1話 第一機動艦隊、西へ。
新章第一話は、艦隊のお話です。
【視点:ホーク】
翌日の朝7時。冬が近い上に天気が良いため放射冷却現象が発生しており、中々に肌寒い。それでも天気は良く、昼頃には良い昼寝日和になるだろう。文字通り、お誂え向きの出航日となった。
出航するのは、フォード級航空母艦、フォード1。アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦、ペラルタ1~5。インディペンデンス級沿海域戦闘艦、ジャクソン1~5。あさひ型護衛艦、あさひ1~3。サン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦、アンカレッジ1~5。アメリカ級強襲揚陸艦、アメリカ1。合計20隻。
とまぁ、待ってましたと言わんばかりの第一機動艦隊フルメンバー、しかも装備までフル搭載だ。気持ちは分からんでもないが、どこの大艦隊を制圧しに行く気ですかね?輸送任務ですよコレ。
ハイエルフ達と約束した地点まで船で1日程の航海となるが、ご覧の通り第一機動艦隊が丸ごと出撃とのことで、戦力面は安泰だ。輸送艦が森の南部にある海岸線に接岸し、ボートで資材や人員をピストン輸送することになるだろう。合流したハイエルフは、最も安全な空母に乗ってもらうことになる。
自分はどれに乗ってもいいと言われたが、今回は旗艦となったフォード1の艦橋に居させてもらう。飛行甲板全体を見渡せて作業を見れるし、何より海のエース達の意思疎通が見られる上に物理的な視界が良い。
大元帥の横で、船の管制を勉強しよう。彼は50歳後半の年配であり、渋い声とダンディな容姿が本当にサマになっている。
「出航!両舷前進、最微速。」
「両舷前進、最微そ~く!」
海軍大元帥、兼、フォード1艦長であるトージョーの発言を、部下の兵士が復唱する。前方のインディペンデンス級沿海域戦闘艦、及び、あさひ型護衛艦に続いて一番遅い速度で出航した。たぶん歩くより遅い。
ちなみに「両舷」とは、船の左右に1つ、または2つ以上あるスクリューを指す。両舷となると、左右両方。それに「前進」のため、「左右両方のスクリューを前進に設定せよ」という意味だ。
速度に関しては、まだ出航段階で湾内にいるため、最微速となる。それでも艦橋からは、徐々に離れていく陸地が確認できた。基地に残っている隊員が帽子を振って、自分達を見送ってくれている。作業の無い航空隊の隊員がデッキに出て、それに答えていた。
自分は空母に乗るのは2回目だが、揺れは本当に少ない。満載排水量10万トンの貫禄は、ダテじゃないってことか。これならば、1日乗っていても船酔いする心配も無さそうだ。
「取り舵、方位2-3-0。両舷前進、速力10。」
「と~りか~じ。進路、2-3-0。両舷前進、速力10!」
《トージョーより全乗組員に告ぐ。これより湾外に出る、予定通り輪形陣を組め。対空、対潜、対水上警戒を厳とせよ。》
トージョーの発言でにより、乗組員が慌しく準備を進めている。全ての脅威に対する警戒が厳とされ、最大限の索敵行動が行われるのだけれど、とても手際が良く錬度の高さが伺える。戦闘システム的な話をすると、各艦及び艦載機が所持している索敵データがリンクされ、情報がリアルタイムで共有される。これにより、脅威が発生した場合でも迅速な対処が可能だ。
既に港は見えなくなっており、陸地からもどんどん離れていく。陸地から発見されないように、本当に洋上を進むのだろう。進路方位2-3-0となると、ほぼ南西だ。洋上となると深さがあり様々な魔物が予想されるため、戦闘員には酷だが頑張ってもらいたい。
「艦長、湾外に出ます。」
「うむ、予定通りだ進路そのまま。予定地点アルファを通過後は速度20ノットを維持する、用意しておけ。」
「ヨーソロー!(≒進路そのまま了解)」
20ノット?結構速いな。(1ノット=1.852km/h)
記憶が定かではないが、確か随行しているサン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦の公式最大戦速は22ノットだったはず。20ノットとなると、ほぼ最大戦速だ。
「お忘れですか総帥、改修により艦の性能も上がっているのです。サン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦であるアンカレッジは、30ノットは出せますよ。」
「報告、予定地点アルファを通過!」
「進路そのまま、速力20。」
「速力20、ヨーソロー!」
そうでした、すっかり忘れてました。ってことはこの空母の最大戦速は公式40ノットだから比率計算すると……55ノットは出せるんですね!単純計算だし色々とアリエネーけれど。55ノットも出したら、積荷の戦闘機がぶっ壊れるだろうな……。
能天気なことを考えていると、予定地点を通過したのか、明らかに速力が増す。急加速と言うことはないが、体が少し後ろに引っ張られた。各船員の作業を見ているのは新鮮味があって楽しかったが、邪魔をしても悪いので、デッキに出る。デッキ要員が作業をしているが、発艦作業は終わっているため、そこまで慌ただしくない。
両脇には、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦が随行していた。その他にも、多数の戦闘艦が周囲を囲っている。対空、対潜警戒ということで、艦隊は輪形陣を取っている。自分達フォード1の後ろ左右に、輸送揚陸艦のアンカレッジ1及び2が続いており、各種戦闘艦に守られている形だ。
上空にはRQ-21ブラックジャック無人偵察機が旋回しており、索敵を行っている。RQ-21に関するシステム一式はインディペンデンス級沿海域戦闘艦に搭載されており、小回りの効く運用が可能だ。空母からは複数のMQ-9リーパー無人攻撃機が発艦しており、空対空ミサイルを積んで上空警戒を行っている。MQ-9の空母運用は、AoAならではのシステムだ。
近接空域にいるのは、これらの無人機だ。加えて視界内には居ないが、少し前にF-35Cの部隊が離陸して行ったため、どこかを飛行しているのだろう。あさひ型護衛艦からは艦載ヘリ数機も発艦しており、対潜警戒を行っている。洋上に出てから何も無く平和だが緊張した空気が漂っており、自分もその空気に飲まれていた。
……空母艦橋の真後ろで昼寝してる、フェンリル王一家を見るまではな!
艦橋後ろの駐機スペースに、川の字で気持ち良さそうに寝てやがる。柔らかそうなお腹にダイブするぞこの野郎。
ハク曰く「この世界の地上生物で最強の一角」らしいのだが、ホントただの白い犬にしか見えない。特に息子2名は、見るたびにモフりたい感情を抑えるのに困る。
その彼女は、物珍しいということで空母の中を探索中だ。だだっ広いから迷うなよ、とは釘を刺したが大丈夫だろうか。まぁ、ハクに限って海にドボンということもないだろう。下手したら、海面蹴ってでも復帰してきそうだし。
一家は日向ぼっこ宜しく気持ち良さそうに寝ているので、そのままにしておく。飛んで行ったライトニングの編隊が戻ってくれば、轟音で嫌でも起きるだろうし。
ハティは口を閉じたままだが、スコルは全開でヨダレが垂れている。ここらへんは、兄弟でも性格の違いが見れて面白い。
ホッコリして後ろを見ると、輸送艦の艦橋からこちらに敬礼している船員が見えたので、軽い敬礼で返しておく。こういう細かなことも重要だ。
一家を起こさないように、艦橋へと戻ることにする。自分が入室したタイミングで、異変が起こった。
《警戒!方位0-5-0、後方水中より中型のunknown接近中!速力60ノット、距離10000、深度200!》
《全艦進路そのまま速力30、対潜戦闘用意。》
《速力30ヨーソロー、対潜戦闘ヨーイ!》
トージョーが発した言葉で、体が後ろに強く引っ張られた。船の速度が30ノットに増し、各艦から追加の対潜ヘリが発艦していく。
加速によるGかヘリの騒音でフェンリル王一家も起きたのか、艦橋真後ろの邪魔にならない位置で、待機していた。目線はunknown方向に向いているため、何か居るのは察知しているのだろう。
「マスター、攻撃中止を進言します!」
フェンリル王一家を見たタイミングで、ハクが艦橋に駆け込んでくる。随分と逼迫した様子だが、一体なにが……
……。
……お前、メシ時じゃないのに食堂で何か食ってただろ。口元に、ご飯粒が付いてるぞ。
口横に付いていた米粒を取ってやると、軽く顔が赤くなる。緊張感に包まれた考えが一変し、一気にシュールさが支配した。
で、なんで攻撃中止なんだ?
「こ、後方より接近中の魔物に敵意はありません、エンシェントの知己です。」
やや赤い顔のまま、彼女はそう答える。どうやら、接近してきたunknownは魔物のようだ。しかし、エンシェントの知り合いで攻撃意図は無いと言う。もし本当ならば、攻撃するのは宜しくないな。
「その魔物へ行動を指示したいんだけど、伝達手段はある?」
「はい、彼とならば可能です。もう少し接近しますと、念話で伝達が可能です。」
おっ、出ました異世界お約束の伝達方法。ともかく方法があるなら伝えてくれればOKだし、あとは従ってくれるかどうか、か。
「わかった。こちらとしては、いきなり現れた場合は敵と見なさなければならない。とりあえず、現在の距離を維持するように伝えてくれ。」
「承知しましたマスター、距離5000で念話を行います。」
「聞いたなトージョー、攻撃停止の命令を出してくれ。距離4500以内に来た場合の対処は任せる。」
「承知しました、総帥。」
《トージョーより全艦に告ぐ、unknownへの攻撃は停止。繰り返す、unknownへの攻撃を停止せよ。》
一応「停止」であって、「中止」では無い。万が一命令を守らなかった場合は攻撃を再開するため、準備だけはだ継続して行われる。具体的に言えば、あとは発射ボタンを押す段階まで進められる。
無線から多少の困惑した声が聞こえてきたが、大元帥命令のため、各艦は遵守しなければならない。自分が中止命令を行わないのは、指揮系統を乱さないためだ。
ハクも念話とやらが終わったのか、多少強張っていた表情が元に戻ったので、結果を聞いてみよう。
「ハク、どうだった?」
「問題ございません。マスターの許可が下りるまで、現在の距離を遵守するよう命令してあります。」
「了解。トージョー、状況は?」
《ソナー、状況はどうだ。》
《こちらソナー。unknownは距離4800で急減速、約30ノットで一定の距離を維持しております。》
ふむ、本当に敵意は無いということか。しかし、エンシェントの知り合いとなると、一体誰なんだ?
「この海域を支配している魔物、リヴァイアサンですね。」
……お、おう。まーた、なんかラスボスっぽいのが出てきたな。色々なゲームに出てくる知名度の高い魔物だが、共通して強キャラに設定されている。この世界では、どうなのだろうか。
ところでハクの奴、さっき「命令してあります」とか言ってたよな。特に意識した発言ではなかったが、彼女の方が立場が上なのだろう。よく水竜などに分類される竜……というかドラゴンがいるが、その類なのだろうか。流石に、眷属というわけではないだろう。
気になったので聞いてみると、神龍より少し下の格付けらしく、役職的にはもちろん、階級的にもハクの方が偉いとのことだ。ちなみにレア度としては同じぐらいで、どうやら艦隊に近づいてきた目的も、ハクに挨拶をするためらしい。まぁそれぐらいなら、問題ないか。
ハクは最上位種族の龍+元王女ということで、慕っている同族も多いのだろう。
つまりは逆も多少は居るということだが……その点は自分が、できる範囲で守ってやらないとな。
トージョーと問答を行い、輸送艦を少し下げ、空母を右に寄せてもらう。空母の左舷側が空いたので、そこに浮上してもらおう。ハクを通して、先程の速度で空母左舷の深度100mに到達。その後、ゆっくりと浮上してもらうことにした。
なお、少しでも不審な動きを見せれば対潜兵器が百花繚乱することを付け加えている。実行の際は近接弾でフォード1も大破するだろうが、艦隊全滅よりはマシだ。
艦隊は減速し、速力を20ノットに戻す。再びハクが念話を行うと、リヴァイアサンと思わしき影が動き出したらしい。
さて、イメージどおりの外観かな?
ようやくですが、艦隊の登場でした。シリアスなのはタイトルだけですね(汗)
この章では、タイトル通りハイエルフと合流……と同時に、ちょっとした動きが起きる予定です。
現地住民との密なコンタクトなので、異世界テンプレ的な内容も発生するかもしれません。
艦の詳細は、第2部分をご覧ください。




