15話 ゴロツキ再び
話題の難しすぎるFPS”GTFO”、フレンド3人とA1はクリアできました(白目)
クセで(弱点ではない)ヘッドショットを狙ってしまうのは職業病ですね。
…それにしてもクリア率1.25%って難しすぎやしませんかね。
「ちょっと、私の出した内容!条件と合ってるの!?」
奴隷のはずの彼女が、凄まじい剣幕で店主に突っかかる。しかし店主としては、気前よく極端な値引きなしで金額を払われたこの取引を無しにしたいはずもなく、奴隷がこのような性格のために手放したいとも考えていたのだ。
そのために、適当に言い訳をしてそそくさと店の奥へ行ってしまった。何かと手続きが必要なようで、ホークたちは「しばらくお待ちください」と豪勢なソファに案内され腰かけている。
店の奥に向かって叫ぶ彼女に対して「元気な奴隷だなー」とケラケラ笑っているのはホークであり、マールリール姉妹は苦笑している。リュック・リーシャ兄妹は相変わらずの仏頂面であり、ティーダの町に初めて来た時のような表情に戻ってしまっていた。
つまり、ダークエルフとの関係は良いとは言えないのが実情なのだろう。それもあるが、ホークとしては彼女が言う「内容」の中身が気になっていた。
とりあえず触りから彼女に話を振ってみたが、名前はリーンと言うらしい。表情に似合う強気さが容姿ともピッタリな、活発な女性である。おしとやかさが際立つリーシャとは、本当に正反対だ。
「で、内容って何さ。」
「あなたたちが強いかどうかよ!私が買われたことで利益をこの店に与える条件、それは買い手の強さだわ!」
これが、店主が手を焼いていた要員の1つである。彼女がハイエルフ故、彼女より強いものは早々現れることがない。彼女自身が推定Aランク後半と思われる魔術師なために、向かうところ敵なしと表現できるほどの強さなのだ。
故に、眼前の集団。Eランク冒険者パーティーとなれば、強さはたかが知れている。特にケラケラとしている彼が強いとは、彼女の視点ではとても思えないのである。
「ハク。」
その一言の直後、付近に居た者の背中が真冬の冷や水を浴びたかのように凍え切った。威勢が良かった彼女も、思わず後退りしてへたり込んでしまう。
ホークの指示により、ハクが加減無しで彼女に殺気を向けたのだ。味方かつ対象外だと言うのに、ホーク以外のメンツも思わず身震いしてしまう程である。ルームも同様だが、「やはりこのお方がフーガ国のハク様なのだ」と、内心では確信を抱いていた。
一方のリーンからすれば、「先ほどの言葉を撤回したい」とでも叫びたい状況である。
蛇に睨まれた蛙という言葉があるが、そんな生易しいものでない。目の前の白服の女性にかかれば軽く殺されることを理解した彼女は、目を見開いて完全に怯えてしまっていた。
「合格かな?」
にこやかに問いかける彼を見上げたまま、彼女はコクコクとぎこちなく頷いている。どうにか再び立ち上がると、奴隷用の丸椅子に腰かけた。
先程の威勢を恥じるように、両手を前で組んで軽く俯いて大人しくしている。なんとも女性らしい光景だ。一方のホークは何事も無かったかのようにハクと今後の予定を話しており、時折笑顔も見て取れる。
すると、ヴォルグ夫妻と共に表で待機していたルームの部下の一人が、困惑した表情で入ってくる。ルームが事情を聴くと、どうも広場でタスクフォース8492のことを叫んでいる連中が居るとのことだ。
実際に、ドアの向こうからはそれらしき声が漏れてくる。奴隷商はメインストリートから外れたところにあるため物静かであり、声が良く通っている。かすかに木霊が残ることが、周りの静かさと建築密度の高さを強調していた。
「出てこい、タスクフォース8492!!」
「こいつらがどうなってもいいのか!!」
ホーク達も顔を出してしばらく聞いているも、なんとも物騒な内容である。ヴォルグは「さっきからこの調子ですよ」と、五月蝿そうに溜息をついていた。騒ぎを聞きつけた店主や従業員たちも、何事かと表に顔を出していた。
そしてまさかのフェンリルを見て、リーンは再び腰を抜かしかけていた。なんで伝説的な生き物が居て衛兵は何もしていないのかとルームの部下に顔を向けると、「仕方ない」という表情を返されて更に混乱することとなる。
「呼ばれていますね。」
「さっきから色々と穏やかじゃないねぇ。」
呑気な口調丸出しのパーティーリーダー夫妻だが、UAVから情報が来たことで状況が一変する。こいつらが~の件が気になっていたホークだが、現状は、どう見ても立てこもりが発生しているのだ。
対象が馬車のためにどちらかと言えばハイジャック系統だが、そんな差は些細なことである。こいつら、と相手が呼んでいただけに中に人が居ると判断したホークは、ルームに許可を取って戦闘指示を出すこととなった。
「第二分隊は狙撃体制を取れ。第三分隊、近接戦闘態勢。店主、屋根の上を借り受ける。」
「店主、ぜひ協力を。」
「は、はいっ。」
騎士に言われるがまま、店主は天窓までの階段を案内する。マクミラン率いる第二分隊がそれに続き、第一・第三分隊は街路へと駆けだした。
屋上に到着したマクミラン達と兵士の1名だが、木々に身を包んだ男が行ったことは単純だ。黒い鉄の杖のような物を一方へと向け、そのまま微動だにしていない。
方角的には小さな噴水のある広場のような場所であり、先ほどから何者かが叫んでいる方角であることは理解できる。しかし当然ながら、対象は豆粒程度の大きさだ。
何をしているのかわからない第二分隊を眺めている兵士の一人だが、慌てた様子でもう一人が階段を上ってくる。息を切らせながら報告した内容は、その兵士の顔が引きつるものだった。
どうやら賊らしき者は馬車を乗っ取ったらしいのだが、どうもその馬車が身に覚えのあるモノらしいのである。つまりは、国王に近い上位貴族が使用している代物だ。
見た目こそ貧相な馬車なのだが、これはお忍び用故の事。対応を間違えれば色々と首が飛びそうになる状況なだけに、兵士たちは慌てていた。
《マクミランより総帥。第二分隊スナイパー各位、配置に着きました。射線は通っております、いつでもどうぞ。》
《了解した。目視判断でいけ、アウト。》
「偵察班より報告。馬車内部には人質3名の反応あり、敵は外の5人だけのようです。獲物は短剣、刃渡りは全て40㎝程。」
「了解、できれば銃は使いたくない。ハク、リュック、リーシャ、ディムース及び選抜の2名で行くぞ、生け捕りにするんだ。残りの第二分隊とヴォルグ、ハクレンは周囲警戒を行え。」
すぐさまディムースは二人を指さし、隊員が返事を行った。その他の隊員はHK416を構え、後方や屋根の上などを警戒している。
「突入スタンバイ。始めるぞ。」
「と、突入!?助ける相手は」
立ち位置の関係で偵察班の報告からホークの指示までが聞こえていなかったルームは、思わず叫んでしまう。彼も馬車が貴族の物だと知っているために、万全の態勢を取るべきだと判断していた。
とはいえ、その判断こそ無意味と言うものだ。決着までは、モノの十秒ほどで辿り着く。
まず初めに相変わらず目に留まらない速さで駆け抜けたハクのニーキックが、良い感じに懐にクリーンヒット。どこぞのゴールキーパー並みに吹っ飛んでしまい、一名が早々に戦線離脱である。
続いてそれ程の速度では無いものの、リュックの剣を受けた相手はよろめき、大きく距離を取ってしまう。攻撃を行ったリュックの後ろを取ろうとした一名の短剣は、ハクの双剣によって弾き飛ばされていた。
ニーキックのタイミングで条件反射的に一人が馬車内部に立てこもろうとしたのだが、登り切った瞬間に首根っこを捕らえられる。馬車の外から伸びていた手の主は、万能ファイターであるディムースだ。
「よーし、こっちは捉えたぜ。ん?」
「あ、あんたは!!」
目と目が合う。つい20時間ほど前に投げ飛ばした記憶のある顔が、そこにはあった。どうやら、相手のゴロツキも一瞬でそれに気づいたようである。
「よう、昨日ぶり。アンタさ、昨日も衛兵に連れられてたよな。また酔いが回ってんのか?覚悟しとけよ、今回は騎士様がご案内役だぜ。」
「き、騎士だと!?あの野郎騙しやがったな、お、おれたちの自発的な行為じゃねぇ!た、頼まれたんだよ!!」
「誰に。」
グッと、タクティカルナイフの距離が首に近づく。刃先は既に当たっており、少し動くだけで斬り込みが深く入るだろう。少なくともディムース側から自発的に動かせば、容易に済む行動だ。
そしてゴロツキは、相変らず謎の力によって押さえつけられ身体をピクリとも動かせず、いくら力を入れようとも変化がない。逃げることは到底困難であると、乏しい頭ながらも理解していた。
名前は知らないと号する相手に対し、ディムースは特徴を述べるように脅している。その特徴を聞いているうちに、とある一名が合致してきていた。
早い話が、先日にホーク達に難癖をつけてきたティーダの町の領主である。それと合致した段階で、とりあえず当該ゴロツキの役目は終了した。
「そうだ、話が終わったら思い出した。……お前は最後に殺すと約束したな?」
「そ、そうだニーサン、助けて」
「あれは嘘だ。」
顔を出した兵士をCQCで馬車の外に放り投げた流れで、ディムースはナイフを振り下ろした。思わず悲鳴を上げるゴロツキだが、ナイフは頬のすぐ横を通って地面に突き刺さっている。
発言の元ネタでは相手を最初に殺しているのだが、今回は相手を殺さないということで嘘となっている。相手は藻掻くことすらままならず、両手を上げて仰向けのまま寝転がっていた。
すぐさま後方警戒を行っていた隊員がその両手両足を縛り上げはじめ、ディムースは軽く溜息を零している。そのまま馬車の中を確認しようと、状況報告を行いながら顔を向けた。
「よし、オールクリアァアアアアアァァァ!?」
後方を確認し終えて荷馬車の中を確認し思わず叫ぶディムースに、全員が注目する。後方カバーで前線に出たホークも何事かと駆け寄ったものの、そこには馬車上からディムースの顔を見る、一人の少女の姿があった。
思わずタクティカルナイフを落としそうになるディムースだが、寸前のところで持ちこたえる。しかし眼前の少女と目があったままで、ホークが話しかけるまで逸らせなかった。