4話 知識交換
「ごちそうさまでした。」
「エネミーサンドウィッチー’sデストローイ。ごちそうさまでした。」
「?」
「いや、なんでもない。」
いやー、見事な食べっぷりだった。空腹気味だったことも手伝ってか、瞬く間にサンドイッチが消えていった。軽く3人前ぐらいあったのに、だらしない耐久力である。
食べる速度こそ超特急だったとはいえ、具材が変わるごとに感想を言ってくれた上で美味しい美味しいと食べてくれるのだから、こちらとしても大満足です。しかし、食べ終わった後の一言が気になって仕方ない。
「是非、また」なんて言葉で締めくくられたものだから、「リピート」の意味が食い物なのかデートのようなお出かけなのかで悩んでしまい、落ち着けずにコーヒーを一気飲みしてしまう。明らかに前者であり、自分の勘違いであることは明確なのだが……おかしいなぁ。生きてた頃は、女性が相手でもここまで浮ついたことは無かったんだけどなぁ……。
「マスター、どうかなさいましたか?落ち着かないといったご様子ですが。」
「っ!?大丈、夫大丈夫。ここいらは来たことが少ないから、ちょっと警戒しちゃってさ。」
「なるほど、御尤もです。」
よ、よーし、誤魔化せたぞ。テンプレにも載っていそうな回答だが、我ながら良い返答だ。誤魔化せたよな?
念のため、もう1つ話題を挟んでいこう。本来の予定であった、海軍施設への移動のことだ。
「ところでこのあとは……そうだ、海軍施設を案内しようと思ってるけど、他に行きたい所とかある?」
「いえ、しばらくは全体を知りたく思いますので、マスターのご案内にお任せいたします。」
「りょーかい。今更だけど、この車両に乗っていて気分が悪くなったとかは無いかな?」
「そうですね……まだ音に馴れませんが、特に問題ございません。」
自動車はさておき、恐らくは馬車にも馴れていないだろうと予想したため、聞いてみる。とりあえず、車酔いは起こしていないようで何よりである。
「マスターは馴れていらっしゃるようでしたが、普段からこの乗り物を使用されているのですか?」
続けざまに、今度は彼女からの質問が飛んでくる。会話のキャッチボールというやつだろう、しっかりと投げ返すべきだ。
「そうだね。距離にもよるけれど、車両の中だと雨が降っても濡れないし遠距離攻撃に対してもある程度は安全だから、使用頻度は高いかな。」
「あ、なるほど。雨天時の利便性が高いと思いましたが、確かに安全性も考慮できますね。」
「ただまぁ、自分の足で動かないから……使いすぎると運動不足が、ね。個人的に運転は好きだから、いつまでも乗っていられるんだけれど。」
「仰るとおりですよ、マスター。」
異世界に来る前でも社会問題なっていたが、中々に深刻な問題だ。自分も車を使用することで運動不足になるデメリットは理解しているが、便利なものは仕方ない。
「わかってはいるんだけれど、使っちゃうんだ」的なニュアンスを伝えるために苦笑すると、軽く笑って返される。「ちゃんと運動しないとダメですよ」と、遠まわしに叱られた気分だ。
しかしまぁ、車のことを知らないのに話を繋げることができるとはコミュ力が高いですね。これも王家の教育の賜物なのだろうか、良い事だけれど。
さて、会話も区切りが良いし昼過ぎの時間帯だし動くとしよう。
「じゃ、次は海軍拠点だ。港には自分のところの艦隊が停泊しているから、まずはそこに移動だね。」
「艦隊、ですか。船の集まりと聞いたことがありますが、認識は合っていますでしょうか?」
「うん、あってるよ。ただまぁ、艦隊と言えば戦闘艦の集まりだね。漁船の場合は船団って言うのが一般的かな。もしかして、あんまり船を見たことが無い?」
「はい。私達は船を使用しませんし魔導飛行船も持っておりませんので、人族が住むエリアでしか見たことがありません。」
んん?魔導飛行船?随分と大きなファンタジー系パワーワードが出てきたな。
勝手なイメージだが気球みたいなものだろうか、それとも大きな手漕船の空飛ぶバージョンだろうか。魔導兵器とジャンルは同じだろうが、もうちょっと詳しく聞きたい。
しかーし、こちらの質問ばかりしていては好感度がダウンする恐れが大きい。食事系の話題に振って、そこから繋げてみるか。
「あードラゴンだと飛行系は不要だもんねー……。あまり船を見たことが無いって言ってたけど、海産物とかも食べない感じ?」
「はい、私達は魚を採ることもありませんし、滅多に食しません。何度か晩餐に出たことがあるのですが、肉を使用した料理の方が美味と感じました。」
「へー、そりゃもったいない。モノの新鮮さや調理方法と食べる人次第だけど、肉料理よりも圧倒的においしいものも「マスター、是非!」あっはい、機会があれば……。」
予想通りに食いつきが良い。釣っているわけではないが、食べ物の話はウケが良いな。
海老で鯛を釣るならぬ鯛でドラゴンを……フィーッシュできるわけないか、うん。
「それにしても、魚は知っているのに誰一人として漁を知らないってのも、珍しい話だね。交易か何かで得ているのかな?」
「はい、頻度としては稀ですが手段は交易です。干からびた魚が、物珍しさに献上されることがありました。正直なところ、好んで食したいとは思えませんでしたが……。」
交易ねぇ……持っていくまでに時間がかかると思うけれど、ちゃんと冷凍されているのだろうか。
冷凍していないとしたら腐るだろうし、ハクの「干からびている」という発言となると、干物の可能性が高いかな。ちゃんと調理してあげれば、ベースが干物でも美味しいんだけどね。
「なるほどね。もし興味がわいたら、漁に使う船のことも学ぶと面白いと思うよ。こっちは逆に魔導飛行船を見たことがないんだけれど、よかったら説明してもらえないかな。」
「説明、ですか……私も動力など詳しいことは存じていない上に説明が難しいのですが、容姿としては金属製で、立体的な大きな楕円の下に、居住スペースの突起部分があると言った具合です。」
「あーなるほど。姿はわかったよ、ありがとう。」
「あら。今の説明で納得されるとは、ご存知でしたでしょうか?」
「いや、見たことがないのは本当なんだ。動力源や素材は違うけど、似たような乗り物を知っているだけかな。」
「なるほど。」
彼女の説明で合致した、魔導飛行船とは文字通り飛行船的なニュアンスだろう。素材や動力はどうあれ、これもファンタジーの世界ではよく出てくるものだ。
シルビア王国にあった魔導兵器を基準にすると、空を飛ぶのは厄介だが、そこまで脅威ではないだろう。あとは、それがどのように使われているかだ。
「ちなみに使用用途、大きさ、速度とかはわかる?」
「用途は輸送もしくは戦闘用ですね、速度は馬が走る程度です。大きさは……私が羽を広げた程度の居住区があり、楕円部はその2倍程度でしょうか。」
目視計算だが彼女が羽を広げると50m弱なので、2倍となると100m。この世界の科学力では持て余す大きさだし居住区との比率が釣り合っていないが、『魔法』とやらを使えば容易に動かせるのだろう。
セオリーからすると200m級のものが存在しそうな雰囲気はあるが、魔導兵器への攻撃を見るにGBU-24を使用すればダメージは通るだろう。動きが遅いから、空対地ミサイルも有効か。
彼女の言葉を全面的に信用すると戦闘用の物もあるので、対策は必要だ。あとで、CICあたりに情報を流しておこう。そうなると、純粋な魔導船とかも居るのかねぇ?動力原理などはサッパリわからないが、個人的に手漕船の空飛ぶバージョンなら見てみたい。
ってイカン、話が長引いた。気づいたら食事終了から30分も経過している。既に海軍基地には行くと連絡を入れているので、遅れるのは宜しくない。自分が総帥である以上、規律を守るのは猶更だ。
出発することをハクに伝え、L-ATVに乗ってもらう。エンジンをかけギアを入れ、海軍基地へと走り出した。すると、速度が50㎞/hに達した時点で戦闘機がすぐ横を超低速で追い抜いていく。3機編隊であり、機体名はF-16Cファイティングファルコン。
ガルムやメビウスと同じく、そのシリーズでは有名な飛行隊、クロウ飛行隊だ。3人とも非常に陽気な性格であり、とっつきやすい性格をしてる。物は言いようで、悪く言えばおふざけが多いのだが……。何しに降りてきたんだろうか、聞いてみよう。
《ホークよりクロウ隊。こんな低空で何してんだ、曲芸飛行か?》
《クロウ1より総帥。いやーすいません、総帥が美人を連れていると話題になっているものでして、飛行ついでに様子を見に。》
……ほぅ?
《クロウ2よりクロウ3、チラっと見えたが冗談抜きでマジもんの美人だぞ。》
《本当か!?水色の髪の美人さん、こちらクロウ隊3番機のPJ。趣味はポロ、あの~馬に乗ってやる《ホークよりクロウ隊、まさか哨戒飛行の任務中に私事を挟む奴は居ないよな?》イ、イエッサー!》
《ゴーストアイよりクロウ隊。別の周波数で何を会話している、私語は慎め。》
《ク、クロウ1、ブレイク!》
《あっ、ちょ!隊長!逃げないでくださいよ!隊長ぉぉぉ!!》
クロウ1と2が綺麗にブレイクし、上空へと逃げていく。置いていかれたクロウ3は、慌ててその後を追っていった。
総帥権限で本日のクロウ隊のフライトスケジュールを緊急確認したところ、現在は哨戒任務を終えて帰投する時間だった。まったく、よりによってナンパかよ。
正論中の正論でクロウ隊を黙らせ、やれやれとため息をつく。クロウ隊の性格からして本気のナンパではなく、興味9割ぐらいの内容だ。それでも、気分を悪くする人は悪くする。男からすれば距離を縮めたいだけの考えでも、相手からすれば、そうは受け取ってもらえないことも多いのだ。
「ハク、頭の悪い無線通話ですまんな。」
「いえ、今の程度でしたら挨拶のようなものでしょう。下種な視線や言葉には慣れておりますので、全く問題ございません。」
……言われ慣れているって、それはそれでどうなんだ?王族だろうに……親の見えないところで言われていたのかねぇ。
そして「気にしないと」言わなかったのは、無意識に気にしているからだろうか。ともかく、掘り下げない方が良い内容なのは確実だ。
話の内容を変え、マッタリとした雰囲気のままドライブを続ける。話をしていると時間が過ぎるのは早く、予定時刻ピッタリに海軍拠点に到着した。




