6話 王都へ
皆様、台風にはご注意ください
「……なるほど。色々とありましたが、結論としてはカタリナ国の首都へ行くことに成りそうなのですね。」
「なんか知らないところで論争があったらしいけど、エスパーダ隊が言い負けたらしい。黙っていれば、騒動に巻き込まれた他国という立場を利用して無言の威圧も使えたろうに。あれほどの老兵を相手に論争は、どう見たって分が悪いだろうね。」
「領主の処遇については、どうなってのでしょう?」
「どうだろ、何も言ってきていないんだよね。とはいえ今ここで反乱を起こしたところで、事情を知らない王様から見れば悪者は此方になる。「ただの反逆者集団」って感じだね。審判が下されるまでに、どれだけ根回しができるか・どれだけ状況を信用してもらえるかの勝負になるんじゃないかな?とにかく、審判のタイミングやその後の処置も含めて難しいところだね。」
「住民ならばまだしも、私達が動くべき場面では無さそうですね。」
「そゆこと、国が管理してる指揮系統の問題なんだし国に任せましょ。とは言っても、問題発生を図ったようにそこに転がってる3つの生霊がこの地に居るから、カタリナ国の騎士も迂闊に動けないんだと思う。」
ガルムとメビウスが乗ったオスプレイを見送り、宿に戻ったタスクフォース8492。食事スペースの一角で、西の帝国の騎士3名が突っ伏していた。
先ほどホークが説明した通りなのだが、国の騎士がホークをカタリナ国の首都に招待するという内容に反発し、どうやら完全に言いくるめられたようである。これも彼が言う通り、マトモな老兵と論争を行っても負けることが多いのだ。ハクもホークと同意見だが、タスクフォース8492を引き留めたい気持ちはわからなくもないため言葉に表すことはしていない。
ホークがハクと会話した内容は、グサリグサリと彼女達のメンタルに刺さっている。エスパーダ隊からすれば自分たちの行いで鳥に迷惑をかけてしまった状況であり、出会い頭から続いている内容と合わせても、借金が溜まる一方だ。
とはいえ二人からすればどうでもいい内容であり、気にもしていない。カタリナ国の首都はどんな町なのかと、マールとリールを呼んで話に花を咲かせている。所々で食の話題が出るのも日常だ。
ちなみに、エスパーダ達がカタリナ国の老騎士、ルームに食って掛かった内容は正論と言えば正論だ。立場を利用して冒険者を呼びつけるのは無礼ではないか、という内容であり、関係ない部隊とはいえ領主の騎士が横暴を働いた状況下では、あまり宜しくない選択である。
実際のところ市民からも反発の声がやや聞こえており、ティーダの町出身の冒険者が取られないかと心配した冒険者ギルド職員も声が大きい。似た内容で他国に鳥を取られてはならないという義務感が発したエスパーダ隊も、周囲の声に賛同していた。
とはいえタスクフォース8492としては、ここでハイと答えておけばカタリナ国に貸しを作れるのも事実である。また、ご招待という大義名分を引っ提げて他の町を視察できるために乗り気であった。
しかし現状は彼の意思表示に関係なく、エスパーダ隊が言い負け、援護射撃を失った冒険者ギルドも言いくるめられている有様だ。結果として、タスクフォース8492がカタリナ国王都へと赴く空気が作られてしまっている。
それを示すかのように、ルームが部下の二人を引き連れてホーク達が居る宿へとやってきた。相手がEランク冒険者とはいえ非常に礼儀正しく、騎士の見本と言っても過言ではない。
対するホークは、やや大人げな口調で対応している。蓋を開けてみればホークが話せる相手ということが分かり、ルームも内心では一安心といった状況だ。
また、いくつかの条件がある事も彼は明確に伝えている。その中の1つに、例え国王が相手でも敬意を払うことは不可能と、明確に示していた。
「国王に敬意を抱かないとはどういうことだ!」
「敬意というのは強制するものではない、自然と生まれ出る感情だと考える。まして他国の輩に敬意を強制するならば、それは奴隷への命令と変わりないだろう。カタリナ国の国王とは、そういう人物なのか?」
そしてこのように、時折ヒートアップするルームの部下を一撃の言葉で諭していく言い回し。流石に3度目となった今回で部下に苦言を入れるルームだが、ホークが並大抵の相手ではないと再認識した。
「そもそも、斥候が出たのは先ほどだろう。我々を連れていくことに関して、王の許可は得ているのか?」
「正直に話そう、出ていない。しかし王ならば、諸君等と敵対せぬよう面会の場を設けるはずだ。ワシはそう確信して居る。」
「随分と強気だな。」
「何かと付き合いが長くてのう。あえて次の呼び方をするが、奴がオシメをしていた頃から知っておる。」
「なるほど。ならばその感情は、わからんでもない。」
互いに僅かにニヤリと口元を歪めると、ホークは言葉を発した。
「良かろう。我々タスクフォース8492、王都観光ついでの謁見と言うことで、カタリナ国王都への案内を受けよう。」
「英断を支持する。案内は我々、カタリナ王国・第一騎士団にお任せあれ。出立時間は明朝日の出であると理想なのじゃが、宜しいかな?」
「日が山から顔を出しきった時間に、西門に集合でどうだろうか?」
「承知した。」
「ところで確認しておきたいのだが、領主の件についてはそちらに一任するということで異存はないか?」
「ああ、そうして貰えると助かる。今までにない程の事態でな、ワシらも迂闊に動けんのじゃよ。」
「了解した、証言が必要ならば可能な範囲で協力しよう。」
「恩に着る。必ず、ティーダの町にとって理想の結果を手に入れて見せよう。」
その後、ホーク側が事前に伝えた言い分は絶対であることが念押しされ、明朝に出発することで決定された。また、問答の通り、現ティーダの町の領主の行いに関する審判は、カタリナ国によって下されることになるだろう。
それぞれの条件を再確認し、ルームは部下と共に帰って行く。今度はホークが、その旨を仲間たちに話す番である。
「良いんスか総帥。お考えを否定するわけではありませんが、長直々に他国の本拠地へ行くんですよ?」
「拒否ったら更に大規模軍勢で来る気まんまんだったからねぇ。ヴォルグ達の正体バレちゃってるし、行くにしろ留まるにしろ芋づる式でハクも時間の問題だから、貸しは作っといた方が良いかなって判断さ。」
その他にも理由はあるが、今回は相手の言うことを聞いておいた方が良いというのがホークの判断だ。さりげない流れで言葉の弾丸に被弾したヴォルグは、申し訳なさそうに耳を伏せる。
とはいえ、どうやらホーク達は第二拠点に逃げ帰るつもりは無いらしい。良くも悪くも引きこもっていた一族の組み合わせのために、他の町を見たいという好奇心は、全員の中で大いに高まっていた。
「で、どうやって行くんです?まさかフルマラソンするわけじゃ……。」
「王都上空でヘイロー?」
「んな無茶な。」
「馬の数が足りないことは承知なさっておられるでしょうし、エルエーティーブイを使うのでしょうか、マスター。」
「正解。」
「えっ、使っちゃうんです?」
ホークが言うには、L-ATVを解禁するならば、今ここで使うべきカードらしい。確かに、L-ATVがタスクフォース8492の乗り物と認知され公に使用することができれば、活動できる内容も範囲も増えるだろう。
これならば隊員全員が運転できるために、数を揃えれば大規模輸送も可能な代物だ。8輪のM1128ストライカーなどと組み合わせることで防衛面でも余裕が生まれ、この車両はホークとディムースが操縦可能である。
また、ここで新装備の出番となるようだ。ヴォルグとハクレン用に開発された、狼用無線内容のレシーバーである。
マイク機能は無いものの非常に小型に仕上がっており、試しに装着して違和感がないことを確認していた。このあたりの仕様を一発で決めてくる点が、I.S.A.F.8492兵器開発部隊のエースたる所以となっている。
話し合いの末に大型の輸送用L-ATVとM1128が各1両の2台両体制で行くことが決定された。このM1128は霧の盗賊団へお礼参りした時にホークが使っていたものと同じであり、兵装に変更はない。
その後、復活したエスパーダ達から「一緒に行けないか」と相談されるも、ホーク達では判断できかねる内容だ。涙目で自棄に近い表情な彼女達を苦笑しつつ宥め、ホーク達の午後は過ぎてゆくのであった。
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翌日、日の出前。ティーダの町の西門では、住民が見守る前でルームとエスパーダが面と向かって話をしていた。双方ともに、若干ながら言葉尻が強くなっている。
かたや、タスクフォース8492と共に同行すると言う主張。もう片方は、流石に他国の翼竜騎士が王都に来るのは宜しくないと言う内容だ。
「ふふふ、町の住民たちからの直々の依頼でな。タスクフォース8492を、守ってくれという内容だ。しかし我々は、カタリナ国へ貸しを作ろうとは思わない。他国の翼竜騎士が王都へと行くのだ、それで帳消しさ。」
騎士らしからぬ、若干のドヤ顔。なんとも強引ながらもエスパーダが話す内容の筋は通っており、ルームが住民たちに目線をやると頷いている。
ルーム側からしても、これを拒否すれば西の帝国の翼竜騎士からの善意を否定したことと住民たちの考えを撥ね退けたこととなる。これら2点は、国益を考えると宜しくない内容だ。
少なくとも、エスパーダ達はカタリナ国にとって友好的な相手である。現段階では問題ないがフェンリルなどという怪物を招こうとしているだけに、今更他国の翼竜騎士が来たところで問題は少ないだろうと、ルームも腹をくくることとなった。
しかし、その覚悟もすぐに疑問に変わってしまう。ディーゼルエンジン特有の音を響かせながら、動く鉄の塊が西門へとやってきたのだ。
騎士達は何事かと身構えるも横にフェンリルが居り、車両の1つから、見慣れた隠れる場所を間違えた緑の人物が下りてくる。続いてM1128からホークも顔を出し、出発準備の報告と住民に挨拶を行っていた。
彼の予想通りに「なんだこれは」の質問が騎士と住民から出てきたものの、馬のない馬車だと説明し納得させていた。周りに人だかりができるも、時間ということで住民たちは街へと戻っていく。
ルームの掛け声と共に馬が叫び、騎兵の列が動き出す。翼竜も同調するように軽く声を上げ、大空へと羽ばたいた。
住民、特に子供の声を受けながら、2両の車両とヴォルグ夫妻も騎士の後を追う。以前の馬車とは違い騎兵のために、走行速度も段違いだ。調子が良ければ、1日で3町程は移動できるだろう。
途中で寄ることになる町は、新たな発見をもたらす筈だ。数日にわたることになる旅路は、ホーク達を新たな世界へと誘った。