14話 千里の道も?
ちょっと短めです
「セァッ!」
「フッ!」
金属と金属がぶつかり合う、甲高い音が木霊する。
エルフの二人が拠点から帰って、早くも一月。兄妹が帰還した翌日から、自分はハクを相手にして本格的な近接戦闘訓練を行っている。
2-3秒間に飛んでくる斬撃の回数はいくつだろうか。恐らく2桁に迫る勢いだろうが、カウントする余裕は全く無い。
「クッ……ツっ!?」
何故なら自分は、絶賛押されているからだ。マクミランの時よりも遅くハクが全く力を入れていない事は一目でわかるが、それでもこちらは防戦一方だ。
とはいっても、それも当然。彼女はその道で戦場を生き抜いてきた、言わばエースだ。ヴォルグからハクの戦闘能力を聞く限り、この世界では間違いなく超エース級。そんな相手に、同じ土俵で勝てと言う方が無理がある。ましてや、正面切っての白兵戦で勝てるわけがない。
自分とハクでは、戦闘経験の差がありすぎる。こちらが行える程度の剣技は、全てお見通しなのだろう。そうと分かっているとはいえ、自分のために時間を割いてくれている彼女のためにも、持てるモノは全てぶつけて応戦する。
しかし今日は、どう足掻いても絶望の言葉がピッタリな心境だ。なぜだ……昨日今日で確実に、こちらの攻撃を防ぐタイミングが早くなっている。考えても埒が明かない、全く理解できない。
正直、剣術などというものは分からない。防ぐにしても受け流しているだけだし、攻撃となると猶更だ。
このタクティカルナイフをもってして可能な攻撃は、ただ突くのみ。払ったところでリーチは短いし、致命傷は狙えない。それ故に攻撃が読まれやすいのは理解できるが、未来予知でもされているのかと言いたいぐらいに反応される。ならば、攻撃に捻りを入れてみてはどうか。
今までとは違って相手が縦に振った剣を逆手で受け流し、そのまま一歩踏み込んで逆サイドに横から突き入れる。しかし突きのモーションの瞬間に彼女の剣が視界に現れ、体がナイフごと弾き飛ばされた。
「つおっ!?」
今まではナイフを弾き落としていたが、今回は持ったままなので一歩前進だ。戦っている以上、銃だろうが剣だろうが、自分の武器を落としては話にならない。
弾き飛ばされた勢いで自分の靴が地面を摩る音が聞こえ、間合いが開く。すると彼女が力を抜いて、剣をおろした。
「マスター、少し休みましょう。今日はいつも以上に、肩に力が入りすぎています。」
「………フゥ―――ッ。」
その言葉で、肺にたまった熱い空気を吐き出す。気温的に冬が近いと思うが、吐く息が白く見えたのは錯覚だろうか。
言われたことは、今の自分の心境を見透かされた気持ちだ。確かに、今日は余計な感情が付きまとっている。
「何故攻撃が防がれやすくなったのか、と、仰りそうな表情ですよ。」
む……読まれていたか。ただの打ち合いで、そこまで分かるもんなんだなぁ……。
「……正解。正直、なんでか理解できなくてさ。」
「答えとしましては、ナイフを扱う際の……そうですね、「型」が出来上がってきたのが原因でしょう。速度の違いもある上にマスターの癖も一通り把握できていますので、判断が付きやすいのです。」
「嘘やん……。」
なんともまぁ、さっき思ったとおり、どう足掻いても絶望の言葉がピッタリですね。彼女レベルにこちらの癖と型を把握されては、そりゃ対処されるわな。
攻めに転じたところで勝てる気はしなかったけれど、やっぱり勝ち目は無かったってことだ。がっくりと肩を落とすと、見学していたヴォルグから言葉がかけれらた。
「いえ主様、悲観する状況ではありません。」
「なんでさ。」
「初日から拝見しておりましたが、受け流しに関する上達速度は並大抵ではありません。攻撃となると『銃』というものがありますし、このまま鍛錬を続けていれば攻撃手段に組み込むことができると思います。」
ハク様も理解されているのだから、正直にお伝えすれば宜しいのに。と、彼はケラケラと笑っている。
実感は無いけれど、そうなのか?と思ったその言葉の直後、ハクが腰に両手を置く。あ、頬っぺたが軽く膨らんだ。
「ヴォールーグゥー……?」
「っ!?」
そして、そのままジト目で釘を刺している。最近、自分が食事関係の冗談を言うと見せてくる表情だ。なお個人的に結構好み。
怒るというには程遠く、目線の先の発言者に対して反論もしくは意見具申したい時に見せる表情と言うことがわかっている。ってことで、機嫌が悪いということではないが、少なくとも良い時の表情ではない。
恐怖で全身の毛を逆立てる暇があるなら、ともかく逃げろヴォルグ、超逃げろ。あダメだ捕まった。
「は、ハク様とて以前同じ内容を仰っていたではありませんか!」
「お、お伝えする者と時期が重要なのです!」
「抗議の基準が分かりかねますよ!?」
何が重要なのか分からないが、ヴォルグは頬っぺたを軽く摘まれフニフニされている。しかし今の捨て身の発言は、正直非常にありがたい。
なるほど。ヴォルグに言われなければ気づかなかったが、自分の能力の判断基準がおかしいだけか。
自分が「ハクに勝てない」と思うことは、ドッグファイトで言えば「ガルムやメビウスに勝て」ということに等しいのだ。最近飛んでいないので実感としては薄いのだが、そう言い換えれば何とも無茶な話である。
しかしまぁ、最近の彼女はフェンリル王一家にも感情を示すようになっている。心を許している証なのだから、傾向としては宜しい事なのだが……なんというか、自分だけが見れた「特権」という意識があるせいか、軽い嫉妬のような気持ちが芽生えそうになるのは困ったものだ。こちらは絶対に宜しくない。
戦闘には負けたけれど、どっちの道も地道に頑張れ、自分!
「主様、落ち込まれるべきではありません!お言葉を拝借すれば、千里の道も一歩からでございます!」
「ヴォルグ、飯抜きな。」
「なんでさ!?」
「ハク、徹底的にフニってあげなさい。」
「承知しました!」
「なんでさあああああ!!」
地道とは言ったけど、どっちの道も千里も無ぇよ!
……と、信じたい。特に、彼女との距離は。
BF4でこの小説のマクミラン先生を相手に挑んでるときも絶望でしたね……




