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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第2章 動き出す生活
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15話 5年目の変化

【視点:ハク】

守るために日々前線に立ち、戦っていた日々が終わって早5年。生まれ育った国から王家追放の宣告を受け、私の心は荒んでしまっていた。向けられる下種な目線はより一層強くなり、我慢しがたいものがある。

それでも、表向きはかつてと変わらないよう過ごすのが流儀。とはいえ力と声を失ってしまい危険であると、エンシェントの家に預けられた。


それからの日々は、力を失ってなお何ができるかを、日が沈むまで考えていた。しかし残酷だ。唯一の取柄を失っているが故、何もできないということが、日々導き出される答えとなる。親しかった家政婦もついて来てくれたのが、微かな心の支えだった。しかしそれも、いつまで続くかは分からない。

シルビア王国で散っていった仲間には申し訳ないが、どこの国と連合を組んだとしても仇を取ることは不可能だろう。この身が突撃したところで、結果は何も変わらない。それぐらいなら一回きりでも国の役に立った方が、仲間への、せめてもの手向けになる。


無能となった娘にできることは限られている。いつか、どこかの王族や貴族に身売りすることになるだろう。今はエンシェントが裏で手を回しその話を遠ざけてくれているようだが、力を失っても、この身が以前持っていた肩書は変わらない。

それが唯一、この身でもって国に貢献できる政だ。今まで政に関わってきていなかった私が迎える結末とは、なんとも皮肉な話かもしれない。




心が折られたあの時から、早5年。言われた当初は、正直期待していなかった。



「我々が知る生き物とは、全く異なる知識を持った人族が居る。」



幼い頃から魔術を習ってきたエンシェントにそう言われたのは、早2カ月前。

最初は、何故その話を持ってきたかが理解できなかった。そのため本人に聞いてみると、理由は単純だ。



「あれだけ手数をこなして解呪できないならば、発想が異なる者に見てもらうしかない。」



……。言わんとしていることは、理解できますけれど。流石に、程度というものがある。

それでも彼は、「可能性がある。未知の知識を持つ集団だ。」と言って、珍しく意見を押し通してくる。エンシェントには色々と迷惑をかけてきただろうし、お世話にもなった。その彼が言うのだから、私も一度は見てみよう。



そう決めてエンシェントの後を追い、大陸を超えて南に飛び続けると、洋上の小島が見えてきた。あのような島が存在したかは記憶にないが、その程度の島だったのだろう。



しかしながらエンシェントが言っていたとおり、遠目で見るものの全てが知らないものだ。私たちを警戒するかのように前方から飛行物体が飛来し、耳を劈く轟音を響かせながら周囲を旋回飛行し始める。

そして、こちらから攻撃しないようエンシェントから厳重に注意される。どうやら、飛行物体が保有する戦闘力も計り知れないらしい。


今でこそ、その飛行物体が『戦闘機』という名前であることが判断できるが、当時は軽く混乱したものだ。恐らく、いや確実に、亜人の姿になった私よりも速い速度で飛んでいることがある。そのことだけで、今まではあり得ないことだった。

案内している彼は、何度か目的地の島に赴いたことがあるらしい。到達手順が決まっているのか、東方向から大回りに誘導され、草原に着陸する。




そこに居たのは、駆け出しの冒険者にすら負けるのではないかと思わしき、一人の青年。観察するに筋力もなければ、魔力など皆無だ。無害と言えば多少は聞こえが良いが、とどのつまりは戦力外―――と判断しかけたが、どうも、単にそういうことでも無いらしい。

私を見る目が、通常の人族とは異なっていた。あれは、こちらの動向を観察している目だ。私が行っている動きの細部も見逃さないよう丁寧に、かつ注視してこちらの気を引かないよう慎重に、だ。いつもは好機の目や嫉妬心、下心でしか見られたことがないため、この反応は新鮮である。



その彼はホークと呼ばれており、この基地の最上級指揮官らしく、私達を建物の中に招き入れた。建物そのものの洗練さにも驚いたが、黒と濃い茶色で固められた部屋に入った時は、ため息をつきそうになった。暗い色の木材によって見事なまでの重圧感が演出されており、父上の部屋ですら、この足元にも及ばない。宝石が輝くような煌びやかさは一切ないが、そのようなものは子供の装飾に思えてしまう。


……そう思っていると、彼の先ほどの反応もエンシェントの一言で好機の目に変わってしまったわけだが。やれエンシェントは、一体何が目的でこの島に来たというのか。

最初は少し感心してしまったが、やはり男とは、こういうものだろう。そう、落胆しかけた時だった。



「で?そんな歯の浮いた話はおいといて、なぜ彼女は喋れないんだ?」



喜怒哀楽のどれにも該当しないような表情で言われたその言葉に、久しぶりに背筋が凍えた。勇者に呪いをかけられてから何度も人前に出てきたが、こちらから切り出す前に看破されたのは初めてだ。

驚いたのはエンシェントも同じである。あのような表情は、私が最大威力の魔法を放った時以来か―――。


―――なぜ、彼は見破ることができた?会話は終始エンシェントが牽引しており、私の現状に関して探りを入れる気配は無かった。

不可解極まりない、理由が知りたい。何度も思うが、無闇に発言できない自分自身が苛立たしい。



「ん?だって、着陸時から続いてる品のある動作をできるわりには挨拶の類が一切無いし、行おうともしていないじゃん。どこかのお姫さんか貴族の娘さんなんだろうな、とは思ってたけど……そうでなくとも、流石に礼儀作法として、おかしいでしょ。」



……正直、驚きを通り越して呆れてしまった。着陸から部屋に入るまでの動作で、ここまでの内容を見抜くことができるというのか。なるほど、優秀な司令塔のようだ。戦闘力に関しては微弱でも、これ程の洞察力があるならば不足は無い。

そして感情は一周し、再び驚きとなる。あれほど死力を尽くして足掻いても倒せなかった勇者の軍勢を、彼は「殺すだけなら簡単」と言い切ったのだ。


その発言に対し、私は縋るような願いをしてしまう。

この身を投売り、奴隷として堕ちたとしても……それでも討ち取られた仲間の仇と、母国への平和を、彼に望んだ。それが、唯一の特技で敗北した私にできる、精一杯のことだと考えていたからだ。


しかし、もう後がない私の心配をよそに、彼の率いる部隊は勇者の暗殺に成功。それどころかシルビア王国に蔓延っていた盗賊を一網打尽にし、完全な奪還までをもやってのけた。

炊飯部隊と料理の仕込を行っていたのだが、一刻もしないうちに敵本部陥落の連絡が入ってくる。一体どのような魔法を使ったのかと問いを投げたが、回答は得られなかった。分かったのは、勇者の呪いが完全に無効化されたこと。会話も問題ない上に、本来の力も回復している。


まさにエンシェントが言っていた、未知の集団と言う言葉に相応しい。実力も申し分のない度合いだ。マスターの奴隷になったことを一瞬でも後悔しなかったかと言えば嘘になるが、今となってはその後悔の念を抱いたことすら腹立たしい。それ程までに、8492での暮らしは心地良い。気の休まることがほとんどだ。



―――しかし、2ヶ月ほど過ごしてきたが不思議な気持ちだ。何故こうも、彼の言動に惹かれることが多いのだろうか。



彼がやっていることは、正直なところ大層な事ではない。事実、事を成しているのは彼の部下であることがほとんどだ。エンシェントは「ドラゴンの女子は強者に惹かれる」と言っていたが、彼が返答したとおり、それは「本人が強い場合」に限られる。本人も言っていたが、マスターは強者に該当しない。


しかし私は、彼の戦闘力に惹かれているわけではない。単純に強さに惹かれるならば、私に呪いをかけた勇者や彼の部下に惹かれている。そして、そのことは有り得ない。部隊の皆も強いし優しいし勇者だった人物も強いことは強いが、彼とはどこか気配が違う。

最初に何度か赤面してしまうようなこともあったが、決して理由にはならない。私自身も色恋沙汰の場数を踏んでいないことは認めるが、単純ではない。何か、惹かれる理由があるはずだ。



……強さでなければ彼の料理か?否定しようと思うと後ろ髪を惹かれてしまう点が恥ずかしいが、これも違う。問答無用で食欲を刺激してくる料理は、食堂でも事足りる。



他の男性とは何かが違うのだろうが、その違いはわからない。王宮とすら比較にならないほどに快適な施設が揃う設備の数々に驚くことには慣れてしまったが、1つ自覚した事実は未だに驚きが収まらない。




生涯で初めて、「一緒に居て心地よい」と思える異性と出合った事だ。


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