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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第3章 軍の主
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7話 老いた竜の悩み

【視点:3人称】


「ホッホー、こりゃー美味い酒じゃ。度は強目じゃが、スーっと通って力強い。」



帰港後、ハクとエンシェントと共に軽い夕食をとったホークは、彼の部屋へと二人を招きいれた。「せっかくなので、この銘柄で晩酌」と言いながら、エンシェントが楽しみにしていた日本酒を出すと、なぜだかハクは率先して注いでいる。そして彼女自身もかなりの勢いで飲んでおり、どうやら楽しみにしていたようだ。昼間の影はどこにもない。

3人が飲んでいるのは、『白龍』という銘柄の日本酒だ。彼女を象徴するような銘柄であり、ホークが漢字の意味を教えた時に彼女は目を輝かせていた。エンシェントに至っては拝み倒していたほどだが、今となってはそんな気配は微塵も無いほど胃袋に流し込んでいる。


酒に関してはホークもある程度は嗜むので、開始30分ほど経った現在でも一緒にチビチビと飲んでいる。ツマミとして、以前調理した翼竜肉シリーズのなかからローストビーフをチョイスし、調理班に枝豆を塩茹でしてもらっているので死角は無しだ。

竜人の二人はとても気に入ったようで、酒のペースも速ければツマミの似消費スペースも中々となっている。ホーク自身もこの銘柄の日本酒を飲んだのは久々だが、気をつけなければ勢い良く飲んでしまいそうな口当たりとなっている。


ところで3人で日本酒とツマミに浸っているのは、エンシェントが「話がある」と持ちかけてきたからだ。どうやら依頼ではなく単なる話らしいが、現在でも二人に対して会話の内容は知らされていない。酒に夢中で単に忘れているだけの可能性がゼロではないということが、ホークが気にかけている内容だ。

あまり酒に強くない彼にとっては、いつまでもチビチビとやっているわけにもいかないので、少し落ち着いたタイミングで言葉を投げようと決意する。さて、西の帝国の動きはどうだろうかと、言葉を投げた。



「さてエンシェント、そろそろ話しとやらを聞かせてくれてもいいんじゃない?」

「おっと、そうじゃった。西の帝国以外にも、各国の動きが少しだけ入ってきてのぅ。少しは使える情報じゃとおもうぞ。」

「あ、その情報は欲しいね。」



思ってもみなかった内容だったのか、ホークの飲食は一時中断、メモ帳を出して聞き入る体制に入っている。本部の情報部にはその手の情報が欲しい奴が大量に居るだろうと、聞き逃さないようにしているのだ。



「いきなり話が変わってすまんが、まずハイエルフの件から入らせてくれ。結論としては、先の内容をお願いするということで、話が付いたそうじゃ。あの兄妹は今、海軍のところで精密な打ち合わせをしていると聞いておる。明日の朝には挨拶しに来るじゃろう。」

「了解、合流地点の打ち合わせだと思う。その点は海軍に任せてあるから、エンシェントも気にしなくていいよ。」

「承知した。さて各国の動きじゃが、我が把握しているのも大まかな流れ程度じゃ。まず、2つの帝国が再び動き出したのが大きいのぉ。対勇者用に増員した軍事力を、何かに使う気じゃ。」

「目的は、やっぱり戦争?」

「もしくはダンジョン攻略じゃの。宝物は国力に直結する上、魔具ならば他国に力を示しやすい。特に中小規模の国は、戦争ではなくダンジョン攻略に力を入れるじゃろうな。」

「なるほど。」

「して、こちらの方が重要な話と思うが……それら各国が、血眼になっておぬし等を探しておる。鳥の話は、既に全世界に広まっておるのではないじゃろうか。」

「あー、やっぱり?西の帝国は?」

「あそこは平和主義の帝国での。お主等と同盟を結べないかと、色々と模索しておるようじゃ。」



直近の問題としては、おおかたホークの予想通りである。セオリー通りいくと、各国はあの手この手を使ってでも8492を手駒にしたいはずだ。とはいえホークとしては、そんなことはさせないし、8492の隊員も否定するだろう。

離島の佐渡島(仮名)はともかく、深淵の森深部にある第二拠点に来ることも難しいだろう。とはいえ万が一のことを考えると、役職クラスと相談して交戦規定を決める必要があると、彼は判断した。


現在の第二拠点も魔物の襲来も無く平和なものだが、これはハクやフェンリル王一家によるものらしい。どうも魔物からすれば、魔力が濃すぎてあからさまに危険なナワバリになってしまっているようだ。手を出せば、確実に返り討ちに遭うと認識している。

それほど強力な魔力源となっているならば遠目から発見されやすいのではないか?とホークがエンシェントに聞いてみたが、どうもフェンリル王一家が結界を張っているらしい。至近距離でなければ、その匂いも分からないようだ。



「結界で思い出したんだけど、そういえばシルビア王国ってどうなったの?」

「おっと、忘れておった。今現在は根回しした国の王女と王子が、シルビア王国を治めておる。見る限りじゃが普通じゃの、勇者時代よりは断然良い。」



おぬし等が破壊した箇所の修理に手間取っているようじゃの。と、ケラケラと笑いながら話を閉じた。しかしホークいわく、「なんと言われようがアレは仕方のない破壊行為だ」ということで、謝るつもりは無いらしい。当然の話である上に、誰も責める人は居ないだろう。



「あと邪人だか邪族だか、増援を潰したから怒り狂ってるんじゃないかと思ってるんだけど。」

「正解じゃ。北と南西に居る邪人というのは、ただでさえ血の気が多い奴等じゃからの。可愛がっていた航空部隊を潰されて、「鳥」を撃つべしと声を大にしておる。我の国も、八つ当たりに対して警戒を強くしておるの。」

「八つ当たりで他国への攻撃とか、厄介者にも程があるだろ……。」



とはいえ、この点もホークの予想と似ており、邪人の国は逆恨みしているようだ。AoAでも公式戦で負けた腹いせに暴れる奴等が居たため、ホークとしては珍しくも無いのが現状である。。

世界にはトラブルメーカーと呼べる国が必ずあるが、この世界では邪人国が筆頭候補ということになる。「襲う」という頻度的には魔物や賊の方が多いらしいのだが、国ではないのでノーカウントだ。


ともかく、遅かれ早かれ、8492はどこかの国と関わることになるだろう。今のところの有力としては西の帝国が安牌、続いてハクのフーガ国になるのが現状だ。

どちらにせよ、何かしらの苦労はありそうだ。ホークが溜息を付いて日本酒を一口飲むと、エンシェントが俯き加減で猪口を揺らしている。明らかに普段の陽気なテンションではなく、まだ何か話の種を隠していそうな表情だ。



「何か、話し損ねてることがありそうだね。」

「ほほ、よくぞ見破った。」



ホークが聞いてみると、いつものテンションに戻った。話し出すきっかけを探していたのだろう。



「正直、あまり話したくない嫌な話じゃからのぉ……。」

「ん?別に、隠したいなら話す必要もないと思うけど。」

「ああいや、隠したいという意味ではない。話さなければならないが話づらい、と言う意味じゃ。」



顔を下げ、猪口を置く。重い表情のまま、彼は口を開いた。その姿を見て、ホークは自然と少し背筋が伸びてしまう。ハクも何かを感じ取ったのか、同じく猪口を置いて姿勢を正した。



「力を失ってから今までは誤魔化せて来たのじゃが、いよいよ限界でな。ハクの嫁ぎ先が、決められたのじゃ。一般で言うところの、貴族と呼ばれる連中が相手じゃの。」

「……そうか。」



突然の報告に、ホークは冷静に応答した。声は明らかに沈んでいたものの、本人の予想に反して、取り乱すような気持ちは浮かばなかったようだ。



「……なんじゃ、あまり驚かんのぅ。」



ホークも正直なところ、いつかはそうなると予想していた。彼女が王家でありこの世界が一般的なファンタジーに似ている以上、この手の話はつき物だ。早いか遅いかの差があるだけで、内容としては似通っている。

王家に限らず貴族レベルの娘が、本人の意思に関係なく嫁ぎに出される政略的な風習だ。ホークとしては「王家追放を食らっていたからもしかしたら免れるかも」という期待もあったが、思い通りには行かないらしい。


一応ながら「ハクは自分の奴隷なんだから、そんなのは無効だ!」と言えなくも無い状況にはなっているが、王家が奴隷になったと露呈すれば一族の品格が墜落してしまうので絶対に表ざたにすることはできない。そのため、この選択は無いことにして話が進められる。



「それが道理なら……心底気に入らないけど、受け入れるしかないだろう。」

「お主ならば、力尽くで奪い取ることも可能ではないか?」

「つまりはハクの故郷を攻撃しろと?そんなことやりたいとも思わないし、彼女も望んでいないはずだ。」



確かに8492の力をもってすれば、エンシェントが言っていることも可能だろう。しかしここでホークがハクの縁談を捻じ伏せれば、フーガ国を巻き込んだ戦争は免れない。それもまた、絶対に避けなければならない結果だ。

つい自然と、返答する口調が強くなっている。本人もソレに気づいて、抑えるように日本酒を一口飲んでから横目でハクを見ると、彼女は静かに頷いた。



「エンシェント、私は父上を恨んでは居りません。当時の事情では、当然と言える選択でした。」



言葉の最初こそ強がっていたが、終盤になると消え入りそうな声に変わっている。表情も暗く、いつもの凛とした姿は欠片も無い。出た言葉は本音だろうが、やはり引導を渡されたときのことを引きずっているのだろう。

心では、親に捨てられたことを悲しんでいる。そして、それを見抜けぬ彼ではない。


……見たくない。内心では苦虫を噛み潰すホークの心境は、この一点を中心に構成されていく。


素直にこそ笑わないが、8492の拠点で過ごしている彼女の目は好奇心溢れる子供と同じベクトルだ。

彼女に似合うのは、そんな顔。凛とした王家の姿を残しながらも、1つの自由な生として日々を謳歌する生き方。今のところ一方通行とはいえ、ホークは自然な彼女の振舞いに惚れているのだ。



「ですが……父上は、どのように思っていらっしゃるのでしょう……。」

「ハク、両親も悩んだはずだ。最後には国を守る王としての立場を取ったのだろうけれど、葛藤は……足元にしがみ付いてきた我が子を切り裂く思いをした父親の方が、強いんじゃないかな。」

「マスター……。」

「……その年で一丁前の言葉を言うのぅ、じゃがそうじゃ。あやつが涙を見せたのは、ハクが生まれた時の喜び以来かのぉ……。」



ホークは、しんみりとするエンシェントを横目にハクを見ると、目を伏せて唇を噛んでいる姿が飛び込んできた。その姿を見て、彼女のことだから「自分のせいで父に迷惑をかけたとでも思っている」のではないだろうかと予想できる。

以前にも内政ができない娘だと自分で愚痴をこぼしていたこともあり、可能性は非常に高い。しかしそれは結果論であって、今までの選択が間違っていたわけじゃない、というのがホークが持つ考えだ。


とはいえ王家ともなれば、内外からのプレッシャーは大きいのが現実である。最大の取り得である戦闘能力を失った途端に失脚追放なのだから、その圧力は計り知れないものがある。

ホークが率いる8492では有り得ない処遇だが、他所は他所。正直なところ内心は非常に苛立たしく立案者を罵りたい心境だが、その決定に、彼が文句をつける権利は無い。



「しかしホーク殿。本当に縁談の話を予想していたような返答じゃったが、アテはあったのか?」

「厳密にいえば少し違う。自分はただ、フーガ国の権力者から出される手を読んでいただけだ。今回の場合、取り返すとなれば王族の立場を利用した政略結婚が挙げられる。珍しくもないはずだ。」

「じゃがお主も知っているとおり、ハクはもう王家ではないぞ?」

「美貌に関しても文句の付け所がないじゃないし、元王族の肩書きは外れない。その手の肩書きを欲する輩なんぞ、エンシェントが知っているだけで両手の指の数以上は居るんじゃない?」



赤の他人が見ていると、心底面倒くさいと読み取れる口調で、ホークは返事を行った。とはいえ彼も状況は理解している上に拒否権も無いのだが、推察能力の高さゆえに事情が鮮明に浮かび上がり、胸の辺りがモヤモヤしているのだ。

事実、その回答は正解である。年齢に釣り合わない人族が放つ相変わらずの回答に、長年を生きた神龍は溜息をついてしまう。



「……呆れた男じゃ。若い人族だというのに、政治の裏側を知っているような返答をする。」



勢いに任せるかのようにクイッと酒を飲み干すエンシェントに、ホークが注ぐ。「かたじけない」と勺を受け、彼は再び一口で飲み干した。



「……誇り高きドラゴンとはいえ、所詮は蛮族も居る、か。」



エンシェントに続き、ホークも馴れない日本酒をクイッと飲み干した。喉を通るアルコールの熱さが、心のモヤモヤに代わって身に染み渡るようだった。

天井を見上げ、どうしたものかと葛藤する。一目惚れしてしまった事実もある上に、今となってはハクと別れるなど考えられないが、最終的にはハクの意見を尊重することにも変わりは無いのが彼の答えだ。



「ホーク殿、本音のところはどう思うかの?」



前置きなくストレートに聞いてきたエンシェントの問いに、ホークの表情も変わる。エンシェントの口調や表情は何時もと変わらないが、目が据わっている。真面目な問いだと、彼は判断した。

ホークは一瞬、ハクのことをどう思っているのかと言う質問と勘違いしてしまったが、これは彼女の身の振り方に関する質問だ。彼が出す答えは、先ほど考えた内容と変わらない。



「自分としては最後までハクの意見を尊重するよ、こちらから縛るつもりは一切無い。そっちこそ、何か秘策はないかと相談しに来たってワケかい?」

「ふぉふぉふぉ、お主の案があれば乗ってみるのも一興じゃのう。老いた脳では、最良となる1つの考えを浮かべるので精一杯じゃ。」

「ん?だったらその案を実行すればいいじゃないか、難しいのか?」



そう言うホークだが、エンシェントでは実行できないから、こうしてやって来たんだろうなと想像する。枝豆をつまみながら、内容は何だろうと頭を回転させるホークをよそ目に、エンシェントは白龍を一口飲み、軽い口調で答えた。



「なーに、承諾が得られれば簡単じゃよ。ホーク殿が、ハクを嫁に貰ってくれれば良いのじゃ。」



「「……えっ?」」



政略結婚張りの強引さになる結末です。目には目を、ということで……。

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