表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第2章 動き出す生活
30/205

3話 いっぱいたべる君


いざ、尋常に。そう言わんばかりの気迫で、彼女はバスケットに手を伸ばす。自然と王家スキルが発動したのか、しっかりバスケットの端から選択した。その辺りは、身に叩き込まれたが故の自然動作なのだろう。


……。ってことは、食い気が素か。王女じゃなければ、どこかの料亭の看板娘あたりが似合いそうだな。お客に料理を奢ってもらっていても不思議ではない。美人だし。

そんなことを妄想していると、彼女がサンドイッチを口に付ける。唇に触れた程度でまだ食べてはいないようだが、ひとかじりは小さいが具の量も多いため、一口目からパンと具を同時に食べることが可能なように作ってある。



「これは……パンで具材を挟んでいるのですね。これほど柔らかいパンは、初めて見ます。」

「こっちだとこんなのが普通で硬いほうが珍しいんだけど、ハクのところは硬いパンが主流なのね。」

「ええ、極稀に出された柔らかいものでも、このパンの足元にすら及びません。ところでマスター、この具材の甘い香りは……」

「まぁまぁ、食べてみたら?女性なら、大半が好きな味だと思うよ。」



手に取ったのは、イチゴジャムのサンドイッチ。本当はデザート感覚で最後に食べるものだが、彼女が気になったものから食べてもらえれば本望だ。

彼女は手に取ると、上下左右に見回す。どんな味なのか食感なのかも想像できないと言いそうな仕草で、静かに口に運んだ。そして、一口。



「こ、この味はフラガリアですか!?」

「そうそう、フラ……え?」

「えっ?」



ふ、ふらが……なんだって?フラググレネード?

あっはい、違うのですね。自分で言っておいてなんだけど2文字しか合っていないし総文字数からして違うわな。



「ふ、フラガリア、でございます。」

「えーっと……あれか。ハクが味覚を間違えるとは思えないから、呼び名が違うだけだと思う。」

「私の味覚はさておき、フラガリアに間違いありません。時たま王家の晩餐会に出てくる高級食材ですが、これほどの甘味のものは滅多に口にできるものではありません。」



味覚に関しては綺麗にスルーされてしまった。結構な確率で、信頼できる精度だと思うんだけれど。

真剣な口調でそう言いながら、ハムっと更に一口。ホワーっとした幸せそうな顔が可愛らしい、王女の威厳や品格など皆無である。



「へー。ちなみにこれは、そのフラガリアを濾して味を凝縮したんだよ。」

「の、濃縮……フラガリアを濃縮とは、なんと贅沢な……。それほどまでに供給が安定していると仰るのでしょうか、マスター。」

「うん、そういうことになるかな。たぶん、生産元で栽培管理してると思うよ。」

「栽培!?あの生育が難しいフラガリアをですか!?」

「そうそう。だから、こうしてしっかりと甘味を管理できるんだよ。」



自分が知っている『フラガリア』はハウス栽培だ。クリスマス需要のせいで本来の旬ではない時期が旬になっている食材として、学校の授業にも出てくるほど有名である。ハクが言う『イチゴ』がどのような形状かわからないが、栽培となると野イチゴでは無さそうだし一般的な苺と似たような形状なのかな。

AoAシステムで買える苺がどこ産なのかは気にしたこともないが、炊飯長は「全国一に匹敵する糖度を持っている品種」と言っていた。どの品種の苺に関しても一般的だが、恐らくはハウス栽培だろう。自分達が食べているのは、自然栽培では安定供給不可能な甘さと量だ。


そういうわけで、彼女に人工栽培であり発芽から収穫までを管理していることを伝えると、遠くを見つめている。はて、何か思うところがあるのだろうか。



「……幻想郷は、マスターがお持ちだったのですね……。」

「またまたご冗談を。」



あれか、女性の例に漏れず甘味に弱いのか。今度、イチゴを使ったデザートでも作ってやるかね……流石にレシピを見ないと作れないけれど、きっと気に入るだろう。


彼女は幸せそうな表情と共に、ゆっくりと噛み締めている。こんな表情をしてもらえると、作った方としても気分が良い。あまりにも堪能しているので気分転換に淹れたコーヒーを啜っているうちに、彼女はイチゴジャムサンドならぬフラガリアサンドを平らげた。ガッついているようで食事の動作は大人しく、見ていて飽きない。そして、微かに口元についたジャムを拭き取る動作が可愛らしい。



「非常に堪能できました。他の具材はまた違うようですが、何を引くか分からない楽しみがありますね。」

「そうだね、大人数でワイワイ囲むのにも向いてるよ。さ、次をどうぞ。」

「先程は私が選びましたので、次はマスターがお願いします。」

「おや、了解。じゃー……1個横の、コレで。」



1つの具材を4つ作ったので、縦に進むと再び同じものになる。

そのため、1つ横のモノを選択する。自分がとったあとに、ハクも続いた。



「この食材は、見たことある?」

「半々です。レタスは理解できるのですが、この肉のような食材は何でしょう?」

「ベーコンって呼ばれている燻製肉だよ。それにレタスを足すことで食感を加えて、手製のタレで味付けしているんだ。自分好みの味になってて、ちょっと薄味だけど。」



イチゴはフラガリアという呼び名だったが、レタスは普通にレタスなのか。何か基準があるかもわからないので、とりあえず名前に関してはスルー。


具材的にレタスとくれば普通はハムなのだろうが、個人的にはベーコン押しである。柔らかいパン、シャキっとしたレタスに合うのは、噛み応えの有るベーコンという持論だ。

ま、とりあえず食べてみてくれと説得する。彼女は「それでは」と一口パクリ。



あ、ハクに電流走った。そんな表情だ。驚愕のコメントがくるぞ、これは。



「……コクンッ。こ、これが燻製肉なのですか!?まさか、あり得ません!このような肉が保存食として罷り通るのですか!?」



口に含んだまま喋らないのは流石である。漫画とかだと、咀嚼物がマシンガンのごとく飛んできていたシチュエーションだ。特に唾液を含んで咀嚼されたパンは、そんな状況になりやすい。いくら彼女の物とはいえど、飛んできた場合は流石にご褒美ではない。遠慮願いたいものである。

ところで彼女が言っている燻製肉は、恐らく保存用に大量の塩を使用したもののはずだ。あれは非常に硬いうえに旨味が抜けており、とても食事として提供できるものではない。食事ではなく、名目通りあくまでも保存食であり栄養を摂取するために使用される程度だ。ソレが悪いとは言わないし土俵も違うが、自分が作ったベーコンの足元にも及ばないだろう。



「あー、多分作り方の違いじゃないかな……同じ『燻製』でも、このベーコンは日持ちしないんだよ。」

「そ、そうなのですか……。」



まって、この世の終わりみたいな顔しないで!ベーコンは自分の宝物庫にあるから、いつでも食べられるから!あとベーコンが無くなったって世界は終わらないよ!しゃぶしゃぶとかローストビーフとか、おいしい肉料理はまだまだあるから!



「むむむっ……これが野戦料理として提供できれば、士気向上に非常に役立つのですが……。」

「気温次第だけど、二日ぐらいならなんとか……ってアレ?軍事の話?」



その言葉で、彼女はハッとした顔をする。今の彼女は既に王女の立場ではなく、背負うものは少ないはずだ。少なくとも、国のことを考える必要は無いだろう。それでも最前線の兵を思ってしまうのは王女故か、はたまた共に戦場を駆けたが故か。



「……申し訳ございません、このような状況で。」

「いやいや、気にしないよ。仲間のことを考えるのは、大切なことだ。」

「仲間……そうですね。母国であるフーガ国で第一軍隊を率いていた時は、常に部下の事を考えておりました。王族として生まれたというのに手を出すことは戦いのみ、できぬ娘です。」



いかん、悪い方向に話しが進んでいる、彼女のテンションがダダ下がりだ。サンドイッチを頬張る一口が、病人レベルまで小さくなっている。ここまで感情が露になるとは、思っても居なかった。最初に会った時のポーカーフェイスとは、まるで違うほどだ。

しかし、この自虐は愚痴だろうか。普通とは違う言い回しで捕らえにくいが、フォローするべきだろう。事実、自分の本音でもあるし。



「ハクの国ではどうなのか分からないけど、自分としては『王族だから政治しかやるな』って考えは良くないなぁ。自分が率いている8492では年齢や経歴なく、本人の意見を参考に適材適所に配置されるね。」

「そのようなことが……いえ、とても素晴らしい事です。言うは容易いことですが、それを行えぬ者が大半です。」



大半どころか9割以上が該当するんじゃないでしょうか?AoAでも居たからね、そんな軍隊。そういう軍隊は数値化すると強く見えるんだけど、連携力が成ってないことが多かった。『やらされる』と『好きな事をやる』では、大人でも子供でも意欲や伸びが大きく違ってくる。

ハクも言っていたけれど、これを行えない上層部は非常に多い。なぜならバランス調整が必要のために簡単に行えることではなく、下準備にも時間がかかるからだ。それでも一度基礎さえ築いてしまえば、あとは勝手に成長する。その結果が、I.S.A.F.8492という変わり者エース揃いの軍隊だ。


先ほどはナチュラルに彼女の出身国の名前が出てきたが、フーガ国の軍隊も問題を抱えているのだろうか。ハクも気にしているし、話を広げてみよう。



「どうしても固定概念の精神が付きまとうからねぇ……。ところでさっき保存食の事を言ってたけれど、ハクが居た軍隊でも深刻なの?」

「はい。元々私たちは保守的でして、他国どころか付近への進軍歴も百年単位において微々たるものです。そのため前回のシルビア王国への進軍時に、食糧事情に関して煮え湯を飲まされました。」



む、まーた勇者がらみか。せっかく排除したってのに、アイツはどれだけハクに悩みを与えてんだよ……。

ところでハクは亜人であり、龍族だ。そしてドラゴンと言えば、世界で一番に匹敵する実力者。数少ない過去の遠征でもすぐに片が付いてしまい、食糧事情に関しては『配慮しなくてもよかった』というのが当時の事情。だから、長期戦となったシルビア王国での戦では苦労したということらしい。


生き物は失敗から学ぶと言うが、学んだところで解決できるとは限らない。真空でも使えれば話は早いのだが、容器の開発が困難だろう。アイス系の冷却魔法で突破口を見出せると思うが、温度維持以外の要素も大きく絡んでくる。

ともかく一度、フーガ国へと足を運ぶ必要があるだろう。保存食に関してはある程度アドバイスできるし、向こうが求めている保存食の基準も調べなければならない。向こうの常識はこちらに通用しないが、逆も然りだ。魔法と呼ばれる奇跡の力は理論こそ科学と似ているが、その力は計り知れない。それを使うことで、新たな道が生まれることもあるだろう。



「戦時でなくても、食糧や補給の話は難しいね。いくつか助言はできるかもしれないけれど、一度現状を見てからかな。」

「宜しいのでしょうか、わざわざご足労を……。」

「はははっ、まーた陸軍の連中に厄介になるだろうけどね。それでもいつかは行くことになるよ。野戦食料の話を抜きとしても、ハクの家族が育てた国を見てみたい。」

「マスター……。」



……あれ、若干頬染まってない?なんか変なこと言ったっけ?言ってないよな?あれか、常識が通用しないと言う奴か!?今回は良い方向に働いたようだけれど、逆パターンもあるってことだよな……下手に発言できないのは恐ろしいぞ……。

と、ともかく話題変更だ!ヘルプ、サンドイッチ艦隊!!



「と、とにかく今は食べよう。カツ……肉の揚げ物を挟んだサンドなんか、まだサクサクで旨いぞ!」

「は、はい、頂きます!」



マナーなんぞクソ食らえと言わんばかりにバスケットの中央に手を突っ込み、カツサンドを掴み取る。自分の後に彼女も続いたが……照れ隠しか、食べる速度が速い。

このままでは自分の分も全滅しかねないので、負けじとパクパクと応戦する。自分で作っておいてなんだけど、手作りは美味いんだよ!



そして10分後、サンドイッチ艦隊は全滅した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ