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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第9章 とある国の王都
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18話 異なる2つ

早くも年末ですね。元旦にかけて寒くなるようです、体調にはご注意を!

賑やかな奴隷が増えて、初めてとなった夕食後。就寝前の一通りの支度をすぐに終えるようエルフの3人に指示したホークは、1時間後に3人を自室に呼び出した。

内容に関しては見当がつかない3人だが、借り物とはいえ彼の部屋の前で暴れるわけにもいかないために、部屋の前で3分前から大人しく待機している。呼び出し時間の1分前になり、代表してリュックがドアをノックした。


ハクの返事と共に部屋に入ると、面接会場宜しく扉の向こうに椅子が3つ用意されていた。ホークとハクは大きめの丸テーブルのあるところに座っており、心なしかホークの表情からはいつものお気軽さが伺えない。

連動してか、ハクの声のトーンも普段よりやや重めになっている。それを感じたリュックとリーシャは思わず唾を飲み込み、ハクに促されるまま椅子へと腰かけた。「リーンも座ってください」という言葉で、彼女もあとに続いている。



「さて、食後に悪いね。話し、っていうよりかはいくらか質問がある。はぐらかさずに行くぞ。まず第一に、ハイエルフの二人の祖先は1000年ほど前のハイエルフ狩りで散り散りになっている。ダークハイエルフの血縁って、どうなってるの?」

「同じだわ。昔はハイエルフもダークハイエルフも、一緒に暮らしていた……らしいわ。」

「じゃぁ猶更、なんで君たちは仲が悪い?」



当然と言えば、当然の内容だ。部隊の仲を気にするホークだからこその一番の疑問点であり、タスクフォース8492における問題点である。

とはいえこれらは、ホークが彼女を買わなければ起こり得なかった話である。対人間以上にリーンを毛嫌いする表情を見せていたリーシャを見て、ハイエルフ一族が解決しなければならない問題と捉えたために決定した内容だ。


親の敵のごとく「ダークハイエルフは敵だ」と躾けられてきたリュックとリーシャは、彼女を毛嫌いすることに対し違和感すら覚えない。漢字二文字で表され「そんなの、ちゃんとやって当然だ」と言う者が多い”教育”とは、それほどまでに生き物の成長に対して重要なのである。

一方のリーンもハイエルフに対してツンとした対応をしているが、リーシャほどには酷くない。それでも友好と呼べるには程遠い感情は無意識に表れており、近くに並べられた椅子の端に座って距離を取っていた。



「……第一、なんで貴方、人間がエルフの問題に首を突っ込んでるのよ。」

「契約上の一環でね、将来を見据えたが故の行動だ。ハイエルフが人間及びその他の種族と友好的にならなければ、千年前の焼き直しが待つだけだろう。」



―――それを知りながら口に出し、起因となった人間が首を突っ込むのか。リーンが鋭い視線をホークに返すも、彼の据わった眼には届かない。同時に、「それはダークハイエルフも同様だ」と言われている気がしている。

感情的な目を向けるも真っ直ぐな視線をぶつけられ、リーンは思わずたじろいで目を逸らしてしまう。再び目線を向けなおすも、興味本位ではなく本気で心配しているがための力強い瞳が、そこにあった。



「……どうやら、理由を知っているみたいだね。出会った時に口に出さない点からするに、自制心は持ち合わせているのだと褒めておこう。」

「……良い雰囲気を壊したくないからね。これでも気を使ってるのよ。」

「気を使う必要があると私が判断しているならば、真っ先に言葉の末尾を指摘している。」



つまり、気を使う必要はないと?

そう言いたかった彼女だが、付け入る隙がない。言葉を出す前にホークの前方では黄金の波紋が出現しており、リーンは2つの意味で驚くこととなる。


異空間収納を初めて見たことと、何故かそこから5つのグラスが出てきてテーブルに置かれたこと。全くもって、作られた状況に対する意図が読めないでいた。



「酒でも飲み交わしながら語るとしよう。円卓だ、並び賜え。」



とはいえ、立場的な話は除外したとしても、3人は彼の言葉に逆らえない。


身体能力的に、彼が弱いことは知っている。それでもしかし、彼に勝てる気力が全くもって沸き起こらない。

今までに見たことのない、部下を教育する立場にあるホークと言う存在が、そこに在る。静かで重厚な威圧感に対し、歯向かうと言う感情は裸足で逃げ去っていた。



========



「ブッシュドノエルだわ!」

「いえ、このベイク・チーズタルトよ!」

「アンタに何が分かるってのよ!」

「それはこちらのセリフよ!!」

「なんですって!?」



賑やかですねー。と、上品にグラスに入った赤ワインを飲みながら穏やかな表情で相槌を打つ白いドラゴン。少々度が過ぎている点がホークの想定外ではあるものの、顔を高揚させた二人のエルフが普段よりやや高い声で「自称・最上級のケーキ」について言い争っている。なお、最上級とはいえここで食べた4種類しか知らない模様なのはご愛敬だ。

重厚な表情と言葉で3人をテーブル席に着かせたと思えば「食後の甘未でも摘まみながら話そうぜ」と口元を釣り上げて放たれた言葉に、何故かハクが真っ先に反応したのもご愛敬である。なんでやねん、と軽くツッコミを入れるホークは、いつものお気楽な調子に戻っていた。



新たな異空間収納から小切れのケーキが4種類出されて始まった場において、リーンが気に入ったのはチョコケーキの一種であるブッシュドノエル。一方のリーシャは、濃厚なチーズタルトがお気に入りのようだ。

しかし二人とも何故かジュースのペースで飲んでいた赤ワインの所詮でアルコールがイイカンジに作用しており、互いに異なるお気に入りが一番であると自己主張を炸裂させている。



「仲が良いねぇ。」

「「よくありません!!」」



そして、相変わらずケラケラと笑って二人を揶揄うホークと息の合った返答であった。既に必要な情報は聞き出しているために、彼もすっかりリラックスモードである。



そもそもにおいて、1000年以上前は互いの種族のハイエルフは共に暮らしていたらしい、とは3人の弁。結婚と言える内容も種族を跨いで行われたこともあり、毛嫌いするための要素は見受けられなかった。

共存、共生。比較して弓や剣がやや得意なハイエルフと、元々エルフ種が得意とする魔法を更に長けて扱えるダークハイエルフは、互いに協力し合って自然の中で生きてきた。


エルフが子を成すことは人間より確率が低いらしく、事実、I.S.A.F.8492が保護したハイエルフも子供の割合は非常に低い。互いの魔力が高まった時がどうのこうのとやや顔を赤らめながら真面目に説明していたリーンだが、その手の関係ないところをホークの脳がスルーしていると知ればギャースカと騒ぎだすだろう。

また、人間のように新たな町を作って居住エリアを分散するようなことは行わないらしく、そのために人族が攻め込んできた際も避難所的なモノがなかったため、散り散りになったとのことだ。


そしてどうやら、ハイエルフとダークハイエルフとの対立が作られていたようである。ハイエルフの数名が殺される事件が起こり、その犯人がダークハイエルフであるとハイエルフ側が主張したことが発端だ。互いの対立は、この事件に起因する。

それが第三者の手によるものとは互いにとって知る由もないが、普通にAランクレベルの魔術師となる2種族に対抗するには、当然の手段ともいえる。人族の進軍も対立時が激化したタイミングでの奇襲そのものであり、ハクもエルフが人族相手に負ける要因として納得していた。



と、ここまでがあくまでもリーンが知る情報である。子を成す確率が低いことだけは事実のようだが、1000年前に起こったことは最早伝記と言っても差し支えのない程となっていた。


また、ホークはホークでそれに関してI.S.A.F.8492がどうこうできる問題ではないとも再認識している。事件発生時に戻ることができれば可能だが、そもそもその行為自体が不可能だ。真相究明が第一ではあるものの、今回のケースにおける情報源は限られてくる。

そんな思考をした彼がチラっとハクの顔を見るも、同じことを考えているのか軽く頷く動作を返してくる。フーガ国の老竜こそ、解決のカギを握っているのだと確信していた。



そして、今は二人の仲を近づけようと、新たな策を展開する。



「そんなに互いが良いってなら、じゃぁコレとかどうよ。」



新たな波紋から出されたモノの名前は、焼き立てのチョコチーズタルト。香がとても強いチョコレートを生地に使い、塩気やコクの違う4種類のチーズをブレンドさせた彼のオリジナルである。

見た目は色の違うチーズタルトであり、チョコが持つ色素の影響でやや茶色いのはご愛敬である。どんなケーキであるかを説明すると、ゴクリと女性3名の喉が鳴った。女性2人を対象にしたはずが3人目の女性(ハク)が反応を見せる点については、相変わらずのご愛敬である。


とはいえ、何故言い争っている2つを合体させたようなものを出してくるのかと、リーンとリーシャは肩頬を膨らませて不貞腐れ顔だ。「とりあえず食ってから文句を聞く」というホークの言葉で切り分けて食す二人は、噛み締めた瞬間に黙り込んだ。

サクっとしたタルト生地の食感と共に、チョコの香りがしっかりと届いている。しかし次の瞬間には濃厚なチーズの旨味と塩気が押し寄せており、ほんの僅かな甘みと相まって舌と鼻を喜ばせることをやめはしない。



「ま、その2品目の関係は、ハイエルフとハイダークエルフみたいなものだよ。」



二口めを飲み込んだと同時に放たれたその一言で、酔っていた身体と心が静まり返る。言い争う2種族に対して彼が言いたかったことの神髄は、先ほどまでに食べたケーキの中に詰まっていた。



「いくら過去を蒸し返したところで、過去が変わることはない。伝記と言えるほどに薄まった過去を取るか、これから自身やその仲間が地に足をつける未来を取るか。」



まるでスポンジと呼ばれているケーキの生地に染み込むように。彼の言葉は、エルフと呼ばれる3名の心に響いていた。



「どちらが最良かではなく、どちらも良い。そして二つが上手く合わさることで、更に違う良さへと発展する。」



―――1000年より前も、そうだったんじゃないのか?


ホークが発したこれらの言葉をかみしめるエルフの3名は、僅かに俯いて考えを巡らせていた。

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