4話 雲上の駆け引き
本文中の状況確認のところにある英会話ですが、略語多様によりルビを振ると読みづらかったので、英語と日本語の2行にしてあります。
【視点:3人称】
ホークは先に離陸したイエロー飛行中隊とガルーダ隊に追いつき、2編隊の左側を飛行する。彼が右側を飛ぶ編隊に敬礼すると、キャノピー越しに全員が敬礼で返していた。今回の教育対象となる機体は、全部で8機の戦闘機となる。
ガルーダ隊はF-15Eが2機、イエロー飛行中隊はSu-37が5機で構成される、どちらも超エース級の飛行隊だ。特にイエロー飛行中隊1番機であるイエロー13は凄まじく、グリフィス1とタメを張れるぐらいの腕前を持っている。
《イエローより各機、予定地点だ。右旋回して方位0-8-0へ向かうぞ。》
《了解、隊長。総帥とガルーダの左方に就く。》
8機は編隊を組んで、東へと飛行を続けている。演習空域の天候は曇りと言った具合で、飛行高度全域にわたって白い雲が多く発生している。敵にとっては隠れやすい状況が揃っており、AWACSが味方に居るとはいえ、ややホーク達が不利な状況だ。
時折聞こえてきた無線を聞くに、今回の空中管制機はイーグルアイだ。もちろん彼も教育対象であり、全力で仮想敵を探すことになる。
ちなみに8492に居るAWACSは、2名のプレイヤーが担当している。低く渋い声で時折感情をあらわにするのがゴーストアイ、淡々と作戦内容を指示して滅多に感情を現さないのがイーグルアイという住み分けだ。
《こちら空中管制機イーグルアイ、ガルーダ隊へ。作戦空域周辺のデータを転送した、確認せよ。》
《Copy that. This is Garuda1, 2 groups, group BRAA, 1-9-6, 32mile, 28000, CAP, Hostile. Group BRAA, 0-1-0, 35mile, 27000, CAP, Hostile.》
了解。こちらガルーダ1、ターゲットは二つのグループ、一つは方位1-9-6、32マイル、28,000フィート、パトロール中の敵。もう一つのグループは方角0-1-0、35マイル、27,000フィート、パトロール中、敵だ。
《This is Garuda2, group bullseye 1-0-6, 31mile, 27000. Wait, south group maneuver.》
こちらガルーダ2。南のグループはブルズアイから方位1-0-6、31マイル、27000フィートだ。ちょっと待て、南のグループが動いた。
《イエローよりガルーダ。我々は北の2機を相手する、南の一機は任せたぞ。》
《こちらホーク、ガルーダ隊を支援する。》
《Garuda1, copy.》
BRAAは特定の航空機、この場合はガルーダ隊を基準とした方位。Bullseyeは、基準地点からの方位を示す単語である。例えば無線内容が「佐渡島(仮名)から方位1-0-0、距離30マイル」だと該当無線を傍受された場合に一発で位置がバレてしまうため、事前に決めた位置を基準にして判定する方法である。CAPはCombat air patrolの略語で空中戦闘哨戒であり、戦闘を目的とした敵であるという意味だ。
5機編隊であるイエローは、北に居る2機編隊の敵を相手するようだ。必然的にガルーダ隊とホークは3vs1の状況になり、南側の仮想敵を相手することとなる。ホークは状況をハクに説明しているが、彼女はまるで人見知りが激しくなってしまったような反応をしている。一方の彼はそんな反応を気にしていないのか、淡々と説明を続けるのであった。
《ホークよりイエロー、北のグループが高度を変更した。高度6000mと7000mの高度差をとりながら、高速でこちらに向かってきている。》
《イエロー了解。各機、5機で相手するぞ、単独で飛行するな。》
《4、了解。》
《イーグルアイより各機、南の敵は高度8500mだったがロストした。ジャマーを使い、雲との境目を巧く飛んでいる。相当な腕だ、警戒せよ。》
より一層引き締まったホークの声が聞こえると周囲のパイロットの声まで釣られて締まっているのだが、全員が同じ状況であるため、気づいているのはハクだけである。
ガルーダ隊とホークは、バンクして南の方向へと旋回していく。旋回終了後はアフターバーナーを焚いて、低い雲が流れる領域から更に急上昇を開始した。
《Is not easy.》
「っ!この高さから、あの勢いでさらに上昇……!?」
彼女は思わず呟くも、ハっとして酸素マスクの上から手で押さえた。ハイレートクライムと呼ばれる上昇方法で上昇角度は90度に肉薄しており、ホークでは追跡できない角度である。
とは言っても彼も戦闘機乗りであるうえに、その腕前は準エース級。70度後半のクライムで、ガルーダ隊を追いかけていた。古代神龍といえど、この領域の動きは未経験の様子である。
F-15EとF-14Sではエンジンが違いF-15Eの方が数世代先のエンジンであるため、装備改修の差もあって上昇スピードは雲泥の差となっている。2機のF-15Eは距離をとると、高高度にある雲の中に消えていった。
恐らく彼等2機が前線に出張るのだろうが、F-14は近接戦闘向きではないのでこの判断も妥当である。そのことを無線交信で確認していないのだが、ガルーダ隊は経験ゆえに判断し、ホークは頭に蓄えた膨大な過去の戦闘レポートから、ガルーダ隊がそのようなことを行っているのだろうと判断しているのである。
《9000...10000...11000. Fight's on, fight's on.》
ガルーダ隊は高度11,000mで南側の敵と交戦体制に入ったようで、微かに見える2機の機動が機敏になっていた。敵機との距離を詰めつつミサイルを撃ち合い、けん制されながら進んでいく。彼が追いかけて数分すると、少しずつガルーダ隊が見えてきた。
2機が直線飛行を行っていなかったために距離を詰めることに成功したのだが、2機は編隊を組みつつ右に左に機体を捻り、敵のロックを躱しながら接近しているようだ。衝突するのではないかと見間違うほどに2機の機影は接近しており、それを見たハクは、思わず何度か声を上げてしまう。
《This is Garuda1, spiked notch. Tense up, north group turning hot.》
《Garuda2, copy. I'm lock on enemy. South group maneuver.》
「マスター、ガルーダ隊は機体を左右に動かしながら前進しているようです。」
そんなガルーダ隊の機動を彼女も見抜いたようで、今まで黙ってはいたものの、状況報告を兼ねた言葉をホークに投げる。おそらく本心は状況説明を求めているだろうと予想した彼は、今の2機がどのような状態にあるかを説明した。
「今のガルーダ隊は上下左右に機体を動かし、雲の中と外を使っている。南にいる敵がガルーダ隊に照準を合わせてきており、それを回避しながら接近している状況だ。」
「ミサイル……講義で習いました、戦闘機が放つ投擲物ですね。」
相変わらず普段とは違う口調と気配に、彼女も戦闘さながらの気迫で応対している。張り詰めた空気だと言うのに心地良さそうな表情を見せるのは、彼女もまたエース故なのだろう。このような空気を、自分の居場所と感じているのだ。
「そうだ、今は互いに中距離ミサイルの射程圏内に居る。このミサイルは追尾可能な距離も長い、撃たれないに越したことは無い代物だ。」
「中距離とのことですが、私が知る尺度では全く足りないほどの距離でしょう。それにしては、単調な回避機動が続いているだけで互いに動きがないように見受けられます。」
「良い着眼点だ。理由としては、お互いにエース級である事が挙げられる。ハク達の戦いでも腕が似通っている場合は永遠に決着しないと思うが、それと似た状況かね。」
「なるほど、仰る通りです。」
「奴等は時たま数時間も戦っていることがあるからな、私程度のレベルでは考えられん。」
《Garuda2, reference upper side, reference upper side.》
最後は呆れながらホークがそんなことを会話していたらフラグになったようで、ガルーダ1が編隊を解除して更に高度を上げた。同時にガルーダ2は高度を下げて雲の中に逃げ込み、姿をくらませる。
《This is Garuda2, spiked 170 close! AWACS, can you see!?》
《ネガティブ、距離は近すぎて測定できない。目視距離に入るぞ、警戒せよ。》
しかし仮想敵を撒くには不足していたようで、近距離からレーダー照射を受けたらしい。AWACSが距離を測れないとなると超近距離にまで接近されているのだが、仮想敵は雲やフレアをうまく使って飛行している。8492のAWACSも並の腕ではなく優れた眼を持っているのだが、その眼を誤魔化しているとなると今回の仮想敵は相当の腕前だ。
同様の事をホークも理解しており、脳内で状況を整理する。今度は彼自身から、彼女へ説明を行った。
「ガルーダ隊と仮想敵が近距離にまで接近しており、空中管制機が識別不可能な距離まで敵に接近されている。ハク、そろそろ近接戦闘が始まるぞ。」
「なっ……あれほどまでの超遠距離武器を備えているというのに、接近されているのですか?」
「互いに超遠距離武器を持ち、それへの妨害手段を持っている。故に手練れ同士の戦いでは、最終的には互いの腕だけが信用できる領域での戦いになる。」
「なるほど……お互いに最強の弓矢と、それに対抗する盾を持って近づいているのですね。でしたら最後は、接近戦になるのも致し方ありません。」
理解が速くて助かります。と言わんばかりに、彼は一度目を閉じた。
ミサイルとジャマー・フレアを弓と盾と表現したが、なるほどその例えは分かりやすいと関心もする。盾みたいに直接ブロックするわけではないが、似たようなものだろう。
事態が動いたのは、彼が目を開けた瞬間だった。
調子に乗って英会話を出しましたがスペルミス、文法ミスが心配……!
何かありましたら遠慮なくご指摘頂ければと思います。




