13話 鷹の巣箱
【視点:ホーク】
「いやー、朝の一件を話してからコレが出てくるとは、してやられたわい。何度でも食せるぞ、酒の〆として出されても文句無いわい。」
「お肉、お野菜を一緒に食せる上に非常に美味である点が素晴らしいと思います。器とお湯の用意にかかる手間は、必要経費ですね。」
「脂っこくないお肉でした、これなら問題なく食べられます!」
「ええ、私も同感です。」
食べ終わった感想は、人それぞれ。毎度のことだけど、これだけ素直に観想を言ってくれると作った方としても誇らしい。今回のは、ただ野菜と肉を切って下味を付けた程度だけどね。湯に潜らせる時、この下味と素材の旨みがお湯に溶け出して、良いスープを作るんです。
ハイエルフ兄妹も、鴨肉のアッサリさは問題なし。ヴォルグ達も鴨肉は新鮮だったようだが、〆のラーメンまで食べたのは驚きだ。小麦がOKなら、たまに肉うどんとか麺類を混ぜて飽きがこないようにしてあげよう。
行動力が凄まじかったのは佐渡島(仮名)の連中だ。突然飛んできたと思ったら、AC-130の機首に付いているフルトン回収システムを利用し、こっちで作った食材を全て持って帰って行った。下から見てたけど、一発で成功させるのは流石だね。
せっかくなので炊飯部隊にも下味を覚えてもらい、今後はいつでも作れるようにしておいた。もう二度と、メシのために全部隊が全力即時待機になるような事態は無いだろう。無いよな?
「おーし、余韻に浸るのはわかるけど、そろそろ任務再開だぞー。アルファ連隊は、片付けを手伝ってくれ。」
やや気の抜けた「いえっさー」の声と共に、周囲で一緒に食べていた兵士達が立ち上がる。単に食いすぎの連中が多いようだが、たまにはこんなことも良いだろう。
自分達も立ち上がり、食堂の外へと出た。兄妹はエンシェントの背中に乗り、ハイエルフの隠れ里へと戻っていく。
えーっと、合流が三日後で出航は二日後なので、あと1日半は時間があるな。よし、前々から予定していたことを済ませてしまおう。ハクとヴォルグ一家と共に、L-ATVで東の山にレッツゴー。
====5分後====
「羨ましいですよ総帥、ドラゴンに乗れるんですから。」
と思っていたら、予定地点までは高低差もあるので、偵察がてらハクに乗っていくことになりました。
ヴォルグ達は走って移動するらしく、別行動となる。走るの好きなんだろうな、犬だし……狼でした。
さて。昼食終了後の第二拠点の軍港で、ハクがドラゴンの姿になって数分。ヘリポートは見物客という名の兵士たちでごった返しており、そこかしこでカメラのシャッターが切られていた。ほんと、ハクはこの姿になっても美しく品がある。
声をかけてきたのは、本日午後は非番になったディムース及び直属の小隊だ。自分との仲も深いこともあって、集団より一歩前に出た位置に小隊は陣取っている。
「乗せてもらうのは2回目だね。戦闘機の移動が車だとしたら、ハクに乗るのはバイクみたいなものだよ。自分で運転するワケじゃないけど、解放感は段違いだね。」
「でしょうね~。可能ならば、一度は経験してみたいものです。」
ディムースと談笑を飛ばしつつ、伏せたハクの背中に乗せてもらう。軽く背中を叩いてOKの合図を送ると、周囲のどよめきと共に身体が持ち上がり、飛んでも居ないのに視線が数メートル上昇した。
飛行速度は抑えてもらうので、風圧に関しては問題がなさそうだ。第二拠点移動時は距離が距離だったので速度を出すために戦闘機用のヘルメットを付けていたが、今回は装着していない。
離陸地点はヘリポートだが、すぐに飛べない点に関しては理由がある。一応ながら飛行する扱いなので、管制塔の指示を受けなければならないためだ。
その点、エンシェントに関してどうしているのかと聞いてみたら、無線機とスピーカーを内蔵したUAVに従っているらしく、問題はないようだ。
数分すると、管制塔から無線連絡が飛んできた。離陸許可が降りたので、ハクにもそう伝える。周囲には未だにヴォルグ一家があるが、移動速度はこちらのほうが遅いので先に離陸する。ディムースに離陸すると伝え、離陸の衝撃等の対策のために下がってもらった。
下がったかどうかを確認するためディムースたちの方向に首を向けると、彼の部下の一人が質問を飛ばしたそうな顔をしている。ディムースもそれに気づいたのか、「質問があるなら言ったらどうだ」とアドバイスしていた。
それに対し、その隊員は言う覚悟を決めたようでこちらに顔を向けた。はて、質問の予想がつかないけど何だろうか。
「で、では。いや、その……どことなく、ハクさんに乗るっていう響きが如何わ「総帥命令、お前等日が沈むまでヘリポート周囲のランニングだ。」ゲッ。」
「「「「「貴様ァァァァ!!!」」」」」
タコ殴りのあとに蹴り飛ばされる隊員をよそ目に、ハクは地面を蹴って離陸した。ディムースの隊は任務終了と言うことで本日非番になったはずだが、これで潰れてしまったわけか。のんびりしてる暇があったら、ランニングの風で頭を冷やしてろ。
自業自得だし、隊員の責任は連帯責任と言うのが定石だ。流石に言って良いことと悪いことがあるので、命令は撤回しない。この基地の女性隊員に対するノリで言ったのだろうが、反省しろ。
「ったく……たまに油断すると、頭の悪い質問が飛んでくるな。」
地面が離れ、隊員たちの罵り声も聞こえなくなったタイミングで、思わず小さくつぶやいてしまった。そういうのは男同士で言ってろっつーの、表に出すな。いくらハクの事とはいえ、そこまでは規制せんよ。
「マスター。その言葉ですが、あながち間違いでもございません。古代龍以上となりますと、背中に乗ることができるのは、本来はそれ程の仲でなければ不可能です。」
それに対し、ハクがまさかの上機嫌で回答を出してくる。えっ、何それ初耳なんですけど。
てことは何か、第二拠点を作る時に乗らせてもらった時点で……いや、過去を穿鑿するのは止めておこう。恐らく自分の心の中に仕舞っておくのが、一番の正解だ。
季節的に冬が目前であり、顔に当たる風は冷たいと感じるほどだ。それでも天気は良く、日の暖かさで相殺している感じを受ける。
下を見るとヴォルグ達が気持ち良さそうに平地を走っており、山を登らなければならないので自分達を追い抜いていった。
「この辺りでしょうか、マスター。」
「そうだね、着陸頼むよ。」
東側1km程の地点から北に向かって聳える標高3000m級の山々だが、海に面した一番南側は600m程が3つ連なる様子となっている。落石の心配も無い上に頂上が開けている上に平地なので、ここに決定した。
やることは、随分前から妄想していた自分の家の建築だ。といっても「召喚してハイ終わり」という、なんとも味気ないものになるんだろうけど、何処に何を置こうかと悩んで居る時が一番楽しいんだよね。
ヴォルグ達がすんごい勢いで上ってきたタイミングで、一番見晴らしの良い南側に施設の召喚を行う。AoAのシステムに保存された自分の家が現れて、形を成した。
2階建ての鉄骨造。ゲーム内の資金は潤沢だったため、かなり「凝った」作りだ。2Fまで吹き抜けとなっている50畳のリビングには、ナナメ30度に設置して飛行状態を再現したF-14D戦闘機が飾ってあったりする。
「こ、これまた非常に洗練された内装ですね……。それにしても、綺麗過ぎるという印象を受けます。」
「あー、うん。こういうのを作るのが趣味だったんだけど、使ったことは数回しかないんだ……。」
「えっ、これほどの施設をですか!?」
家の中を案内していると、ハクにそんな内容を突っ込まれた。その着眼点、流石です。
正直言うと、家というか部屋を作るのが趣味であっただけで、利用したことは数回しかない。本部の総帥部屋から動かなかったし、正直なところ生活はソコで事足りていた。
なので、なんでこのような家にしたのか記憶が定かではない。クソデカく土足で上がれる玄関続きのリビングのわりに、反対側の区画は靴を脱いで上がる日本式3DKというアンバランスな組み合わせ。主寝室が1つ、総帥部屋が1つ、予備の部屋が1つとなる。まぁでも、二人で暮らすなら丁度いいのかな?
あとは屋根付き露天風呂が異質だ、こちらも無駄に凝っている。温泉ではないのが心残りではあるが、温泉の管理は大変だから仕方ない。電気、水道などは、自動的に軍事施設に接続されるので問題ない。
露天風呂が南を向いているので、そっちから来れないように柵を敷いてしまおう。あとはヴォルグ一家の家だが……とりあえず自力で開閉可能なドアのある小屋+藁敷きで豪邸らしく、希望に沿うようにした。
残りの装飾などは、追々行っていけば良いだろう。掃除用のメイド、執事とか雇っても良いかもしれないな。
今回家を召喚しようと決断した理由として、戦闘の減少で全体的に仕事が減ってきていることもあり、大元帥の3人が書類整理も行うことになったので、もう本部に引きこもる必要も無いこと。そして、ハクと結婚したことが双璧だ。
まさか異世界に来て初めて使うことになるとは思ってもみなかった自分の巣だけれど、今日から存分に堪能するとしよう。
自分の城にF-14を飾れる。ロマンしかありませんね!
ホークが飾っているのは実物ですが、現実だと武器輸入のくだりに引っかかるので、3Dプリンタでガワだけ再現する方法が現実的ですかね。
スペースは…お金を貯めましょう!




