11話 祝福と決定
ほのぼのとしたパートが続いております
【視点:3人称】
第二拠点本部、1階ロビー。I.S.A.F.8492のなかでも古参であるメビウス、ガルム、マクミラン、ディムースの4人が集っている。その横にフェンリル王一家が寄り添っており、ホークを待っている状況だ。
ヴォルグ一家は、初めて顔を合わせるパイロット二人を物珍しそうに見上げている。二人もヴォルグ一家の存在は知っており、たまに頭を突いたりしてスキンシップを取っていた。
そうこうしているとホークがやってきて、4人は軽い拍手で出迎えた。しかしながら彼一人しか姿が見えず、拍手から生まれた柔らかな空気も疑問に変わってしまう。
「あれ?総帥、相方はどうしたんだよ。」
「ああ、なんかエンシェントに伝言があるのを忘れていたらしくて、先に行ってるよ。」
「そうか。ともかく、おめでとうホーク、やったじゃないか。」
「主様、おめでとうございます。」
全員が祝福する中、例によってディムースだけは「congratulation...」とネタに走り続けているが、いつものことなのでホークは気にしない。結果として誰にも突っ込みを入れてもらえず、彼は少しだけ心が痛んだが、自業自得だ。
仲間に祝福の言葉をかけられ、ホークは穏やかな顔で答えるものの、彼の表情にはどこか影が落ちている。付き合いの長い4人は気づいたようで、どうかしたのかと声をかけた。
「……いや、未だ心の底から喜べる状況じゃない。自分は問題ないけれど、ハクが大きな問題を抱えている。ハクが悪いってワケじゃないんだけど、国が、ね。」
「そうか……。」
「元とはいえ、王女だもんな。色々あったようだし、結婚ともなれば、色んなシガラミが顔を出すだろう。とはいえ、これで他国に対して知らぬ存ぜぬは通らなくなったぞ。」
「もちろん。遅かれ早かれ迎えることだ、覚悟はできている。」
険しい表情になるホークだが、それも一度きり。すぐさまいつもの表情に戻り、気楽な声で要望を出した。
「間違いなく何かしらの関わりは発生するから、本当のゴールは、そこの問題を解決してからだと思う。ほとんどの国の反応は問題にならないだろうけど、フーガ国にどう思われるかが、不確定要素として強いかな。」
「竜人の基準だと、やはり地上戦で強くなければ認められ辛いのか?」
「うん、それは正解だと思う。ハクは何を言われても気にしないって言ってたけれど、自分としてもハクの横に立てるぐらいにはなりたいし、戯言の類を受けそうな環境は極力減らしたい。」
「御もっともだホーク。そうなると、宝物庫のストック能力を生かした銃撃戦か?」
「そうだね、ソレも含めたオールラウンダーだ。地上戦では宝物庫のストックを生かした銃火器での攻撃、空ではトムキャットでのミサイル支援攻撃。どっちもできる人って、8492だと居ないだろ?」
そう言われ、4人は「そういえば」と納得する。オメガ11とかいう超イレギュラーが居るには居たことを思い出すも、発言者のホークを含めて5人全員が頭の中から存在を抹消した。可愛そうな話である。
一応ディムースは地上戦における何でも屋的な立ち位置だが、戦闘機の操縦は不可能だ。対空という意味ではAT教団の称号持ちでもあるが、それも超エース級の戦闘機や長距離ミサイル相手では通用しない。
「しかし地上戦となると、どうするんだ総帥?目指すレベルにもよるが、ハクさんはM2重機関銃の弾丸を弾けるぐらいだぞ?」
「この前、総帥の基本装備を決めた時に弾いてましたね。そうなると、お持ちのHK417でも厳しそうですが。」
何だソレと眉間にシワを寄せるのは、初耳のパイロット二人だ。「漫画か?アニメか?」「いや現実だ、ゴエモンだ。」のコント的なやり取りを見て、ホークは苦笑する。
ホークからすれば、音速で飛行する戦闘機のコクピットを打ち抜いているヘンタイが目の前に居るので、特別気にならないのが現状だ。とはいえ攻撃方法と火力に関しては本人も気にしており、未だに解決策が見つかっていない。
「そこさ、単純に銃撃戦ができれば強いってワケにもいかないところが難しいんだよね。マガジンの関係で連続攻撃性も低いし、ハード目標相手だと火力が足りない。部隊単位だと多人数と色んな武器で連携が取れるから良いけれど、竜人が求めるのは単独の強さなんだよね。」
腕を組んで「ドーシマショ」と言わんばかりに首を上げるホークだが、それを見る4人の表情は落ち着いている。4人で顔を見合わせると、ガルムが口を開いた。
「ま、この前もEPUなんぞを持って行ったようだし、どうせお前なら何か考えてんだろ。」
どうしよう、どうしようと迷っている振りをしていることをアッサリと見抜かれ、ホークの額に冷や汗が流れた。彼は隊員のことをお見通しであるが、この4人においては、ある程度は逆も然りである。
「……ま、まぁね。どこぞの架空の王様が使う猿真似な上に、まだ計画中で効果判定すら怪しいもんだけど。とはいえ結果が出せれば認められるし、そん時は自分も心の底から喜べるから、派手なアクロバット飛行で祝ってくれよ。」
「マッハ2.8で真横を抜ければ宜しいか?」
「やめてくださいしんでしまいます。」
「ガルム、彼女に落とされかねんぞ?」
「……なるほど。話を聞く限りだが、やりかねんのが怖いな。」
「その時は、俺も手伝うぞ。」
「おい止めろマクミラン、お前が出張ると洒落にならん。」
マクミランが出るとか出ないとかじゃなくて、そもそも普通のアクロバットにしてくれよ。と、ホークは肘でガルムの脇腹をつつく。普段はあまり見せない笑いが起こり、様々な話題で盛り上がるものの、任務の時間になったようで、それぞれのフィールドへ散っていった。
「主様。先ほどの方々は主様を相手に気軽に接されていたようですが、どのような方々なのでしょう?」
「あの4人とは、8492ができた当初からの長い付き合いなんだ。年もバラバラだけど、なんていうか、兄弟みたいなもんだね。」
「なるほど、そうでしたか。」
「そういうこと。よし、それじゃ来客の相手に行くよ。まず間違いなく不要だけど、念のために警備お願いね。」
「お任せください。」
ホークとヴォルグ一家の行く先には、二人の影。特徴的な民族衣装を着ており、こうして会うのは2度目である。一見すると普通の人に見えなくもないが、永く尖った特徴的な耳は、彼等兄妹がエルフであることを示していた。
兄妹はハクと会話をしており、妹のリーシャは彼女と話が合うのか、彼女の表情も普段よりは変化がある。結婚した影響か比較的柔らかな表情を見せることが多くなったハクだが、相変わらず、基本的に表情変化が乏しいのが特徴だ。
とはいえそれも、ホークが相手となれば話は別。通路の横から出てきた彼に気づくと、トテテテという擬音が似合いそうな走り方で横に並ぶ。事情を知っている者にとっては微笑ましい光景だが、明らかに前回とは違う変化に、兄妹は驚いていた。
「やぁ兄妹、お久しぶり。」
「お、お久しぶりでございます。えーっと……。」
「あ、そうか知らないか。実は昨日、自分とハクが結婚することになってね。」
「おお!それはおめでとうございます。」
「まぁ、おめでとうございますハク様!」
「ありがとうございます、リーシャ。」
ホークは、軽い拍手で祝福する二人と握手し、ありがとうと感謝を述べる。兄妹は、本当に心から祝福している様子だ。
「さて、祝福ありがたいんだけど話を変えて本題だ。そっちの話が決まったらしいね、答えを聞くよ。」
その言葉で、兄妹の表情が変わる。先ほどとは違い、決定を伝える使者の如く、エルフらしい凛々しい顔つきとなった。
が、始めの一言で場の空気が壊れてしまう。
「はい、総帥様。」
「ちょっと待って、呼び名それなの?」
「あっ、はい。我々の呼び名と言うことで統一することになったのですが、ご不満でしたでしょうか……?」
「マスター、彼等が敬意を払うのは当然と思います。」
「……まぁ今更か。話の腰を折って悪いね、続けて。」
相変わらず様やら何やら崇められるのに違和感のあるホークだが、抵抗が付いてきたのか、溜息を付くものの了承した。ハクの言い分が正当化に関することもあり、あまり正面から否定できないことも理由である。
「はい。結論から申し上げますと、我々全員がこの拠点でお世話になることで決定しました。」
「そうか。わかった、移動時期は?」
「これから雪の積もる季節となります。食料や気温としても非常に厳しい季節です。その前には、是非とも移住したいという意見も多数ございました。」
なるほど、と、ホークは腕を組んで考える。あくまで考えていることは輸送方法や出撃時期の計算であり、先ほどの質問のように、ハイエルフが決定したことには口を出さない。散々議論して決まったであろう内容に、部外者が口出しすることは間違いだ、と考えているためだ。
「了解した。ところで、物資の運搬方法は考えている?海岸沿いまで運ぶ手段があるなら、問題ないんだけど。」
「承知しました。ありがたいことに住居に関しては支給頂けるとのことで……運んで頂きたい物は多いのですが、海岸までの移動でしたら、特に問題ないと思います。」
「そうか。じゃぁ……三日後、日が昇りきる前ぐらいに、事前に教えてもらった海岸に行くよ。精密に地点を決めることができるとは思ってないけど、合流する場所に間違いは無い?」
「はい、変更はございません。日付に関しても、特に問題はございません。」
「わかった。それじゃ、こっちも動き始めるよ。」
「お願い致します。魔導兵器の用意でございますね。」
その言葉に、ホークは返す言葉を迷ってしまう。どう説明したものかと悩みながら、しどろもどろに回答を行った。
「鉄の塊っていう点では似たようなものかもしれないけど……一応、あれって魔法じゃないのよね。」
「「えっ!?」」
「なんていうか、別の動力源があるのさ。ともかく、魔法は一切使ってないよ。」
「……な、なるほど。と、ともかく、準備の程お願い致します。」
「わかった。」
軽く礼をする二人に対し、その目の前で、ホークは予定していた部隊に出撃準備命令を発令する。命令を受け、第一機動艦隊が出航準備に入った。
合流を予定している三日後までの天気は良く、絶好の航海日よりとなるだろう。エンシェントと共に帰還していった二人を見送ると、彼はハクと目を合わせ、「忙しくなるな」と、穏やかな顔で会話するのだった。
ホークが何やらコソコソ動いているようです。猿真似とのことですが……?




