16話 白い世界再び
【視点:3人称】
容姿は第1章2話でグラマー程度にしか表現していませんので、ご自由に想像して頂ければと思います。
驚きの、白い世界。生命以外の全てが白いそんな世界で、一人の住人が悩みに悩んでいる。
床をゴロゴロ、寝床でゴロゴロ。文字通り転げまわっていたのが、ここ半月の現状だ。悩みの種は、彼女が送り込んだホークとその部隊のことである。
「うーん……どこかの国に神託して、彼等とコンタクトを取るように仕向けた方が良いのでしょうか……。いえ、もし発見されることを嫌っていたら取り返しが付かなくなりますし……ぐぬぬ……。」
取り返しとは、ホーク達が暴走した時のことである。過去に何人も送り込んだ転移者を悉く葬った勇者を、彼……と言うよりは彼が率いる集団は、僅か半月、交戦開始からたった1手で葬った。更には勇者が築き上げた精鋭部隊すら、たった1時間で壊滅させている。その事実は、自称女神である彼女を大いに悩ませる種となっていた。
最大の問題が消えて嬉しいことには嬉しいのだが、手に負えない者を、更に手に負えない者で上書きしただけの結果となってしまっている。もし上書きした彼等が勇者のような行動を取った場合、もう対処ができないに等しいのだ。少なくとも、彼女では思いつかないのが現状である。
「感情の逆撫では宜しくないので、夢での掲示ではお疲れ様程度に示しただけですが……もっと厳重に、注意事項を示した方が良かったかしら……。」
そして未だに、ホークへの夢で行った啓示に関して悩んでいる。正直なところ8492の戦果にビビりまくりで恐怖に飲まれていたため、下手なことが言えなかったのだ。彼等からすると大して難しくも無い解放戦なのだが、認識の差というのは悲しいものである。
とはいえ、今のところ集団が問題を起こすような行動を起こす気配は無い。シルビア王国解放時も民間人に影響が無いよう最大限考慮していたし、長年に渡りハイエルフが抱えていた問題を解決できるよう手を出すなど、女神からすれば好意的な行動が見て取れる。深淵の森の一角を占領はしたが元々誰も使っていない所であるし、そこにハイエルフが住むならば必要経費だ。
「……もう一度、お話してみようかしら。いや、可能とご回答を頂けるか分かりませんがお願いもあります。するべきです!」
頭を抱えて独り言で悩んでいた彼女だが、ペチッと両手で頬を叩き、意を決して立ち上がる。偶然にもホークは就寝中であり、彼女は夢を通じて彼とアクセスした。神託と呼ばれる行為である。
「……若し、ホーク様。もう関わることは無いと言って置きながら、すみません。」
「おや、そう言われれば確かに。とはいえ、お久しぶりですね女神さん。」
念を入れて丁寧に会話を開始するも、彼は相変わらずのフレンドリーな表情である。そのわりには敬語も使っており声のトーンも軽くないため、なんとも不思議な雰囲気を奏でている回答だ。
「えーっと、ですね。ホーク様ご一行の、今後の動向なのですが……そ、その……。」
「ああ、自分が勇者みたいな事をしないかって悩んでらっしゃるんですか?この白い世界から部隊レベルの動きは見えても、個人の情勢や感情までは把握できないんですね。」
その言葉で、女神の表情が凍りつく。彼女が8492の動向を監視していたことが、彼にはお見通しだったのだ。
一体、何故?有り得ない。そのような感情が増水した河川の如く彼女の頭を駆け巡るも、答えは出せないままである。
しかし、その感情も当然だ。女神は古代魔法と呼ばれる魔法を使用しており、それは失われた古代の魔法となっている。電波で言うところの高度に暗号化、ステルス化されたものであり、古代魔法を持ってしても探知することは不可能だ。
ちなみに勇者暗殺時にホークが警戒していた、死者を蘇生してしまうリザレクションもこの類だ。蘇生薬自体はこの世界にもあるのだが、素材の関係で片手で数えるぐらいにしか存在しないのが現状である。
「……あのー、顔に出すぎですよ。」
相変わらずの不思議な印象で、彼はカカシと化している女神に声をかける。ハッと正気に戻った彼女は、慌しくも言葉を投げ返した。
「な、ななぜ監視していたことが!?」
「ある程度の確信を持ったのは、エンシェントが現れた付近ですね。女神さんは勇者の位置も把握していたので、おおまかな単位ではこの世界を見れるのだろうとは思っていました。そしてたまたま自分等が決めた日に、たまたまエンシェントと配下がその付近を監視って、都合よすぎませんかね。よくある神託みたいなやつを出して、向かうよう仕向けたのだと思ってましたよ。ま、戦力不足と判断して竜人と手を組むよう仕向けてくれたことには感謝しますが。」
気楽な表情を消し、更に声のトーンを下げて彼はこう言い切った。若干解凍された女神の表情が、今度は見る見る青ざめていく。
監視していたことどころか、彼女が裏で手を回していたことすらをも見抜いていたのだ。その事実を突きつけられ、彼女は言葉が無くなってしまった。
「何故って自分でも不思議なんですよね。ところでさっきの問いですが、答えから言えばしませんよ。そんなことをすれば8492の皆に対する冒涜ですし、ハク達にも嫌われるでしょうしね。」
会話の初めからケラケラと苦笑しながら、彼は有り得ないと言い切った。それを聞いてほっと感情を撫で下ろすも、目の前の男に対する不気味さは消えていない。
「……随分と、猫をかぶっていらっしゃるようですが。」
「そんなことありませんよ。戦闘機に乗っていると、どうやら素が出ているようですし。」
「あれだけの規模の部隊を纏めるとなると、やはり苦労なさるのでしょうか。」
「そりゃーもうキャラが濃い連中ばかりですから。毎回1から10まで対応してたら、こっちのメンタルが持ちませんね。ま、それをやるのが総帥なんですけど。」
苦笑する彼だが、あのような戦力を管理するとなると苦労もするなと彼女も納得する。大きすぎる力は扱いが難しいというが、全く持ってそのとおりだろう。
そしてこの会話は、彼女のお願いを切り出すのに適している。少しだけ緩んでいた背筋を正し、彼もそれに気づいたのか、表情を少し険しくした。
「お気を悪くされたら申し訳ありません。ホーク様は……そのお力を、平和のために使おうと思ったことはありますか?」
「ふむ……平和、ですか。自分達のジョブからすれば門違いですが、そちらからすれば罪滅ぼしみたいなものですかね?」
「はい、仰るとおりです。」
彼が言う罪滅ぼしとは、言わずもがな7年間のさばっていた勇者のことである。ソレのせいで苦しい思いをしてきた現地住民に対し、女神は申し訳なく思っているのだ。
「ですが、事を成すための方法が思いつきません。妙案をお持ちならばと考えまして、是非とも相談したいのです。」
「自分の考えですか?事を成すどうこうの前に、女神さんが償う必要が無いと思いますけれど。」
「なっ!?そ、そう思われるのは何故なのでしょう。」
「勇者を送り込んでしまったのは確かに貴女ですが、ソレを排除するコマを送り込んだのも貴女です。結果的に、自分の失敗を自分でカバーしているじゃありませんか。ハクみたいに完璧を求めるのも大切ですが、同様に誰だって失敗は経験するものですよ。」
最後は苦笑した表情を見せながら言われた回答に、彼女は驚きの表情のまま固まってしまった。
「とはいえ貴女も、何かしらの願いを込めて勇者を送り込んだはずです。その願望は誇るべきものだ、捨てない方が良いと思いますよ。」
そしてやはり、発言の本質を見抜かれている。言われた彼女は、邪人と北の帝国により荒れ始めていた世界を治めて欲しいために、勇者を送り込んだ過去を思い出した。
それが、7年前に夢見た世界。争いが完全に無くなるとは思っていないが、ある程度平和に暮らせる世界を夢見て起こした行動だ。
「―――はい、未だ夢見ています。荒れ始めていた世界を見て、争いの無い世界が見れるならと、何度も思い焦がれました。ホーク様には、是非とも平和を目指し行動して頂きたいと願っております。」
「それは相手次第ですね。現状でも問題が現れると推測できますので、現段階では断言できません。」
「宜しければ、どのような問題なのか教えて頂けますか?」
「シルビア王国を1時間で解放した以上、諸国は躍起になって自分達を探しているでしょう。配下にしたい国、同盟を結びたい国。増援部隊を送ったところや恐怖に怯える国は、討伐したいと動きを見せてくるはずです。」
なので、続く限りは絶賛ニート生活なのですよ。と彼はケラケラ笑い、同時に溜息も付いた。
「あ、次に神託とかで自分達の位置を教えたら恨みますよ?そこは気をつけてくださいね。」
「は、はい。」
セーフ、超セーフ。思い切って会話をして良かったと、彼女は心の中で30分前の自分をサンドバックにしていた。
「ま、そんな感じで世界情勢を整理しなければ行動はできませんね。何をもって平和とするのかは尺度によると思いますが、現状より良くなる程度には努力しましょう。」
具体的な行動は記されなかったが、ともかくホーク達が平和へ向けて協力してくれるということで、彼女は胸を撫で下ろした。
根底として、争いが無くなるとは彼女自身も思っていない。それでも、信仰される女神である以上、より平和な世界を夢見て行動しているのだろう。
「……さて。できればもっとお話がしたいのですが、残念ですが時間のようです。何か問題が起きても私が直接介入することはできません、お気をつけ下さい。」
その言葉に「そちらもお大事に」と返し、ホークの姿が霧のように消え去った。
「……ふう。それにしても、推察力に長けた人です。自分自身は役に立たないと仰っていましたが、彼あって初めて成り立つ集団なのでしょうね。」
召喚した人物とはいえただの人間相手だというのに疲れきってしまい、彼女は珍しく溜息を付く。そして彼女もまた、白い世界で平和を祈り続けるのであった。
気づかずに「様」付けになっている自称女神様。
主人公の思考が垣間見えており、総帥として認められている理由がチラホラ現れています。
それにしても今までの話を読み返していると、3人称視点の方がシックリきますね……。
個人的に書きやすいこともりまして、視点を変えるか悩んでみます。




