16話 横に並ぶために
【視点:3人称】
無事に会議は終了したものの昼食までは2時間ほどあるため、ホークは別棟の兵器開発部へと移動中。例によってヴォルグ一家が護衛で同行しているが、流石に第二拠点内部では、特に何も起こることがない。
演習なのか、1つ向こうの道を、グリズビー戦車大隊の2分隊が車列を組んで進んでいく。60トンもの鉄の塊が時速40kmで疾走しても地面が揺れておらず、これだけでも第二拠点の強固さが伺える。
「主様、この後も会議なのでしょうか?」
「いや、今回は私用だね。ハクと比較して物凄く弱い、なんて言われないように、武器を作ってもらっているんだ。」
珍しくヴォルグではなく、ハクレンがホークに質問を行った。しかし彼が答えたように、今からは完全な私用を済ませるための行動となる。内容もハクレンに回答した通りで、単純に彼専用の武器を作ってもらっている最中だ。
P320とHK417・タクティカルナイフがあるにも関わらず、新たな武器を作る理由は単純だ。単純な一発の火力不足と、継続戦闘能力が不足している。後者は宝物庫にストックを詰め込むことで解決できなくも無いが、前者に関しては、どうしようもない。
少なくとも。ハクの横に立ったときに、ある程度は、彼女と釣り合える強さを手に入れる。
司令官としての強さではなく、地上における一介の戦闘員としての強さ。今のところ無謀に思ええるが、それが、ホークが望んでいる着地地点である。
彼女と刃を交える鍛錬を行ってきている成果で防御に関する技術は格段に向上したホークだが、それでも、銃を使用したところでこの世界基準ではC~Bランクの冒険者程度である。
彼は、エース級の航空部隊のように、マッハ2.0からの急旋回に耐えることができる程強くは無い。ならば、と地上戦で強くなるにしても、マクミランやディムースのような腕前には遠く及ばず、肉体の限界と言うものは必ずある。魔法でブーストをかけることができないから尚更だ。
そうなると、いかにして武器を使役するかという点が鍵となる。武器と言っても50m圏内で効力を発揮するピストルから、マクミランが持つようなスナイパーライフル、使えるかどうかは別として大和型に積まれている460mm3連装砲など様々だ。
ケース・バイ・ケースで使用できれば効率的であり、偶然にも宝物庫によって、その点は確立されている。そうなれば、あとは使用する兵装の選択、一発の火力が重要になる。
それでいて、自分の横20m以内で使用できなければ意味がない。最近分かったことだが、この距離はホークが宝物庫を展開できる最長距離で、この範囲ならば自由に使用可能となる。そのため自然と収納可能な大きさが制限され、収納する物体の最も短い面の最大が、この直径40mの円に収まらなければならない。
使用する際にロックオンや探知行動が必要ならば、火器管制装置も必要だ。また、機械的動作を行う場合は、対象物体を全て宝物庫から出さなければならない。
例えば銃身だけ宝物庫から出して、魔法により一斉射撃――などという使用はできず、トリガーも人力で引く必要がある。魔法が使えず効力も無効化されてしまうので、この点はどうしようもないことだ。
とはいえ、それらの制約を総合した上で「恐らくこれなら」と考えを持っているのも、また事実。いくつか課題事項があるものの、開発は順調に進んでいた。
ホークがそんな考えを巡らせている内にも足は進み、現地に到着。ヴォルグ一家は入り口で待ってもらい、彼は施設内へと足を進めた。目指すは、兵器開発部門の一角である。
「ごめん、遅くなった。EPU持って来たよ、どこに置けばいいかな。」
「お疲れ様です総帥。センサー組が苦戦しているようで、時期的に問題はございません。それでは、あちらのシートの上にお願いします。」
ホークは宝物庫から、応対した兵士が示した場所にEPUを取り出した。戦闘機用のモノであり、元々はこの部署の隊員が開発したものである。
今回、開発中の武器の電力をどうするかがキーポイントとなっていた。そこでホークがEPUの利用を提案し、思考を重ねていった結果、見事採用されたのだ。
EPUとは非常用電源装置の略称で、燃料を使って発電するAPUとは対照的に、内蔵された水溶液を化学反応させてガスを発生させ、そのガスでタービンを回して電力を得るものである。
従来のEPUはAPUと比較して出力が弱く、エンジン始動時の電力が足りずにAPUとEPUの両方を積んでいたが、現在はEPUの高出力・高効率化が進んでおり、8492の戦闘機も、EPUのみを搭載して軽量化されている。
「わかった、そのセンサーいじってる奴等は?」
「あちらですが、成果が上がらずに苦労しているようです。労いの言葉でも頂けると、助かります。」
「はは、その程度で良いなら安いもんさ。じゃ、EPUの接続頼むよ。」
「ハッ、お任せ下さい。」
ホークは説明を受けた方向に足を進める。すると現場では、眉間にシワを寄せた隊員が何らかの基盤と睨めっこを行っていた。
そのうちの一人、偶然にも正目を向いて座っていた部隊長がホークに気づき、立ち上がって挨拶を行う。他の隊員もソレに気づき、試行錯誤を中断して挨拶を行った。
「みんなお疲れ、苦労してるみたいだな。センサー感度の調整、どうだろう?」
「お疲れ様です総帥、やはり対人は厳しいところがあります。距離50以上では作動しませんね、検出精度も今一です。電力的には、お持ち頂く予定のEPUで問題ないのですが。」
「うーん、そうだよなぁ……。元々の用途が違うし、人の熱源なんて大したことないからねぇ。」
現在ホークと兵器開発部隊のメンバーが悩んでいるのは、とある用途に使う予定の熱源センサーの感度と精度である。対人を目的として検出しロックオンするためのものなのだが、アレも今一これはダメと試行錯誤を繰り返しているのである。
大きさに制限がないならば戦闘機に積まれているDASシステムを流用したものが最良なのだが、ホークが持ってきたEPUの発電量では動作しないのと、要求サイズに対して大きすぎることが問題だった。結論として、このシステムは使えない。
うーん、と悩む一行の脇で、ホークはAoAのシステムを開いている。既存の部品や兵器からの流用が無理ならば、魔改造に使えそうな兵器がないかと、片っ端から漁っているのだ。実在する武器から架空の物まで千差万別あり、全て目を通すだけでも2週間はかかるだろう。とはいえAoAが人気だったのも、このようなラインナップの豊富さが大きく影響している。
センサー関係のリストを数分眺めていた彼だが、何も無いなーと言い画面を切り替えた。何気なく武器リストを見ていると、1つの武器に目が留まる。8492では使用歴がないため思い浮かばなかった代物だが、よくよく考えれば適任な武器だった。
「あ、これはどうだろ。CoFに出てくるセントリーガンの対人センサーって、DASの鮮明さに匹敵するほど優秀だったはずだ。このシステム、流用できないもんかな?」
「あ、良いですね。8492だと使ったことが無いので気づきませんでした、恐らく既存のセンサーと排他処理になりますが、採用させて頂きます。」
ホークの提案に納得する部隊長だったが、それを聞いた部下の一人が問いを投げた。
「隊長、ちょっと良いですか?セントリーのセンサーは採用可能でしょうが、最長設定でも有効距離は200mほどしかありませんよ?あと今更ですが、距離200を精密攻撃はできないと思います。」
「ああ、その点は問題ない。総帥のご要望の探知距離は100m、できれば150以上だったからな。現状の50mと比較しても上々だ。セントリーのセンサーには銃のレーザーサイトと連動して個別ターゲットを指定可能な機能もあるし、十分だと思うぞ。」
「そうそう。一応ガンそのものの有効射程は1000mオーバーだから、200以上も撃とうと思えば撃てるからね。まぁ、対人なら200mもあれば十分でしょ。精密攻撃が必要なら発射レートを落とすとか、別の攻撃オプションを考えるさ。」
「なるほど、承知しました。」
「総帥、いっそセントリーガンじゃダメなんですかってツッコミはNGです?」
「セントリーガンと違ってコレは余裕の火力だ、馬力が違いますよ。」
名言で返答するホークに対し、隊員の一人は「対人と対物を比較されているのですから当然でしょ」と意見具申する。「わかってて言ってんだよ」とホークが発言者の頭を軽くグリグリとしてツッコミを返した。笑い声の響く中、ワイワイと互いの意見を出し合っており、良い雰囲気を保って選定が行われていた。
確かに対人への火力だけを考えるならセントリーガンで十分なのだが、魔改造しようとしている兵器の有効射程は1500mもあり、超音速で動く物体にも対応可能で、発射レートも比較にならない。一言で纏めるならロマンを追求していることもあるが、ホークが求める火力は、セントリーガンでは出せないのだ。
そのため、先ほど言っていた対物兵器を性能改修して使用する事となる。とりあえずデフォルト性能のまま一式を組み上げて性能評価を行うのだが、一連の内容が彼らの仕事だ。
「とりあえず、これらの仕様で作ってみて欲しい。君もわかったなー?」
「アイタタタタ、じょ、徐々に力はいってますよ!す、すいませんって総帥!」
「ですが総帥、作ってる方からすれば面白いので問題ないのですが、こんなのどうやって使うんです?L-ATVとかの車両に乗せるにしたって、反動でひっくり返りますよ。」
「んー、それはだなー。」
何気ない質問だったものの、未だに誰も知らない重要な項目だ。兵器開発員の誰かが唾を飲み、静けさが支配する。
「まだ秘密だ。」
「「「BOOOOOOO―――」」」
静かに湧き上がるブーイングに、ホークが握りこぶしを見せ付ける。ヒエェと言いながら頭を抱える隊員を見て再び笑いに包まれた現場では、ホークが席を外してからも、夜遅くまで論議が続けられるのであった。
1章の目安としている20話には届きませんでしたが、ホーク個人にスポットを当てたお話はこれで終了です。
何を魔改造しているか、読者の皆様ならピンときていらっしゃるでしょう(笑)