6話 天然チートと培養ニート
2018/06/17 設定に矛盾が生じておりました。ハクは身分証明書「非所持」が正しい設定でございます。
2019/02/23 Ex~Aランクの強さの目安を簡単ですが追記しました。もしかしたら今後の話で強さの基準が多少上下するかもしれませんが、これはハクが知る知識なので多少のズレがあるということでご了承ください。
ハクが仲間になってから早一カ月、彼女もこの基地での生活に慣れたようだ。女性隊員との仲も宜しく、マクミランに勝ってからは、歩兵隊の近接戦闘訓練に講師として出向いている。
女性隊員と接する時は少しの笑みがあるが、男性相手では仏頂面だ。真面目とも受け取れるが、アレは表情を殺している感じかな。
そしてどちらの場合も、自分に対して見せるような表情は決して出さない。正直嬉しいことだ、そう思うだけで頬が緩む。
そんな彼女を観察していて、やはり食に対して非常に興味があると判断できる。食堂での表情が、毎回マジになっているからね。
食べる量は女性にしては多いと思うが、異次元ボックスと表現するレベルには程遠く、飛び上がって驚くほどの量でもない。しかし、調理された食事への興味が凄まじい。
料理の調理方法や使用されている食材など、事細かに聞いてくる。説明できるところは説明すると、フムフムと頷きながら咀嚼している。カワイイ。
一方で背筋は伸びており、ピクリとも崩れない。自分なら速攻で猫背になってしまうような状況でも変化することは無く、食事を口に運んでいる。
ちなみにその時は凛とした表情ではなく、無垢そのものだ。食事の時以外は見せない表情なので、新鮮味がある。
一方で近頃の自分は、暇な時に、厨房で炊飯部隊と色々と作っている。特にドラゴンや翼竜の肉を使った肉料理を色々と作り、宝物庫に放り込んでいく。気づいたら色々と格納されており、宝物庫の中にある食料だけで晩餐会でも開けるんじゃないかというぐらいだ。大量の鱗は……使い道がわからんな、宝物庫で寝かせておこう。
メニューとしては翼竜のパリパリ照り焼き……チキン?照り焼きドラゴン?、翼竜の竜田揚げ、古代龍のローストビーフ……などなど肉ばかりだが、手に入れた食材がソレしかないので仕方ない。気持ち程度にレタスとかは添えてある。
というのが表向きな理由で、この世界の肉を知るための試験的な意味合い半分、興味半分といったところだ。特に古代龍の肉は旨みがある上に硬さもなければ脂肪分も少ない、本当に良い肉だ。兵士の食事にも最適なのだが、量が確保できないので実戦配備は無理だろう。
鍋や皿が減ってきたので、システムを使って新規で購入する。とりあえず皿や鍋として機能すればよいので、見た目は二の次だ。安定のステンレスである。
なんでFPS+フライトシューティングのゲームで家具から家電まで購入できるのかと言うと、マイハウス(ルーム)のコーディネート用だ。度々思うが、ゲームの趣旨から外れている項目が多く販売されている。逆に言えば、プレイヤーならば誰でも兵器を買えてしまうわけなのだが。
食器を揃え、炊飯長と共に試行錯誤を行っていると、時たま彼女も顔を見せ、ツマミ食い……と言う名の本人曰く「意見具申」を行っている。扉からヒョッコリと顔だけ覗いてくる仕草の株価が、最近、自分の中ではストップ高だ。
普段は自分相手にはともかく、他の隊員の前では絶対にやらない仕草である。噂を聞くにハクを狙っている隊員も多いらしいが、そりゃ当然か。負けんぞ。
彼女に調理方法や食材を教える一方で、自分も彼女の講義を受けている。この世界に関する、基本的なことが中心だ。
そんな彼女と、今日は種族に関する勉強だ。
・人族(一番人口が多い種族。都市にいくほど、亜人をモノとして扱う者も多い。)
・亜人(閉鎖的。リザードマン、狼族、猫族など。ほとんどが放浪族だが人族の領域で生活している者も多くいる。ハクやエンシェントも該当。)
・エルフ族(人族の生活エリアに稀にいる。他族の血が混じったエルフ。男女とも美形で長寿。ダークエルフも同様、同類族。)
補足:ハイエルフ族(純粋なエルフ。閉鎖+排他的+放浪民。絶滅危惧種で長寿。高圧的な傾向があるらしい。ダークエルフも同様、同類族。)
・魔人(戦闘能力が高いが、他族との交流・戦闘はほとんどない。仲間思いが強い。)
・邪族(非常に好戦的な戦闘民族。人族・亜人に対して戦闘を仕掛けることが多い。)
・魔物(欲望や本能に基づき行動することが多く魔物同士で手を組むことは稀。邪族の支配下にいることも多々ある。ダンジョンなどで生まれる。)
おおざっぱに分類して、これら6つの勢力があるらしい。この点もファンタジー世界のセオリー通りに近いかな?ちなみにハクやエンシェントは亜人だが、ドラゴンの姿の場合は魔物扱いだ。
問題を起こしそうなところとしては……どう見ても邪族だな。あとは例に漏れないなら、意識高い系のエルフや人族か。
ササっと流したところで、この世界にある冒険者システムの話になった。街へ入るときなど、冒険者の場合は身分が証明できるので何かと便利らしい。
有名な冒険者になるには、Bランク以上となることが条件らしい。一番上がEx、Sと続いて次がA、B~Fランクまでが区分けされている。もちろん自分が登録するとFランクからのスタートだ。
登録者にはドッグタグのようなネームプレートが手渡され、ランクの更新時もしくは破損時に再発行となる。F、Eランクはブロンズ。D、Cランクがシルバー。B、Aランクが金。Sは白金、Exはオリハルコンのプレートだ。
とどのつまりが死体だったとしても身元を確認できるようにするのが狙いだろうけど、プレートそのものがSとかExクラスのドンパチに耐えられるのだろうかと疑問に思う。気にしないほうがいいのかな。
余った材料で焼いたクッキーを摘みながら20分ぐらい話し合っておりコーヒーが進む。なごむねぇ~。
「ちなみにですが、貴族や王の立場に居る者は冒険者になれませんので私も未所持です。」
「なるほどね……でも実力を聞くところ、ハクはExランクってことで良いのかな?」
「もちろんです!オリハルコンプレート程度の冒険者には、負けません。」
小さく胸を張ってエッヘン顔、最近チラホラ見せてくる。何度見てもくっそ可愛いなオイ。
ところでExランクとなると、どんなことをやっているのだろうか。当たり障り無い程度に聞いてみよう。
……興味本位程度に気になったので聞いていたが、マジモンのチートでした。やっていることが色々とブッチぎっている。ハクの種族を忘れていたが、さすが古代神龍。ここまでくると、地上戦は一人で任せといて大丈夫なレベルですね。
でもそんなことをやれる割に勇者に負けたってことは、相性は大事なんだなぁ……。あと、あのモリゾーに勝てるのも納得である。
話ついでにSランクの強さを具体的に聞いたが、この世界の近衛兵で構成される1個小隊を超える強さを持っていると判断できた。自分達とは武器も戦いも違うから把握はしづらいけれど、ようは遠距離武器を持たない特殊部隊みたいなものだろう。それでいて単騎でエリート部隊の1個小隊以上となると、かなり強力な戦力だな。Aランクは1個分隊程度らしいが、こちらも5-8人分の戦力と考えれば十分だ。ポロっと付け加えられた「冒険者においてAランク以上は滅多に居ない」という説明も、納得できる。
しかし魔物となると話は別で、Aランクも多数が知られているらしい。強力な相手なので多人数で挑むらしいのだが、なんとも人間らしい光景だ。
「あ。宜しければ、マスターのランクも拝見したいのですが……」
はい、ノーランクです。冒険者登録なんぞ、全くもってやっておりません。
……あれ?なんか、彼女が真顔になってるぞ?最初に出会った時よりも真顔だぞ?
「……マスター。今、なんと?」
「冒険者など登録していませ「何故でございますか!!」」
うおっ、凄い剣幕で身を乗り出してきた。顔が近い、近い!
「お、落ち着け!どうしたんだ。」
「ハッ!も、申し訳ありません、取り乱しました。」
顔を少し赤らめながらパッと離れて、頭を下げてくる。前にもあったな、こんなこと。しかし、そんなテンションでも気品があるのは流石である。普段、皆に見せている無表情からすると随分と新鮮なため、個人的にはウェルカムだが。
普段の表情からするに……こんな表情や行動は、王族だった頃は見せてなかったんだろうなと、ふと思う。子供の頃は身内にも見せていたかもしれない表情だが、今の彼女を見たことがある人が極少数と考えると、なんだか嬉しいものがある。
自称奴隷ということで自分の配下に居るが、リラックスしてくれているということだ。彼女が選択した結果がこうなっているわけだが、それでもガチガチに対応されるよりはありがたい。
何より自分自身も、そんな彼女を見ていて気が休まる。
……自分でも分かるぞー、完全な一目惚れだ。容姿や性格も極上だが、凛としている時と今のギャップも凄く良い。狙ってやっていないのだろうから尚更だ。
端から見たら「ちょろい」とか「単純」などと煽られるだろう。しかし、我慢が無理なものは、無理だ。
いかんいかん、これは自分の一方的な感情だ。ここでゴリ押しして嫌われるのがテンプレだ、気をつけなければ。
しかし、彼女の顔は相変わらず複雑だ。手の甲を口に当て、考え込んでいる。
「どのように思考を巡らせても、考えられない。有り得ない。」という心境が、一番近いかな?そんな感じの表情だ。自分としては想像も付かないけど、何が問題なのだろうか?
いっそ聞いてみるかと考えていると、彼女が静かに喋りだす。いつもの無表情だ。
「……でしたら、商業者登録を?」
「やってませんね。」
「……マスター、申し上げます。お気分を害されましたら、お許しください。」
「お、おう。」
その後、彼女の口から出た言葉は強烈だった。要約すると以下となる。
……なんと、この世界において、自分ほどの年齢で冒険者もしくは商業者登録を行っていない者はExランク冒険者よりも少ないらしい。
ちょっと待て女神、こちとら何も聞いてないぞ?あれか?詳しいことは自分で調べろ的なスタイルなのか?
「えーっと……つまり自分は?」
「……申し上げにくいのですが、貧困層以下のご身分になってしまうかと。」
ニートってことか。8492においてだが、あながち間違いじゃない。そんな心境が顔に出てしまったのか、彼女の眉間に少しシワが寄った。
「……ま、まぁ、別に困ってないし良いんじゃない?」
「……随分と簡潔に仰いますね。」
と言われてもねぇ……。このままだと中途半端なので、話を付け加えておこう。
「どんな尺度でランクを測るのかは知らないけど、自分は自分さ。FランクだろうがExだろうがランク無しだろうが、強さが変わるわけでもないし、全然気にしないね。」
「……なるほど。そのようなお考えということで、納得しました。」
よし、半ば強引に納得してもらったところで次の話題だ。こちらからの相談、というか講義依頼になる。




