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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第3章 軍の主
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6話 彼なりの気遣い

【視点:3人称】


「らしくない顔だな。」



演習が終わり、単騎となったF-14Sは時速400㎞で第二拠点へと向けて飛行している。編隊を解除してから2-3分たつもののコクピット内での会話はなく、エンジン音のノイズが支配していた。


そんな状況で突然と前方で呟かれた言葉に、彼女はハッとして、下に向いていた視線を戻した。F-14のキャノピー上部と左右にはバックミラーのようなものが付いており、ホークはハクの表情を見ることが可能だ。

今までも何度か似た表情を視認していたホークは大まかな原因も予想し気にしていたものの、今までは「そのうち馴れるだろう」とスルーしていた。しかし、今回はあえて声をかけたのである。彼自身に原因があった場合、直さなければならないことも理由の1つだ。



「……申し訳ございません、マスター。せっかくのご厚意で、同乗させて頂いたにも関わらず。」

「厚意に関しては気にしなくてもいいが、折角の良い天気だ。空と海を見ているだけでも、気は休まるぞ。」

「……。」



可能ならば話したくない彼女の心境は、当たり障りのない内容を口にしてしまう。彼もそれを察し、同様の内容を返答した。もちろん彼女もそれには気づいており、自身が示した表情と彼に気を遣わせたことを後悔した。

いっそのこと話してしまえば適切な言葉を貰えると考えている彼女だが、そのような考えは、5年間のうちにエンシェントや両親に対しても発生しなかったことだ。不思議と彼に対しては打ち明けたい思いがこみ上げるのだが、ただでさえ居候と言う形を取っている彼女にとって、ホークに悩みを打ち明けるための勇気は相当のものが必要である。



「報告。前方よりメビウス13、ネメシス1、イエロー飛行中隊が接近中。機体を左右に傾ける、揺れるぞ。」



そんな彼女の心の靄を吹き飛ばすように、前方から7機の飛行隊がデルタ編隊でやってくる。ホークは大きなF-14Sの機体を左右にバンクさせ、挨拶した。

その返答は、7機がF-14を取り囲むように円錐形状に展開し、機体の背を向けるバンクを行うというものだった。息を吐くようにアクロバット飛行を行い颯爽と消え去る超エース級の背中を見て、ホークは「グリフィスとメビウスを同時に相手か、演習にすらならんだろ」とイエロー中隊に同情し、苦笑するのであった。


この美しいアクロバット飛行は、後ろに居た彼女にも変化をもたらした。いつまでもショゲていないで、いつもの自分に戻ろうと決意させたのである。

7機を追って自然と首が曲がる彼女をバックミラーで見たホークは、「とりあえずいつものハクに戻ったな」と、内心安堵したのであった。


F-14Sは飛行を続け、北に向かって直進している。第二拠点まで残り5分のタイミングで、方位3-0-0からF-35Cの2機編隊が接近してきた。

空母フォード1に艦載されている、NPCの飛行隊である。ホークの左翼後方に機体を付け、そのまま編隊飛行を開始した。離着艦訓練中に実行する、念のための護衛任務ということで、この空域まで飛行してきたのだ。


コクピット越しにホークが親指を立てると、2機は敬礼にて返してくる。進路を少しだけ西に変え、3機は問題なく飛行を続けた。

すると、レーダーに味方の艦隊が映し出される。実はホークが発艦した直後、第一機動艦隊が航海演習を行っていたのだ。第二拠点には滑走路も無いので、ホークは航海中の空母に降りなければならない。



「マスター、1つ質問を宜しいでしょうか?」

「ん?」



普段の口調で質問をするハクの心境は、今のところ持ち直している。ホークもそれを感じ、地上に居る時のような気軽さで返答した。



「空母の滑走路は左斜め方向になっていましたが、着艦に影響は無いのでしょうか?船は前進しており、斜めに向かう形になると思いますが。」

「良い質問だ。答えから言えば、安全対策がしっかりしているから、手順を守れば全く問題無いよ。機体の進路としては、ほんの僅かに右にスライドしながら進んでいく感じだね。」



彼は簡単に言っているが、実際に空母に着艦できるパイロットというのは、かなりの腕前であることの証明でもある。しかし8492基準で言えば、そんなことはできて当たり前の内容であり、基準にすらならない。ホークが対地専門の第10航空隊に居る理由も、実力差を気にした本人希望による結果である。

一応ながらホークも着艦動作は集中力を要する場面であり、余裕ということは無い。一方のラーズグリーズ程になると全自動かと思うぐらいのウルトラスムーズな着艦を見せており、このような場面でも実力の差が表れている。


とはいえ、自分にできることを全力で行うのが彼流だ。それは着艦作業も同じである。

ホークは方位1-9-0の進路を維持して、挨拶がてら艦隊前方から空母とペラルタ3の間を飛行し、後方へと駆け抜ける。後ろに居たF-35Cの2機もノリノリであとに続き、甲板上では歓声が沸き上がっていた。



《フォード1より総帥、右旋回して着艦体制に入ってください。》

《こちらホーク1、了解。》

《ライトニングは近接哨戒飛行訓練に入るぞ、CICの指示に従ってくれ。》

《了解、無線バンドを変更する。》



ライトニングの2機は編隊を解除すると、バンクを取りつつ上昇していく。その姿は、数秒で雲の上へと消え去った。



「ハク、これより着艦作業に入る。着艦時に揺れる、衝撃に備えてくれ。」

「承知しました。」



ホークは機体のランディングギアを下ろし、着艦用のフックを展開する。陸上基地と違って滑走可能距離が短すぎる空母に降りるためには、空母に張られたワイヤーに機体のフックを引っ掛ける必要があるのだ。もし引っ掛けられなければリテイクとなるため、空母への着艦が難しい理由の1つでもある。

3本の脚が下りると空気抵抗が大きく増し、コクピット内部でも風を切る音が増して聞こえる。進入コースの維持もさることながら、フラップを最大まで作動させて翼の揚力を増し、降下時に得られる速度上昇に対して、オーバースピードにならいよう注意を払う。


コメ粒ほどの大きさだった空母が瞬く間に大きくなり、数秒後には飛行甲板に脚が付いた。万が一に備えてタッチ&ゴーできるようエンジン出力が最大となっており、減速する力に比べて推進力が圧倒的に勝るものの、そこは着艦フックの出番である。

着艦フックの影響で急ブレーキがかかり、体がやや前につんのめる。着艦の衝撃は、ホークが言った通りに衝撃があったものの、耐えられない程のものではなく、大きな揺れと言った程度だ。どちらも、彼女が行う戦闘中の衝撃から比べれば可愛いものである。


駐機エリアに機体が移動され、エンジンが停止しキャノピーが開いた。二人はヘルメットを外すと、空母甲板に足を付ける。

彼女は洋上でのやり取りの余韻を気にしているが、整備兵と話すホークに、そんな傾向は見られない。本当に気にしていないのか単にフリをしているのかまでは定かではないが、彼女にとっては、ありがたい対応だ。


ホっと安堵したタイミングで、一人の兵士が駆け足で寄ってくる。彼女に軽い敬礼を行うと、ホークの前で足を止めた。



「総帥、お取り込み中に申し訳ございません。」

「ん、どうした?」

「第二拠点より通信です、お急ぎと思いまして持参しました。エンシェントドラゴンが来ているようで、例の件でお話があるそうです。話の内容は極秘とのことで伺っておりませんが、ハクさんにも同席頂きたいようで、現在、第二拠点で待機しているとのことでございます。」

「わかった、帰港予定時刻は?」

「現在の予定では、17時でございます。」

「ありがとう。次の返信を頼むのと、エンシェントにも伝えておいて欲しい。艦隊と一緒に帰港する、待機していてくれ。以上だ、戻っていいよ。」

「ハッ、失礼します。」



兵士は敬礼を行い、船の中へと消えてゆく。同時に整備兵との会話を終えたホークが振り向き、彼女と向き合った。



「ハク、今夜って時間空いてる?」

「えっ?」



自分で質問しておきながら、質問の仕方が悪かったと瞬時に判断し、彼は横を向いて手で口を押さえた。

これが昼などならば特におかしなこともないのだが、夜となるとデリケートな内容となってしまうのが会話の難しいところである。騒音により、先ほどの通信兵との会話が彼女に聞こえていない可能性があったので、念のための確認を行いたいというのが彼の本心だ。



「ごめん、変な意味じゃない。エンシェントが第二拠点に来ているみたいで、今夜自分に話があるらしいんだけど、それにハクも同席して欲しいらしいんだ。」

「エンシェントがお話ですか?なんでしょうか……あ、同席の件に関しては問題ございません、場所はどちらでしょう?」

「第二拠点本部の自分の部屋かな。港に帰るのが17時らしくて、18時ぐらいには行けると思うから、部屋へ呼びに行くよ。軽く食事にして、晩酌がてら話し合おう。」

「承知しました。ですがマスター、お急ぎでしたら、今ここからお送りしますが……。」



つまり、ドラゴンの姿になって送迎しましょうか?と言っているのだが、彼は静かに首を横に振る。そしてそのまま、先ほど通信兵が消えていった扉へと歩き出した。

彼がこのような反応を示すのは初めてである。理由が分からなかった彼女だが、次の一言で全てを理解した。



「空母のメシは、美味いぞ?」



顔だけ向けられ背中で語られた予想外の回答に、彼女は目を丸くする。しかし、それが自分を元気付けるための言葉だと察すると、自然と表情が緩み目を細めた。


現在時刻は13時を回り、昼食にしては、やや遅い時間帯だ。普段から食に関心のある彼女にとって、通常ならばタイムリミットギリギリの時刻である。

先に歩き出したホークの後を追うように、彼女は小走りで駆け出すのであった。

メシこそ一番の特効薬!

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