9話 フーガ国防衛戦~戦略的撤退~
Fox3―――某国の自衛隊では意味が異なるのだが、I.S.A.F.8492においてはアクティブレーダー(AIM-120等)誘導式の空対空ミサイルを射出する際に用いられる符丁である。ちなみにFox1がセミアクティブレーダー誘導、Fox2が赤外線誘導(AIM-9等)、Fox4が“カミカゼ”である。、
FoxとはNATOコードにおけるFoxtrotの略語であり、Fire(発射)の頭文字だ。「別にFire3でも良いのではないか」と思う者も何名かは居るだろう。参考までに、某国自衛隊でのFox3コールはミサイルではなく機関砲である。
アーサー隊が選択した攻撃は、F-15(2040C)に乗り換えた目的通りの運用である。5機のF-15C(2040C)に搭載されているのは合計100発のAIM-120Dであり、火力面・金銭面において二つの意味で凄まじいものがある。
とはいえコレもゲーム仕様を引き継いでいるために、“オリジナル”ではありえないミサイルのリロードが行われる。流石に通常と同じリロード速度では“バランス”が崩壊するために、リロード速度が非常に遅くなっているのは仕様である。
それでも、今回のようにミサイルキャリアーとしてのオンリーワンの運用が可能なのだ。たった5機の編隊で、大多数目標への攻撃が可能となるわけである。
そうこうしているうちに、フォーカス隊にも動きがある。ハクとケストレルの家臣が乗っているフォーカス6-1と護衛機であるイエロー飛行中隊の5機が編隊を離れ、北邪人国の軍勢が蔓延る地上を迂回するかのようにして東側へと進路を取った。
6機は最大巡航速度にて飛行を開始し、後方の編隊と距離を取る。アーサー隊によるAIM-120Dの一斉攻撃は、この編隊に注意を向けさせないためでもあった。
とはいえ、今回の攻撃は実戦では初めてである。ホークとしては、状況が気になって仕方ない。
Fox3の合図で後方よりミサイルが射出されたことはわかるが、彼が乗っている機体及び周囲のオスプレイのエンジンが発する騒音のために状況としては変化がない。パイロットが対空レーダーを見て引きつった笑いを見せており、つられて覗いたホークも同様の表情を浮かべる他が無かった。
《マスター、きました。左後方上空……す、すごい量のミサイルです!》
無線越しにとても驚いている彼女だが、どう頑張っても目視で見える距離ではない。瞳に高倍率レンズでもついているのかと呟きたいホークだが、演習の場面でも凄まじい視力を発揮していたことを思い出し喉に仕舞った。
と次の瞬間、大量のAIM-120Dミサイル群が上空を通過していく。それも相対速度の関係でミサイル本体は1秒弱の時間しか見えず、ミサイルのロケットブースターエンジンから発せられる煙で上空は何も見えなくなった。
《ゴーストアイより各機、AIM-120Dの全弾命中を確認。グッドキルだ、敵航空部隊の3割を撃墜。航空隊、攻撃開始だ!》
ミサイル群は無事に着弾したようであり、ほぼ同数の対空目標を撃墜している。そしてガルムやメビウスなどの空対空部隊が近接空域において交戦を開始したようで、次々と撃墜報告が無線にて報告されていた。
しかしながら1分もしないうちに、ホークが恐れていた項目も報告される。現代兵器が苦手としている、空における数の暴力が出現したのだ。
《なっ……敵増援、接近。数は空だけで9000オーバー、いや一万。小型から大型まで多数を含む、計測不能。》
《いい加減にしろゴーストアイ、さっきから空対空でGBU-39を直撃させているが間に合わんぞ!》
ゴーストアイの増援報告に、グリフィス1が激怒する。ゴーストアイに八つ当たりしても仕方ないのだが、報告を受けた数は戦闘機が処理できるキャパシティを完全に超えている。
本来は空対地用の爆装を持っている超級のエース部隊が空対空爆撃という神業を行って持ちこたえていたものの、新たな援軍の数に対しては心もとない。このままI.S.A.F.8492が交戦を続けても、否が応でも一時的に制空権を奪われることは明らかだ。
時間がたてば取り返せるだろうが、その間に勢いを増した敵部隊がフーガ国を落としかねない。念のため用意していた機体がそろそろ到着する頃だろうと判断し、軍の主は指示を投げる。
《ホークより敵本陣を相手している部隊に行動命令、攻撃を中止せよ。これほどの数は分散させてはならない、撤退して釣り上げるぞ。》
《マスター!?》
咄嗟に判断して出された彼の命令は、彼女を心配させてしまった。
確かに今の発言だけ聞くと完全な撤退と勘違いしてしまうだろう。“釣り上げる”とは、相手を分散させずに団子にするための行動だ。
《心配するなハク、戦略的撤退だ。と、しばらく無線が通じなくなるが数分後には交戦空域に戻ってくる。》
《しょ、承知しました。》
《その目でしかと見届けろ。最強と謳われるI.S.A.F.8492航空隊の総戦力、滅多に目に出来るものではないぞ。》
その言葉を残し、彼はオスプレイの空対空レーダーに目を向けた。空中管制機ゴーストアイ、E-767が搭載するAN/APY-2:パルス・ドップラーレーダーによる高精度測定は対峙する飛行物体の動きを丸裸にし、情報はすぐさま各機の対空レーダーとリンクする。
故にレーダー上にて、相手の動きが手に取るようにして分かるのだ。
《よし食いついた、そしてそろそろか。ゴーストアイ、何かコマンドを受信しないか?》
《コマンドですか……?おや、どこか上位のコマンドがオーバーライドして来ました、範囲が表示されています。》
文字通り、待ち人来たり。AoAでは使い道がないゆえに封印……というなの忘れ去られていた機体が、持ち得る武装の射程距離に到達した。
召喚に時間がかかったために後発となってしまったが、射程距離に入ったのであれば憂いは無い。あとは、ホーク達が活躍の場を整えてやるだけだ。
ゴーストアイのデータに情報が表示され、恐らくは情報兵が情報整理を行っているところだろう。何しろぶっつけ本番となる舞台である。ソレもまたエース級故に連携能力が高いとはいえ、時間がかかるのも無理はない。
全機が迅速に交戦空域から退避し、空域の外で旋回しながら待機している。彼等の機体にもデータが送られ、ガルムが無線にて言葉を発した。
《ガルム0より総帥、“Aサット照準データリンク”のコマンドを受信。高度を含めたかなりの広範囲が表示されている。敵部隊の4割を飲み込むほどだが、この表示は何のことだ? 》
「総帥、敵部隊が上がってきます!」
ガルムからの質問にホークが答える暇もなく、状況が一変する。フォーカス1-1からの報告を確認すると、確かに敵部隊が上昇してきていた。先程ゴーストアイから報告のあった敵部隊であり数は6,000オーバー、近代の戦闘機が相手にした例で言えば前例の無い大軍である。
しかし速度は遅く、戦闘機どころかオスプレイとも比較にならない程である。フォーカス隊が居る高度まで到達するのに、あと2分はかかるだろう。しかし万が一にも接近戦に発展すれば、明らかに彼等が不利となる。
―――2分もあれば、状況が動くには十分だ。
そう判断したホークは、誰にも気づかれずに口元と釣り上げるのであった。
《警告、後方より複数のunknown飛行物体が超高速で接近中。っ、戦闘機!?形式不明、どこの部隊だ!》
《グリフィス1よりゴーストアイ、それは敵か!》
《ネガティブ、現時点では判別不能。認識が弱い、ステルスだ。》
《さっさと判定しろ、輸送部隊を守らなきゃならんだろうが!》
「いかんいかん」と、ホークは内心で思って目を閉じる。流石に情報を小出しにしすぎであり、新型兵器を投入する時に見せる彼の悪い癖が出てしまっていた。
味方同士で小競り合いしていては、数分後の突撃に影響する。ともかく、飛来している航空隊が味方であることを伝えるべきだと思い立ち、力なく下ろしていた無線機を手に取った。
《ホークより全軍、接近中の戦闘機はCFA-44、友軍だ。6機編隊だろ、ゴーストアイ?》
《え、ええ、よくご存じで……っ、更に複数のunknownが急速接近、速度マッハ4.5!総帥、これは!?》
《メビウスから総帥、コマンドが勝手にカウントダウンしている。 ……9、8、7、 》
《そう、それでよい。》
相変わらず、悪い癖はすぐに直らないようである。彼が「良い」と口にした理由は、それが今から放たれる攻撃のカウントだからだ。
一撃でもって、形成を逆転させるジョーカー的な存在。対少数精鋭での戦闘において圧倒的な戦果を見せる超エース級とは真逆で、不特定多数を相手に絶大な戦果を見せる攻撃だ。
その容姿が特別すぎる上に対少数精鋭部隊とは致命的に相性が悪い理由でむやみやたらには使用できないため、プレミアムボックスに封印されていた過去を持つ。故に、その存在を忘れている隊員も多いだろう。
搭載するメインウェポンもGBU-24以上に人道的な武器ではないため彼も使用に躊躇ったが、この状況では土俵を気にすることはない。ホークは軍の総帥であるために、表向きこそ冷静ぶっているが―――
《……狙われているのはオレのハクが生まれた国だ、微塵たりとも容赦はしない。ホークより全機に次ぐ、繰り返すが絶対に範囲に入るなよ、オメガでも死ぬぞ。これより交戦空域に、巡航ミサイルの“ニンバス”が着弾する。》
《何っ!?“ニンバス”ってことは、アイガイオンを持ち出したのか!?》




