12話 問題と査察
「とりあえず、目的をハッキリさせた方が良い。」
「う、うむ!そうじゃ!その通りじゃ!」
2分程エンシェントに説教をしたあと、ハイエルフ兄妹に問いかける。オッサンが合いの手を入れてきやがった。
今の彼等には問題が多いため明確な要求ができる状態ではないし、こちらとしても回答を断言できない。一族としての決定権があるのかと質問をしたが、「安住の地を探す約束をしてもらう」だけの指示らしい。そこで、大きな問題を纏めてみる。
・散らばった一族の捜索
・新しい土地への輸送
・新しい土地の開拓
ここまでは、自分たち8492が解決できる項目だ。
・新しい土地の防衛
・将来の他族との交流
この2つは、自分たちではどうにもならない。特に2つ目は大きな問題だ。1200年前は他族との交流なく過ごしていたようだが、今回作る状況はソレと同じである。結果が他族の侵攻による崩壊ならば、将来迎える結末も同じだろう。
現状の問題点は、上記になる。兄妹に確認すると、二人とも同意した。そして決定権が無い以上は悪いが話にならないので、連れてきた奴に問いかける。
「聞いてたと思うけど……こんな感じだから、族長と自分が直接話した方が良いんじゃないだろうか?」
「うーむ、そうじゃのぉ……。ちなみに現状で、何か案はあるのかのぅ?」
「あるにはあるよ。正直なところ、自分達が居る第二拠点での生活以外は無いんじゃないかなと思ってる。」
「おや?じゃが彼等は、人族を嫌っておるぞ?」
自分の答えに対してエンシェントが問いを投げたのは、一番大きな問題点だ。もちろんだけど、その点に関しては理解している。
「ホーク殿も理解していると考えるが、、何故その方法を提案したのじゃ?」
「ハイエルフ側は、消滅の危機にあるからね。緊急性や必要性と要求内容を天秤にかけると、その選択肢以外には無いかなと。第二拠点の案なら、問題としては「人族と一緒に暮らす」という一点に絞られるから論議も行いやすいと思う。長い目で見ると他種族への馴れは必要だし、悪手ではないと思うんだ。」
自分が説明すると、兄妹やハクも「なるほど」と納得してくれた。
「ホーク様、私個人としても同感です。しかし一度、族長に伝えたく思います。その後は主要人物で、議論になるかと……。」
「その点は必要じゃろう。」
「マスター、提案です。一度、二人に基地を見せてはどうでしょう?軍隊の輸送準備にも時間がかかるので今すぐとはいかないでしょうし、ハイエルフ側としても、族長への説明も行いやすいと思います。」
「あー、そうだね。」
グッドタイミングで出されたハクの案に乗ってみる、ほんとフォローが上手い美人だ。どこぞのオッサンドラゴンとはワケが違う。
「ハーックション!」
お、ドラゴンもクシャミするのか。ドラゴンの姿だからか、音量が大きい。
ともかくハクから出された意見は、百聞は一見に如かず、御尤もな内容だ。さっそく兄妹に同意を取り、輸送隊に連絡を入れる。
1-2分でノーマッド隊のブラックホーク輸送ヘリ3機と、護衛のアパッチ5機が到着。ハイエルフ二人は、見たこともない物体に圧倒されている。これが乗り物なのかと、心底驚いた表情だ。目も口も開きっぱなしである。
上空でホバリングしているヘリ部隊は、正に異物だろう。ノーマッドの一機に自分達が乗り込むのを確認すると、000の部隊が残りの二機に分乗する。それを確認すると、ノーマッド隊のヘリがフワリと浮き上がった。思わず驚きの声を出したリーシャが俯き、軽く赤面している。リュックはリュックで、子供のように窓に額を付けていた。
こちらからすれば、魔法を見たらこんなテンションなんだろうなーと思いながら、二人をヘリに乗せた。タスクフォース12人の回収も終わり、ヘリは編隊を組むと、第二拠点へと移動を開始する。
そのタイミングで、佐渡島(仮名)から飛んできた2機のF-15E編成であるガルーダ隊が、横の空域を並走する。護衛に来てくれたのだろう、頼もしい。
すると更に、例の化け物2機……ガルム0とメビウス13が、まさかの編隊を組んで通り過ぎる。この空域を絶対的な制空権が飛んでいるね……恐ろしい話だ。
なぜあの2機が編隊を組んでいるのかは不明だが、実家よりも安心できる状況だ。護衛というよりは周囲警戒らしく、かなり広範囲を飛行している。
そんな光景を見て、兄妹は再び驚いていた。漫才劇場よろしく、しばらくこの流れは続くのだろうなー。
あ。それなら1つ、言っておかなくちゃ。
「あー、そうそう。たぶん基地に着いたら自分の仲間が戦闘態勢で出迎えてくると思うけど、気にしないでね。」
「?マスター、そのような連絡はありませんでした。なぜ判断できるのでしょうか?」
「今はマクミランもディムースも居ないから、独断で、念を入れてヘリポートを囲ってると思う。陸軍はこの二人が居ない時って、けっこう用心深くなっちゃう癖があるんだよね。」
「流石総帥、言われてみればそうかもしれません。にしても凄いですね、我々の思考を完全に見抜いてるってわけですか。」
「アンタラは常識が通用しないから、そうでもなくちゃ総帥は務まらんよ。」
「そうでもなくちゃ、俺達も総帥を信用して自由に動き回れんだろディムース。」
「自由を通り越して自由奔放過ぎるのが持病でしょうかマクミランよ……いやまぁ別に良いけどさ。」
とどのつまりが命令無視と言われ頭の後ろをかくディムース達とハハハと軽い笑いを投げあうが、その奥でハクが一瞬見せた寂しそうな表情も見逃さない。これもマクミランとハクが演習を行う前あたりから、チラホラ顔を見せていた。それ以降は一層注意を払っているのだが、表情の起伏が無く口調も変わらないため非常にわかりづらいが悲しげな表情をしていることが複数ある。
そんな時の大抵が、自分が仲間とやりとりを行っている際。何か理由はあるだろうが、少なくともこちら側の非では無さそうだ、できればもう少し観察したい。ともかく、今ここで拾うべき事柄ではないだろう。
十数分の間だったが、ガルーダ隊の護衛を受けて第二拠点に到着。仕事を終えた4機はバンクを振り、アフターバーナーを焚いて島へと帰還していった。
ヘリから降りると、数量の戦車部隊と歩兵隊が出迎えている。自慢じゃないけど、自分の予想は当たっていた。
「凄いですねホーク様、お見事です。」
「リュックやリーシャも、身内の癖ならいくつか把握してるんじゃない?それと似たようなものだよ。」
「なるほど、おっしゃる通りです。」
杞憂と言うことで、すぐさま警戒を解散してもらう。キャタピラ特有の音とディーゼルエンジン音を響かせながら、戦車部隊は基地へと戻っていった。タスクフォースも仕事終了ということで、基地へと帰っていく。お疲れさん、ゆっくり休んでくれ。
帰還していったM1戦車を「鉄の馬」と表現したのは、例によってハイエルフ二人。一体アレのどこが馬に見えるのか、一時間ほど問い質したい。どちらかと言うと、魔導兵器と表現するべきではないだろうか。キャタピラこそ付いていないが、見てくれは似たような分類だろう。
えっ、魔導兵器を見たことが無い?あーそうか、鎖国状態だったもんな……。だからって馬は無いだろ、馬は。
「とても大きな施設です。この大きさである上に10階建ての建物など、見たこともありません。」
そんな二人は今現在、海軍施設を見て驚いている。10階建ての建物は完全に軍事施設で宿泊系の設備は無い、地下もあるよ。宿泊となると、100mほど離れたところにある、5階建てのマンション群だ。一般兵用の施設で、部屋とトイレ、クローゼット程度しかない簡易的な代物だ。
中を見たいと言われたので、空き部屋に案内する。部屋を見るなり、リーシャが感銘の声を上げた。そういえば、この世界の一般的な家って、どの程度まで洗練されているのだろうか。シルビア王国の時に外観は見たことがあるが、中に入ったことが無いのを思い出す。
「この部屋とすら比較になりません。装飾はさておき洗練さで言えば、私の父の部屋ですら劣ります。」
「そうじゃのぉ。ここに一国の王が住んでいると言われても、広さと装飾以外は納得してしまうぞ。」
そう考えている自分に答えるのは、実際に王宮で生活していたドラゴンさん2名。この二人が言うのだから、間違いないのだろう。自分達からすれば、こんな部屋に国王が居るとか「お米食べろの人が外来で精神科に来た」と同じぐらいに信じない。壁内に防音材こそ多めに配備されているものの、シャワー付き1L8畳(長方形)の平凡物件だ。
ここに居る面子の中で自分の家を見たことがある人物は居ないが、無駄に凝っているので見せない方が良いのだろうな……。AoAでは他の同盟軍などの総帥を呼んでいたため、無駄に凝っているのである。もっとも、自分が、そういうクラフト系が好きであることも理由だが。
「ハイエルフの家に関してだけど、特に要望が無ければ、今のところこれと同じにしようかと考えている。今居るような建物だとこれが最低の品質だから、居心地悪いなら考えないといけないね。」
「ほ、本当ですか……わ、私達には過剰過ぎますが、頂けるのでしたら。」
「わかった。外観とか内装の仕上げは、実際の建造時に協議すれば、ある程度は対応できるよ。あと、他に良さそうなものがあれば用意しておく。じゃぁ、次に行こうか。」
次に視察するのは、大浴場。今案内しているのは兵士用で、とても巨大だ。現在は準備中のため、入浴している人は居ない。入り口から中を覗く程度だが、相変わらず二人は圧倒されている。
「こ、これは、お湯なのですか!?」
「ええ、お湯です。この拠点で生活している人は、誰でも使用可能です。」
若干のドヤ顔で慣れているように答えるのは、ホワイトドラゴンさん。珍しく他人の前で表情出してますけど、貴方も最初は目を見開いてましたよね?控え目なドヤ顔が可愛いから許す。
浴場に関しても、民間人用に設置する予定である。運営に関しては、希望を出していたNPCを充てる予定だ。そのハイエルフ達の住居は、軍港の東北東側を予定している。現在は硬い更地だが広さは十分で、逸れている仲間が合流しても問題ない。
もし森の近くが良いということならば、防壁沿いだが西側を割り当てる。どちらにせよ拡張性も高く軍港も近いため、安全面も十分だ。
最後に以上のことをもう少し詳しく説明し、隠れ家に戻ったら族長とやらに説明してもらう。この基地で見たことを、兄妹が伝える手筈だ。
最終確認を行い、二人が「承知しました」と頭を下げたタイミングで、新しく自分たちの仲間となった一家が歩いてきた。
こういうところで考えが回るのが主人公の強み!むしろこれ以外……




