6話 ヘンタイの編隊による変態な爆弾投下
《シューター1-1より各機、離陸前チェックリストを開始。》
雷は無いものの、雨が激しく打ち付ける。日は完全に沈んでおり、地面を照らしている大型のライト群が無ければ周囲は真っ暗だ。佐渡島(仮名)陸軍基地のヘリポートで、6機のヘリコプターが離陸準備を行っている。
無線からは他のヘリのパイロットの会話が聞こえ、自分が搭乗しているヘリのパイロットが応対している。しばらくしてガスタービンエンジンが起動したと同時に独特の高周波が聞こえ、数秒の時間が流れる。続いて各主動作チェックが行われ、パチパチとトグルスイッチが動かされた。するとメインローター、テールローターの回転速度が上昇し、エンジンが唸りを上げていく。
滑走路が無くても離着陸ができ、ソコソコの物量を運搬できるヘリコプターは、ファンタジー世界では主要となる移動方法になるだろう。空軍の連中ならその気になれば荒野に着陸しかねないのが怖いところだが、戦闘機では荷物の運搬は不可能だ。輸送ヘリにも限界はあるが、大抵の物は運搬できる。
今回出撃となる機体はAH-64Dアパッチ攻撃ヘリが5機、UH-60Mブラックホーク輸送ヘリが1機。それぞれ、シューター隊とノーマッド隊からの選りすぐりだ。双方とも、AoAにおいて名を知らしめたヘリ部隊のエースパイロットである。ゲームでは戦闘面において関わりは無かったが、この世界では色々とお世話になりそうだ。
AH-64Dは重武装の対戦車ヘリコプターだ。M230 30mmチェーンガンをメインとして対空・対地ミサイルを装備可能な戦闘ヘリで、ゲームや映画なんかにもよく出てくる。対戦車ヘリと呼ばれるだけあって、対地攻撃能力は非常に高い。トーチカなどのハード目標が相手でも、ある程度は対応できてしまう。
UH-60ブラックホークは、陸軍仕様の輸送ヘリだ。こちらも映画やゲームへの登場頻度は高いが、なぜだかよく落ちているイメージがある。この機体はUH-60のM型、更にはアップグレードパッケージが装備された機体でCASSコクピットやフライ・バイ・ワイヤ……と事前説明を受けたのだが、改造元が分からないので何ともコメントしづらい。
UH-60もアパッチに負けない重武装が可能だが輸送ヘリなので、搭乗員数と搭載兵器数は天秤となる。今回は半々のようで、機体の両脇に対戦車ミサイルが確認できた。万能ヘリと呼ばれているぐらいに、行えることは多い。機体の左右にあるスライドドアをあけて12.7mm重機関銃であるM2をセットすれば、両サイドからの機銃掃射による支援も可能となる。
自分は、今回作戦に参加するうちの1機であるブラックホーク、部隊名ノーマッドのドアガンナーとして、今回の作戦に参加している。
今回の戦闘の主目標は、空対地爆弾の威力を試す点にある。クラーケンから得たデータ的には威力としては問題ないはず。普通オークといえばクラーケン以下だし、こっちにも通用するだろう。たぶんだけど。
……自分のことながら、相変わらず締まらないな。自分に引き換え、各ヘリ部隊の分隊長である二人は、やる気で満ち溢れている。その他の隊員も、全員が職人の目だ。
《管制等よりヘリ部隊、離陸許可が出た。風は方位0-5-0で2m、雨脚が強いが問題ない。》
《了解した管制塔、シュータ隊は離陸準備完了!ノーマッドはどうだ?責任重大だぞ、締まって行けよ!》
《こちらノーマッド1-1、無線感度良好、計器類にも異常は無い。貴様こそヘマすんなよシューター1-1!行くぞ!!》
この二人は8492に加入した時期も似ており、昔から仲が良い。ライバルと言う言葉がピッタリだろうが、互いへの嫌味や妬みは微塵も無い。互いに攻撃機と輸送機という違いはあるものの、ヘリ部隊を率いるパイロットとしての誇りを持っている。AoAでもトップレベルの操縦テクニックを持っており、知名度は高かった。
パイロットの掛け声と共にフワリと浮く感じが身体を包み込み、自分が乗るヘリであるノーマッド1-1も離陸していく。ヘリ特有の、前傾姿勢の感覚が新鮮だ。航空基地の管制塔から気象情報や管制内容が途切れなく飛んできており、慌ただしさを窺わせる。これを処理しながら機体を飛ばしているパイロットは、本当に凄いと思う。
周囲の空気は張り詰めている。移動中ではあるものの、同乗している隊員の目は鋭く、静かな殺気が感じられる。生きて居る時は殺気なんて分からなかったが、なんとなく程度には感じ取れている。冷汗が流れそうだ。
気配に呑まれ、ブルっと軽く震えてしまった時。パイロット以外の搭乗員にも、無線連絡が飛んできた。発信元は空中管制機ゴーストアイ、低く渋い声が特徴だった元プレイヤーだ。
《こちら空中管制機ゴーストアイ、指揮を引き継ぐ。ヘリ部隊の全乗組員、聞いてくれ。現在ビッグアイ1が大陸付近の成層圏を飛行中、偵察衛星と共に獲物を探している。発見次第連絡を入れる、進路そのままで飛行せよ。》
《シューター隊了解した。全機、進路そのままだ。》
《こちらノーマッド、了解した。》
《当初の予定通り、ガルム0もしくはメビウス13が投下するGBU-39によるBDAで今後の作戦が変動する。2機は、現在離陸準備中だ。途中到達地点、ポイントδ(ポイント・デルタ=4番目のポイント)での合流予定となる。空対空の航空支援はグリフィス飛行中隊が行う。現在離陸中だ、あと数分で合流する。》
偵察衛星のアシストということで成層圏にはブラックバード偵察機が飛行しており、どうやら獲物を探してくれているらしい。無人偵察機グローバルホークでは飛行高度が低すぎるため、彼らにピッタリな任務だ。むしろ、彼等以外に行えない。
《ホークよりゴーストアイ。釈迦に説法だろうが、此度の作戦が現地住民に目視確認されると非常に不味い。完全なステルスを心がけてくれ。》
《承知しました、必ず達成して見せます。状況報告。目標地点δまでは直線距離で180km、約40分のフライトです。》
女神の世界で地図を見たときに思ったのだが、佐渡島(仮名)とユーラシア大陸は現実ほどは離れていない。ゴーストアイも言っていたが、一番近い地点まで直線距離で180kmと言ったところだ。今回のフライトは、片道約40分となる。
弾薬の補給がほぼ不要で燃料に関しては微塵も心配ないため、その点を気にする心配がないのはありがたい。何度も思うが、この点はゲームの仕様ごと実装してくれた女神様様だ。
《ゴーストアイより各機、状況更新。後方より、グリフィス飛行中隊が接近中。》
《こちらノーマッド1-1、レーダーに捕らえた。IFF作動、問題ない。》
ヘリの右サイドを、空対空部隊であるグリフィス飛行中隊のF-22戦闘機5機がデルタ編隊(3機だと∴↑進行方向)で駆け抜けていく。一見すると子供のイラストのような、鳥のエンブレムが特徴だ。
速度はまったく出ておらず、ヘリの飛行にも影響は無い。ゲーム内ではYF-23戦闘機がなかったためF-22Aの5機編隊だったが、この世界でも同様か。流石にガルムやメビウスと比べると若干劣ってしまうが、それでも最強クラスの飛行隊だ。称号は再上位ランクの超エース級であり、8492で3番手に付けるほどの部隊である。隊長であるグリフィス1とはよく喋ったことがあり、かなり気さくな性格である。ちなみに暑がりであるところも、元となっている主人公と同様だ。
5機は、そのまま斜め前に出てバンクを振ると、右側上空へと上がっていく。そのまま、雲の海へと機体を沈めていった。雲の上から索敵してくれるのだろう、心強い。
―――機内での言葉も無く、時間が過ぎていく。
なんだかんだで、全員が初出撃で緊張している雰囲気が伝わってきた。流石にこの空気は重すぎるので、少し解した方が良いだろう。何か、軽口でも言おうか悩んでいた時だった。
《シューター1-1より全機。陸地を視認、予定ポイントにて待機する。》
ブラックホークの中からは見えないが、暗視ゴーグルをつけると、微かに地平線が視認できた。今居るこの地点がポイントδであり、予定通りにメビウスとガルムが合流する。あとは、ブラックバードからの報告待ちだ。
《ゴーストアイよりホーク総帥。ポイントδより方位3-4-0(北0-0-0、南1-8-0、360度表記)、距離20km地点に攻撃目標を確認。風は方位3-5-0で4m、雨が強いですが気象条件は問題ありません。報告では、ゴブリン120体及びオークの分類が8体。密集しています、周囲に他の生命反応なし。攻撃目標地点より方位0-8-2、距離5km地点に街らしき建造物がありますが、この天気では気づかないでしょう。》
《よし、それを目標にしよう。目標地点1km手前まで近づいてくれ。GBU-39を投下後に漏らした場合は、予定通りドアガンにて攻撃する。》
《ノーマッド1-1了解。シューター隊、援護頼むぜ?》
《朝飯前だ、任せろノーマッド。作戦フェーズ2、全機行動開始。》
その言葉でヘリが動き出し、瞬くうちに陸地が近づいてくる。周囲は真っ暗だが、自分たち搭乗員は暗視装置を装着しているため陸地の判別が可能だ。倍率付きの暗視ゴーグル装着時に辛うじて視認できるエリアで、ヘリ部隊は停止。直後、空中管制機の渋い声が聞こえてきた。
《ゴーストアイより全機。ガルム0が方位角1-1-0よりマッハ2.0で進入、高度100mでGBU-39を投下する。ホーク総帥、BDAをお願いします。》
《了解した。確認次第、報告する。》
《状況報告。ガルム0が投下コースに進入、着弾まで1秒。》
……久々に管制機とのやりとりを聞いたけど、なんだか投下条件が尋常ではなかった気がする。
が、実行者はあのガルム0だ。彼にとってはその程度、何事も問題ないのだろう。
GBUの文字が付く爆弾は、通常は高高度から精密爆撃を行うための爆弾である。位置エネルギーを利用して、貫通能力を高めているのだ。
しかし、AoAにおいては2種類の用途が可能となっている。1つは先程と同じだが、投下時に精密誘導を切る事で、通常のMkシリーズのような無誘導爆弾としても使用することが可能なのだ。
もちろん精密誘導は発生しないので、目標に命中させるためにはパイロットの技量が全てとなる。しかし彼らにとって、精密誘導がないことは然程問題ではない。なぜなら、8492の部隊が行った実践における空対空爆撃の命中率はズバぬけて高い。直撃で70%、近接弾で100%の数値を誇っているのだ。
今回の2機に至っては、更に数値が跳ね上がる。ガルムとメビウスの2機が所持している戦闘記録では、直撃ですら100%の数値を記録しているというヘンタイっぷりである。
ゴーストアイが報告してきた、きっかり1秒後。雷が落ちたような閃光と共に、目標エリアから何かが弾けとんでいだ。倍率つきの暗視装置だけに、よくわかる。投下したのは250ポンド爆弾だ、相当な爆発が生じているはずである。吹き飛んだ物体を気にすると、食事が不味くなりそうなのでやめておこう。
《ホークよりゴーストアイ、DBA確認。多数の敵を排除、攻撃を続行せよ。》
《了解です総帥。ガルム0とメビウス13は方位1-5-0より再進入、GBU-39を投下して攻撃しろ。》
《……。》
《……。》
交戦中のため、2機は相変わらずの無口である。異世界とは言え現実世界なんだから、そこまで徹底しなくていいのに……。
彼等が真似ているそれぞれの主人公キャラも無口(台詞が無い)で最強のパイロットだったのだが、これはすんごいシュールな状況だ。傍から見ると、生きてるのか死んでいるのかすら不明である。仮にコクピットでくたばっていたとしても、すぐには気づかないだろう。
《2機が投下コースに進入。ガルム0、メビウス13、GBU-39の投下確認。着弾まで2秒。》
北東から侵入した2機からGBU-39が切り離され、緑色と思われる集団へと落下中。もちろん目視では見えないが、そんな光景が脳内に浮かんでいた。ゴブリンやオークって、大抵緑色だものね。
狙いは機体前方下部の敵集団。彼らならば、ピンポイントで命中させるだろう。可変倍率付き赤外線ゴーグルで見ている限りだが、着弾地点では、何かが弾け飛んでいる。先ほどは1発のGBU-39だったが、今は4発*2機で8発が投下されているため、破壊力はケタ違いだ。
《ゴーストアイよりホーク総帥、ビッグアイ1からの報告です。攻撃目標は全滅、次の目標を探しますか?》
《いや、深追いは止そう。予定通りに死体の一部を回収後、今日は帰還するぞ。》
《了解しました。》
なんともアッサリしておりこんな順調でいいのかと考えたが、オークはともかくゴブリンは初心者向けの魔物として定番だ。こんなものかと納得し、作業を見守る。死体回収作業も順調だ。
そして計画時は考えが回らなかったのだが、回収した死体が焦げ臭いので片方のドアは開けておく。ヘリ部隊は反転し、空対地攻撃を行った2機とグリフィス隊が護衛するなか帰還し始めた。
《全機、予定コースで帰還せよ。明け方には雨も上がる、遅れるなよ。》
しかし、実際に攻撃しているサマを見ると、なんと連中のカッコいい事か。
この雨の中で確実に目標集団を攻撃し、逃がすことなく、完全に息の根を止めるその手腕。光景を思い出すだけで、鳥肌が立ってくる。こんな連中と戦えるのは、本当に誇らしい。
皆が気持ちよく動けるように、今後も統率を頑張らなきゃな。
いよいよ戦闘パート(蹂躙)が出始めました。某門のように近代兵器の無双となりますが、ちょくちょく書いていきたいですね。