15話 シルビア王国開放戦~120mm、105mm~
【視点:三人称】
マクミラン大尉の狙撃により、問題となっていた勇者は命を落とした。これにより、作戦はシルビア王国の解放へと移行する。総帥であるホークの言葉と共に、全軍が行動を開始することとなる。まずは10㎞四方近くもある城下町のエリアを制圧し、最後に北部に構える王宮となる手筈だ。
シルビア王国の雰囲気としては中世ヨーロッパが近いところだが、建物は屋敷レベルでも最高が3階建て。彼等が知るヨーロッパと比べると、建築技術は若干劣っているようだ。その代わり下水や汚物処理に関しては魔法が使用されており、衛生面では悪くはない。勇者が率いていた王国軍の騎士が、暴力を振っていなければの話だが。
この王国を囲うように、4階建てほどの石の防壁が聳え立っている。この防壁を突破することが、I.S.A.F.8492陸軍最初の課題だ。
《イーグルアイより全軍。これより、シルビア王国を解放する。勇者軍の支配下にある王宮、及び住民が住む8地区を解放しろ、作戦開始。》
AWACSイーグルアイが放ったその言葉と同時に、一番近い東側に隠れていたM1戦車部隊のグリズビー3以下30両の戦車部隊が、草原に展開する。正確にはM1A2と呼ばれる型式であり、M256と呼ばれる44口径120mm滑腔砲を主砲とする現代戦車だ。車両1両を車長・砲手・操縦士・装填手の4名で動かすことができる。
この装備に、追加の装甲やM153 CROWS。車長用独立熱線映像装置や、ミサイルの追尾を無効化するアクティブ防護システムを装備し、戦闘能力を高めている。主砲による攻城兵器のような運用も可能である上に、機銃による対人攻撃も可能なのだ。機銃の銃座は回転も速く、突発脅威に対応しやすくされている。
現在東の草原に展開中であるM1戦車の主砲の全てにM829A3徹甲弾が装填され、砲門は東門にロックオンされている。全車両が、いつでも射撃できる状態だ。走行中は車体の揺れが凄まじいが、その問題に対してはスタビライザーが効力を発揮する。主砲そのものを安定させ、車両がどれだけ暴れようがロックオン目標に命中するよう角度を調整するのだ。
反撃に警戒して、大廻りを行いながら草原を進軍する。最新型戦車の機動力は凄まじく、1分もしないうちに全車両が草原に展開し、突撃準備が整った。聞き慣れない轟音と共に現れたソレに、兵士は脳内の状況整理が追い付いていない。やかましい音を立てるソレが何なのか、想像もつかないのだ。
《こちらグリズビー3-1。東門前の草原に展開完了、合図を待つ。》
30両のM1戦車の展開が完了し、司令塔のグリズビー3-1は、連絡を待っている。各車両には徹甲弾が装填されており、いつでも発射可能だ。
連絡元は、上空偵察機であるSR-71ブラックバード、お馴染みとなったビッグアイ偵察部隊。東門に民間人が居るかどうか、4時間前より監視しているのである。
《ビッグアイ2よりグリズビー3-1、東門に民間人は居ない。繰り返す、東門に民間人なし。》
《了解、先手を務める。3-1から3-10、東門に攻撃開始!テェー!!》
南門とは違い東西の門は大通りで繋がっており、門の付近い建物が存在しない。故に門に民間人が居ないならば、M1戦車の主砲にて容赦なく攻撃できる。軍隊が攻撃の際に気にするのが、民間人の有無である。どれだけ敵国に恨みがあろうが、絶対に攻撃してはいけない対象となる。
故に攻撃の際は、細心の注意が必要だ。8492も設立時から守っている事柄であり、軍隊としても人気が高かった理由の1つである。繰り返すが、逆に言えば民間人を巻き込まないならば憂いはない。持てる火力の全力を持って、先行部隊10両が攻撃目標に襲い掛かる。
いつかホークが聞いたように炸裂音とも取れる発射音と共に大気を震わせ、120㎜砲弾の雨粒10個が東門を飲み込んでいく。一度の攻撃で門は崩壊し、積み木が崩れるかのように崩落した。
《着弾、効果確認!》
《次弾、装填完了!》
《おっぱなすぞ!Fire!!》
《敵が城門横の壁の上に展開中、撃たれる前に機銃で先制しろ!シューター、支援頼む!》
《任せろグリズビー、前に出すぎるなよ。》
同時に、アパッチを操るシューター隊が上空に展開。城壁に設置されたバリスタや、設置型の小型魔導兵器を破壊していく。小回りの利く機体と30㎜機関銃は、この任務にうってつけだ。無駄に城壁を破壊することなく、ピンポイントで狙撃できる。
再び放たれる、120mmの砲撃の雨。防衛担当の兵士は魔法のような防壁でガードしようにも、謎の攻撃は容赦なく貫通してくる。まさか魔法の類が全て無効化されるなど、魔道兵士は思っても居ない。理由が分からないまま、その命を散らしていった。
次弾による攻撃で瓦礫も吹き飛んだため、もはや門は役目を果たしていない。グリズビー戦車大隊は、いつでも王国内に進入できる状態だ。シューター隊は、城壁にある兵器類を全て排除。偵察ヘリのシャドー隊から見ても、人影は見られない。
たったの2分で、東門の制圧が完了した。未だに襲撃があったと、知らないシルビア国の兵士も多い程。いくら魔法で作った無線システムがあるとはいえ、限界がある。この短時間では、連絡システムそのものが機能しないのだ。
敵の翼竜を東門へと引き寄せるために、西と南は未だに静かだ。加えて王宮上空には、オスプレイ2機よりグリーンベレー特殊部隊の60名が展開しているのだが、翼竜隊は気づいていない。東門を最初に攻撃したのは、王宮への強行着陸から目をそらすためでもあった。M1戦車からの主砲攻撃は、注意を引き付けるためには最適である。
事実、シルビア王国の兵士は東門しか見えていなかった。いまだ、勇者が暗殺されたとの報告すら入っていない。理由としては、グリーンベレーが目撃者の兵士全てを排除したためだ。お互いの作戦行動が上手く噛み合い、結果として状況を思惑通りに進めている。
《イーグルアイより東門攻撃部隊。敵の翼竜やドラゴンが離陸準備を行っている、注意しろ。》
《了解、世話になったなシューターとシャドー隊、ヘリ部隊は先に逃げておけ!状況報告、東門横の建物から敵魔導兵器らしき物体が出現、数は3!ライダー隊、頼んだぞ!》
グリズビー3-1が無線で呼びながらカメラ越しに見上げる先には、辛うじて飛行物体が確認できる。目を細めて微かに確認できる高度で飛行しており、言われても気づかない程だ。4機編隊で飛ぶソレは左翼方向にバンクを行いながら旋回しており、通常の航空機の飛び方ではない。しかし確実に、シルビア王国上空の空域を旋回している。
《エ゛ネ゛ミ゛ーAC-130ア゛バー《違ァぅ!!》》
《友軍AC-130、上空に待機。繰り返す、友軍AC-130、上空に待機。》
何故か絶望的な声でエネミーAC-130アバーブ、日本語に訳すと「上空に敵のAC-130」と叫んだ砲手が車長に叱られたが、AWACSがナチュラルにそれをスルーして状況報告。とはいえ、上空に機体が居ることに変わりはない。
空飛ぶ迫撃砲台、名をAC-130。その最新モデルであるJ型、機体のニックネームはゴーストライダーだ。FPS系のゲームをプレイしている人の大半が、AC-130と聞けば即座に想像がつくだろう。ジェットエンジンではなく昔ながらのターボプロップエンジン4発を搭載する大型輸送機機、C-130がベースとなっている空対地攻撃機だ。
C-130はベースであるためAC-130となると全く異なるのだが、AC-130がどのような機体かは言葉にすれば1行で済む。C-130の中身を、攻撃兵器と対地攻撃レーダーで埋めた物だ。最大の特徴は、機体の左胴体から突き出ているM102 105mm榴弾砲と30㎜機関砲だろう。右胴体側には搭載されていない代物であり、そのため機体は左旋回を行いつつ攻撃を行うこととなる。
AC-130にも初期型から様々なバリエーションがあるが、ライダー隊が操るのはJ型と呼ばれる形式だ。エンジンやコクピットが最新型であることに加え、一番の変更点は武装である。ただでさえ凶悪な空対地攻撃能力を持つAC-130に、対戦車ミサイルや空対地爆弾を搭載可能としたモデルである。その代わりに、40㎜機関砲が取り外されている。
この編隊も例外ではなく武装が更新されており、AGM-176小型空対地ミサイルと、航空隊も使っているGBU-39小型精密爆弾を搭載している。主砲である105㎜の破壊力とは裏腹に、精密攻撃能力も高いのだ。1機だけでも地上兵にとっては脅威なのに、それが4機編隊。更に敵の地上兵は、まだその存在に気づいていない。
目の前に現れ攻撃を始めた機甲部隊に、意識が逸らされているためだ。ライダー隊が居るのは遥か上空であることと、M1部隊の影響で、誰も空の事情などを気にしている場合ではない。M1戦車から魔導兵器を狙ってもいいのだが、せっかく上空にAC-130がいるのだから、グリズビー3-1は確実な攻撃方法を選択したわけである。
ちなみに敵の翼竜隊がいる兵舎は、民間施設が近くにあるため狙えない。住民が完全に連れ出されているかどうかは、現時点では不明なのだ。そのため、現在の目標は魔導兵器となる。砲撃支援要請を受け、ライダー1に搭乗する射撃管制官は、機内の人員及び寮機に指示を出す。
《砲撃支援要請を受信、ターゲットシステム・オンライン。各機オペレーター、友軍は確認できるか。》
《ライダー1確認、友軍はマーキングされている。》
《ライダー2、確認した。》
《ライダー3、システムに問題なし。》
《ライダー4、同じく問題ない。》
《了解、地上スキャン完了、3つの攻撃対象を補足。目標は全て射程範囲内、選択兵装は105mmだ。1~3は各魔導兵器、4はすぐ後ろの騎馬兵を狙え。》
各機のAC-130は射撃管制官が指定した指示を狙い、射撃角度を調整していく。ロックオン機能はないものの上空から狙われているわけで、足の遅い魔導兵器が逃げられる道はない。
《ライダー1から3各機、順に着弾地点を修正。イチニーピリオド、ニーマルピリオド、ゴーマルピリオド。修正完了、Gun's ready?》
《Gun ready!》
《Gun ready!》
《Gun ready!》
《Gun ready!》
ライダー各機の砲手から、105mm榴弾砲の発射準備が整った合図が返された。あとは各機のオペレーターが発射ボタンを押すだけで、攻撃が完了となる段階だ。
《―――主砲、奴等をやれ。》
射撃管制官の合図と同時に、オペレーターがボタンを押す。AC-130J編隊4機の左翼から突き出た砲身より、105㎜榴弾砲が発射された。
重力に従い、砲弾が落下する。大気を切り裂く特有の高音を響かせながら、2秒の時間をおいて魔導兵器と騎兵軍団に着弾した。
《目標に着弾、敵魔導兵器を全て破壊。各機砲手、ナイスショット。多くの破片が確認できる。》
《oh.痛そうだ。》
《目標ダウン、オール・キル。》
砲弾が炸裂した、その瞬間。着弾地点の周囲に居た生命は、気づいたら死んでいただろう。周囲では、体の一部を失いながらも、辛うじて生きている兵士が点在した。勇者軍の被害は甚大である。数十名の姿が一瞬で消え、物理的にも戦術的にも、大きな穴が開いている。生き残った者は唖然として空を仰ぎ見るも、そこには微かな大きさの飛行物体が映るのみ。着弾地点にいた兵士が弾け飛んだ方角から、生き残った兵士たちは、あの飛行物体が攻撃地点と断定する。
しかし、彼等にできることはそれだけだ。攻撃を防ぐ手段はなく、相手を落とそうにも、熟練の弓兵ですら攻撃が届かない。放たれた攻撃を目にした兵士は完全に士気を削がれ、体が自然と後ずさっていた。前線では、既に兵士の士気は皆無に等しい。今までの地上戦において歩兵・弓兵やバリスタの類を無効化し無敵を誇った魔導兵器のうち3つが一撃の下に敗れ去り、勇者軍の最前線は混乱していた。
《戦車部隊を援護する。各機、個別目標にて攻撃せよ。》
当初の目標を達成したAC-130は、30mm機関銃にて敵歩兵軍団を攻撃する。105mm砲を使用すると地面に大穴が空くため、地上部隊にとっては宜しくないからだ。同様の理由により、空対地爆弾やミサイルも使用しない。また、高高度からの攻撃とはいえ、30mmもあれば騎兵や兵士相手には十分だ。
《右方向、まだ動いているぞ。……命中、1m以内の奴等は終わったな。》
《105mm砲準備良し、いつでも撃てるぞ!》
《砲、準備良し!》
《良いぞ3番機、そのまま30mmで蹴散らしてやれ。よし、その目標もダウンだ。右側を走っているぞ、狙い撃て。》
30mmを使用して攻撃を開始し1-2分ほど経過したタイミングで、勇者軍の後方からドラゴンの雄たけびが響き渡る。味方であるはずの兵士たちも、その雄たけびを聞いて腰を抜かしていた。
2つの帝国軍を到達前に蹴散らし、勇者と共に、この地を最強の座に確立した飛行部隊。御一行は士気を持ち直した地上軍と共に、東門の方角へと進行してきた。
飛行部隊と呼ばれる集団の狙いは、遥か上空にいる未知の飛行物体。自国に土足で踏み入れている連中を撃退すべく、出し惜しみせず、全てが空へと上がっていく。
《イーグルアイよりライダー各機。想定より早く敵翼竜隊が上がってきた、一時退避しろ。》
《了解、ライダー各機は方位1-6-0へ退避する。後釜は任せた航空隊、制空権は頼んだぜ。》
―――しかし、相手が悪い。
戦争の名の下に試行錯誤が積み重ねられた科学技術の神髄は、物理攻撃力だけならば魔法すらをも凌駕する。
それを操るのは超一流のエース級。単機で世界戦争をひっくり返すレベルのパイロットと組み合わされた破壊の力は、たかだか翼竜やドラゴン程度では止まらない。
エネミーAC-130アバーブ!