13話 査察の続き
……あれ?ハイエルフ二人が目を見開いてるぞ?あれか、フェンリル王に慣れてないクチか。
ヒールで傷も消えていて、かわいいのに。こっちは固まっているので、一家に声をかけよう。
「やぁ、もう体調は大丈夫?」
「ええ、主様。おかげさまで主人や息子共々、鋭気を養えました。」
「体も洗ってもらえたんです、嫌な臭いもなくなりました!」
自分の質問に、ハクレンと、その息子である一頭のスコルが答えた。8492の隊員に洗ってもらったらしく、街頭の光に、真っ白の毛並みが輝いていた。子供二人はテンションが高く、鼻を寄せてくる。後頭部を包むように撫でて応戦だ。うおっ、体毛サラッサラ!
思ってはいたが、子供でも結構な大きさがある。ヴォルグやハクレンが自分の横に並ぶと、こっちの目と相手の耳が同じぐらいの高さになる。ハティとスコルは、腰よりちょっと高いぐらいだ。そのため、こちらが腰を屈めると丁度いい。ふふふ、これで喉元をモフり放題だ。
「主様、そちらのハイエルフは?」
息子2匹とジャレていると、一家の大黒柱からご質問。そうだった、すっかり忘れていた。立ち上がり、ハティとスコルを下がらせる。
「そうだった。ハイエルフの兄妹で、兄のリュック、妹のリーシャ。今回はハイエルフ族からの依頼の一環で、この拠点を見てもらっている。二人にも紹介しよう。フェンリル王一家の主ヴォルグ、こっちが奥さんのハクレン。ちょっと銀色っぽい息子さんがハティ、もう片方はスコルだ。ちなみに横の神龍はエンシェント、ハクに魔法を教えていた師匠って所かな?」
ヴォルグたちは、軽く頭を下げる動作を見せる。礼儀正しくて宜しい。その程度でいいから、今後も続けてくれると嬉しいな。反対に、ハイエルフ兄妹は機械のようだ。緊張しすぎである。モフって馴染め、モフって。
「まぁそんなワケで、まだ奴隷ってワケじゃーないんだけど……。あ、二人からは何かある?」
「ま、ままさか、フェンリル王を見ることになるとは思っておりませんでした。」
「うむ……。ホーク殿、いつのまにフェンリル王を配下にしたのじゃ……。」
どうやら皆さん、基地よりもフェンリル王一家のインパクトが強いらしい。そんな両者を見ながら、エンシェントは飽きれ声だ。
実は大きな白い犬だと思ってテイムしようとしたらフェンリル王かよ、騙された!FND!(F:フェンリル N:なのかよ D:騙された!)
なんてことは口が裂けても言えないので、苦笑いでごまかす。ハクも察してくれたのか黙ってくれていた、助かります。
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互いの紹介も終わったところで、そのまま皆で夜の拠点を徘徊する。軍港に並んでいる連合艦隊を紹介したり、西側の車両部隊の駐屯地へ行ったりと、かなりの距離を移動した。
帰路の移動には、自分が使っているL-ATVのピックアップトラック型を使用。フェンリル王一家も……2頭までなら荷台に乗れるが、走ってもらおう。運動不足解消だ。
「ここからだと1kmぐらいだけれど、この距離なら走ってもらってもいいよね?」
「我々としては、数十キロでも問題ありませんが……。」
聞いてみると、流石と言うか種族が種族のために長距離移動も苦ではないらしい。うーん、考えの基準が人間なのは宜しくないな。数百キロの移動に関してもメシが満足だという前提が必要らしいが、その点は保障する。体が大きいので、地上移動の際は走ってもらおう。
後ろを走ると排気ガスが臭いだろうから、左側を走ってもらう。幸いにも道は広いので、衝突する危険も無い。エンジンをかけると、振動と共にエルフ兄妹がビクっと震えた。しまった、振動と音が響くことは言っておけばよかったな。
サイドブレーキを解除してギアを入れ、アクセルを緩やかに踏む。加速に応じて、フェンリル王一家も速度を上げ始めた。
「この馬車、ものすごく乗り心地が良いのですね。馬は居ませんが……。」
60km/hほどで走行中に声をかけてくるのは、リーシャだ。鉄製のフレームを見たことがないのか、バックミラーで見る限りでは物珍しそうに見たり触れたりしている。
しかし1つ、今の質問に気になる点がある。
「ん?森住まいだったと記憶してるけれど、馬車に乗ったことあるの?」
「あ、いえ。一度、連れ去られかけたことがありまして、その時に……。」
……気軽に聞いたら、とんでもない地雷でした。黙ってた方が良かったな、反省。
「……悪かった。ともかくこの馬車は、自分の軍隊が使っている標準装備の1つだよ。地上移動の際は、コレを使うことも有る。」
「なるほど。この速度であるにも関わらず揺れの少なさとは、何か変な気分になります。」
たぶん速度じゃなくて、サスペンションやらショックとかの足回りが原因でしょうね。この車もオフロード用に固められた足回りではあるけれど、衝撃を吸収していることには変わりない。
突き上げのあとにくる衝撃の収まり具合は、一般的な馬車とは大違いだ。船酔いと同じ原理で、感覚がおかしくなるのだろう。
一般的な乗用車なら、このL-ATV程の違和感は無いはずだ。オフロード用の車は基本的にサスペンションのストローク量が多いため、車体が上下に移動する幅も大きくなる。
「この乗り物に、名前はあるのでしょうか?」
「L-ATVっていう種類だけど、車って呼ぶのが一般的かな。」
「なるほど。」
意外とアッサリと伝わったけど、問題ないだろうかと不安になる。自動車とかの呼び名もあるが、隊員にも「車」で通じるし何とかなる……はずだ。。
舗装道路では無いが、平たんな道をドライブする。速度的には50~60㎞/hだ。少し離れて横を走るフェンリル王一家も、心なしか楽しそうな表情を見せている。森の中にこれだけ整備された道は無いだろうし、それが理由かな?もうちょっと落ち着いたら、公園でも連れて行ってやろう。道はないが、あそこなら思いっきり走り回れる。
一通り走り回って、最終的に軍港の荷降ろし場付近に戻ってきた。作業を終えた多くの部隊が休憩をとっており、寝る直前と言った具合だ。元気になったフェンリル王一家や初見となるハイエルフ二人に釣られて、次々と姿を見せ始める。
大半が物珍しさの野次馬程度だが、若い連中の数人がリーシャに色々と質問していた。彼女も適度に応答して5分ほど経過した時、リュックがこちらに歩いてくる。
「ホーク様……無礼を承知で、1つ申し上げます。」
「何かな?」
「この基地にいらっしゃる兵士の実力が、知りたくございます。体術のみで、どなたかお相手願えませんでしょうか。」
突然の申し出だが、分からない話でもない。族長とやらに報告するためには、必要な情報となるだろう。ここにある兵器の威力を教えても、基準がないため分からない。そんな情報よりも遥かに有用で、客観的にも判断できる項目だ。
「ハイエルフは魔法ってイメージがあるけど、体術で良いの?」
「普段は体術を使いませんが……これでも、部族では上位に入ると自負しております。」
「ふむ……ってことらしいんだけど、誰か、似た体格で相手できる?」
自分の所の軍隊に、190cmの隊員は、ほとんど居ない。居たとしても細身ではなく、筋肉質だ。その場にいた中で体格が近かったのは、グリーンベレーの隊員だ。来客ということで乗り気ではなかったが、その来客自らの要望だ。
催し物とでも思って、グリーンベレーの隊員にも、気軽にやってもらうことにする。ルールとしては単純。明らかに攻撃が当たったと、周囲が判断できれば勝利だ。隊員は武器装備を外して他の隊員に預け、軽くストレッチを行っている。リュックも、軽く体を伸ばす動作をした。
「じゃ、この石を上に投げるから、地面に落ちたら開始ってことで。わかってると思うけど、間違っても大怪我させちゃダメだよ。」
よーいスタートと言うのも似合わないため、開始の合図はコレにした。石が落ちるコトッと言う音と共に、開戦となる。瞬時に間合いを詰めて繰り出されたリュックの右ストレートは、裏拳によって防がれる。隊員はそのまま腕をつかみ、柔道の要領でリュックを投げ飛ばした。
この間、試合開始から3秒も経っていない。ハクは相変わらずの無表情で見ており、妹のリーシャは、その光景に唖然としていた。
隊員がリュックに手を貸して引き起こし、周囲から拍手が沸き起こる。投げ飛ばされた本人は、何が起こったのか理解しきれていない状況だ。それもあるが、自信が打ち砕かれた心境だろう。明らかに動揺している。
「思うところはあるだろうけど、これがこの基地を守る自分の仲間だ。個人差はあるが気さくな連中だ、気に入ってもらえると嬉しいよ。さっ、皆も解散だ。夜勤者は頑張ってほしいし、その他の者は十分な休息を取るんだぞ。いいな。」
「「「「「ハッ!」」」」」
長引きそうだったので、命令ということで解散を指示する。人が居なくなったタイミングで、リュックが頭を下げてきた。
「ありがとうございましたホーク様……まだまだ、私の連度不足でした。」
「自分の仲間を知ってもらえたなら、それでいいさ。空の連中は……一名除いてあそこまで強くないけど、陸で戦う奴等は素手でも強いよ?」
「まったく歯が立ちませんでした。も、もしかしてホーク様も……?」
「あいにくと、基地に居る戦闘要員の中で最弱さ。」
兄妹の目がテン。やっぱり部隊の長って、強い人が就いているのが普通なのかな。
よし、決めた。自己防衛もあるし、ハクに稽古をつけてもらおう。さて、ナイフでどこまで戦えるかな。
これは実話であり、公式の記録と目撃証言を元に……いや、フィクション120%ですね。
FNDはメーデーという番組のネタです。航空機事故の番組ですが、大事故発生のメカニズムが分かりやすいので結構おすすめの番組です。




