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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第2章 動き出す生活
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19話 噂との会合

【視点:3人称】


「このっ!しつこい!!」



3匹の翼竜が全身から血を流し、息を切らせながら飛行している。それに乗っているのは、西方にある帝国の騎士だ。


その帝国において翼竜騎士と呼ばれている彼女達3人は、ワイバーンの巣に赴き返り討ちにあったというわけではない。定時偵察任務でこの空域を飛んでいたところ、どこからともなくワイバーンの群れが現れ、次の瞬間には攻撃を放ってきたのだ。

全幅25m程の翼竜に比べてワイバーンは半分以下の10m程で攻撃力も低いのだが、そのぶん敏捷性は大いに高い。能力の高い3人の翼竜が出せる全速力が時速400kmであるのに対し、ワイバーンは固体にもよるが500km以上で連続飛行が可能と、WW2時代の戦闘機に匹敵する機動力となっている。


そのため翼竜に乗る3人はワイバーンを振り切れておらず、手負いのため速度も低下しており空中で数珠繋ぎの状態になっている。ワイバーンは翼竜への攻撃だけではなく騎士本体への攻撃も行っており、そのため彼女達の鎧はボロボロだ。内一人に至ってはランスを落としており鎧も砕かれ、布だけのみすぼらしい姿になってしまっている。

その赤髪の女性は防具が砕かれ落下してしまったため、彼女は他の2匹の間に挟まれ守られながら飛行している。そのため飛行速度も出せず、彼女は足手まといの状態だ。



「っ……二人とも、いざとなったら私に構わず」

「何言ってんすか、隊長が今まで相手してくれたからこそココまで来れたんですよ!」

「そのとおりです!駐屯基地まで……えーっとこの位置だと……あと80km!このまま逃げ切りましょう!!」

「インディ、ロト……」



弱気になる隊長に、部下である二人が渇を入れる。隊長である彼女もあのような発言を行ったものの、二人が決して見捨てないであろうことは理解していた。

しかし、彼女は気になっていた。単体同士ならば手こずらないワイバーンでも、この数となると話は別だ。野生ゆえに本能での連携も取れており、事実今現在も、群れは疲れを溜めない為に交代して攻撃してきている。


これが帝国の空に来れば、混乱は必須。乱戦となれば、少なからず味方の竜騎士にも被害が出るだろう。誇り高き自国である帝国に迷惑をかけることだけは避けたいと、何かできないかを考えていた。

その間にも二人の部下めがけてワイバーンが連続で攻撃を仕掛けてきており、防ぎきれなかった攻撃が二人の乗る翼竜に到達。無視できないほどの大きなダメージを与えており、機動力も低下している。



駐屯基地の安全を守るか、部下と言う名の仲間をとるか。頭と共に、腰まで伸びる燃えるような赤い髪を振るわせ悩みながら、彼女は決断を迫られる。後ろを振り返れば、後続に新たなワイバーンが合流しようとしていた。

あの集団まで合流された日には、攻撃の密度がさらに厚くなることは子供でも理解できる。しかしながらこちらの翼竜の体力は消耗する一方であり、騎士の魔力も底をついているためランスにて細やかな防衛を行うほかに道は無い。


ここまで自分達を庇い傷ついている隊長と呼ばれる人物を守るため、二人の騎士は必死だった。何か今すぐできることがないかと、思考をフル回転させて模索する。

前代未聞の異常が起こったのは、まさにその瞬間だった。



「な、なんだ!?」

「きゃあっ!」



後方から発生した骨に響くほどの衝撃と爆発音に驚いて振り返り、飛行を止め空中停止するワイバーン。騎士も思わず振り返り、何事かと確認する。とはいえ手負いの翼竜にはそのような余裕は無く、主を国に帰すために必死である。

爆風が襲い掛かるもバランスを崩したのはワイバーンだけであり、翼竜はその風を用して揚力を失いながらも加速しワイバーンとの距離を開いた。3匹も爆発が気にはなるものの、優先するべきは主の安全。責務に忠実なのである。



「な、なによ今の衝撃!」

「太陽でも爆発したってのか!?くそっ、まだ耳に響いてやがる……。」



一方のワイバーンと騎士が見たのは、太陽でも爆発したのかと見間違うほどの光景だ。後方に居たワイバーンの群れを一瞬で飲み込み、その7割を消し去ってしまったのである。彼等が知る一等級の魔術師でも、ここまでの攻撃魔法を発生させることは不可能だ。

そして生き残ったワイバーンは、浮いてはいるものの放心状態だ。たったの数秒で仲間のほとんどが消えてしまい、その残骸すら空中から消えている。自分達の真後ろで何が起こったのか、まったくもって理解できていない。



―――その思考も、直後に潰える事となる。これがADFX-01と呼ばれる戦闘機からの攻撃で、炸裂したのがMPBMと呼ばれる炸裂弾頭ミサイルであることを理解する余地は無い。



「左方後ろより発光する飛行物体!複数確認!わ、ワイバーンの群れに直撃!!」



直後に3人が見たのは、後部が光り輝く飛行物体。実のところは発火点の関係で光っているように見えているだけであり、その真相はロケットブースターの燃料が燃えることによって発生するただの炎だ。

飛来したのは、メビウス13が発射したCFA-44の特殊試験兵装、ADMMである。一発の威力はAIM-120Dなどに及ばないものの、一度の射出で最大12個という多目標を同時に攻撃できる使い勝手の良いミサイルだ。


古代龍が相手となるとADMMでは威力が足りないが、翼竜程度相手には十分な攻撃力となる。もちろんワイバーンに対しても非常に有効であり、直撃を受けた固体は被弾部から抉れ、意識が薄れ行く中落下していった。



「な、何が起こっている!ロト、そっちから見えるか!?」

「左方後ろの空が光りました、更に何か来ます!」



考えを整理するまもなく、ミサイルに続くように飛来する2機の戦闘機。マッハ2.0をキープしたままの2機は、ワイバーンの真横を通過。凄まじい風圧により残り少ない軍団はバランスを崩し、地面へと向かって押さえつけられる。

何とかバランスを立て直したものの、チェックメイトだ。通過後に急旋回した2機の頭は軍団に向いており、再びADMMとAIM-9Xが射出される。生き残っていた残りの群れは、この攻撃で命を落とすこととなった。


この光景を見ていた3人は、衝撃のあまり開いた口がふさがっていない。前年度において竜騎士の最上位チームと表彰を受けた彼等ですら落とされかけた群れを、この2つの飛行物体は息を吐くかのごとく薙ぎ払ったのだ。

そしてそんな感想を抱えつつも、その直後、恐怖に対面することとなる。ワイバーンの群れを一瞬で葬り去った2つの飛行物体が空域から離脱して旋回したかと思うと、自分達の後ろについたのだ。



「飛行物体が後方についた!気をつけろ!!」

「気をつけろってインディ、翼竜は飛ぶので精一杯よ!?」

「くそっ……!」



なぜこのような飛行物体が帝国近くの空域に居るのか理解もできないが、攻撃が向けられれば自分達は壊滅する。しかし先ほどの蹂躙を見るに抗える手段は無く、翼竜も手負いであるため撤退どころか挑戦すらも不可能だ。

唯一できることは、その飛行物体が攻撃を行わないか、あるいは味方であることを祈るだけ。しかしながら後者である可能性は非常に低く、つまりは見逃してくれることを祈るしかない。同様の考えが何度も3人の頭の中を駆け巡るが、その間に一度でも攻撃がくれば壊滅だ。



「お、おいエスパーダ、左!」

「えっ……?」



しかしそんな不安は消え失せ、驚きへと変わる事となる。後ろについていた飛行物体のうち1つが彼女達の左側に接近し、併走を始めたのだ。

薄い灰色と判断できる飛行物体の両翼に映える、藍色の塗装。後部にある内側に傾斜し縦方向に伸び出る翼には、赤い犬の文様が飾られている。コクピット下部にある032の表記が数字であるところまでは理解できないが、3人の目には、鉄の鎖を噛み千切らんとする赤い犬の文様が焼きついて離れなかった。


出力を絞っているとはいえジェットエンジンが発する騒音など、まるで気にならない。見たことも無い飛行物体が奏でる人工的な美しさに、瞬く間に魅了されてしまったのだ。



「ちょっとまって。前方に居るの、人族……?」



そんな中、エスパーダが機体前方のキャノピー越しに人が乗っていることに気が付いた。HMDバイザーを上げたガルムが、やや首を傾け3人を見ていたのである。本来ならばエルフ族かもしれないし人型の他族の可能性もあるのだが、そこまで考えが回らなかったのだろう。

翼竜の3匹も一度だけ横目でADFX-01を見据えたが、その後は全く気にしていない。気にする余裕がないと言った方が正しいのだが、すくなくとも敵である可能性を捨てたのだ。


エスパーダもガルムの視線に気づき、鋭い視線に少しだけ心拍数が上がるも安堵することとなる。遠目ではあるが目線を合わせ、感謝するという意味の動作を行った。

しかし同時に頭が回転し始めたのか、心拍数が急上昇する。少し前から噂になっている、とある話を思い出した。



「鉄の飛行物体、途轍もない騒音、圧倒的な攻撃力……ま、まさかこの飛行物体、以前から噂になっている「鳥」ではないか!?」

「と、鳥って、あの鳥ですか!?」

「鳥だって!?い、いや確かに、特徴は似ているが、流石に早計じゃないか……?」



噂されている自称と一致していることに気づき、再び3人の顔が青ざめる。しかしインディは、慎重な考えを見せていた。



「いや確かに、断定はできないなインディ。鳥を見たことがあるのはシルビア王国の市民と知らぬふりをしているパーティーに居た貴族連中、そして壊滅的打撃を受けた邪人国の生き残り兵士だけだ。もっとも、後者は全て処刑されてしまったがな。」

「そうだ思い出した、確かめる術はある。帝国においても、脱獄捕虜を一人保護しているんだった。国民にも知らされていないことだが、鳥達を迎え入れるための情報を得ていたんだろう。」

「インディさん、その情報は禁句のはずですよ!」



探偵の如く手を口に当てて悩むインディだが、反対側のロトに釘を刺されてしまう。彼が呟いた情報は確かに禁句であり、知られれば一大事となってしまう内容だ。



「おっといけねぇ。いや、捕虜がどうとかは今はどうでもいい。横と後ろの飛行物体が鳥だってなら、えらい騒ぎだぞ……。」

「え、ええ……そうね。皇帝が待ち望んでいるわ。」



違う意味での事の重大さに気づき、3人の表情に冷や汗が浮かんでくる。我々も頑張っているんですよと翼竜達も言いたげだが、自己主張する余裕はないのが現状だ。



《ガルムよりメビウス。前方にレーダー反応、街から飛び立った編隊だ、恐らく翼竜だろう。》

《了解した。これで仕舞いだな、ブレイク。》

「ちょっと、どこへ行くの!?」



竜騎士の駐屯所まで着いてきてくれるかと思った鳥は、左方向にバンクを取り上昇しつつ、加速しながら視界から消え去ってしまった。唖然として見つめるも、追いかけるだけの余力は存在しない。もちろん無線も聞こえていないので、理由も不明だ。

それに代わって前方から来たのは、友軍の翼竜だ。別ルートを飛行していた部隊から連絡が入り、3人を救うために駆けつけてきたのである。


空中で無事かと問われるも、3人の心はここには無い。自身の相棒である翼竜を心配すると同時に空の一点を追う目線に、同僚たちは困惑するのであった。


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