14話 焚きつけた結果
砂糖成分再び……
【視点:ホーク】
とりあえず、みんなでゾロゾロと玄関をくぐる。
各部屋にあった設備を一通り使用してみるも、正常に機能している。さっそく無駄に装備が整ったキッチンを使って簡単な食事を作り、全員で夕飯を取った。ついでに朝飯用のサラダも作ってあるので、翌朝も完璧だ。
ヴォルグ一家は散歩も兼ねた巡回を行いそのまま就寝するとのことで、気を付けるよう注意して玄関で別れた。彼らの家は準備してあるし、自力で開閉可能なので問題はないだろう。
自分は、露天風呂を試してみたくて仕方がない。温泉ではないので湯を張らなければならず、準備完了となるまでの時間が待ち遠しい。
ただ待つだけでは時間が過ぎるのが遅いので、ハクに各設備の説明を行ったり、興味を持っていた戦闘機の能力などをレクチャーしている。真面目な表情をして聞いていた彼女だけれど、話が露天風呂になった時、軽く微笑んだ。
「露天風呂のご説明で分かりましたが、本当にお楽しみでいらっしゃるのですね。」
「あ、わかる?風呂好きってのもあるけれど、正直、この施設でも一番手暇を掛けたからね。」
その言葉の直後、ピロロ~ンという電子音が部屋に響いた。この電子音を待っていたぞ!
「今の音は何でしょうか?」
「ああ、風呂の湯が張り終わったっていう合図だ!」
「そうでしたか。ふふっ。まるで子供のような調子ですよ、マスター。」
うん、自分でもわかる。まるで新兵器でも導入した各軍大元帥のようなハイテンションだ。
「よっしゃ、我慢できねぇ!一番風呂を貰ってくる!」
「えっ?は、はい。」
タオルヨーシ着替えヨーシ、温泉じゃないから入浴剤を持て!進路1-7-8、最大速力!
ヒャッハー、待ちに待った露天風呂だぁ!
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「むむっ……反射的に了承してしまいましたが、そうですか。宜しいでしょう、マスター。」
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先に入浴剤を投入して軽くかき混ぜ、バック・テュー・ザ・脱衣場。衣類を脱ぎ、浴室へと足を進める。室内にも檜の浴槽があるものの、今回は湯を張っていない。荒削りの石で仕上げた「いかにも」な露天風呂を堪能するのが、目的だからね。ちなみに広さはなく、間隔を詰めて4-5人が浸かれる程度の大きさだ。
体を洗い、摩りガラスを開いて外へと出る。体に付いた水分が急速に冷やされ、全身が寒気に包まれた。これはもう、眼前の半濁り湯(入浴剤使用)に浸かって暖まる以外に道はない!
足を浸けると体感温度差で熱過ぎるように感じるも、すぐに馴れて、徐々に全身を沈めていく。誰も居なく無礼講なので胡坐をかき、肩に湯をかけて背伸びをすると、肩の力が取れたような感覚に包まれた。
夜になり天気が変わって曇りであることは残念だが、やや肌寒い季節の露天風呂は最高だ。気化した湯の水蒸気が空へと消え、顔のあたりを絶妙な温度と湿度の空気が包んでくれる。
日本人ならば、この感覚が分かるだろう。眠気か食欲が勝るまで、いつまでも、こうして体を預けていたい心境になってしまう。
そういう時の心境は、時間が過ぎるのも異常に早い。実際、壁の時計を見ると既に5分ほどの時間が経過しているが、自分からすれば2割程度の感覚だ。
微かに聞こえる漣の音と、鼻につく潮の香り。カラカラと静かに開く摩りガラスの扉の音も、岩と水辺に反射して―――
……えっ、扉!?
「私を誘って頂けないとは、流石に反旗を翻しそうになりますよ、マスター。」
反射的に振り返り見上げた前には、タオルで前だけ隠している我が相棒。こちらが茹蛸になってしまいそうな状況だったが、不思議と落ち着き冷静で居られた。まるで芸術品でも見ているかのようだ。
反論するであろうロリコン野郎に対して地球からペテルギウスまで行くのにかかる歩数(4億km)を譲ったとしても、目の前の裸体はバランスも完璧で綺麗すぎると断言できる。裸体を見て興奮してしまうよりも、その美しさに驚く感情の方が圧倒的に強い。初めて出会ったときも「これほど」と感じたが、その感覚がより一層強くなった。
「……そ、その。私が押しかけておきながらですが、あまり凝視して頂けない方が、こちらも余裕をもてるのですが……。」
「あ、ごめん。」
そんな感情も彼女の言葉で消し飛ばされてしまい、思考が蹴飛ばされて現実に戻された。意識したためか思わず心拍数が上昇してしまうけど、仕方ない。そう、仕方ない。
チラっと見たが自分に習ってかタオルを取ってる、真横に居るが怖くて横を向けない。しかし、随分と勢いのある入り方だったな。何か不満があるのか、珍しく品に欠ける動作をしている。ハクのことだから、数秒後には理由を自白するだろう。
「心底想定外です。男性と言うものは、女の裸体に興奮するものばかりと思っておりました。」
「あっ、自分は女体に興味ないんで。」
「ご冗談を!?」
「ご冗談です。そうでも言って誤魔化さないと、歯止めが利かなくなりそうです。」
こちらが優勢!になるはずもなく、首の皮一枚で繋がっている。黙ってればいいものをハクには嘘をつけず、本当のことを言ってしまった。
左舷至近距離に気配を感じるが、目視確認しなければ、どうということはない。念仏を唱えて、心を落ち着かせクールダウンだ。南無阿弥陀仏法蓮華経、心頭滅却すればアフターバーナーもまた涼し。何言ってんだオレ。
「ふふっ、そういうことでしたか。冷静なマスターも、やはり男と言うことですね。」
向けられるジト目!放たれる言葉攻め!繰り出すは手隠し!!攻撃属性が3つ、自分のメンタルにダイレクトアタック!
まさに鬼!悪魔!古代神龍!必死で本能を持ち上げてる理性君の膝を45口径460mm三連装砲で攻撃するのは辞めて下さいしんでしまいます。膝に九一式徹甲弾を受けてしまってな。
「以前も申し上げましたが、私は一度、マスターに忠誠を誓った身。私が奴隷であろうがなかろうが、この身に関する決定事項全ては貴方が握られているのです。どう対処されようが、私は受け入れ致しますよ?」
……一層近くなる距離、変わらぬ目線。そうかい。
「えっ?」
立ち上がる瞬間にハクの足をすくい上げて両肩に担ぎ、水気を取ることなく風呂場を出る。
座っていたために救い上げる動作は簡単で、相手に負荷もかけておらず問題なし。脚と腰周りのマウントはこちらが取っているため、身動きも取れないだろう。
「あっ、あらら?」
「何が今更あらら、だ。あんだけ煽っといて、何事も起こらないと思うなよ。」
「えっ、えーっと、オドオドとされるマスターが可愛くて、つい悪戯心が……。」
だからセーフですよね?と言いたげな視線を斜め後ろから向けてくるが、そうは問屋が卸さない。あれだけのジェット燃料を火に注いでおいて、無事で居られるわけがない。
とりあえず、自分の巣の寝床へと強制連行。どうせ汚れるんだ、水気程度は誤差だろう。
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「……んっ、もう朝か。」
疲れが抜けていない感覚が襲い掛かるが、習慣とは恐ろしいもので、いつもの時刻をやや過ぎた辺りに起床してしまったようだ。誤差は目覚まし時計のスヌーズ1回程度の時間だったので、今日の予定に影響はないだろう。
反対側を見ると、にこやかな顔をしたハクが、布団から顔だけを出してこちらを見ていた。表情を見るに、随分前から起きていたな。
「あれっ……おはよう、起こしてくれても良かったのに。」
「ふふっ、おはようございます。申し訳ございません、マスターの寝顔を拝見しておりました。先日もそうでしたが、寝起きは不得意なのですね。」
……だからって、「えいっ」と言いながら全身で左腕をマウントされると血流速度がマッハに到達しそうになるので控えていただけると助かります。互いに素肌なのだから猶更です、寝起きなんだから暖機運転させてください。
それにしても、オッサンに邪魔された初日の朝でわかっちゃいたが、凄まじいデレ様だ。とはいえ可愛い事この上ないし、気張らないのも良い事なんだろうけどさ。
小動物と化したハクを愛でているだけで1世紀単位で時間が経過しそうなので、名残惜しいが互いに起床して朝食をとる。1世紀は少々言い過ぎだが時間が押していたことは事実で、ゆっくりと朝食を取るわけにもいかず、炊けていた米を使ってオニギリとした。ヴォルグ一家は申し訳ないが、食堂で済ませてくれ。
それだけ言い残し、自分はハクに乗って第二拠点本部へと移動する。上空のヘリポートに着地すると、警備兵が出迎えてくれた。
今日は朝から役職者が第二拠点に集合し、誰が言い始めたか「首脳会議」が行われる。8492の行動方針や、相手と戦闘になった際に攻撃方針を決める、重要な位置づけの会議だ。
と言ってもメンツが濃すぎる影響でAoA時代中盤はロクな結論に至らなかったことが大半のため、自分が「これじゃ脳腫瘍会議」とヤジったのが原因か、それ以降は比較的マトモな内容が議論されている。
『空対空迎撃用に安い機体をかき集めて100機以上からなるオメガ大編隊を編成、全員でイジェクト行いつつ制空権を確保し、着地後は歩兵戦を展開して一帯を確保するためには、どのような攻撃態勢とタイミング管理が必要か』という議題が良い例だけど、『全員で普通に戦う』というのが全うな答えじゃないかな。微粒子レベルでいいから、もうちょっと真面目な会議をしてほしいと何度思ったことか。
まぁでも、そんな自分の心配を他所に戦場を蹂躙していくのがアイツ等であることも、また事実。誰かも「油断するのは三流」と言っていたが、その程度の奴は8492には居ないから、単に自分の気にしすぎかもしれない。
今回の主な議論は、今後の8492が辿るべき方針の決定だ。8492の名を汚さないよう、かつ各部隊の希望……ようは戦闘が行えるよう、力いっぱい悩んでみよう。
マトモなタイトルを思いついたので変更致しました。




