8話 フーガ国防衛戦~強烈な面子~
感染はしていませんが、コロナのおかげで振り回されております。皆様もご自愛ください
第二拠点ヘリポート近く。立ち入り禁止区域外の地上からは、ハイエルフ一行と狐族が遠くにある発着場を見つめている。北邪人国が相手と言うことで、心配さからくる見送りの行動だ。
本日ばかりは全員が朝一の仕事を休んでおり、余程の者を除いて全員が揃っている。族長であるリガルは選出された5名の活躍を期待しているのだが、根底としては他の者と同じく出撃者の安堵を祈っている。
そんな感情すらをもかき消すエンジンの轟音が辺りに響き、地上車両も引っ切り無しに行き来する状況が作り上げられている。それらの数が、今回の戦闘における出撃部隊の多さを表していた。
第二拠点のヘリポートは、現在のところ2か所にある。場所的に近場であるもののそれぞれ5つのヘリポートが用意されており、同時の発着こそ基本的にはできないが、片方が離陸中にもう片方で離陸準備ができるなど時短に繋がる構成となっている。
フォーカス1-1の機体も片方のエリア、通称第一ヘリポートでヘリコプターモードにてローターをアイドリングで回転させており、バタバタと空気を切り裂く音が響いている。フォーカス1の5機分隊は各々のヘリポートで待機しており、出撃10分前に離陸準備を完了させた。
《フォーカス1-1より管制塔、フォーカス1分隊は全機離陸準備完了。06:00まで残り10分、そろそろ上がり始めるとドンピシャだ。許可を求む。》
《了解したフォーカス1-1。空域はクリアだ、いつでも上がってくれ。》
《了解だ管制塔、フォーカス1分隊は離陸を開始する。》
ローターの回転数が一層高くなり、甲高い音に切り替わる。歩兵部隊を乗せているフォーカス部隊のオスプレイがふわりと浮き上がり、離陸した。ヘリコプターモードのため垂直に高度が上がっていき、続けてフォーカス1-2、1-3のナンバリングを掲げる機体が離陸していく。
もう片方のエリアにある5つのヘリポート、通称第二ヘリポートでは、フォーカス2の分隊が離陸準備を終えて待機中だ。現在はフォーカス1-1を皮切りに1-2、1-3と順次離陸しており、フォーカス1分隊の全てが空に上がれば、2-1にも離陸許可が下りるだろう。アパッチを操るシューター隊も離陸準備を終え、誘導路でヘリポートへの進入をスタンバイしている。
フォーカス1分隊が居た後方では、フォーカス3分隊がヘリポートへの進入を待っている。今回は、海軍出張組み以外のフォーカス隊の全分隊が離陸するという、I.S.A.F.8492においても初めての状況だ。
任務は、セオリーながら歩兵隊の輸送である。人数も乗れて快速の足を持つMV-22Bオスプレイは、強襲任務にはピッタリと言える兵器なのだ。ちなみにだが、ホークやエルフ5名はフォーカス1-1に乗っている。
《管制塔よりフォーカス1-1、離陸成功を確認。離陸完了後は、空中管制機イーグルアイの指示を受けよ。航空隊も離陸中だ。俺達や基地防衛の連中の分も頼んだぜ、グッドラック。》
《了解した管制塔、誘導に感謝する。あんた等の分まで全力で任務を遂行することを誓うよ、アウト。》
《管制塔よりフォーカス2分隊、離陸を許可する。フォーカス1-1に続き離陸を行い、上空で編隊を組め。》
《フォーカス2-1、了解。》
反対側の第二ヘリポートでは、フォーカス2分隊のオスプレイが次々と離陸している。編隊は方位を北に向け、低速ながら移動を開始した。
後ろを待たずに移動を開始する理由としては、単に空を空けるためである。一分隊5機編成が八分隊も居るため、結果としてオスプレイだけで40機が上がることになり大渋滞が発生するのだ。
そのあとには追加人員を搭載したブラックホークのノーマッド隊やアパッチのシューター隊が離陸する手筈であり、上空に留まっていては更なる渋滞が予想される。
ホークも乗るフォーカス1分隊はゆっくりとした速度で先行しており、追いついてきた戦闘機部隊と編隊を組んでいる。後続のヘリ部隊が到着するまでに片を付ける作戦。かつ、空対地攻撃後の初期地上戦闘が任務となっていた。
航空各部隊からの直接的な出撃要望もあり、戦闘機乗りはフルメンバー。休暇中・整備中だったA-10の2部隊の準備が遅れているらしいが、それは仕方のないことだ。空対空及び空対地の面子は全部隊が揃っており、シルビア王国解放戦の時以上に分厚い戦力となっている。AoAで2位だった軍隊の連中と衝突しても、数分で蹂躙してしまうほどの過剰戦力が集結している。
「絶望的な光景というのは見慣れたくないものだが……味方とはいえ、この面子は強烈だ。」
その全てが、当然ながら準エース級以上である。通過しただけで雑草すら残さず全てを焼き払いそうな編隊を見て、フォーカス1-1のパイロットがポツリと呟いた。
とどのつまりは頼もしいという評価なのだが、おいそれと評価を口にするにも恐ろしい編隊である。戦場には空挺車両までもが投入さるようであり、編隊に混じって複数の輸送機、C-130が付いてきていた。
そちらを見て若干口元を歪めたホークだが、すぐに険しい表情になり、離れていく港を睨んでいる。先日の出撃決定のあとすぐに、プレミアムボックスに仕舞われていた兵器の召喚を開始していたのだ。
召喚には時間がかかるため後発組みの参加となるが、相手が大規模勢力であるほど、真価を発揮する兵器となっている。そこの指揮に関しては裏方に徹しているエドワードに任せており、憂いは無い。彼は、第一陣の指揮を優先するためにここに居る。ハクのためということもあり本当はトムキャットで出撃したい彼だが、餅は餅屋と考え自重していた。
彼が最初に行うべきは、フォーカス6-1に乗っているハク及びフーガ国騎士への対応だろう。離陸やら飛行のたびに驚き騒がれるとパイロットの負担が増えるので、事前の説明が必要となる。
ちなみに彼らをフォーカス6-1に載せている理由は、この分隊は最も多く回避装備を搭載している上に、防御装甲が厚いためである。当然と言えば当然だが、安全第一は、竜人が優先となっていた。
《ホークよりハク、聞こえるか。》
《こちらハク、問題ございません。》
《了解。そろそろハク達が乗っているフォーカス6分隊が離陸すると思う、静かにするよう皆に連絡を頼む。》
《承知しましたマスター、搭乗員全てに言い聞かせております。あっ、ただ今離陸する模様です。》
ハク直々なら問題ないな、とホークも納得し、了解の返事を返して周囲の状況把握に戻った。フォーカス6分隊の離陸も始まったようであり、他のフォーカス分隊と編隊を組んでいる状況だ。
なお、護衛に関しては海軍のF-35編隊が行う手筈となっている。ホーク達の編隊よりも速い速度で移動を開始しており、やがて複数の編隊が1つとなった。
空域が混雑しすぎているため、かつ制空権が取れていないために、交戦空域において小回りの効かないAC-130は後方待機となっており後ほどの合流手筈となっている。状況次第では最も必要な空対地戦力故に、彼女達にかかる期待も大きなものとなっていた。
既に現場上空に居るビッグアイ偵察部隊からは、次々と最新情報が提供されている。ホークが乗る機の編隊も例外なくデータを受信しており、彼はノートパソコンを通してAWACSと連携し計画を練っている。
編隊を組み終わったことを確認して加速し、一行は山脈の上を駆け抜けていく。ブラックホークとは違い、オスプレイはヘリコプターモードと航空機モードを切り替えることが可能な機種だ。
航空機モードの最大巡航速度は時速700kmを超えており、一般的なヘリと比べると足の速さは倍以上。そのため瞬く間に目標との距離は縮まっており、先頭を飛んでいる編隊は中距離ミサイルの射程圏内まで迫った。
《ゴーストアイよりホーク総帥、そろそろ交戦空域に入ります。偵察衛星及びビッグアイからのデータを受信……凄まじい大軍です。敵の数は地上空含めて15万を超えております、7割近くが魔物と呼ばれる生物の模様。》
《15万か……了解した。全て潰すぞ、敵の配置はどうなっている?》
《要所要所に団子、という表現が的確ですね。中隊や小隊などの、編隊としての統一性は疎らのようです。》
そのタイミングで、ゴーストアイから途方もない数が報告される。明らかに現代兵器が想定している数を超えているが、全部隊共通の認識として、撤退の二文字は選択肢として在り得ない。
敵が展開している陣形としては、報告があったように簡易なものだ。フーガ国は四方を標高数千メートルの山々に囲まれている高地なのだが、傾斜が緩やかな南側は進軍が比較的容易に行える。
邪人国の軍はそのセオリーに沿って南側から進軍しており、山脈を超え、小さな丘の南側に本陣が分布している様子を見せていた。そこから軍を小出しにしており、南と東からフーガ国に対して進軍しているルートとなる。
ホーク達が該当される本体は、この山脈手前の連中を相手することになるだろう。ハク達が乗っているフォーカス6-1及び護衛機は東から大回りし、後部ハッチを開いて現地に下ろす手筈が決定された。
彼はその事をハクに伝え、了解を得る。フォーカス6-1及び護衛のガルーダ隊・イエロー中隊が編隊から外れ、速度を上げて離脱して行った。
無線通信用のUAVの配備が間に合っていないので、しばらくすると無線が切れてしまうが仕方のないことである。そのタイミングで迎撃部隊の本隊が長距離ミサイルの射程に侵入したため、無線交信が慌しくなった。
《アーサー1から各機、敵・飛行集団にロックオン完了。……ロックオン画面が真っ赤だな、まずは空だ。イーグル2040C各機、叩き込んでやれ。》
《了解です隊長、11~15がAIM-120Dを連続発射し攻撃します。射程距離まで3秒、2秒。》
《発射、発射。Fox3, Fox3.》