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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第10章 フーガ国
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6話 エース達の沸点

まさかの3周年!

ここまで続いたのも皆様のおかげさまです。今後ともよろしくお願いいたします。


冬の田舎道、具体的に言えば田んぼのあぜ道などを夜間に歩いたことがあるだろうか。街灯が整備されていないために辺り一面の暗さは著しく、春から秋にかけて何かしら鳴いている他の生物の声なども一切ない。

まるでこの世界には、自分以外なにも居ないのではないか。そんな感覚すら生まれさせる、風が無ければ本当に無音と言っていい空間なのである。



第二拠点、とある建物。


時刻は夜九時を回り、普段ならば廊下はワイワイガヤガヤと商店街のようで、就寝前の隊員の活気が溢れている時間である。一般的な軍隊とは程遠い光景であり常識ならばお叱りの言葉が飛んでいる状況だが、適度にガス抜きできるために高い指揮を発揮できる所以でもある光景だ。

しかし今日は、そんな通路も夜間の冬のあぜ道と見間違うほどに静かであった。ほとんどの隊員、特に現場で戦闘を行う者は各々の待機ルームでモニタを注視しており、その部屋ですらスピーカーから発せられる音以外の全てが消え去っている。


映し出されるのは、第二拠点、I.S.A.F.8492が所有する大規模な作戦会議室。ダークウッド調に纏められた空間は照明も薄暗く、全員の目線は壇上に注がれていた。

大学の大きな講義室、またはオーケストラのコンサート会場かと見間違う一室。そんな部屋の壇上に、一人の男の姿があった。



「遅い時間によく集まってくれた、掻い摘んで説明する。」



ホークは2分ほどで、現在のフーガ国が追い詰められている状況を説明した。全員が真剣に聞き入っており、AoA時代のお気楽さは一切ない。

彼も珍しく興奮しているのか、説明中の口調がいつもに増してキツくなっている。自覚しながらも説明を続ける彼だが、改めるつもりは一切ない。嘘偽りない、彼の心境をさらけ出している。


内容としてはケストレル国王の直衛兵から聞き出した状況を説明し、偵察部隊から得た情報を追加する。多少の誤差はあれど大筋は似通っており、ハクの母国が危機的状況にあることに間違いないことを強調していた。



「情勢としては以上だが、次の事項が最重要問題だ。皆も知っているエンシェントドラゴンが国王への攻撃を庇い、瀕死の重傷を負っている。」



その瞬間、場の空気が一変した。集まった隊員の全員が、会議モニタの向こうに居る空のエース達が、明らかに強烈な殺気を漲らせている。

ミーティングルーム最後尾に居たハクは思わず一歩下がっており、その行動を後悔したのか少し俯いて拳に力を入れ、その場に踏み留まった。更に2歩下がった直衛兵のなかの一人は腰が抜けそうになり、他の兵士に支えられている状況だ。


ハクと違ってエンシェントドラゴンはI.S.A.F.8492の組織に入ってはいないが、もはや仲間同然の域まで交流を深めている。ホークとしても友ではなく仲間としての認識であり、彼等が大事にするのは、そんな仲間の存在だ。そんな存在に傷をつけられて、黙っている者は存在しない。

一致団結とはよく言うが、この場の雰囲気はそれを超えるだろう。言わずとも、全員の気持ちが1つに纏まっていた。



あとは、その感情に火をつけるだけ。I.S.A.F.8492が軍隊である以上、全員は”命令”無しでは動けない。



「最初に言うが、今から提案する内容は強制ではない、参加の判断は各部隊の部隊長に一任する。フーガ国のケストレル国王とは、事前に部隊を向かわせることの話をつけてある。表向きは”遠足”だ、政のイザコザになれば私に任せておけ。」



防衛とはいえ、他国であるフーガ国へと兵器を向けることに抵抗の有る隊員も居るだろう。そのためにホークは、あえて逃げ道を用意した。これにより現場の兵士は、憂いなしに全力で戦うことができるのだ。

それでも張り詰めた空気は解けることなく、いまだピリピリとした空気を漂わせている。皆が、ホークの言葉を待っているのだ。



「つまらん話で眠くなってくる頃だが、今回は長く語らせてくれ。本作戦は、フーガ国の周囲に展開する敵部隊の全てを交戦開始から1時間程度で制圧するという、非常に迅速さが要求される内容だ。」



作戦内容を聞いたハクやマール・リールは、思わず目と口を開き驚いた表情を見せる。事前に得ている敵の戦力を考えると、どう頑張っても可能とは思えない内容なのだ。

ましてや、相手が一か所に固まっているわけではないのだ。良くて5日、通常ならば10日程度。例え攻められているのが武力に優れる北の帝国で、実力的に相手になりえると仮定しても、首都の周囲から追い払うだけでもその程度の時間は必要だろう。彼等が今相手にしようとしている邪人国とは、それほどの数と実力を備えた軍勢なのだ。



例えばの話だが、少しだけ弱くした航空自衛隊とオリジナルの練度のアメリカ空軍。これら2つは個々の強さ的なバランスで当てはめると北邪人国とフーガ国の関係であり、この2つが戦うならば勝利が後者、つまりフーガ国にあることは明白だろう。

しかし今回の北邪人国とフーガ国を上記例に当てはめるならば、航空自衛隊とアメリカ空軍にある数の差が逆になる。そうなった場合、勝利を手にする者も逆転することは容易に想像できるだろう。いくら練度が高く最新鋭の装備を持っていても、数のゴリ押しには弱いのだ。某漫画でタイムスリップしたイージス艦とWW2時代の戦闘機が戦う話があるのだが、イージス艦側が損傷を受けるのも似たような法則であり、その法則はこの世界でも変わりない。



―――ただし、目の前に集う集団。少数側がI.S.A.F.8492と名乗る未知の集団ならば話は変わる。

先ほど脳裏に浮かんだ無謀さですら、通用する常識と思ってしまう。そんな点が不思議でないと感じているのは、第二拠点に居候している全員の共通認識となっていた。



「分かると思うが我々は少数精鋭。1つの部隊が複数の作戦区域に展開し、ようやく成せる内容だ。休憩なしでの連続戦闘、一般的に考えれば馬鹿げた内容だろう。しかし私は、諸君等がその無謀さを当然の如く処理していけると確信している。諸君等がI.S.A.F.8492と呼ばれる軍に来て、役割や時間は違えどそれぞれの日々が流れてきた。軍内部で好敵手や格上・格下と共に腕を磨きあげながら、己が背中を追うエースに近づかんと。また、そのエースの名を背負い名に恥じぬよう血反吐を垂れ流し努力してきたことを、私は誰よりも知っている。」



その言葉に、隊員の全員が興奮を覚える。仕える軍の主から出された、己が信じた道を進んできたことに対する称賛の言葉でアドレナリンが脳を刺激し、全力で戦う場が来たのだなと、否が応でも認識させる。

隊員の一人一人が、己のためもさることながら、I.S.A.F.8492という軍のために全身全霊を注いできたこと。兵士が軍事に全力であたることなど当たり前すぎて口に出す司令官は少ないが、彼は、その考えの元に努力する隊員一同を労った。



「先ほども言ったが、事後における周辺国との調整に関して諸君らが気負うことは何もない。我々、将校クラスに任せて欲しい。しかし今回は、司令官ではなくホークとしての頼みごとが1つ……なに、政治家とて発言を撤回できるのだから利用しても問題は無いだろう。我が妻の国が侵されているというのにすまし顔というのも、実は癪に触り続けていてな。」



やや下を向きつつ珍しく長い言葉を口にしているホークだが、最後の冗談と同時に正面を見据えた。その目と声は完全に座っており、自分も戦いに参加することを示している。



「次の言葉に応じるならば、起立にて答えてくれ。畏怖と敬意の名の下に世界最強と唄われ続けるI.S.A.F.8492の真髄を、オレのために貸して欲しい。」



I.S.A.F.8492としての活動の側面に、妻の故郷が侵されているという危機に対するホーク個人の感情が乗っていることを隠さずに表現し、同意を求めた。

その瞬間、座面の上がる音が部屋に響き、着席していた将校クラスと隊員が立ち上がり、敬礼にて応答するのは同時だった。モニタの向こうでも全員が立ち上がっており、文字通りの満場一致。1つとして、椅子が畳まれぬ席は存在しなかった。



「ありがとう。今回の出撃部隊は既に伝達してある。残る部隊は、全力で基地を守ってくれ。」



ここで一度、彼は深く呼吸をする。

冷静に、しかし力強く。この場にいる全員に、次の一文で火をつけた。



「しかし当然、現在における皆の気持ちは共通の1つだと確信している。出撃時刻は明朝06:00。直ちに用意を進めてくれ、以上だ。」

「「「「「ハッ!!」」」」」

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