
「い、今のは何ですか!?」
「自分の仲間だ、今は気にせず走ってくれ。」
というような何度目かの暢気なことを考えていると、全く見慣れない物体と攻撃に動揺したのか、はじめてエルフの一人から質問が飛んできた。
端から見ると戦闘機そのものに驚いているのかガルム0の技量に驚いているのか分からない質問だが、見るのは初めてだろうし前者だろう。とりあえず、気にするなと回答しておく。
その後は特に追手もなく、回収地点に撤退が完了した。回収地点ではグリーンベレー特殊部隊が待機してくれており、銃弾の発射こそなかったものの、援護される中、撤退を終える。
女性ハイエルフを回収するオスプレイにはハクが待機しており、誘導を手伝ってくれた。男性側と狐族側は、グリーンベレーの一部が対応を行っている。
避難してきた女ハイエルフと後から来たヴォルグを乗り込ませ、ハイエルフ達を座席に座らせた。
《積み込み終わったな!?2-1、離陸開始!》
《2-2、テイクオフ!》
同時にグリーンベレーも乗り込んでいき、ハッチが閉まり始めると同時に、オスプレイの編隊が離陸した。高度を上げると直ぐにメビウスとガルムが機体を滑り込ませ、空への脅威に対処してくれている。
空中管制機からの無線を聞くに、グリフィス中隊やイエロー中隊、ラーズグリーズも来てくれたようだ。彼等の実力を考えるに、本当に頼もしい。
そう考えると肩の荷が下りたのか、自分は思わず溜め息をついた。
「ふーぅ……なんとか、回収終わったか。」
「お疲れ様ですマスター、お水を。」
流石ハク、この気配りが有難い。ペットボトルを受け取ると、5口ほど一気に飲み込んだ。
それを確認したのか、ヴォルグが訪ねてくる。口が塞がっている時に聞いてこないあたり、こちらもしっかりとしているな。
「主様、この撤退で終わりなのでしょうか?」
「いや、まだだ……お邪魔したんだから、お土産を渡さなきゃ。」
皮肉たっぷりに呟いた瞬間、問題の街が大爆発。B級映画よろしく、数回の派手な爆発に包まれた。
イエロー飛行中隊により、高高度から、燃料気化爆弾を用いた大空爆が実行されたのである。5機から20発が投下され、施設は一瞬にして猛火に包まれた。
……一部の無線から「汚物は消毒だ」などの会話が聞こえてきたが、多分空耳だろう。声的に戦闘狂のディムースっぽかったが、相変わらず自分の土俵を降りても戦闘狂だな……。
まぁ何はともあれ、奪還作戦は終了だ。帰還していく自分たちが乗るオスプレイの編隊の横を、超エース級の部隊が飛行している。途中でオスプレイ一機が合流してきたけど、マクミラン達を回収した機体だろう。
編隊は高度を上げ、雲の上を飛行する。疲れ果てていたハイエルフ達も、初めて見るであろう、月明かりに反射する雲の海に見入っていた。
そうしているうちにビッグアイも降りてきて、護衛される側に加わって飛行する。相変わらず、SR-71のシルエットはカッコイイ。窓越しに親指を立ててみると、向こうからも見えていたようで搭乗員2名が敬礼で返してきた。
何もなければ、1時間ほどで第二拠点に到着するだろう。皆のことだから迎え入れの準備はしてくれているだろうが、帰ったらもうひと踏ん張りだな。
けっきょくドッタンバッタンに収まりました。
彼らが真面目(他人目線)に戦う日は来るのでしょうか……。




