15話 自称首脳会議
ちょっと真面目なお話です
【視点:3人称】
「おはようございます、総帥。」
「おはようございます。」
「おはよう、久々に会う奴も多いな。」
第二拠点本部に着いたホークがロビーに下りると、談笑を行っていた役職メンバー数十人が挨拶を行ってくる。そのご全員でミーティングルームへと足を進めるのだが、これはAoA時代から変わらない光景だ。
ちなみに談笑の輪の中に、ハクの姿は無い。議会の内容が気にはなるものの、「8492の中枢会議なのだから口を挟むべきではない」と彼女が辞退したためだ。脳腫瘍会議時代ならともかく、確かに今は機密事項も数多くが話題となっている。
しかしホークからすれば彼女も既に8492の隊員であり、それに加えて基地内部で一番身近な人物だ。聞かれて困るものでもない上に、むしろもっと知ってほしいと思っているほどである。
とはいえ、その彼女が遠慮した項目に対して無理をさせるつもりもない。彼女は彼女で久々の女性隊員との女子会のようなものがあるらしく、そちらに参加しているとのコトだ。こっちは逆にホークが入り込める場所ではないので、お互い様の結果となっている。
ミーティングルームには既に何人かが着席しており、ホークが入ってくると起立して挨拶を行う。彼もそれに答え、全員が席の前に立ったのを確認して着席した。
「さて改めて。おはよう、皆。」
「「「おはようございます。」」」
「知っての通り、今日は首脳会議ってことで集まってもらった。各自、議題に上がった内容について遠慮なく意見して欲しい。」
その前提確認に対し、全員が了承する。誰の意見に対しても全員が耳を傾けるのが、8492の方針だ。
しかしここで、ホークが1つ確認しようと思っていたことを思い出す。
「あーっとゴメン。会議に入る前に1つ確認したいんだけど、トージョー、明日の用意はどうかな?」
「ハッ、報告申し上げます。現在、全ての作業は滞りなく進行しております。数個が残っておりますが、本日の午前中には全て終了する予定です。」
「了解、引き続き頼んだ。それじゃ、会議を開催しよう。」
ホークがそういうと、トージョーは咳払いを行う。どうやら会議の進行役は彼のようで、資料を手に取り説明を始めた。
「それでは初めに、突然ですが今後の戦闘指令に関してです。現場レベルの戦闘指揮は我々が取りますが、全体的な作戦指揮を総帥に取って頂きたく、提案致します。」
「えっ、自分が?」
事前に大元帥の3人が会談を行って意見具申することを決定していた内容だが、陸海合同での戦闘行動の際は、ホークが全体的な指揮を執ることとなったのだ。その指令は各軍の現場レベルの司令官に伝えられ、各部隊が動くこととなる。
例えばだが、ホークが出すのは「空軍はポイントA上空を跳び越し地点アルファを空対地爆弾で攻撃、陸軍はポイントAを迂回して地点アルファを攻撃」という指示を出すことになる。この場合だと陸軍の攻撃方法が指定されていないため、現場レベルの指揮官が判断することとなる。
とはいえ、何故このような方式を取るか。理由としては、AoAの時とは違って相手が国であり、生命を攻撃するためだ。
今までどおり陸海空それぞれがそれぞれの方針で動いた結果が悪いものだった場合、その軍や部隊に対して他が不満を持ってしまう。一方、それが全員が慕うホークの決定で起こってしまった事象ならば、8492の全員が納得することができるためだ。
裏を返せば、責任の全てが彼に来ることとなる。
とはいえ責任を持つが故の役職でもあるため、ホークはその決定事項を承認した。他の役職者も反対はなく、むしろ「総帥直々の指令が来るかも」と言うことで士気が上がっている。
「一応確認なんだけど、自分が指示した攻撃方法とかも守ってくれるんだよね?」
「もちろんです。ご指示頂く内容は、全部隊が死守致します。」
「わかった。ブランクがあるけれど、その時が来たら精一杯の指揮を取るよ。」
「期待しております。さて、問題がなければ、次の議題に移らせて頂きます。」
しばしの沈黙が流れ、誰も意見を発さない。つまり、全員が了承したということだ。
「問題ないみたいだね。それじゃ、次の話題は自分から。」
ホークが話を始めたのは、各国の動きに関する話だ。今のところ明確な敵対関係にあるのはシルビア王国の北にある邪人国のみであり、西の帝国が友好関係を築きたがっているという点。彼が最も気にしているフーガ国に関しては、敵では無いものの内部的な動きが読めないという点だ。
如何なる手を使ってでもハクを連れ戻したい勢力がどのような動きをするかは、流石の彼でも推測すら行えない。とはいえ国王にすら危害を加える可能性があるという点において、相当の懸念事項である点は確実だ。もし対応を間違えば、最悪は内部戦争に直結する。
その点において、万が一使者が来た場合は気を付けるよう各部隊に念押ししている。西の帝国に関しては、向こうからコンタクトがあった場合は柔軟に対応する方向で意見が一致した。
また、それ等とは別に「8492として一貫した考えを持っていた方が良い」というのがホークの考えだ。もし1秒の猶予も許さないような事態に直面した場合、ホークの指示を待たずとも責任者の状況判断を行いやすくするためだ。
「行動理念の設立もあるけれど、雪解け辺りを目処に、他の国で活動を行おうと思ってる。」
彼本人も世界を見て回りたいという希望もあるし、炊飯部隊もこの世界の食材を知りたいと、前々からホークに意見していた。そして、燻っている戦闘狂のストレス発散も解決するとなると、他国での活動は必然となる。
「総帥、ちなみにどのような?」
「女神サンも平和を望んでたし、行動理念は、本来のI.S.A.F.の真髄が良いかなって思ってる。行動内容もソレに準ずるかな。」
「治安維持活動、ですか。」
そう呟くトージョーだが、彼を筆頭に、エドワードやメイトリクスも軽く溜息をついている。発言者のホークも、あまり意欲的では無いようだ。
とはいえ、その理由も単純である。常日頃から戦いの中で生きてきた彼等だからこそ、「平和なんてものは、生命が全滅しない限り有り得ない」と悟っているのだ。
「あ、もちろん、8492隊員の命が最優先ってのは当然だけどね。実際の戦闘になると攻撃対象の決定が難しいから、その時はさっきの行動理念で判断して欲しいかな。」
「しかし総帥、どのようなことを行うのです?」
「国単位での平和を目指す上で、やらなきゃいけないコト自体は、単純だと思う。例えば隣人や友人が本当に困って居る時って、程度にもよるだろうけど、多少の犠牲を払ってでも助けちゃうだろ?ようは、それが国単位で行えるかどうか、ってところだと思うんだ。」
「仰るとおりですが、国単位……立地や財力などでも力関係が大きく影響します、とても難しいところがあると思いますが。」
「その通り。フレキシブルに対処できないから国際法なんてのがあるわけだけど、知っての通り揉め事しか生まないのよね。なので、「今よりは安心できる程度に改善する」ってところで落ち着こうかと思ってる。」
「それが理想でしょうな。本当の安心安全を目指すなど、手強すぎて敵いません。」
「いやまぁ、自分からしたら「戦闘を与えてくれ」っていう各軍の要望の方が手ごわいんだけどね。」
その言葉で、全員が明後日の方向を見て手を組んだ。咳払いをして聞こえない振りをしているが、ホークに言われたことは根っからの本心であり、面と向かって否定できないのが、戦闘狂の悲しいところである。
「脱線したけど話を戻すよ。政府に匹敵する組織が正常に機能していると仮定して、比較的容易に国が豊かになるためには、軍事費用を削れると大きいと思う。」
「理想としては、全ての世界が日本と同じ道を辿ることか。」
「日本?なぜだマクミラン。」
「マクミラン、それって税金の使い道の話?」
「そうです総帥。WW2後の日本は、アメリカの占領下に等しい存在だった。負の場面も多かったが、アメリカの軍が日本に居座った影響で、当時の日本は国防費を大幅に削減でき国の発展に使用できた。ソレと同じことをやるんだよ。」
「ああ、それか。でも俺達の人数じゃ、まず無理だろ。そこで周辺国と格差を広げると、争いの火種にしか成らんぞ。」
「いやまぁ、俺もわかってるけどさ……。……だよなぁ……。」
ハァ、と全員が溜息を付き、論議は暗礁に乗り上げる。口を開いたのは、やはり8492を束ねる長だった。
「とりあえず目的が軍事費用の削減なんだし、各国のダンジョンでも制圧して回ったらどうだろうか。もちろんそれを産業にしているとこともあるだろうから、制圧を希望した場所だけだろうけど、陸軍も楽しめるしWin-Winじゃないかな?」
「おっ、それは賛成だ総帥。妙案だ。」
「総帥、軍ごと送り込むのか?外から見たら、戦争にしか見えんぞ。」
「とりあえず8492の存在を隠したまま、お試し的な意味で小隊レベルで挑んでみようとは思ってる。ハクに聞いたんだけど冒険者登録してパーティーを組めるらしいから、方法はそれかな。機甲部隊まで出てくる場合は、国の許可が必要だろうね。あとは賊の討伐ってのも良いんじゃないかな?」
「やれることは多そうだな。」
「8492の存在がバレた場合は……日本式でいくとして日米同盟的なモノも有りかな。西の帝国あたりを頂点として、周辺国を巻き込めれば良い出だしになると思う。」
「どこかが攻められたら皆で守り、どこかが攻めたら皆で制裁するヤツですな。とはいえ、そんな簡単に行きますかね?」
「易々とは行かないだろうから、こういう方法も効果的ですよーって提案する程度になると思う。考えの押し付けは良くないからね。」
そうですな、とトージョーが頷く。その後暫く、発言を行う者は居なかった。
「えーっと、とりあえず纏めるね。今後の方針としては、陸軍は拠点維持とダンジョンや賊の制圧。航空隊は賊らしき集団のアジト偵察とハイエルフの捜索。海軍は防衛の支援と……ごめん、やっぱ輸送メインだわ。」
そうですな、とトージョーが頷く。そうですな、と、再びトージョーが頷く。
ものすごく何かを言いたげな動作をしているものの、今度はホークが視線を逸らして見なかったことにしている。ハイエルフの輸送とかがあるじゃないかと納得させ、30分ほど延長してしまったものの、首脳会議は終了した。
いくつかのネタは起こしたので、そろそろ艦隊の話も書きたいです。




