5話 制空のヤベーやつ
演習パートの最後です。
空対空戦闘の〆は、ドッグファイト!
*23:20 ルビを使うと、スマホから見た場合に半角スペースが消えるようです。そのため大多数を2行方式に変更致しました。日本語で書けってことですね……。
【視点:3人称】
《Garuda2, incoming missile!》
ガルーダ2、ミサイルを撃たれたぞ!
《Shit! Broke lock!》
クソッ、ロックを回避する!!
ミサイルアラートが鳴り響く中、ガルーダ2は冷静にレーダーを確認し、最適な回避ルートを模索する。狙われてはいないものの1番機も同じであり、すばやく2番機に指示を出した。
《Break right, flare!》
右に避けろ、フレアをだせ!
《Flares away, flares away!》
フレア散布!フレア散布!
《ホークよりガルーダ2。チャフを撒いてスライスバックで交わせ、雲の後ろから二の矢が来ているぞ。》
《What's!? Copy that!》
何っ!?了解です!
どうやらガルーダ1、2共に「二の矢」には気づいていなかったようで、驚いたガルーダ2の機体が俊敏な動きを見せた。機体を右下方に130度ロール旋回(前後の軸に対して回転。ローリングで弾くんだ!)しながら操縦桿を引き、先ほどとは反対方向へと頭を向けた。アフターバーナーを焚いて、フレアを出しながら回避機動を行っている。先ほどホークが言った、スライスバックというマニューバだ。高度を失う代わり、重力加速度を利用して飛行速度を向上させる戦闘機動である。
180度旋回して北に向き、敵機が放ったミサイルのロックを外したようだ。再び水平飛行に戻るが、それを見ていたホークは油断していない。これほどの腕を持った仮想敵が、休ませてくれるとは思えないからだ。恐らくは、既にガルーダ2の後ろ、超近距離につけていると推測している。
《ガルーダ2後方にある雲のレーダー反応がやや動いた。ガルーダ1、見えるか。》
《Copy...Garuda2, Bandit your 6 O'clock slightly high 1 mile! Bandit is on you!!》
了解...ガルーダ2、敵はお前の6時方向やや高め1マイルだ!上にいるぞ!!
ホークが雲の動きに気づき、ガルーダ1が発見したのか、そう叫んだ瞬間だった。直進していたガルーダ1の前方から一機の戦闘機がフレアとジャマーを焚きながら接近し、雲海を背後に交差する。現れたのは、ガルーダ隊と同じくF-15。この距離では形式までは読み取れないが、機体性能と先ほどまでの飛行テクニックを総合すると、格上の相手と推測できる。
もちろんガルーダはそれを承知しているものの、撤退の二文字は存在しない。2つの機体が90度のバンクを行いながら背を向けあって100mの距離ですれ違い、ゴングが鳴らされた。ガルーダ隊は仮想敵である戦闘機を相手に、超近接空域でドッグファイトを挑むことになる。
単に2つの機体が交差しただけだというのに、その光景をガルーダ1の斜め後ろから見ていたハクにとっては、息を呑むほどの美しさだった。牙を向き噛みつけば、人間どころか戦車やドラゴンの命ですら刈り取る幾何学的な兵器だというのに、その姿を美しいと感じるのだから不思議なものである。
その一方、竜人である彼女が初めて見る、文字通り犬の噛み合いだ。さて、どんな感想に仕上がるのやらとホークは考え、ガルーダ隊に続いて交戦開始を宣言するのであった。
《Garuda1, merge hostile Eagle. Bandit switched, Garuda1, engage!》
ガルーダ1接敵、飛行機はイーグルだ。敵がターゲットを(こちらに)変えた、ガルーダ1、交戦!
《Garuda2, engage!》
ガルーダ2、エンゲージ!
《Hakw1, engage.》
ホーク1、交戦。
「っ、物凄い急旋回……!」
先程から中距離ミサイルで打ち合ってはいるものの、彼等にとっての空対空戦闘は今からが本番である。それを示すEngage.という交戦開始合図は、ドッグファイトが始まった時に用いるのがAoAでの暗黙のルールになっており、3人はそれに従っていた。
ガルーダ1は素早く旋回を始め、反対方向へと駆け抜けていったF-15Cを追いかける。旋回の際にアフターバーナーを全開にしている点が、なんともAoAらしい光景だ。
アフターバーナーを焚き、音速を超えながらの急旋回となると、並みのエース級だろうと気絶するレベルのGがパイロットを蝕んでいるはずなのだが、超エース級の連中はものともしない。さも当然のように持ちこたえ、無線から吐息を漏らすことなく超音速領域へと加速していく。ホークと同じ旋回半径だというのに加速度は6-7割増しである現状が、格の差を物語っていた。
「ハク、すまんがあの旋回は無理がある。今後は至近距離まで接近できないが、目の前にあるレーダーに表示される敵とガルーダ隊の機影で判断してくれ。」
「問題ございません、この距離なら視認可能です。それでも先ほどの二の矢は見えませんでした、流石ですマスター。」
予想外の返答に「何言ってんだ」と思いかけたホークだが、彼女の発言を信用しているので受け入れた。バックミラーで見る視線からして、本当に見えているのだろう。
ちなみに彼女が先ほどの二の矢を視認できなかったのは、こちらから見えていた時間がコンマ数秒もないためである。雲の境目に紛れていたためガルーダ隊やイーグルアイをもってすら気づかなかったのだが、そのレベルにすら気づくのがホークの強みだ。
ところでドッグファイトといえば上空でクルクルと低速のままケツの取り合いを行う行為を指すのだが、某フライトシューティングコンバットゲームだと趣旨が異なる。その出身である彼らも例外ではなく、交戦時間の8割以上を音速以上の領域で過ごすことになるのだ。仮に音よりも遅くなるとすれば、低空で行う180度以上の旋回の時ぐらいだろう。
レーダー上でも3つの機影の移動速度が明らかに速くなっており、ネズミの如くチョコマカと動き回っている。音速を超えた領域から次々と高難易度のマニューバが繰り出され、見ているだけでも内臓が裏返りそうな光景が繰り広げられている。
すると、真ん中の位置に居た機影が180度旋回した。仮想敵であるF15-Cは狙いをガルーダ2からガルーダ1に変えたようであり、ターゲットにされた本人もそれを認識している。ガルーダ1が囮になるようでガルーダ2も急旋回して戻ってきており、追いかけっこをしている2機の後ろにつけた。
《Garuda2, breaking away! In pursuit!!》
ガルーダ2ブレイクしろ!捻り込め!!
《Stay on him! Air speed 1800, going for two AIM-9Xs lock!》
食らい付いた!対気速度1800、2発のAIM-9Xをロックする!
王道だが、一番確実な攻撃方法だ。囮となる役が引き付ける能力を持っており、攻撃側がしっかりと標的を捉える基礎的な能力が必要となる。そのような芸当を、超音速領域から機体を捻りこんで行えるのもガルーダ隊がエース故、だ。並みのパイロットならば、その時点で既に気絶している。
パイロットそのものの身体能力、機体を操る飛行技術、そして状況把握。持てる全てを駆使し、ガルーダ2は仮想敵のF-15Cを追いかけている。恐らくはそれらの点も含めたテストなのだろうが、判定は仮想敵であるF-15Cパイロットが行うのが演習である。
《Garuda2, Fox2, Fox2!》
ガルーダ2、発射!発射!
「ガルーダ隊がミサイルを発射しました!」
「……よく見えるな。」
雲の中からのミサイル発射だったためレーダー上には反応がないのだが、ハクが反応できたということは600m先のミサイル発射を目視で来ていたということだ。思わずホークも呆れかけてしまう内容であり、地球に居た原住民もこんな感じなんだろうなと変な妄想に入っている。
セオリー通りとはいえ至近距離に滑り込んだガルーダ2は、F-15Cの後方から2発のAIM-9X短距離空対空ミサイルを発射している。ただ発射するだけではなく、相手の飛行先に向けて射出する偏差攻撃が決まっており、かなり有効な攻撃だ。流石に危険と感じたのか、F-15Cはガルーダ1への追跡を諦めて回避機動に入ることになるだろう。実際にも放たれたミサイルを避けつつ、ガルーダ2の連続攻撃を許さないよう計画的に飛行している。
《Hawk1, Fox3, Fox3.》
そしてその2発を回避するか否かのタイミングで、ホークがAIM-120Dを2発、別々のタイミングで発射する。仮想敵への命中もさることながら、「先程ガルーダ2が放ったAIM-9Xを回避しつつ、ガルーダ1を追いかける」という飛行ルートを確実に潰す攻撃だ。
手練れであるF-15Cのパイロットもその狙いを瞬時に理解するも、手立てがない。ホークが行った攻撃は避けることならば容易いのだが、自分の予定していた最良の飛行ルートを潰されるという、パイロットのメンタルや今後の攻撃予定にとっては厄介な攻撃だ。
現に攻撃を受けた仮想敵のパイロットも軽く舌打ちしており、追跡を諦め素直に回避行動をとる。ホークの支援を受けてガルーダ1は旋回すると、2番機の後ろからF-15Cの追跡に入った。
レーダー上ではガルーダ2が機体の捻りこみを辞めて比較的安定した飛行に戻っている。ガルーダ2もミサイルだけではなく、チャンスがあれば機銃にて攻撃する構えで居るようだ。
しかし、仮想敵のF-15Cは絶対に機銃の射線上には出ていないだろう。いまだ戦闘が終わっていないとなると先ほどのミサイルは回避され、そういうことが起こっているのだ。事実ホークもガルーダ隊の邪魔にならないよう仮想敵に攻撃を仕掛けているのだが、ミサイルも当たらない上に絶対に機銃の射線上には出てこない。
何度も交差するものの、状況は変わらない。ガルーダ2が追いついてきたこともあり、彼はヒットアンドウェイを行うために距離をとった。すると仮想敵はターゲットをホークに変え、正面から突撃してきたのである。
《Hawk1, Fox2.》
仮想敵のF-15はホークのF-14とヘッドオンしており、互いに発射したAIM-9Xを互いにバレルロールで回避する体勢に入る。
ガルーダ隊も全面攻勢といわんばかりに仮想敵の後方からAIM-9Xを同時発射し、3機のF-15+ミサイル2発が、ホークと交差した瞬間。彼は仮想敵を横目で見た一瞬、無線に向かい声を荒げる。
《急な右ロールで下に潜るぞ!避けろガルーダ!!》
「えっ!?」
《What's!!?》
《Breaking away Garuda2! Break, break!!》
直ぐに避けろガルーダ2!回避、回避!!
ホークが叫んだ瞬間に目の前でF-15Cが繰り出したマニューバ(戦闘機動)は、桁外れた物だった。そのためガルーダ隊は後方下方からのロックオンを恐れ、急降下で超音速に達してミサイル回避に備えることとなった。
恐らくガルーダ隊からすれば、前方のF-15Cが一瞬で消え去っているだろう。ガルーダ隊に緊急回避を行わせたF-15Cのマニューバは、8492のエース級基準でも常識を超えていた。
マッハ2.0オーバーからそんな桁外れた機動を行え耐えられるパイロットは、AoAにおいても片手で数えることができる程度だった。
なんとなく仮想敵の動きからパイロットを判断しかけていたホークだが、ロールの瞬間に一瞬だけフェイントを入れる癖と合わせれば間違いないと判断する。今回の演習相手である仮想敵、F-15Cのパイロットはガルム0だと確信していた。
AoAにおいて、戦闘機パイロット達で作られるピラミッドの頂点に立ち続けている人物である。ガルーダ隊もAoAでは超エース級であり上位クラスの飛行隊だが、それすらも子ども扱いするのが、ガルム0というジョーカー的な存在だ。
そんな彼のマニューバを見て驚いているハクだが、何故ホークが見破れたのか不思議で仕方ない。ホーク自身もスライスバックで回避しようとするも、僅か2秒で反転した仮想敵に撃墜判定を貰ってしまい、脚を下ろして低空を飛行していた。
「ま、マスター、なぜ今の凄まじい機動を判断できたのですか……?」
「交戦開始後から、先ほどのような機動を行う瞬間に一瞬だけ補助翼(主翼先端の後部にあり上下に動く部分)と昇降舵(機体後部エンジン横にあり上下に動く部分)を動かしてフェイントを入れる癖が数度見られていた。そして先程も昇降舵が動いたのが、あの状況から左方向にロール旋回を止めればガルーダ隊のAIM-9Xが直撃する可能性が非常に高い。」
「右と左で、そこまで違うものなのでしょうか?」
「ああ。ミサイルを回避するには低空側へと加速しながら降りて行き、低空領域でミサイルの燃料を枯渇させることが王道だ。先ほどの状況では、仮想敵は右に30度ほどバンクしていた。ガルーダ隊が発射したミサイルの進入角度からしても、左側に旋回することはありえない。とはいえ、逃げているのが最新鋭の次世代機なら話は変わるだろう。」
長々と説明する彼だが、当時の状況を時間にすると1秒もない。離陸前にディムースが言っていたことを思い出した彼女は、言葉の真意を理解した。優れた動体視力を持つ彼女自身が知識を持っても、今のホークのような推察はできないだろうと納得する。あの一瞬で相手の行動を全て理解できるなど、到底人間業ではない。
たった数回の接近から桁外れた分析能力を披露する一方で、彼はあっさりと撃墜されてしまっている。ガルーダとホークが行った回避機動も超エース級の平均的な相手ならば通用したが、仮想敵が行った内容が、その遥か上を行っていたことが原因だ。
その仮想敵が行った戦闘機動は、機体後方に2つ並んだ状態で設置されている強力なエンジンの推力を極端に変更。左側を最大かつ、右側をアイドリングに。その状態で右にロールしつつ、右ラダー(垂直尾翼後部にある左右に動く方向舵)用のペダルを目一杯蹴って機体を捻り込み、一瞬のうちに急降下したのである。
2つ並んだエンジンの出力バランスを崩して左だけ出力を強くすれば、勝手に右旋回を始めてしまう。翼の可変により発生可能な最大限の旋回速度に、更にエンジン推力による旋回力を加えつけたのだ。
出来上がったのは、コンマ数秒にして機体を相手の下方に滑り込ませ反転してしまうマニューバだ。そこから更に反転してガルーダ隊の後方下方に機体を滑り込ませてしまったのだが、通常は低速域から行われる技である。
しかし、今回は違う。マッハ2.2でガルーダ隊から逃げている、まさにその最中に行われたのだ。先ほどガルーダが行った急旋回ですら比較にならず、超エース級のパイロットですら大半が一瞬で失神してしまう程の急制動だ。流石のガルーダ隊も『まさか』と思っていたようで、明らかに動揺している。
その気持ちを引きずったまま彼に勝てるはずも無く、演習は敗北で終了。イエロー中隊側も撃墜判定をもらったようであり、こちらの組は惨敗の結果となってしまった。
現在の演習でガルムが乗っている機体にカラーリングはされておらずノーマル機と見分けが付かないのだが、予備の機体を持ち出していたのだろう。東へ向け旋回したホークに3機のイーグルが追い付き、編隊で飛行を開始した。
《演習ご苦労だが仮想敵のF-15C、中身はガルムだろう。お前が上がるとは珍しいな。》
《むっ。流石総帥、よく中身が俺だとわかったな。》
《あんな気持ち悪い変態機動ができるのはお前とメビウス、頑張ってグリフィスやネメシスぐらいのものじゃないか。ロール直前のフェイントの癖、まだ完全に直ってないぞ。》
《おや、本当か?直したつもりだったのだが、ホークが言うなら間違いな。》
《どういう理屈だ。》
《それだけ信用してるってことだよ。ガルーダだってホークの助言を受け入れてただろ、そういうことだ。》
《右の主翼が千切れ飛んでるぞ。》
《嘘だろ!?》
冗談だ。と、ホークは間髪入れずに返答する。彼なりの照れ隠し的なジョークだったのだが、その手の話に神話の多いF-15では意外と洒落にならない内容だったりする。
よくよく考えると警告音も鳴っていない状況であり、ガルムは一度溜息をついた。
《まぁ、なんだ。ともかくせっかくお客さんがいるんだ、是非とも8492空軍の飛行機動を見て欲しいと思ってね。》
《8492飛行隊の全てが、あのような急制動をできると思われたら困るから辞めてくれ。少なくとも私は無理だ。》
《……確かにそうだな、すまなかった。ところで総帥の助言を信じたのは正解だガルーダ、良い対応だったぞ。後ろから送り狼で放ったミサイルを見抜いたホークも流石だ、AIM-120での支援攻撃も素晴らしい。双方とも、今回の試験は合格だ。》
《教育に感謝、次もあれば頼む。》
《Thank you, sir.》
3人はそう答えると編隊を解除し、無言でそれぞれの基地へと進路を取る。誰の言葉も無く完璧に行われた離脱タイミングを見て先程の会話を思い返し、彼女は無意識に悲しい表情を見せるのであった。
グッとガッツポーズしたら3機を落としているようなガルムはさておき、ホークも追いミサイルに気づいたりガルムを完全に邪魔したりするなど、少しだけ報いた攻撃を行えました。
エスコンでもマルチをやっていると時たま見られる一撃ですが、これが一番厄介で焦っちゃうんですよね。
そして、なんだか彼女のメンタルが怪しくなってきました。
ものすごーくシリアス路線に進みそうな気配がしているのですが、書きたいことを書いて行こうと思います。
お陰様で多数のブックマーク、評価を頂き、本当にありがたい限りです。
今後ともご愛読の程、よろしくお願いいたします。




