21話 是が非でも
駐屯基地に戻った3人のお話です
【視点:3人称】
西の帝国、西部警備翼竜隊の駐屯基地。九死に一生のトラブルを乗り越えて帰還した3人だが、翼竜は着陸すると体を地面に預けて動かなくなってしまった。息は荒く、未だに出血は止まっていない。
常備していたヒールポーションを使用すると傷口は塞がったが、体力は限界を超えており、回復までには時間がかかるだろう。消耗しているのは騎士3名も同じであり、先ほどの鳥を忘れて現実を処理していた。
翼竜のようにヒールポーションを使用して傷を塞ぐと水浴びを行い、血を落とす。その後は応急処置として傷だらけのランスと鎧を交換し、万が一の事態に備えた。
それぞれの装備を更新し、一度廊下に集合する。重い足を引きずりながら3人が休憩室に入ると、他の騎士が詰め寄ってきた。
質問攻めにあっている内容は、大きく分けて2つだ。なぜワイバーンが彼らを襲ったのかということと、どうやって撃墜したのかである。
後者に関しては、他の部隊から20匹以上のワイバーンと交戦中という内容が報告されていたため、3人が置かれていた状況は周知となっている。しかしそれはガルムとメビウスが来る前のことであり、そのときは他の部隊も居なかったため、真実を知るのは3人だけとなっていた。
「……いや、襲われた理由と生還できた理由はわからない。基地に近づくと、群れは反対方向に引き返していったんだ。」
その回答を行うエスパーダに、ロトとインディは首を縦に振る動作を行った。廊下で一度合流した際、理由をこのようにするということで決めていたのである。
理由は、鳥の情報は国家機密レベルで重要なためだ。そのためエスパーダは、帝国の中枢に直接情報を上げなければならないと認知している。相棒である翼竜の傷が治り次第、すぐに出発する予定だ。
3人は解放され、翼竜が駐留しているエリアへと歩いて行く。生還したというのに戦闘さながらの表情を戻していないエスパーダに、インディが言葉を投げた。
「いよいよ後戻りできなくなるぜ、本当に鳥ってことで良いんだな?」
「構わないわ。それにインディは、アレを説明する際に鳥以外の言葉が出るかしら?」
「いやまぁ、そうだけどよ……。」
「私も鳥だと思います。見たことの無い姿、攻撃力。特に最初の一撃です。ワイバーン40匹以上の群れを一撃で殲滅できる方法は、古代神龍クラスでなければ不可能でしょう。」
「そのとおりよ、ロト。私は確信を持って、鳥を視認したと報告できる。」
「そうか。ま、エスパーダが言うなら従うさ、俺達のリーダーだからな。」
その言葉に対してエスパーダが口を吊り上げると、インディとロトにも伝染する。3人は相棒の状態を確認すると部屋へと戻り、沈むように眠りに就いた。
===3日後===
帝国を名乗る程に発展している首都の上空に、3つの影が接近していた。高度1000mから徐々に高度を下げており、城の横にあるエリアへの着陸態勢に入っている。
その首都の一番高いエリアにあるのは、皇帝が構える大きな城だ。西洋風の城であり城の本体だけでもシルビア王国にあった物より3倍ほど大きく、整形された石による強固な作りとなっている。
「ままー、よくりゅうきしさまー!」
住宅上空を低速で飛行すると、眼下の子供達は手を振りいつまでも見上げている。どの世界にも子供受けする職業があるように、翼竜騎士とはそれほどまでに憧れの存在なのだ。
いつもならば愛想を返す3人なのだが、今回ばかりは表情にも余裕が無い。戦闘さながらの目つきで駐屯エリアに着陸すると、わき目も振らず城へと歩き出した。
=========
「皇帝陛下。西地区防衛の部隊より、翼竜騎士であるエスパーダ、インディ、ロトの3名が到着しました。」
ホークが感想を述べるとしたら「装飾煌く、だだっ広い」謁見の間で、厳格なコートを着込んだ初老の男性が声を張って報告する。場は静まり返っており声は良く響き、それを聞いた皇帝が立ち上がった。直後に3人は膝を付いて頭を垂れ、忠誠の姿勢を示した。
皇帝の年齢としては40後半なのだが、オールバックでフサフサな銀の髪の毛と体格のせいか若く見られる。皇帝ながら剣の鍛錬を欠かさず行っており翼竜にも乗れ、全身が筋肉質だ。180cmほどの身長と相まって、皇帝と言うよりは前線の兵と言う印象を受ける。
「うむ、よくぞ参った。面を上げよ。事情は聞いておる、今ここで話してくれ。」
「はっ、申し上げます。」
「む。すまん、その前に1つ。他の者は、何があっても静かにしているよう。」
「「「「「はっ。」」」」」
互いの用件は、事前に斥候が伝達済みだ。しかし戦士そのものの眼差しで見つめられ、歴戦の騎士であるエスパーダも、思わず空気に飲み込まれる。
しかし、もう後戻りができる状況ではない。彼女は軽く息を吸うと、凛とした表情で問いに答えた。
「3日前です。帝国領西部を飛行中に、20程のワイバーンに襲われました。」
「聞いておるが、それはお主等から仕掛けたのか?」
「いえ、突然でした。集団は怒り狂っていた様子で、我々を見かけた瞬間に襲い掛かってきた次第です。」
「そうか。その後を聞こう。」
「ハッ。撃退するために交戦を開始したのですが、その後は別のワイバーンが合流し……数は60近くだったと記憶しております。休み無い攻撃を受け翼竜は傷つき、正直に申しますと死を覚悟しました。」
そのタイミングで、彼女は軽く咳払いする。本来ならば無礼なことだが、ここからが本題だと合図したのだ。皇帝もそれを見抜き、表情がより一層険しくなる。
「その瞬間、後方やや距離の離れたところで巨大な爆発が発生しました。それはワイバーンの群れのうち後方に居た40ほどを飲み込み、その姿ごと一瞬で消し去ってしまいました。」
「なんと、ワイバーン40をか……?」
「はい、陛下。そして続けざまに飛来した発光物体は残りのワイバーンを撃墜し、直後に見慣れぬ飛行物体が我々の後方についたのです。」
「……うむ、それが……。」
会話の流れから察したのか、事情を知らなかった家臣の額に脂汗が滲んでいる。あえて会話にタメを作り場を張り詰めさせたエスパーダは、ゆっくりと口を開いた。
「―――それを見た感想は、見慣れぬ鉄の容姿、耳を劈く轟音。そして別れざまには、凄まじい加速力を見せていました。圧倒的な殲滅力と合わせれば、噂になっている『鳥』以外に考えられません。」
皇帝の鋭い目を凝視して、彼女は鳥だと言い切った。
「―――然り、我も同感だ。実は事の詳細を分析させていてな、古代神龍かと考えたのだがお主ならばドラゴンとの見分けはつくだろう。そうでなければ、噂になっている鳥以外に考え付かんのが結論だ。」
「ですが陛下、なぜ鳥がこの帝国の地に……あれは、シルビア王国のある大陸中央南部で目撃されているはずですが。」
「うむ、そこは我も疑問に思っていてな。得ている情報では、シルビア王国解放後は南へと消えていた。洋上に住まうのかとばかり思っていたが、まさか西の空に現れるとはな……。」
その発言を聞いて、エスパーダは肝心なことを言い忘れていたのを思い出す。全身の毛穴から冷や汗が噴出すものの、言わなければならずに口を開いた。
「へ、陛下、申し訳ございません。肝心なことが抜けておりました。」
「ん?なんだ、申してみよ。」
「そ、その鳥でございますが……亜人かエルフかまでは判別できませんでしたが、確かに人の姿を確認できました。」
「なんだと!!?」
皇帝の言いつけは破られ、全員がそこそこの音量で議論を始めてしまっている。しかしながら皇帝も報告に驚いており、咎める余裕もないようだ。
「そ、それは誠か!?」
「間違いございません。鳥が何であるかは想像もつきませんが、あの目は間違いなく人の類です。距離はありましたが、とても洗練された視線でした。」
「本当なのか、見間違いではないか」という騒音も聞こえてきており、静かにしているよう発言したことを思い出した皇帝は、再び周りの声を抑えた。
「いや、エスパーダの目は信用できる。故に信じよう。しかしそうなると、鳥とは翼竜の類なのであろうか?」
「騎乗……と言う意味では似たようなものかもしれません。しかしながら申し訳ありません、全く想像がつかないのが現状です。」
「仕方あるまい。あの勇者の国をわずか1時間で制圧し、その最中に邪人の飛行部隊を蹴散らしておるのだ。古代伝記をもってしても記述が無い上に、竜人の集団だろうと不可能だろうよ。」
「陛下、では……。」
「うむ。西方以外の事情が切迫している今、是非とも同盟を結ばねばならん。」
そう、8492と同盟を結ぶことが皇帝の目的である。あわよくば南の邪人と東のダンジョンをどうにかしてもらおうという魂胆なのだが、これも国民の平和を第一に考える故の思考だ。
このような決断ができるのも、国力のある帝国だからこそである。鳥に払う金もしくは物資の数量は計り知れなく一時的に貯蓄は目減りするだろうが、どこか1つの問題が片付けば、すぐにでも持ち返すだろう。
戦後の日本がアメリカに守られて国防費をインフラに使えたおかげで急成長できたように、軍事に対する投資は、武器の輸出でもしない限り国の成長を妨げる。
兵士の育成には多額の費用と金がかかり、消耗品の武器防具に関しても金と資材を浪費する。もちろん国防とは必須の事項であるため全てが悪い要素ではないのだが、国の成長に対しては天敵なのだ。
皇帝もその点は理解しているものの、昨今の情勢からして削るべき要素では無いと判断している。削る事は容易いが、削った金額以上のリスクを背負う羽目になるのは明白だ。
同時に、そんななかで突然と現れた鳥の存在を敵に回すことは、一番の失策であると考えている。そして鳥の存在が人である可能性が高まった以上、同盟を結ぶ意思は、より一層強固なものとなった。
「エスパーダ、及びその部隊に厳命する。引き続き西方で監視に当たり、鳥を発見した際には絶対に攻撃をしてはならん。是非とも意思疎通ができるよう、最優先に対処せよ。」
「「「ハッ。全てはエラルド皇帝のために!」」」
膝を突き頭を垂れ、再度忠誠を誓った3人は、凛とした背中を見せて謁見の広間を後にするのだった。
西の帝国の動きが決まったところで、第2章終了です。
皇帝は北の不可侵条約を信用しきっていないようですが、この動きが、後々の世界にどのような影響を与えるか。
難しいハイエルフの件も保留となっており、第3章ではホークを中心とした関係の変化を書こうと思っております。
(ちょっとだけ)かっこいい主人公の章になりそうです。主人公だし、少しぐらい許されるはず……!
今後も、ご愛読頂ければ幸いです。




