1話 Advanced
第3章スタートは戦闘機のお話です。
8492が所有する戦闘機事情と、エース達の強さの説明も少し入っています。
最近シリアス気味なのでホーク視点で……
【視点:ホーク】
朝が来たが、寒いせいか日の出と共に起きてしまった。ガルムとメビウスが木から落ちて1週間が経過しており、徐々に朝が冷えてきている。こうなるとより一層布団が恋しくなるが、仕事が有る以上はそんなことも言っていられないため、勢いを付けて飛び起きた。
さて、今日も1日がんばるぞい。
「失礼します。」
「おはようハク、後ろ向きですまんな。」
「おはようございますマスター、書類が届いております。現場が立て込んでいたようでして、預かってまいりました。」
「あら、珍しいな。ありがとう、机に置いといて。」
着替えて六時ごろから仕事を始めるも、例によって1時間ほどで終了。ハクと一緒に朝食に行くまでは未だ少し時間があるので、お茶を炒れようと準備していたら彼女が来た。総帥である自分の下には毎日20-30枚ほどの書類が届くのだが、朝一以外で書類が届くことは稀である。
大抵は『緊急』か『どうしてもお伝えしたかった』的な書類であるけど、今回は緊急性はないかな?その場合は、書類が来る前に電話がかかってくることがほとんどだ。あと緊急書類が来る場合の酷い時は、緊急指令の出撃命令も出ているからね。
そう考えていると、彼女の視線がこちらを向いている。正確には、自分の手元だ。
『なんだその茶袋は、食い物か。』そう言わんばかりだ。からかいたい好奇心が顔を出すが言ったら後が怖いので、こちらからは黙っていよう。
「お持ちになっている容器からの判断ですが、お茶……でございますか?」
……色々とハショってストレートに聞いてきたな。別に良いんだけれど。
現在自分が手に持っているモノとしては、葉書サイズの茶袋だ。この中には、炒った蕎麦の実が入っている。
「そうそう、蕎麦茶って言うんだ。最近冷えてきたから、時期的にも丁度良くてね。効能としては、多少の肥満防止と血圧安定だね。」
「むっ、それは聞き捨てならない効能ですね。」
あれ、そこ拾ってくるの?いうてあなた、肥満の『ひ』の字なんて元素レベルで無いのですが……。
あれか、俗にいう乙女心ってやつですかね。小数点以下の確率で血圧の可能性もあるし、このキャッチボールを続けるのはやめておこうか。
自分の分を淹れた後だったので、ハクの分を淹れてあげて湯飲みを手渡す。彼女は少し香りを楽しんだ後、湯飲みを啜った。聞こえるかどうかの微妙な音量の啜り具合が、実に彼女らしい。一口飲んで、ホッとした表情を見せている。
「優しい香りですが……マスター。私がお茶を頂くところをご覧になるよりも、書類を優先した方が宜しいのでは。」
ハッ、いかんいかん。そうだった、頭から消えていた。
急いで封を開き、内容を確認する。その中身は、タイトルを読んだだけで疑問符が生まれるものだった。
「えっ、アーサー隊の半分がF-15Cに機種転換?」
書かれていたのは、第02航空師団に居るアーサー飛行隊の半数が機種転換を行うという内容だった。タイトルを見て驚いてしまったが、別に機種転換そのものが原因ではない。
現状のアーサー飛行隊隊はF-22A戦闘機20機から構成される大隊だ。そこからF-15Cに機種転換となると、わざわざ古い機種に乗り換えることとなってしまう。
自動車だとミニバンから軽に乗り換える場合などを指し示す『ダウンサイジング』という言葉があるが、これは戦闘機には当てはまらない。唯一例外があるとすれば、短発エンジンで小型のF-16ぐらいか。
そして機体はAoA仕様のため、燃料に関しては心配が不要である。旋回性能等の兼ね合いで小型の機種に乗り換えることもあるだろうが、F-22からF-15では該当しない。
正直、ガルムやガルーダのような『趣味』やお金に不自由があるワケでもない限り、今更F-15を選択する理由は無い。そう思って書類を読んでいくと、計画の全貌が明らかになった。
「なお、改修点として全機にF-15Cのメーカー製アップグレードパッケージ……ああ、2040Cか。」
「?」
F-15C(2040C)とは、古い機体を末永く大切に……ではなく、第四世代戦闘機であるF-15Cに大幅な近代化回収を施し、20年後まで通用できるようにした機体だ。F-15が運用開始されたのは意外と古く、なんと初期型がロールアウトしたのは1972年と40年以上前となる。乗り換え先のC型(初期型の発展型)ですら、登場から既に40年が経過した機種だ。
40年も経てばミサイルの性能向上、電子機器の性能向上も目覚ましい。最新鋭機F-35では真下や真後ろの敵までロックオン可能という、なんともSFチックな世界に突入している。
このシステムは、電子光学分散開口システム「AN/AAQ-37 EO DAS」、通称DASと呼ばれている。各戦闘兵器の運用がフレキシブルに行えるため実用度が非常に高く、先程の運用も何度か行ったことがある。特に、多目標が相手の場合に有効だ。
8492の機体には全て取り付けており、これにより全パイロットはバイザー内に様々な情報を投映するAR HMDを装着している。例えば戦闘機がロックオンした目標に、護衛艦やグローバルホークがミサイルを発射することもできる。逆の場合や、ヘリコプターからの攻撃も然りだ。
そんなことが可能になった影響か、最近はミサイルキャリアー戦闘機なんて言葉も出てきている。ミサイルキャリアー担当の戦闘機は、10発以上のミサイルを携帯・発射することができる。携帯数と引き換えにステルス性が保持できないないため、ミサイルを撃つ機体は敵の防空区域外に留まることになる。目標へのロックは、ステルス機や無人機が行うというわけだ。
ともかく、『パワーのある大型機だが特徴的な性能が無いため、何か明確な役割を与えなければならない』となったのが2040Cのコンセプトと言っても過言ではないだろう。改修内容を読み取るに、メーカーのそんな意図が見える。改修範囲は多くに及び、大きな点としてはコクピットを含めた電子機器が最新鋭戦闘機F-35シリーズと同じ物になっている点だ。もちろん燃料タンクやエンジンも改修されている。
ハイレベルな器用貧乏となってしまった機体に与えられたのは『ミサイルキャリアー』である。巨大なエンジンで推進力の高い機体と大きな主翼下部は、ミサイルの増備にピッタリ。お蔭さまでAoAに出てくるF-15Cの2040Cアップグレードパッケージは、空対空ミサイルならば20発連続発射可能というB級映画もビックリな仕様に仕上がっている。
もたらされる結果は、瞬間火力の底上げだ。いくらF-22やAoA仕様の機体がミサイルを数十発も積める上にシステムによる『リロード』が可能とはいえ、同時(連続)発射ができるわけではない。
実際問題はガルムとメビウスの2機を筆頭に超級のエース部隊が大暴れしてくれていたために瞬間的な手数も必要なく、本格的なミサイルキャリアー戦闘機は自分たちの軍隊も所持していない。そのため、不特定多数による大規模な飽和攻撃に対しては、比較的弱いのが現状だ。勝つことには勝てるだろうが、時間がかかってしまう。
MPGMを搭載できるガルムやADMMを選択したメビウス同様、現在不足している飽和攻撃能力向上のために、アーサー隊はF-15C(2040C)の運用を決めたということだ。軍全体を考えてくれているということで、嬉しい話である。もちろん拒否する理由は無いので、ゴーサインだ。なんだかんだでステルス機だらけな8492には、オンリーワンな存在となるだろう。
アーサー11~15が空対空中ミサイルであるAIM-120Dをフル搭載し、16~20は4発のAIM-120Dの他に、AGM-65Kマーベリック空対地ミサイル6発を搭載することとなった。空対空戦闘用のC型なのにAGM-65を搭載、射出できるのは魔改造機の証でもある。ロックオンを他機に任せる必要があるものの射出に関してはパイロット一人で容易に行えるため、キャリアーとしての役目も十分だ。
……と、いう内容をハクに説明しても真顔でクエスチョンマークを出したまま動かないだけだろうから、噛砕いて説明する必要がある。毎度のことだけれど、知らない人に説明するのは難しい。
「噛砕いて言うと、力は有るんだけど古くなってきた機体を改修して戦場で明確な役割を持たせる、って感じかな。その役割は最新鋭装備じゃないと務まらないから、その点の装備改修は行うって感じだね。」
「なるほど。その役割が必然でしたら、新旧の壁はありませんね。老いたゆえにお役御免ではなく、第一線で役目を与え立たせる采配、素晴らしいと思います。」
難題クリア!なんだか褒められたけど、別に何もしてないんだが……まぁいいか。
ところで第01航空師団のガルム0が乗っているのもF-15C、更に2040Cの改修は行われていないのだが、この組み合わせだけは例外だ。色々と常識に当てはまらない。
機体が古いのに何故強いかと聞かれると答えは単純だ。パイロットの腕でもって、魔改造が施されたF-15Cの性能を100%出し切っているのである。おかげでミサイルは避けるわCIWSすらロックオン速度が追い付かないわマクミランですら偏差射撃でコクピットを打ち抜けないわなど、様々なプロフェッショナルのプライドをヘシ折っている経歴を持つ。
個人的に、一番最後の件に関しては、ガルム以外が相手でも無理だろうと思うのだが……どうも、そういうわけではないらしいとはサタン1の体験談。モリゾーコワイ。
そんなガルムやメビウスは時たま爆装し、対地攻撃や対船戦闘もこなしている。演習に付き合っていた味方船舶からの評価は、こうだ。演習時のアーレイバーグ級ミサイル駆逐艦いわく、『マッハ2.6でジャマーとフレアを撒きながら突っ込んできて、無誘導空対地爆弾を使用してワン・コンタクトで2~3隻沈めていく鬼畜コンビ』とのこと。
とはいえ、この点に関しては対処できないのも無理はない。ガルムやメビウスを筆頭に超エース級の連中が行っている攻撃方法は、防空兵器の設計段階から想定されてないのだ。
そんな言われようの彼が乗るF-15Cと2040Cは別物と言って良いほどで、後者は公式アップグレードで安全マージンも多い。しかし前者は、全てにおいて安全マージンが少ない改造となっている。その代わりに2040Cと比較して性能向上幅も大きいのだが、逆に言えば『そこまでやらないと付いていけない』ということになる。
メビウス専用に魔改造されたF-22はともかく、ガルム本人もF-15Cが持つ性能の限界には嫌という程気づいており、以前「そろそろガリ〇ーに下取り出さなきゃ」とか言っていたが、買い取ってくれるのだろうか。
……AoAトッププレイヤーが乗っていた機体だし、売るとしたらプレミアつくのかな?
ともかく、先日は実践的な試作機の飛行テストを行っていたぐらいだし、機種転換の日は近いのかもしれない。
ところで、アーサー隊の余ったF-22Aの使い道は……
「……オメガ11に、売却か。」
……なるほどね。Fox4に使用されないことを祈ろう。さ、メシだメシだ。
実際のF-15(2040C)のプロモーションムービーがYouTube(もしくはニコ動)にアップされています。
ボーイング社が作ったものでカッコいいので、是非ご覧ください!
自衛隊が導入するとかいう記事も出てましたが、ホントですかね?




