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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第10章 フーガ国
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14話 ドラゴンが見た蹂躙・空対地

 交戦空域から少し離れた地点に、4機のF-35戦闘機を護衛につけて飛ぶ2機の大型航空機の姿があった。攻撃に加わる様子は全くなく、傍から見れば傍観者のようにも見えるだろう。

 機体胴体の中央部少し上に備わる大型レーダー、“ロートドーム”を作動させながら飛行する2機の片方、空中管制機イーグルアイ。傍から見れば安定した飛行を見せているのだが、その内部においては、まさに戦場の如く、言葉という弾丸が飛び交っていたのである。



「Who's AG unit closer to Kill Box five Alpha?」

 KB-5-αに最も近いAG(Air-to-Ground)部隊はどこだ?


「Hunmer team,Rudale team incoming. This 2 teams is eligible.」

 ハンマー隊とルデール隊が接近中。彼等が適格かと。


「Okay, send the 2 teams over to Kill Box five Alpha. This will be a danger close-fire attack.」

 わかった、2部隊をKB-5-αに送り込む。非常に激しい近接攻撃になるぞ。


「Roger that. Guidance, switch the 2 teams to Kill Box Five Alpha, attack to 30000 feet.」

 了解。誘導班、2部隊をKB-5-αに向かわせろ、攻撃進入高度は高度9000メートルだ。



 その内部では、演習で行っていたやり取りと同じ内容が繰り返される。もちろん訓練時と比較して座標や部隊名などは違って当然ながらも、学んだ内容を実践にて寸分の狂いなく発揮することができている。

 ここで言うKB-5-αとは、まさに今ハク達の軍勢が一戦やり合おうかという地点を指すポイントだ。



《Just to, uh, confirm Hunmer, Rudale team, we are not clear to fire on the buildings. We suspect there are civilians still inside at this point.》

 あー、諸君、一応確認するぞ。 建物への発砲は禁止だ。 現時点では、中に民間人がいると思われる。


《Copy that Eagle-eye, this is Hunmer team. Do not engage the buildings.》

 こちらハンマー隊、了解したイーグルアイ、建物への攻撃は禁止だな。



 現在においてハンマー隊とイーグルアイの無線は、ハクが持つ物にもリンクされている。無線から聞こえてくる聞きなれない言葉を聞き取ろうと必死のハクだが、まったくもって言葉の意味が分からない。

 記憶が正しければ、英語と呼ばれていた特徴的な言語。Copy thatなど一部は聞いたことがあるものの、その意味が何かとなれば答えることはできないのだ。



《Princess Haku, we're seeing enemy activity headed your way. Recommend you hold your position until we've swept up, over.》

 ハク王女、そちらへ向かう敵の動きが見られる。 こちらが一掃するまで現在位置を保持せよ、オーバー。



 続いて放たれる英語の無線から、彼女は「プリンセス・ハク」、「ハンマーチーム」が意味することは理解できていた。そして思い返す中にエネミーとムーブという単語が聞こえ、タスクフォース000やホークが時折使っていたシーンを思い出す。しかし当然、文章の意味までは分からないのは仕方のないことだろう。

 そう考えた直後、気配探知に敵軍の動きが引っかかる。凄まじい大軍で思わず心が浮ついてしまい、手を握る力が強くなる。他の邪族の軍隊と同じく魔法が通じないとなると、手に負えない度合いの物量だ。後方に居る味方の魔術師軍も察したのか、気配が慌しくなっている状況だ。



 突撃か、留まるべきか。英語と呼ばれる言語がわかれば判断もできただろうが、分からないモノは仕方がない。

 何を迷う、と、彼女は自分に言い聞かせる。周知の事実だが、ここは彼女が生まれた国だ。間違っていたらハンマー隊に申し訳ないと思いながら、少しでも自分達の手で食い止めるべきだと判断し行動した。



《Shit. she's moveing.》

《仕方ないさハンマー1、搭載兵装のみで配備エリアを決めた自分に責任があるから許してやってくれ。ハク、ようやく回線が通った。英語だとわからんだろう、通訳する》



 そのタイミングで聞こえてくる、己の夫が発する落ち着いた声。ハンマー隊の無線連絡に対してどうするべきかと焦った彼女の心が落ち着きを取り戻し、冷静な判断力が蘇る。

 まるで、傷口にかけられたポーションの様相だ。その余韻に浸っていたい彼女だが生憎とここは戦場であり、国の大隊を預かる身。浮つきかけた心を静めると、状況を確認するために声を発した。



《無線良好です、マスター。申し訳ありませんが状況が不明です、指示をお願いします》

《了解、敵部隊の大軍が方位3-4-0より接近中……チッ、森を突っ切ってくるぞ、既に至近距離だ》



 ホークからの情報は、彼女の気配察知と一致する。目の前には中規模の草原があり、その奥には山脈に繋がる深い森、山脈を越えた果ては航空部隊が交戦中の大草原がある。

 敵は森の奥から来たということであり、敵本陣の一部である可能性が非常に高いと彼女は判断した。大群となると魔法で対応することが王道だが、現在の敵部隊は大半を無効化する上に、今の彼女達はドラゴンに変化することが不可能だ。いくら今の姿でも強いとはいえ、数の暴力を前にしては焼け石に水と言っても過言ではないだろう。


 以前にホークも言っていたが、防衛戦闘となると質もさることながら数が重要となる。エースが一人いたところで、確実に味方に被害が出てしまうのだ。

 彼女がその言葉を意識した時に凄まじい大軍の姿が目に映り、一同は一斉に構えを取る。ハンマー隊から無線が入ったのは、そのタイミングの直後だった。



《Princess Haku, this is Hammer team. We're engaging targets ahead of you. Hold your position.》

 ハンマー隊よりハク王女、そちらの前方にいる目標を攻撃する。 現在位置から動くなよ。


《We'll neutralizing targets. Danger close, I'm repeat. Danger close.》

 我々(ハンマー1~5)が目標を無力化する。近接弾になる。繰り返す、近接弾だ。


《ハク、A-10戦闘機5機、いや10機の近接航空支援が来る。敵の攻撃に構うな、すぐに伏せろ》

《ルデール1より各機、ハンマーに続くぞ》

《了解。APに到達、地上攻撃レーダー作動。攻撃地点の分散は問題なし、ハンマー4に続く》



 ホークは低く力強い声でそう言うものの既に敵はフーガ国騎士団の真正面、最短距離にして約150m、そして10秒後には30mに迫る。敵の後方からは弓矢らしき投擲物が飛来している、すぐにでも陣形を変えなければ、フーガ国の部隊には多大な被害が出る。

 通常ならば互いに全力をもってぶつかり合い、相手の集団を弾き飛ばす行動に入る。突撃陣形もしくは防御陣形に切り替え、正面から敵を迎え撃つのが、フーガ国騎士における王道だ。全員がそう思い、ハクも考えは同じである。




「……けれど、マスターが仰るならば!」

「えっ?」




《Targets affirm. Guns, guns, guns.》

 目標補足、射撃開始。

《Guns, guns, guns.》

 射撃開始。


「全員、今すぐに伏せなさい!!」


《ロケット弾発射!》

《Fox-1, Fox-1.》

 空対地ミサイル発射!


「なっ、何を仰いますかハク王女!敵は目の前に――――」




 そこから先の言葉は誰にも聞こえず。また、誰の口から発せられることも無かった。




 止まる発声と消される叫び、激しく上下に揺れる地面と弾けるように響く空気、身体の芯に響く程に凄まじい衝撃を与える炸裂音。彼女がA-10と呼ばれる機体の機銃掃射による近接支援攻撃を間近で受けたのは初めてだが、講義で聞いたとおり、表現できない程の攻撃だ。

 飛来する弾丸は微かに視認できるが、一つの威力が途轍もない。最上級魔術師ですら数秒の詠唱を必要とする威力を持つ一発が、豪雨の雨粒の如く敵集団に襲い掛かっている。着弾地点は明らかに炸裂しており、まるで小型の爆弾が爆発し続けているかのような衝撃と直下型地震のような揺れが発生している。


 まさに目前の30mより先にひしめいていた敵軍の姿は一度瞬いた間に見えなくなり、放たれていた矢の雨すらも消滅した。歩兵が持つライフルや重機関銃と呼ばれる強力な武器とすら、話にならない程の差であることは明確だ。

 自分自身を褒めるつもりは無いものの、彼女自身ですら中腰で留まるのが精一杯の状況だと内心思う。フーガ国の兵士は全員が膝を付いて頭を抱えており、微塵も動けそうに無い。この衝撃が後方に居る彼女の両親にまで届くことは無いと考えながらも、攻撃規模の大きさに、ついつい心配してしまう。


 続いた時間にして、約10秒。炸裂音が収まったものの、依然として視界は土煙に包まれている。どさくさに紛れて発射された空対地ミサイルやロケットポッドの煙も相まって、砂埃や煙の多さは猶更だ。

 炸裂音が収まる直前から、「ヴオオオオォォォォ」という獣の呼砲が、攻撃と同じ時間だけ木霊している。この呼砲こそが、GAU-8、アヴェンジャーからPGU-14/B対装甲用焼夷徹甲弾が発射された際に生じる射撃音なのだ。


 ハンマー隊に続き、最終的に攻撃を放ったA-10の航空隊はまさかの10機による大編隊。大気を切り裂いてフーガ国を守り続けた山脈に木霊し、それぞれの呼砲は鳴り止まない。

 それは天使による救済の声か、悪魔による破滅への雄叫びか。敵か味方かで、ここまで聞こえ方が変わる声も稀だろう。



「何が起こった!?平原が噴火でもしたってのか!?」

「な、なんだ今の衝撃は!敵の大魔法なのか!?」

「な、何も見えん!落ち着け、全員落ち着けぇ!!」



ハンマー隊の攻撃により味方部隊は混乱しており、部隊長が収めようにも収まらない。このままでは同様が広がる一方であり、誰かが何とかして沈めなければならない。



「総員聞け!今の攻撃は友軍によるものだ、心強いぞ!」

「ほ、本当ですか!?」

「本当ですかハク様!ならば反撃の機会もあるぞ、全員突撃用意!!」

「「「「「応ッ!!」」」」」



 そのためハクは、声を張って士気を高める。驚いてはいるものの、この場で唯一混乱していない凛とした姿は、兵士を率いる背中としては十二分だ。

 彼女自身も意を決した時、A-10の通過が発生させた風により土煙が消滅していく。己の夫が率いる超一流の精鋭部隊といえど、あれ程の数となると流石に撃ち漏らしがあるだろうと想定し、彼女は気を引き締めて―――



 ――――光景を目にして表情を険しくし、久々に肝が冷える感情を覚えていた。後続の兵士など、威厳を忘れ口をあけて固まっている。

 平原だった大地は視界が続く限り凹凸に塗れ、生命の1つも見られない。敵軍の雄たけびで騒がしかったであろう場所は、過ぎ去った機体のエンジン音が響くだけだ。



 それに混じる赤い粒は、”数秒前まで生命だったモノ”だろう。そして存在していたはずの総数に対して、この赤い粒の量は明らかに少なく釣り合わない。

 つまりは肉片として残ることすら許してはもらえないということを理解し、彼女は更に寒気を覚える。己の気配探知が正しければオークキングも複数体が居た筈だが、それほどの相手すら紙切れ同然と言うことになる。


 本来であれば魔法を使用して倒すべき対象であり、物理攻撃となると、屈強なドラゴンの兵士でも一筋縄では倒せない。今回の戦闘では魔法による能力強化の効力を大幅に軽減されるため、単騎が相手だろうと尚更だ。ソレを完膚なきまでに無に返している点は、明らかに尋常ではない。


 1年ほどホークと一緒に生活して理解したつもりではいたものの、彼女は認識を改める必要があると自覚する。いざI.S.A.F.8492が発揮できる航空戦力の一角を目の当たりにしたものの、常識どころか想定外すらをも超えているのだ。

 行われた攻撃の全てに魔法が使われていないなど、長い歴史を持つ竜の亜人でも前代未聞である。眼前で繰り広げられる光景に、周囲の兵士は理解が全く追いつかない様子だ。 


 もっとも、今回の攻撃にAC-130と呼ばれる機体が参加していないことを、彼女は知らない。これは作戦を立案したホークが原因なのだが、これほどの火力を見せた上で、いまだフーガ国には空対地攻撃の全力を見せていないというのが現状だ。

 そのAC-130は、ホーク達が戦闘を行っているエリアを飛行中。制空権を確保できたエリアから30mmにて的確な射撃を行っており、地上部隊を支援していた。



《The end. Looks like you're clear to move up. Princess Haku, we'll keep an eye on you.》

 攻撃終了。見る限りだが前進できる。ハク王女、念のため見張っておく。


《了解だハンマー隊。ハク、掃除が終わったようだ、前進してポイントδに集合せよ。イーグルアイは引き継ぎ任をせた、アウト》

《イーグルアイより総帥、了解しました》

《しょ、承知しました、マスター》



 辛うじてそう答える彼女だが、心境は未だに落ち着けていない。後ろの兵士たちの戦意は完全に砕け散っており、もし戦闘となれば日々の鍛錬を発揮できるかどうかも怪しい程だ。



《イーグルアイよりハクさん、無線をリンクした。これより偵察部隊による誘導を開始する、ビッグアイ6の指示に従ってくれ》

《承知しましたイーグルアイ、ビッグアイ6。誘導の程、お願い致します》

《こちらビッグアイ6、軍団がよく見えているぞ。まずは、目の前の空襲地点を越えてくれ。あー進路そのまま、速度はそちらに一任する》



 しかし、兵士である以上は進まないわけにはいかないのが実情だ。彼女は全軍に活を入れ、フーガ国の兵士は陣形を組んで行動を開始する。


 ビッグアイ6による誘導を受け、フーガ国の歩兵は誘導場所に向けて進軍する。しかし、ホークが狐族とハイエルフを助けた時のように、非常に温い難易度の進軍となっていた。

 敵が使っていたと思われる補給地点や罠らしき場所が森の所々に存在したが、ビッグアイ6はその全てを事前に見破っているのだ。これらは高度な魔法でかく乱されていたのだが、全くの無駄と言わんばかりの正確さを見せている。


 見上げれば、彼女の驚異的な視力をもってしても「ほんの微かに雲を引いているか?」と思える程度にしか映らないの高高度。そこから向けられる”目”は完璧以外の言葉が当てはまらず、敵であるならばどれだけ恐ろしい事なのかがよくわかる。


 報告を受けた内容はハクから各部隊の長にも伝えられており、彼らもビッグアイ部隊の凄さを嫌という程に理解している。進むにつれて口数が無くなり、不気味なほどの看破率に顔色が悪くなっていく。

 明らかに”偶然”ではなく、しっかりと把握していると言える誘導が続く。もう少しで、誘導完了地点が見えてくる距離でのことだった。



「あれほど居た敵は、どこに行ったのだ……?」



 ポツりと呟いたのは、遊撃部隊の隊長だ。言っていることはハクも理解できている。フォーカス6-1に乗って飛び越えてきた敵部隊。その気配が、全くもって感じ取れないのだから無理も無い。

 先程ハンマー隊が一掃した部隊も大軍に分類されるが、それですら比較にならない数だ。仮に一行がドラゴンの姿になれたとしても、フーガ国の全軍で相手をしても手に余る数である。



「いえ、しかしハク様、先程の現状です。あるいは……」



 自然と、小山を越える寸前で足が止まる。遊撃隊長は「潔く突撃ですね」などと言って気合を入れているが、はたして必要があるかどうか不明なものだ。

 ともあれ真意は、この丘を超えた先に広がっている。止めた足を進め、各々は自分の視界に事実を映した。





「……流石、マスター率いる精鋭の軍隊ですね。」



 彼女は思わず口元が歪んでしまい、そんな言葉が零れ出た。視界には多くのヘリ部隊と歩兵部隊が居るが、慌しい様子も無く落ち着いていると言って良いだろう。


 そして、その先に広がる大草原だった焼け野原。ものの見事に草原だった地点が焼けており、いたる所に大穴が存在しているのが見受けられる。

 多数の投降兵士が一箇所に集められており、その顔は地獄を見てきた表情に包まれている。大半の兵士が全身を震わせ、理不尽に処刑されるのを待っている様子だ。相手とて一人一人が屈強な兵士と見受けられるが、どのような光景を見れば、あの表情になるのかはハクにも分からない。完全に闘志は折られ、言葉による抵抗すらも行う余裕も無いようだ。


 通常ならば、大勲章どころの騒ぎでは済まない戦果記録。これで散歩と言い張ってフーガ国からの謝礼を受け取らないつもりなのだから、思わず彼女も笑みを浮かべてしまうものがある。



 あとは、一軍隊として礼態度と言葉を示すこと。それが、ハクという人物がフーガ国出身者としてできる最大の仕事と言えるだろう。



―――正直に言うと、そんなことよりも。早くマスターのお顔を拝見し、個人としてお礼を申し上げたい。私が育った国を守ってくれて、ありがとう。



そのような感情を心に秘めながら、彼女は残りの道を進むのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] わーい!更新だ〜( ´∀`) [一言] 見事なまでのオーバーキル。でも全力ではないっていう…… って結局惚気るんじゃないか!!
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