1話 誰のために
新章です!本章もご愛読の程、宜しくお願い致します。
翌朝、前日と同じ時間にホーク達は行動を開始する。今日でガルムとメビウスの滞在が終わり、マールとリールに交代する手筈だ。時間的には11時頃を予定しており、狐族姉妹は既にオスプレイの機上の人となっている。
食堂に集って朝食を取っていると、身だしなみを整えたエスパーダ隊が挨拶しながら入ってくる。定員が居るためにあまり親密な様子を見せるわけにもいかず、ホーク達とは時間をずらしており、挨拶以上に絡むことはなかった。
「そういえばホーク、今更だがこの町の国の名前は何と言うのだ?」
「あ、忘れてた。自分も聞いた限りだけどカタリナ国だってさ。大きさ的には、一回り大きい台湾ぐらいかね。」
テーブルは分かれているものの「台湾という単語は大丈夫か」と思い、彼女達をチラリと見たガルム。直後にハクを横目見るが、彼女が気にしている様子は皆無である。そもそも、聞こえているかも怪しい音量だ。
タスクフォース8492はいつもと変わらず穏やかに食事を済ませると、全員で席を立った。雲の隙間から差し込む日差しが、丁度良い具合に体を温めてくれる。
タスクフォース8492が向かう先は、冒険者ギルドである。ここでは、先日にホーク達によって持ち込まれた途轍もない獲物、コカトリスの解体を日が昇る前から職員総出で進めている。
血抜きも完璧だったために状態も良く、1日経っても肉質は良好だ。肉類以外には爪ぐらいしか素材にならずに爪としての価値はそこまで高くないのがこの魔物の欠点ではあるのだが、解体を頑張る報酬が爪でありそのままギルドの収入になるために、冒険者ギルドも色々と頑張っている。
解体作業はあと1時間ほどで終了と見込んだホークは、依頼には出ずにギルド内部で休憩することを選択した。色々と相手をしなければならないと、彼は内心で溜息をついている。
「さ、さて、ホークさん。」
「うん?」
受付担当の女性は微かに声を震わせ、テーブル席に座り寛ぐホークに左側から言葉を投げた。彼が想定していた色々のうちの1つが、さっそく実施しなければならない事となる。
「この度のコカトリスは、ギルドとしての依頼ではなくホークさんが持ち込まれ、私共が解体を担当した形になります。そのために、解体後の肉類は一度すべてお渡しするか、私共が買い取るかを判断して頂きたい状況です。」
「……。」
チラッ。とホークが入り口付近を見ると、彼を崇めるように見る商人の群れ。群れと言っても地方のために5-6人なのだが、全員が目をキラキラとさせていた。
加えてギルドの外では、肉屋の店主や別の宿の調理人を筆頭に野次馬で賑わっている。その群れをかき分けるように、一人の男が駆け足でやってきた。どうやら、ギルドの職員の一人のようである。
何かと話を聞いてみれば、この地方を収める領主お抱えの群団が来ているらしい。コカトリスの話を聞きつけ早馬を出し、夜通しでもって道を走らせてきたとのことだ。
静まり返っていた場には良く響き、タスクフォース8492を除いた全員が表情を歪めている。領主に関してはあまり良い話を聞かないことと過去に何度か体験しているために、不安の色が広がっている。
「方位2-1-0、到着まで1分。当該の集団か。」
それだけ呟くと、ホークはリュックとヴォルグ夫妻に視線を向け、万が一の交戦に備えさせている。マクミラン達も念を入れて銃火器をチェックし、交戦体制を整えた。
近接警戒配備が敷かれ、タスクフォース8492の数名がテーブルから距離を取る。山の大将であるホークは席を変えることもせず、入り口を右側面に向けてハクと会話を行っていた。
いざ近接戦闘となれば、彼女の剣が嵐となって吹き荒れるだろう。そのために入り口周辺に居た商人を脇に移動させ、問題となるであろう連中の到着を待っていた。
入口から姿を現したのは、フェイス部以外をフルアーマーで武装した、文字通りの騎士である。3名のそこそこ屈強な男であり、先頭に立つリーダー格と思われる男は短い髭を生やしていた。
彼は受付の部屋を一通り見まわし、最終的に、報告にあった「黒髪・黒服の男」に目を向ける。そのまま目線をそらすことなく、1メートルほどの距離まで接近した。
その光景を群集の脇から見ているエスパーダ達は、彼がどのような対応を見せるか興味津々だ。当の本人は既に騎士をアウトオブ眼中の様子であしらっており、ハクと呼ばれた女性と会話を続けている。
現状では騎士が勝手に入ってきてホークの横に立っただけのために、確かに会話の条件は成立していない。その意図を把握したエスパーダ達は、思わず軽く噴き出して互いの顔を見た。
プライド溢れるのは良いが駄々洩れの域に達している騎士からすれば、現在のホークの対応は非常に腹立たしいものである。Eランク冒険者風情が騎士と呼ばれるエリートを無視するなど、あり得ない状況だ。
そのために、ややドスの効いた声で会話を始めようとする。咳払いし、第一声を発した。
「君が、ホークという人物だな?」
「……そうだが?」
黒服の男は顔を向けず、目線だけ向けて問いに答える。この手の「生き」の良い輩は何度か相手したことがある騎士は、大きく出られるのも今のうちだと内心でほくそ笑み、本題を口にした。
「既にギルドの職員が向かっていたから、話は聞いただろう。領主の命令だ、全てとは言わん。コカトリスを、いくらか引き渡してもらおう。」
「物が欲しいならば、カネを持って商人と共に並び賜え。」
その発言に、場が凍る。諦めと共に冷え切っていた商人や街の住人たちは、思いもよらない言葉を耳にした。他のタスクフォース8492のメンバーの一部も鼻で笑い、当然だと言うニュアンスを醸し出している。
入口から覗いている町の住人の一部はざまぁみろという表情で騎士たちを見ており、気分はすっかり押せ押せモードだ。そのために、「オークキングの時に無視しといて何をいまさら」と言ったようなヤジまで飛んでいる。
ホークは、その話を聞いてピンときた。この世界にやってきたころにGBU-39の効果判定を得るために行った、空対地攻撃の時だろうと判断している。この時の偵察部隊は派遣されてくる騎士たちの情報もホークに報告しており、その時とは装飾が違っていた。
以前にオークキングが出現した際に現れたのは、国として派遣された直々の正規軍。今回は同じ騎士という括りでも出どころは国ではなく、領主が従える群団なのである。
群集の賛同を得られる内容と武器としても使える話題のために、ホークはそのヤジを拾うことにした。
「面白い話が聞こえたな。騎士とあろう者が民のために戦わないと言うか、腑抜けた話だ。ならば敵わぬと分かって時間稼ぎのために門に立つこの町の衛兵の方こそ、よほど優秀に見えてくる。」
行いを褒められ鼻の下をかく衛兵一行と、そんな彼等の肩に手を置く町の住民。ホークの言葉で赤っ恥をかかされた騎士とは違い、衛兵と住民の間には強い信頼関係がある。過去に積み重ねた実績が生んだ、掛け替えのないものだ。
彼等は逆に、領主に対してあまり良い感情を持っていない。今回の件のように立場を利用して無理難題を吹っ掛けてくることが度々あり、致命傷にはならないものの、不信感は募る一方だ。
そんな住民の不満よりも恥をかかされたことに立腹する騎士は、目に力を入れてホークを睨みつけている。あからさまな殺気に若干ながら反応してしまうリュックだが、先に手を出してしまうことがないよう留意していた。
公衆の面前で先に手を上げては状況的に不利になることは騎士側もわかっており、おいそれと手が出せない。そのために、ホークという人物の危機感を煽ろうと、自身が所属する軍や領主のことを話し始めた。
「……良いのか?我々、ひいては領主様を敵に回すことになるぞ?」
「我々はこの国の民ではない上に、領主とやらの力を借りて生きてはいない。敵対関係となったところで、さして影響はないだろう。」
「貴様っ。」
あえて相手を煽る言い回しをして、ホークは仲間たちのストレスを和らげる。全員共通でいざとなったら敵対することを選択しているために、内容としても問題がないものだ。
「我々3名だけではない。何百という騎士を筆頭とした軍が、お前たちの相手となるのだぞ。」
「何百だろうが何千だろうが、騎士だろうが翼竜だろうが、好きなだけ用意すると良い。ここに居るEランク冒険者パーティー・タスクフォース8492は全てを噛み砕き、吐き捨てるだろう。」
いかなる煽りや圧力に対しても淡々と事実を述べるホークに対し、頭に血が上っているのは騎士の方だ。実質的に大勢の町民の前で馬鹿にされ、今すぐ剣を抜いて斬りかかろうとしている。
頭の悪い騎士の隊長だが、部下の数名は疑問に思っている。流石にここまで圧力をかければ、どんな相手だろうと多少は焦りや戸惑いの色を見せるだろう。下手をすればその国に追われることになるのだから、無理もない。
しかし目の前に居るEランク冒険者パーティーは、誰一人として態度を変えていない。まるでホークという人物が言っていることが事実であるかのように、平然とした様子を見せている。
直感からか、部下たちはこの言葉が眉唾ではないと判断している。なんだかんだで剣を抜いていない隊長も、認められないながらも直感では部下と同じことを感じているために抜くことができないのだ。
現にコカトリスを処理していることが、何よりの証拠である。上の連中は同行していたエスパーダ隊が仕留めたはずだと言い張っていたが、流石の翼竜騎士とはいえ3名では、これほどの数を仕留めることは不可能だ。
他に誰が居るかとなれば、答えは1つである。理由は不明だがEランクである彼等が、コカトリスを仕留めたに他ならない。
そのために部下は隊長に対して一度帰ることを進言し、隊長もそれに従った。さっさと帰れなどのヤジが起こるも、戦意を砕かれて反論する気力も沸いてこない。
肩を落としつつ、隊列を組んで町を出ていく3人の騎士。その背中には、住民から、批判という名の熱いエールが送られていた。
そんなシチュエーションで、気になることがでてきたディムース。コソコソとホークの横に移動して、言葉を発した。
「総帥、さっきのお言葉」
「噛み砕いた後に、飲み込んじゃったらどうするかって?」
「……腹、下しそうですね。」
「せやね。」
すっとぼけた質問をするディムースに加え、約一名ほど、素直に「食べる食べない」の内容と捉えていた古代神龍が居たことは、ホークの脳内だけの秘密である。
全く関係ない話ですが自作PCをアップグレードしました。アップグレードしなくていい物まで買ってしまうオチまでがセットです。
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