21話 聖堂にて
「お。足取りが軽そうだな、ハク。勇者の排除は終わったよ、呪いも効力を失ってると思う。」
「はい、こうして支障なく会話をすることも可能となりました。マスターのお陰様でございます。因縁が1つ、無くなりました。」
陸軍の部隊が王宮を制圧した直後、時間的には日の入りが始まった頃だ。自分は、相変わらず聖堂の鐘を鳴らしている。
制圧の報告から暫くすると、彼女が階段を上がってきた。その足取りは以前と比べて明らかに軽く、声にも張りがある。出合った時の表情も明るい。
普段は仏頂面の彼女だが、今はクスリと笑っている。口をゆがめる程度の笑顔なのだが、照らす夕日によく映える。
この聖堂に張られていた強力な結界も消えており、今となっては警備兵も消えたため誰でも侵入が可能となっている。現に彼女も、何等問題なく突破できたようだ。
魔法無効に関しては単に防御系統に影響するという認識だったけれど、意外と使用用途があるかもしれない。どこかに潜入する時などは、強力なアドバンテージになり得るかな。
「少し、魔力を通してみます。」
そんなことを考えていると、彼女が動きを見せる。距離をとり、数回手をグーパーしてそう言うと、彼女の周囲に白い渦のようなものが形成された。その流れに沿って空気が動いているらしく、風……いや、旋毛風のような現象が発生している。
これが魔力の流れなのだろうが、自分は魔法無効の支配下にあるため実感は無い。十数秒の間にわたって行われ、静かに渦は消滅した。
「問題ございません。呪いを受ける前と、何等変わりはございませんでした。」
「そうか、それはよかった。」
明るく報告してくる彼女を見て、こちらの表情も緩くなる。仲間が力を取り戻したのは、本当に嬉しいことだ。確認が終わっても魔力を使っているのか、何度か軽い詠唱を行っている。行為が終わった後の表情も明るい、楽しそうで何よりだ。
……なんだか剣のような物騒な代物が消えたり見えたりしているのだが、多分気のせいだろう。
見えた限りだけど、双剣と長剣の2種類があったな。……あれ、気のせいじゃないってこと?
数分すると満足したのか、詠唱が終わってこちらに近づいてきた。その足取りは明らかに軽く、肩の荷が下りたと言って良いだろう。近くまで来ると、話しかけてきた。
「宜しければ、交代致しましょうか?」
「気持ちはありがたいけど、これはやらせてくれ。自分ができる戦争だ。」
銃も使えなければ機械にも乗れない自分ができる、唯一の攻撃が陽動である。
幽閉されていた住民を鼓舞させ、戦いの流れをもっていくための、鐘の音だ。聖堂が封鎖されていたことはすぐに分かったため侵入して鳴らしてみたのだが、狙いは的中。
防空壕から飛び出した住民から、クーデター軍や配下の野党達の居場所が次々と判明。第一歩兵師団が、現在も複数の敵拠点の順次制圧を行っているとのことだ。
「……そうですか。でしたら、私程度が手を出せる場面ではありませんね。ですが、一点理解できません。相手の首を取ることは、戦いの場に立つ者としての誉れ。マスターはその役を家臣に譲られたようですが、宜しいのですか?」
「何とも思わないなぁ。個人的な意見だけど……それが戦いなら、自分で済ました方が良いんじゃないかな?」
「と、申しますと?」
「自分達がやってきたこと。そして今やっていることは、戦いじゃなくて戦争なんだ。普通の戦争ってのは共に相手の陣営を殺す理由があり、お互いに守るものがある。やり直しなんて効かないし名誉よりも結果が大事だから、少しでも勝率が高い方法を優先する。自分より部下が優秀だから、部下を出撃させるだけだよ。」
基本的で単純、しかし重要なことだ。戦いには名誉の死とか言うものが存在するかも知れないが、戦争に関しては、負けては何の意味もない。
どんな場合でも、勝った方が正義になるのが戦争だ。だから、戦争をやる以上は、絶対に勝たなければならない。
「なるほど……私は前線ばかりでしたので、思うこともありませんでした。戦争と戦いは同じものだと思っておりましたが、異なるのですね。」
「戦いは個人同士だけど、戦争は集合と集合の考えのぶつかり合い、と思えば理解しやすいかな?どこにも答えなんて無いから、難しい話だけどね。」
偉そうな事を言っておいて明確な答えが出せないため、目をあわさずに口に出す。なんとも締まらない結末だ。彼女もそれを察したのか、追及してくることはなかった。その代わり、別の話題が飛んでくる。
「そのコートはエンシェントから贈られた物ですね。私達では使いこなせませんでしたが、元のお召し物にも似合っております。」
「性能そのままで控えめな見た目だと、嬉しいんだけどねぇ……。」
彼女に褒められているようで実質からかわれ、その意図が分かっているので苦笑で返した。今の自分の服装は、AoAで作成した黒と濃い灰色の迷彩がなされている陸軍用戦闘服だ。軽さと防刃性能は自分にとってはベストマッチだったが、黒髪黒目も相まって、猶更のこと戦闘服が目立つかな。
更にその上から、エンシェントにもらった黒のロングコートを着ているために余計に黒い。一度だけ出撃前に鏡を見たが、見てくれは近代版アサシンもしくは中二病を拗らせた不審者である。
今はフードを取っているため、まだマトモだろう。被っていると目深になるため、誰が見ても不審者極まりない。門番とかには、まず一発で止められるだろう。
「ま、このコートの特殊効果は大事だし、見てくれもアサシンっぽくてハッタリが効くじゃん?」
「人目につきました時点で、アサシンとしては失格でございますよ。」
「ご尤もでした。」
カッコをつけたら、軽く笑いながら痛いところを返された。それでも空気としては、ほのぼのマッタリで、落ち着ける。
しかし彼女と話していると忘れそうになるが、仲間は絶賛戦争中。こちらも、そろそろ切り替えが必要だ。
「住民が飛び出してきたね。隠し拠点の制圧も、あらかた終わったようだ。」
「お見事な速攻です。」
「仲間達の力だよ。色々と使い道がある翼竜とドラゴンの死体を回収したら、自分達も戻ろう。皆のメシの準備だ。」
「承知しました、マスター。」
鐘の音を止め、炊飯部隊が居る地点に向かって走り出す。さっきノーマッドが着陸していたから、もしかしたらマクミラン達も居るかもしれない。奴等の好物はカレーだ。任務中はレーションで過ごしていただろうから、久しぶりにマトモな食事となる。
うまい食事と睡眠、そして命があれば、兵士は、また戦える。
鐘を鳴らして陽動を誘った次は、奴等の胃袋との戦いだ。こっちには宝物庫に入った大量のカレー鍋がある、準備には抜かりない。流石のタスクフォース000や第一歩兵師団(1.2万人弱)も、軍人が食べる量換算で2万人前もある在庫に加え、3万食ほど作れる炊飯部隊の物量は処理できまい。
ふはは、どこからでもかかってこい!




