5話 状況はいかに?
「総帥、なんだかスカーの威力がオカシイであります。」
はい。すいません、自分のせいです。君も口調がオカシイでありますね、落ち着きましょう。
改修による性能向上反映をONにした夕方、メイトリクス陸軍大元帥と一緒に部屋に来た第一歩兵師団の団長、ディムース少将が口を開いた。自分より若く、黒目黒髪を刈り上げしている日本人だ。
このディムース少将は、8492が創設して以降、3人目に加入した若い男性隊員である。以前聞いた話では銃器マニアらしく、その方面の知識が豊富だ。あとネタ的な発言が多い。
普段はM14 EBR-RIと呼ばれる中~遠距離用のライフルを愛用しており、部下のサポートを得意としている。一方でHK416アサルトライフルを持てば自ら最前線で突撃し、室内戦も得意である。ある程度までなら、工兵武器も使えるらしい。
プレイヤーとしては、お手本のようなスタイルを貫いていた記憶がある。基本に忠実とした部隊拡張を行い、今では数々のプレイヤーを率いる第一歩兵師団の団長を務めている。
マクミラン曰く、特殊部隊に居ても上位で活躍できるほど。ただし抜きん出た特徴は無い。つまり、ハイスペックオールラウンダーということだ。
さて、話を戻そう。訓練では5.56x45mmNATO弾の弾丸を使用するSCAR-Lを使用していたのだが……どうやら、明らかに5.56の威力ではなく、7.62x51mmNATO弾以上に匹敵する火力が出ているとのことだ。
言葉にすれば単純だが、内容としてはとんでもない話である。参考までに7.62mmが持つエネルギー量は、5.56mmの1.8倍程に匹敵する。単純計算なので火力が1.8倍というわけではなく、あくまでも目安的な数値だが。それでも、これほどの威力向上となった結果は凄まじい。
「空軍の装備も同様です。20mmのM61バルカン砲やAIM-120など、全てにおいて当初の威力を上回っています。特にM61には驚きました。貫通力だけなら、GAU-8アヴェンジャーを超えています。同様にパイロットもよりハイレベルな重力加速度に耐えることができ、戦闘機の運動性能も向上しています。」
あとから来た空軍大元帥のエドワードも、同様の報告を行った。サラっと流しているが、こちらもとんでもない話である。どこまで影響しているかは不明だが、少なく見積もってもオリジナルの2倍程度の火力上昇となっているらしい。
……あれ?これ第10航空隊のA-10とかAC-130って、どうなっちゃうの?元々の機体が某コンバット仕様なだけで現実離れしてるってのに、更に上乗せされているってことだよね?機体もそうだけれど、あの化け物パイロット二人とモリゾーが更に強化されたってことだよね?いやまぁ、巻き添えとはいえ、そのためにやったんだけどさ。
……まぁ、いいよね。相手は「魔法」なんだし。ちょっとぐらい強化しちゃっても大丈夫でしょ。
とりあえず、全部隊に上記のことを説明しておく。付き合いの長い化け物パイロットの二人は、飛び上がって喜んでいた。どうやら、色々と限界に突き当たっていたようで。
まぁ、あのレベルとなると仕方ない事でもあるだろう。多分この次は、物理学を突破しないと無理だと思うぞ、うん。なんだか既に突破していそうで怖いけど。
その後、二人して「磯野ー演習やろうぜ」的なノリになり、5分後には空へと上がっていった。スクランブルかな?
離陸後に猛烈な勢いで上昇していった戦闘機は、F-22AラプターとF-15Cイーグル。それぞれ第五世代、第四世代において最強と呼ばれた機体だ。前者はメビウスが、後者はガルムが乗っている機体である。どちらも有名な機体であり、戦闘機に詳しくない人でも「ラプター」や「イーグル」の名前ぐらいは知っていることは多い。
模擬戦闘が行われる会場は、島の北側上空だ。空は若干の雲があるものの飛行には影響なさそうで、自分の合図と共に交戦開始となる。パイロットを筆頭に見学者は大勢居り、軽いお祭りみたいな状態だ。せっかくなので、自分も管制塔から見学していた。
「……UFOかな?」
一言でいえば、そんな感想。横の管制官にも聞いてみたが、全員の意見は同じである。出来の悪いB級の戦闘機映画があるとすれば、こんな機動をしているだろう。
管制塔のレーダー反応だけでも、2機がとんでもない戦闘機動を連続して行っていることは理解できる。自分も某コンバットのシリーズはかじったことがあるので、あの機動がどれほどのものか理解できた。一言で表現すると、『頭おかしい』。
某コンバットシリーズの1つである「INF」で機体を最大レベルをMAXにした際よりも、ぶっとんだ機動をしている。どう頑張っても、人間が乗っているとは思えない。具体的に言えばF-22の最大飛行速度がマッハ3.1になっており、内臓が潰れそうな加減速を繰り返している。飛行力学やら物理学やら、色んなものを無視している。
見ているだけで、自分の内臓が辛くなりそうな光景だ。あとマッハ3.0を超えてるけど、熱の壁とか問題ないのだろうか。
うげぇー……最大速度から2秒以内に180度旋回とか、現実世界でメビウスターンを再現するの止めてもらえませんかね。マッハ3.1だから、オリジナルよりも酷い状況だし。旋回中、ちゃんとエンジンに空気入ってるんですかね?
お、180度ターン以外でも、すっごい曲がってる。お世辞抜きで直角に曲がってる。楽しそうだなオイ。もはや、無人機ですら相手にならないかもしれない。
もっとも、今回の強化前でも無人機はポコジャカ撃墜していたわけだが。なんだ、何も変わっていないんだな、うん。
「……うーん、ヘンタイに磨きがかかったな。」
よし、これを最終的な感想としよう。周囲も苦笑しているが、本音は同感だろう。
「ははは……そう言えば空母フォード1、フォード2の無人艦載機も性能が上がったと、各艦の艦長が喜んでいましたよ。」
「事前連絡忘れてたのは、本当に申し訳ないけどね……。」
8492に居る空母2隻の艦載機も強化されたようで、今までよりも、ちょっと背伸びした運用ができるらしい。いいことだ。
空母フォードが1番艦、2番艦の両方の名になっている理由として、I.S.A.F.8492では部隊番号の命名規則がちょっと特殊なことが原因だ。米国式を基本にルールを変更して、分隊の概念がない某フライトシューティングコンバット出身の人でも分かりやすくしている。
呼び名はそのままで、番号の意味を変更している。例えば「ハンマー1-1」ならば、
分隊名 ⇒ ハンマー
分隊番号⇒ 1
隊員番号⇒ -1
備考:隊員番号の役職は固定とする。
-1:分隊長
-2:副分隊長
各単語の意味が、上記のようになる。つまりハンマー1-1だと「ハンマー分隊その1」-「ハンマー分隊 その1 を構成している1番目の人物」。つまり「ハンマー1分隊の分隊長」ということだ。
小隊が結成された場合の例は以下となる。
例)ハンマー歩兵小隊15人。
ハンマー1分隊:ハンマー1-1~1-10で10人の分隊。
ハンマー2分隊:ハンマー2-1~2-5で5人の分隊。
上記の2分隊から構成される小隊。
例外)歩兵連隊の連隊長は『連隊名1』とし、構成される小隊や分隊には属さない。
なお、上記事項は陸海空全てにおいて適応する。分隊の概念もしくは運用がない場合は「ハンマー1」の表記で終了する。
命名ルールはこのような具合で、なんとなく分かりやすくしたつもりだ。これならば、無駄に番号ルールが増えることもない。お互いのゲームの出身者も、このルールで運用するまでに多少は苦労したようだ。特に某コンバットでは、分隊の概念がないため尚更である。
海軍に所属した人からは「艦ごとに命名できない」と苦情もあったが、戦場では分かりやすさ第一なので、そこは我慢してもらった。とはいえ一方的な制約もあまり宜しくないので、救済処置として海軍内で呼ぶ限りは命名をOKにした。戦闘中に艦名で呼んだことはないため、徹底されているのだとは思う。
「俺はアッサリと覚えられたけどな。」
サンキューガルム、フォローありがとう。って、いつのまに戻ってきていたんだ。
「どちらかがダウンするまで、と思っていたんだが……いつも通り、互いに全く攻撃が当たらなかった……。」
そりゃお互いに能力上がってるんだから、いつもと同じだろ。何言ってんだお前は。AoA最強のパイロットなんだから何時までもショボくれてないで、エドワードに報告でも行ってきなさい。
もうすぐ夕飯だし、やれることは終わらせて明日に備えるんだぞ。さて、今日の飯は何だろうか。
自室を出てエレベーターに乗り、一階の別館にある食堂へと足を踏み入れた。この食堂も物凄く巨大であり、軽く1万人以上は収容できると聞いている。レイアウト等は炊飯部隊のプレイヤーに任せていたのだが、なかなか理にかなった配置となっている。
もちろん味に関しても折り紙付きで、別館に入る手前付近からいい匂いが漂っていた。日によって小皿を選択するバイキング形式と全員固定メニューの場合があり、今日は固定か。さて、内容は……
各部隊の能力向上祝いということで、すき焼き丼でした。あえて薄くスライスした和牛ロース肉を濃い目の割り下で煮込み、生卵に漬けて頂く贅沢品。白米の消費が進むこと進むこと。歯ごたえの有る糸こんにゃくや、シャキシャキの長ネギのアクセントも堪らない。そして味噌スープおいしいです。
ごちそうさまでした。
さて、夜は夜で再び会議だ。臨時の戦術会議ということで、再び将校クラスが集まっている。
今回は、空軍からの要請である。自分達は、エドワードの説明を聞いていた。
「この世界の魔物相手に、空対地爆弾が通じるか試してみたい。」
内容を纏めると、このような旨の発言をエドワードが行った。エドワードを筆頭とした空軍将校達の気持ちは分かる。司令官として、自軍の攻撃が通じるかどうかは把握しておきたいものだろう。
陸軍に関しては、戦車部隊がクラーケンに一撃お見舞いしたおかげでデータが収集できたようだ。残ったクラーケンの破片から得たデータは、ある程度は空軍にもフィードバックできるが、攻撃方法が違うため完全ではない。
データ取りは大事なので、総帥としては承認する。ただし、条件付きだ。
「データ取りは大切だ、なので攻撃は許可する。ただし、完全なステルスができるならという前提だ。現状、勇者に自分達の存在を知られたくない。」
「御尤もでございます。攻撃方法については検討中の段階ですが、出撃は3日後に予報されている大雨の夜でいかがでしょうか?」
「うん、それがいいかな。」
「攻撃編成に関しては、陸軍と協議させて下さい。」
協議はすぐに終わり、陸軍と空軍が話を合わせてくれた。自分は陸軍が所属するブラックホークのドアガンナーとして出撃し、護衛にはアパッチの一分隊を配備。ブラックホークは攻撃後に死体を一部回収する任務である。
空軍からもメビウスとガルムの2機が空対地で出撃し、グリフィス中隊が空対空護衛で出撃してくれるとのことだ。最初にどちらかがGBU-39小型空対地爆弾で目標を攻撃し、それが無理ならドアガンやアパッチによる攻撃にシフトする。大まかな流れとしては、そんな感じだ。
獲物の索敵に関しては、午後のうちにSR-71ブラックバードが離陸して獲物探しを行うらしい。成層圏からの索敵ならば、この世界の住人には見つからないだろう。海軍に関しては、申し訳ないが基地防衛ということで待機してもう事になる。前線ではないとはいえ、これも重要な任務だ。
さて、そうなると問題は……自分の体力で、ドアガンナーが務まるかどうかという点だ。陸軍の大元帥も居ることだし、相談して、グリーンベレーがやっている基礎訓練に参加させてもらおう。
話をしたところ二つ返事でOKをもらい、自分は自室へと戻った。明日の朝に合流し、一緒に基礎トレーニングをすることになる。
「多分、速攻リタイアするだろうなー」と、予想しながら。
==翌日==
やだ……私の能力値、低すぎ?
「総帥……さすがに体力無さ過ぎですよ……。」
はい。朝っぱらから陸軍の訓練基地で行われていたグリーンベレー特殊部隊の基礎訓練に参加してみたのですが、開幕でリタイアしました。腕立て200回とか、できる気がしません。リタイアまでは史上最速タイムをマークしていると自負しております。ドヤァ。
え?過去に誰もリタイアしてないから自分が初めて?だから絶対に最速タイム?
そんなー……。
ディムース君筆頭に、グリーンベレーの隊長にも苦笑いされております。つっても出来ないものは、仕方がないじゃないか。予想していましたし、諦めていましたが、居心地が悪いです。
一応銃とか戦闘機は扱えるけど、基本事務方だったから筋トレ系は厳しいんだよぉぉぉぉ!
……筋肉痛にならない程度に、頑張ろう。