2話 鳥肉で騎士が釣れた
また台風が来ていますね 皆様ご注意ください。
領主の騎士に言葉で勝利したホーク達は、解体場へと場所を移す。そこでは、最後のコカトリスが縄でつるされ、解体されている真っ最中であった。
「それにしても、鶏肉のおかげで面倒なのが来ましたね。」
「ほんとだよ。この前食った時に旨いってのはわかったが、そこまでの肉なのかねぇコレ。」
「いやいや鶏肉としては最高級ですよ、自分が保証します。」
「保証ってのは信頼できる奴が発行するから効果があるんだぞ?」
「ひどいっ!?」
「当然だ。」
「ここで大尉っ!?」
「ご尤もです、マスター。」
「ハクさんまで!?」
「勢いです。」
「ダイジデスネ。」
しょ気るディムースを脇目に腕を組んで解体済みの肉を見下ろすマクミランと、その横で真顔のままハクと拳を合わせるホークだが、その視線をヴォルグに向けると大きく数回頷いている。どうやら、住人が話している内容に尾びれの類は無い様だ。
そこで住民に話を聞けば家畜には牛と馬は居るものの、鳥の類は居ないとのことである。そのために鶏肉というジャンルそのものが新鮮であるために、美味しさに輪がかかっているのだろう。
確かに日本にもワカドリというジャンルがあるが、コカトリスの肉は成熟してなお柔らかさと旨味を保っている。その点で言えば、肉としては一般的な鶏肉よりも優秀だろう。
そんなことを考えているホークは、1羽のコカトリスの各部位を6等分するよう冒険者ギルドに指示を出している。意図は明らかにしていないが、そこまで大変な作業でもなかったために解体員は言われた通りの作業を行った。
分割目的は商人のためであり、仲良く6等分というのが彼の思惑だ。しかし目測の解体のために若干の差があり、完全に平等とはいかないだろう。
そのために、ホークは運を使おうと考える。受付のロビーのようなところに戻るとA5サイズに近い皮紙に羽ペンで6本の線を引き、誰にも見えない位置で横棒を書き込んでいる。もう1枚の皮紙で、その部分と下部を伏せていた。
「あみだくじ?」
6人全員が疑問符を掲げる内容に対し、ホークが原理を説明する。己の能力が一切関係ない運頼みと知り、商人たちは言い訳無しの条約を結んでいた。運命の紙がめくられ、指は下部に書かれた番号へと折れ進む。
とはいえ結果には阿鼻叫喚するものがお約束であり、下位の番号を引いた者は手で頭を抱えていた。その後は無事に選り好みも終了し、町を脅かしていた盗賊団が壊滅したこともあって、6人は「どの町で売ろうか」と雑談に花を咲かせている。このあたりで不公平だのと論争が起こらない点が、商人としての品の良さを示していた。
とはいえ、そうなると残りの肉の行方が気になるのが職員だ。解体は終了しているために、ブロック単位で個別に運ぶことができる。部位に関して問題がないことを確認し、ホークに代金を払うと、商人たちは馬車を手配するために足早に去っていった。
「それにしても器用に解体してたね。ハクとかリュックは刃物の扱いに長けてるけど、解体とかはできるの?」
「すみません総帥様、自分の腕ではできかねます……。」
「私も専門ではありませんが、見まね程度でしたらでき……マスター、職員が用事のようです。」
「うん?」
彼が振り返ると、タスクフォース8492が冒険者登録する際に居た受付嬢が居り、ホークと目線が合うと頭を下げる。どうやら上司から伝言を預かってきたようで、会話を邪魔したことを謝罪したうえで内容を口にした。
内容としてはコカトリスの行方であり、聞けるものなら聞いてくれと頼まれたようである。どうみても私情100%の内容だけに受付嬢としても心苦しく聞いており、終始頭を下げていた。
「領主に取られるぐらいなら処理したい所だけれど、肉屋に卸したところで高すぎるらしいから、売るのにも時間が要るだろうし売れるかも怪しいか。2羽ほどは町に寄付するから、住人総出で焼いちゃえば?」
「っ!?」
両頬を抑えて背伸びし喜ぶ受付嬢も、内心では「食べてみたい」という欲求に塗れていたようだ。数秒後に我に返って恥ずかしがる姿を振りまきながら、両手で鼻と口を隠しながら小走りで去って行く。
誰かが「かわいらしいな」と呟き、数名が同意する。この点に関しては、ホーク個人も同意見だ。度が過ぎないことと容姿と態度が一致すれば、食に関心のある女生とは男にとって魅力的に映るものである。
そんな解答をしておいて「やっぱり辞めた」となればブーイングは必須のため、ホーク達は再び解体場へとやってくる。テキトーに2-3羽見繕ってと言うのもいい加減すぎるので、一応は自分たちで選んだ形を取るようだ。
解体場脇にあるエリアへと足を運ぶと、一角を鶏肉が占領している。基地へのお土産ということで、タスクフォース8492以外の視線が通っていないタイミングで、宝物庫に鶏肉をしまい込んだ。
その際に1kgぐらいある切れ端をヴォルグとハクレンに与えているのだが、この行動は現段階では謎である。生肉とはいえ羨ましく思うも直感に優れる約一名の誰かの妻は、何か裏がありそうな気配を察して黙っていた。ヴォルグ夫妻は床を汚さずに食べつつ、幸せそうな表情をしている。
そうこうしているうちに作業も終了し、ホークは職員に話しかける。解体済みの肉はこちらで処理したために、引き渡し作業は不要という旨の内容だ。
職員は神妙な顔をするが、この反応も当然である。住人総出でも1日では終わらない物量をどのように処理したのか、摩訶不思議で仕方ない。
「過半数は、そこのホワイトウルフが食べちゃった。」
「「!?」」
まさに濡れ衣。残像すらも許さない光の反応速度でホークに顔を向けるヴォルグとハクレンは、何か言いたげな表情を隠す気がない。
肉の量はどう見ても二人の体積より多量だったのだが、物自体はホーク個人の所有であることと後片付けの忙しさ、夜通しで作業した疲れから、特にツッコミを入れる者は居なかった。ホークの予想通りである。
とはいえ、1kgの賄賂が渡され夫妻が受け取ったことも事実である。そのために、不貞腐れるに不貞腐れない状況となっていた。
悶々とするワンコ2名の頭をなでながら、部隊の主はケラケラとした様子で話を進めていくのであった。
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寄付する2羽を決定し、徹夜明けの職員はウキウキ顔でそれを町中へと運んでいく。どうやら広場のようなところで、盛大に焼き鳥パーティーを開催するようだ。
調味料としてはハーブや塩があるので、サラダがあれば胃袋も満足できるだろう。野菜炒めに入れても負けない程の主張を見せる肉だけに、傍らで凝った料理を作るのも一興だ。
ナチュラルに料理を頼まれたホークだが、せっかくなのだから素材の味を楽しんだ方が良いのでは、という助言を行っている。結果として、先ほどのような焼き鳥方式となったのだ。
この世界においても串焼きの類は存在しており、肉屋がせっせと切り分けた肉を老若男女が串に刺す作業を行っている。1つの部位を連続させたり様々な部位をミックスするなど、人それぞれの串が仕上がっていた。
匂いに釣られて良からぬ者が現れないかと、エスパーダ達は警戒飛行中。門兵や衛兵も気合を入れており、彼等にはのちほど料理が提供される手筈となっていた。
上空を飛ぶ西の帝国の翼竜騎士を見て、同じく他国の騎士であるアルツは、自分も警備に参加した方が良いと判断する。鍛錬を中断して汗を拭うと容姿を整え、とりあえず人込みの方へと足を向けた。
「……っ!?」
群集の中、2mほどの隙間ができている20-30人ほどの集団。ある人物に視線を向けた時、目を見開いてしまう。万が一でもこの場に居るにしては在り得ない存在のために、数秒程、その表情が戻ることはなかった。
鎧姿で目立っていたアルツを見たホークの目は逆にやや細まり、ハクの正体がバレたなと察している。公にするかどうかはアルツの自由であるものの、その言動に注視する必要があった。
しかし彼は、思ったことを口には出さない。幼い頃に自身が憧れた剣士が居ようとも、ここは他国。自身も相手も関係がない国だけに、迂闊に動くことはタブーである。
もしハクがフーガ国元王女の名前を出していれば、今のタスクフォースは最低でもSランクに飛び級しているだろう。それを行っていないとなると何かしらの理由があって名前を公にしていないのだろうと判断し、彼は気づいていないフリを選択した。
「……ハク、あの騎士に見覚えは?」
「……、思い出しました。隣国の騎士、アルツと言う者です。実力は申し分なし。私の幼馴染の好敵手で、時たま目にしたことがあります。」
「へー、王族でも幼馴染って居るんだ。」
「あっ。マスターには、まだお話したことがありませんでしたね。」
周囲には聞こえない音量ながらも、ホークはアルツがどのような者かを聞き取っている。知る限りではあるものの、彼女も情報を提供していた。
そんななかで偵察兵より、アンノウン集団が接近中との報告が挙がる。見た目は先程の騎士であり、エスパーダ隊も発見したのか、翼竜の駐屯地へと降りてきた。
これが明らかな敵ならば、翼竜騎士である彼女達が地上に降りてくることはないだろう。しかし領主の騎士である場合、友好的な相手とも思えないのがホークの考えだ。
2機目のUAVで遠方のエスパーダ達を見るに、出迎えると言う雰囲気は出ていない。どちらかといえば、静止するために表情を強張らせているような様子だ。
これは一波乱くるなと溜息をつくホークだが、他の者の考えも同様である。総員が戦闘用意を整え、数分後に来るであろう騎士の群れの方向を見ていた。