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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第10章 フーガ国
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3話 いつもの朝

翌日、早朝。本日のフーガ国は曇り空の模様で、夜空が明けるにつれて灰色の雲が目立ってくる。体を労わって早く寝た日だろうと酒を飲んだ次の日だろうと、朝日は普通に昇ってくるのだ。

1日を24時間、1時間を60分、1分を60秒に区切る”時間”の概念も無ければ、ベルや音で”目覚まし”を行ってくれるシステムが無いために、人々は朝日の光がトリガーとなって目が覚めるのが一般的だ。もっとも、当然ながら夜勤の類の者は別である。



が、しかし。今朝については、そんな常識も当てはまらない。

町はずれにある一軒家の玄関のドアが、激しく叩かれた。少し前まで、元・国王の娘が暮らしていた場所であり、今でも格式の高い竜の亜人が住んでいる家である。



「……。なんじゃ、日の出も間もないというのに騒がしい……。」



木製のドアを強く叩かれる音と共に、エンシェントは目を覚ました。まだ意識は完全に覚醒していないものの、元々酒に強いこともあり、昨晩のアルコールによる影響は見られない。

ドラゴンが酒に飲まれていては、笑い者になるのが通例だ。もっとも、流石にテキーラをストレートで出し続けられれば9割以上の者が酒に沈むのだが、これは度数の高い酒が少ないことに起因する。


そういえば昨日の酒も美味しかったな、と内心で呟きながら、エンシェントの意識は一層のこと覚醒する。許されるならばいつまでも続けたいと思う晩酌だったが、酒の消える速度が尋常ではない上に、外の酒もなかったために仕方ない。

欠伸をすると、ドアが叩かれる際に発せられる音以外の”声”が耳につく。彼も何泊かの経験があるI.S.A.F.8492が居座るエリアにある建物とは違って防音・遮音の類は気持ち程度であるために、その叫びが自分の名を呼ぶ声であることは聞き取れる。


そして、声には非常に焦りが見受けられた。そのためにエンシェントは、すぐにベッドから降りて部屋のドアを開くことになる。

はて今日は何かあったかなと考えて窓の外を流し見るも、町はずれにある一軒家の窓から見上げる空には、どんよりとした曇り空が浮かぶだけだ。そんなことを考えながら、玄関ドアにかかっている閂を外そうとした瞬間である。



「エンシェント様、至急です!北邪人国と思われる連中が、フーガ国に接近しております!!」



=================



”その時”が来たか。と一人個室でぼやき、後輩を指導する時に使っている戦闘用の魔導服に身を包んだエンシェントは腹をくくった。

問題の内容は、偶然とはいえ12時間ほど前にケストレルと会話していた事象であり、発生は唐突だったものの事前に可能性を把握している。そのために、全く知らなかった場合よりは、慌てふためきようは和らいでいると自覚できるものだ。


報告のあった集団が向かう先は、報告通り間違いなくフーガ国。そして狙いは、他でもないケストレルが住まう王城だ。

前線に出向こうかと考えたエンシェントだが、この進行の根底にクーデターがあるためにその選択は切り捨てた。彼が守るべきは国ではなく、王である。一刻も早くケストレルの元へと向かうべきだと、直感的に判断した。



「国王の元へ向かうぞ、ケストレルの周りはどうなっておる!」

「ハッ!近衛兵が付近を固めており、一般兵は迎撃のための部隊を編成しております!」

「我が口を挟むのも間違っているが、それで良い。民の避難も忘れぬようにな。」

「ケストレル国王の勅命で、既に動いております!」



なるほど杞憂であったか。と、エンシェントは内心で呟いて軽く口元をゆがめた。

ケストレル国王は、他国の誰がどう見ても暴君ではない。もちろん彼も竜の亜人であるためにプライドは”高め”の傾向だが、比較的穏やかな方である。今回の戦闘においてI.S.A.F.8492の力を不要と言い切っている点も、プライドから来る影響が表れている。


政において民が天秤にかかれば常に民に寄り添い、その場合は国の名声に関しては軽視しがちの場面もある。それ故に、右を向いて居る若者や勢力からは不満の対象となっていた。

結果として国を売ろうとする者が動く事態となり、フーガ国の戦力は相手に筒抜けとなっている。ドラゴンの姿を封印する魔法を持っており、いつでも制圧できるとふんだ北邪人国は、冬の終わりと共に腰を上げた格好だ。



日が昇るにつれ、避難してきた町の民が次々と城門をくぐっている。荷物を手早くまとめた様子の者がほとんどであり、表情は酷く険しい様子だ。

とはいえ、そこはほとんどの者が飛行可能な竜の亜人。逃げ遅れる者は存在しておらず、町の数も少なかったために、数日の日付を要したものの、受け入れも無事に終了している。



そして、更に2日後。門から辛うじて見る位置にまで到達した北邪人国の軍勢に対し、フーガ国の部隊が動く。



「打って出るぞ、用意は整ったな!?」

「「「「「応!!」」」」」



受け入れの応対にあたるのは、町を守る警備兵。しかし軍となれば当然ながら部隊は他にも居るわけで、遊撃部隊なるものも存在する。遊撃と言う割に防衛地点から近すぎる気もするが、ケストレルの命令により今までの出撃が許可されなかったためである。

それでも、出撃は出撃だ。隊長格の男の言葉と共に雄叫びを返し、軍勢は門を潜って外に出る。眼前の200mほど先には、視界を埋め尽くす程の勢力が集結していた。


今回の出撃部隊には志願者も混じっており、その結果として若い者が多く居る。強いフーガ国を願い、強いフーガ国のために生活しているような連中だ。現在のケストレル国王の政策に、若干ながら不満を持っている群集でもある。

とはいえ、そんな血気盛んな若者でも、己の祖国を土足で踏み入る輩に同調できるほど国に不満があるわけでもないのが実情だ。どちらかと言われれば迷うことなく、土足の輩を全力で殴りつけに行く選択を行うのである。



相手は一定距離で2時間ほど前から停止しており、突撃してくる素振りは見られない。まるで、何かを待っているかのようであった。



その答えは、すぐに分かることになる。雄叫びと共に、遊撃隊が門から飛び出たタイミングであった。



「これは――――?」

「嘘だろ――――。」



何かしらの、結界の類。詳しいことはわからないが、1つの行いができなくなったことは理解できた。

生き物が呼吸をするように、当たり前で日頃から扱えて当然な事柄のためにハッキリと分かる。それが、そこにいる竜の亜人において共通の感覚だった。



――――ドラゴンの姿に成る能力が、使えない。



焦りと共に、絶望的な感情が、戦意すら根こそぎ奪う呪いとなって一族の戦士に纏わりついていた。



そもそもにおいて、ドラゴンの姿と人間の姿では能力が大きく異なるのが彼等、竜の亜人である。もっとも、双方を比べれば図体が大きく異なる故に無理もない話だ。

人の姿に成れば基本として筋力・魔力が落ち、巨大な図体から繰り出されるリーチの長さも、広大な範囲を薙ぎ払える範囲攻撃も消え失せる。ドラゴンの代名詞と言っていい”ブレス”を放つための魔力も、10割近い数の者が失ってしまうのだ。なお、魔力については、上位種ほど元々の量が多く・かつ減少値も小さい傾向にあるというのが通例となっている。


もちろん戦闘能力を失う反面でメリットも存在しており、物理的に小さくなって重量も軽くなる。筋力が減るとはいえ人族と比べれば遥かに強靭であるために、身体の大きさに対する敏捷性も飛躍的に向上するのだ。

普通に生活する分にも困ることはなく、人間用の小さな住居で事足りるために洞穴暮らしにならずに済む。また、魔力による筋力ブースト的なものも使えば、戦闘面においても他種族に対して後れを取ることは少ないだろう。



それでも、埋められない差だけはどうしようもならない。数の差からくる手数の違いだけは、どうすることもできないのだ。

データをやりとりするターン制のゲームならば、電力供給が続けば戦闘を続行することは可能である。単体で見た時の戦闘能力は竜の亜人側にあるために、多数の相手を片っ端から切り伏せるような無双する展開も可能だろう。


しかし当然、現実となればそうはいかない。いくら練達の職人が作った剣だろうが刃は欠けやがて折れ、捌ききれない攻撃を受ければ鎧も損傷し砕けるだろう。ドラゴンの姿と亜人の姿に合わせてサイズが可変する特性を持った、人族の域では名品に匹敵する鎧だが、今日この場だけは紙一枚程度にしか頼りない。

己の身体も疲弊が進めば、その先にあるのが己の死であることは幼少の者でも分かることだ。いくらドラゴンと謳われる生き物でも、この理だけは代えられない。


付け加えるならば、魔力そのものも著しく弱まっている。多数を相手に、かつ自分たちが圧倒的に少数となる今回の戦いにおいて絶望と言う感情を生み、敗北という結末を予想するのは容易いものだ。



そして、戦いの場は壁の外だけではない。既に王都内部、それも最も重要と言える場所でも発生していることを知るのは、ほんの一握りの者だけであった。

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