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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第10章 フーガ国
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1話 備え

《フォーカス5-1、着陸を許可する。進入方位は―――》

《フォーカス5-2、上空でホバリングし5-1の着陸完了まで待機せよ。5-3,5-4,5-5は地点チャーリーにてガルーダ隊と共に旋回待機、指示を待て。》



生憎の小雨模様となった、第二拠点。エスパーダ達と別れてから10日後、タスクフォース8492はティーダの町を離れ、慣れ親しんだ拠点へと戻ってきた。

今回は前回の時のような派手な出迎えは無いが、その理由は各々が知っている。「傍観者」とは言いつつ、各部隊が状況を気にかけていて動きを見せているのだ。言い出しっぺのホークですら、こうして念のためにI.S.A.F.8429の拠点へと戻ってきている始末である。


なお、今回の帰還の表向きは、新規で合流したハイエルフグループへの挨拶となっている。また、リュック・リーシャ兄妹の決定を、新規を含めた今いるグループに話すためでもあった。

第一印象は案の定最悪で、一触即発のムードとなっていた。そこに対して「コレ自分の奴隷だから傷つけたら怒るよ?」と斜め上に予想外な言葉で場を鎮めるホークの発言で、とりあえず聞く体制が作られる。


結果としては、1時間にわたるリーシャの必死の説得で族長も理解を示しており、「相手リーン次第」という条件が付けられたが、その場においては共同生活が了承となった。それに伴い、今後はハイエルフとハイダークハイエルフの両方が捜索対象に決定されている。

リーンはハイエルフの集落に住むということで、ホーク達は場を離れる。普段は陽気な彼の顔だが最近は目に力が入っており、どこか力が抜けていない様子であった。



彼は口数少なくヴォルグの背に跨ると、ハクと共に山の上の一軒家に到着する。ヴォルグ達はいつも通りに別れ、定期的にI.S.A.F.8492の隊員が整備していた小屋へと入っていった。

ホークとハクも自宅へと入ると、ホークはそのままリビングのソファに腰を落とした。こちらは清掃がされていないために、いつもより少しだけ多く埃が舞っている。普段ならば軽く掃除機をかけてから座るのだが、今回ばかりはその余裕も無い様だ。空気清浄機の出番である。



「はー。ダメだ、誰が見ても力入ってるよなー……。」



深く座り込み、溜息をつき。2人きりになったタイミングで、彼は苦笑しながら愚痴を呟いた。気にかけてくれて嬉しい反面、しかしメンツを保たなければならない彼の心境を考えると到底ながら笑顔を見せる気にはなれず、彼女も細やかな苦笑で返すしかなかった。

それでも、彼に感謝の気持ちを伝えたいことも事実である。細やかなことではあるがお茶を淹れ、軽い茶菓子と共にテーブルに並べていた。


その一言と表情で、全てが分かる。裏では各部隊が入念な準備を行っており、彼はその準備内容に抜けが無いか。相手の出方などを含めて、様々なパターンを想定して考えを巡らせているのだ。

勝つだけならば、I.S.A.F.8492にとって容易いことである。シルビア王国進軍時も同様であったと言えるが、守るべき対象がある故に難しい。万が一の責任は、全て彼に圧し掛かるのだ。



もちろん、そんなことにならないよう全部隊が非常に神経を張り詰めて戦術や武器の選定を確立している。I.S.A.F.8492の備えは、水面下で行われていた。



============



一方、新たな人物が加わったハイエルフの集落。犬猿の仲と言っても過言ではなかった2つの種族が、1名を対象にしたとは言え和解を行った場でもあった。

とはいえ、全員が大手を振って了承したわけではない。本能的にダークハイエルフを嫌う考えは一部の者の中に根付いており、その者は敵対する様子こそなけれどリーンに対して軽い仕草で対応していた。


そんな記念の日から、早くも数日が経過している。和解派としては、ホーク流にいうところのドンパチが起こらないだけでも一安心と言ったところだろう。また、軽い対応を見せる彼等も、ダークハイエルフとの関係がこのままではいけないと理解していることは分かっている。

もちろん、新たに合流するであろうダークハイエルフ全員が、素直に馴染むことはないだろうという点も含めての認識だ。ホークも「その際は相談してくれ」と言っているために、後ろ盾は万全である。気に入らない場合はいつでも出ていってもらって構わない、というのが彼のスタンスだ。



力強い緑色に染まろうとしている木々のなかに、新たな種が芽生えようとしている。そんな自然豊かな情景とは、やや対照的な雰囲気だ。

とはいえリーンも馴染むために努力を惜しまず、率先して業務をこなしている。ブロンドヘアーが一般的なハイエルフとはまた違う雰囲気のために、気にしていない者からすれば、既にソコソコの好感度を得ているのであった。



「ん?ある程度の同胞が集まるまでは、総帥様の奴隷で居るって?」

「ええ。総帥様との本来の契約とは、ちょっと趣旨が違ってるけどね。」

「なるほど。」



本日のリーンはハイエルフの者と口を挟みつつ、所属する班の全員で大浴場の清掃を行っていた。時間帯によって男女別に使われているこの浴場は基本的に湯が貼りっぱなしだが、1週間に一度、大規模な清掃が行われている。

リーンは口を動かしつつも、手を緩める雰囲気は見られない。彼女からすれば「意外と楽しい」デッキブラシによるタイル床清掃を、キッチリとこなしていた。ゴシゴシとタイルに立ち向かうブラシの音が、軽やかに響いている。



「まぁでも、全員がリーンさんみたいにすんなり馴染むわけじゃないだろうからなー。自分たちの事だけど、荷が重いよ。」

「その時は、総帥様の言葉を借りるまでよ。私もアレを言われた時は凹んだわ、きっと貴方達にも効くでしょう。」

「なんて言われたんだい?」

「過去に嫌っていたからという程度の理由で毛嫌いするならば、歩み寄ろうと努力する貴方達以下だ。ってね。」



そりゃー確かに厳しい言葉だわ。と、男のハイエルフは笑いこけた。それでもって班長に注意されるという結果になるが、これは仕方のない内容である。

「おしゃべり終わり、真面目にやるわよ」というリーンの言葉で、男のハイエルフも了解の返事をして作業に戻る。軍隊と一緒に居るせいか、ハッキリとした応対を見せるのが彼等のセオリーとなっていた。


そんな一方で、リーンはホークに言われた言葉を思い返していた。先ほどの言葉の夜に、本人から言われた内容である。



―――――どちらが最良かではなく、どちらも良い。そして二つが上手く合わさることで、更に違う良さへと発展する。



酔っていたはずなのに、その言葉が耳から焼き付いて離れない。

それは、人族である彼と竜の亜人である彼女を見たが故の事か。結論を出すならば、影響としてはゼロではなかった。


ハイエルフからしても、竜の亜人とはプライドが高く、悪く言えば高圧的で他族を下に見る傾向がある。特に、相手が力無き者の場合はその状況が顕著となる。

それが、あの二人の関係はどうか。食に関する点を見なかったことにすれば互いの意見を尊重しており、何より互いに信頼を見せている。総帥と呼ばれるホークが力無き者に分類されることは一目瞭然だが、古代神龍に彼を軽蔑するような仕草は見られない。




そんな二人が見せる、特別ではない光景が。

どこにでもある平凡という幸せが、リーンには何よりも眩しかった。




決して当たられているわけではないし、当のホーク夫妻もそんな雰囲気を出すことは極稀と彼女も聞いている。少なくとも今のところ、リーンの前では見せていない。単純に、二人が居る環境が羨ましいのだ。

彼女とて、生まれたころにはハイエルフなど影も形も存在しない。あったのは、浅い洞窟に身を寄せ合って暮らす質素な日々。もちろんそれだけでも、命があるだけでも幸せと言える次元だ。


常に死と隣り合わせとあるだけに、気を抜くことはできはしない。彼女にも”出会い”と呼べる状況はあったものの、つかぬ間のうちに切り裂かれる日々であった。

そんな環境で、家族を亡くし。怒りをぶつける先もなく、また当てもなくふらついた彼女は、何よりもハイダークハイエルフ一族の再興を願っている。


楽しかったであろう、当時の日々。危機が無いとは言えないだろうけれど、笑顔で過ごせただろう、かつて祖先が過ごした時間。

そんな日常を、仲間と共に。決して叶わない贅沢を言うならば、命を投げ出して自分を助けてくれた肉親と共に、そんな時間を過ごしたかった。



―――――しかし運命の悪戯か、夢見た光景は意外と近くに。望んだ暮らしが、ここにはある。



彼女も経験している最中ではあるが、決して余裕のある日常ではない。作業規模に対して人数が少ないことが、要因としては大きいだろう。よほど大きなトラブルでなければ、I.S.A.F.8492の隊員は自分達を手伝ってはくれないのだ。

とはいえ、これも自立を目標としたホークの考えであり、ハイエルフ側も感じ取れる内容となっている。また、作業中の事故の類を除けば命の危険を心配する必要が無いために、それだけでも楽園と呼んで良いほどだ。



嗚呼。ここで仲間と暮らせるならば、どれほど幸せだろうかと、今は未だ届かぬ夢を見た。普通は危険な夕暮れ時に笑顔で会話しているハイエルフを見るたびに、心の余裕の無さからくる嫉妬心が顔を覗かせる。



彼女が、奴隷になった理由。ダークハイエルフの仲間たちに、安住の地を。ハイエルフとダークハイエルフが共に暮らすことがどれほど厳しいかは、彼女も理解しているつもりである。

それでも、この地以外には考えられない。夢を達成するために必要であろう高い壁を乗り越える覚悟を、彼女は確かに抱いていた。


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[気になる点] ダークエルフだったりハイダークエルフだったりダークハイエルフだったりちょっと表記ぶれ?が気になるかな?
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