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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第8章 様々な欲望
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15話 ネタバレ

話し続けるうちに日は沈み、蛍光灯やLEDとは程遠い炎基調の光が場を照らしている。照射範囲も足りておらず明るいとは言えない一角が出来上がっているが、よほどの高級店でない限り、これがこの世界におけるセオリーだ。

とはいえ、テーブルや椅子、壁や雑貨まで含めた雰囲気は、この色調にピッタリだ。騎士達3人の鎧に灯る光源もまた風情があり、パイロットスーツの2名と周囲の陸軍装備一式に身を包んだ集団が逆に浮いてしまっている。



そんな風情ある一角で軽いディナーと洒落込む5人は、互いに臨んだマッチングだ。エールと料理の力を借りて、更けてゆく夜とは逆に盛り上がる。


……はずであった。



「……。」

「……。」



現場に残ったタスクフォース8492の隊員は、最初は密かにホークに連絡を入れていたものの、彼から監視解除のサインが入ってからはリラックスモードだ。

周りで勝手に盛り上がる彼等が発する声が、よく届く。少数ながらもそれぞれのテーブルで行われている会話が、鮮明に聞き取れる程だ。


それほどまでに、5人が座るテーブルは静かである。今現在は、まるで出来の悪い合コンだ。ポツポツとした話題は出るものの、連続して発展する話題が出てこない。互いに視線をそらし、ロトに至っては俯いてしまっている。

出身地や滞在地に関しては全て答えられないガルムとメビウスのために、定番と言える入りやすい話題がない。最も大きな内容に「西の帝国と同盟を結べないか」という内容があるが、こればかりはおいそれと口にできない内容だ。


そして二人からしても、ホークの了承がなければ答えられない内容ばかりが話題に上がっている。そもそもにおいてインディを除いた全員がこのようなシチュエーションを苦手としていることも、ぎこちない場に拍車をかけていた。

ガルムといいエスパーダといい、本音本題をストレートにぶつけるような言い回しを基本としている。とはいえ今回ばかりは互いに直球一本勝負といけない故に、投げる球種がなくなってしまっている。



「少々、厠に。」

「あっ、はい。」



トイレと言い立ち上がるメビウスは、そのまま宿の奥へと消えていった。そしてドアを閉め、神妙な表情で、おもむろに無線機を取り出した。



《どんな場面になってるか想像に容易いが、ここでヘルプかよ。》



気さくな声で返答を行う話し相手は、彼の同期。I.S.A.F.8492を纏め上げる総帥だ。

ようは、彼に泣きついた形である。席を追いやられた時に多少エスパーダと会話をし状況を隊員から聞いていたホークは、そのうち会話がなくなり白けることを推察していた。


無線の奥から「当たりだな」などと賭け事の結果を話すマクミラン達の声が聞こえるが、どうにもこうにもメビウスには手が余る状況だ。最悪の状態ではないため起死回生の一手があるならばと、早めに現状を報告する、自称・社員の鏡である。



《どうにかしてくれ、居づらくて仕方ない。》

《元はと言えばお前がしょっ引かれたのが原因だろ。互いに準備なしで自身が所属する集団のために挑んでんだ、下手に出られなくなるのは読めるだろうに。》



ぐぬぬ。と小声でメビウスは黙り、言い返せない。ホークは自分のことはどうでもいいものの、食事を楽しみにしていたメンバーを追い出されて少々「おこ」である。彼にしては手厳しい口調から、メビウスもそれを読み取った。

そもそもにおいてホークは場を追い出された張本人であるために、今更おいそれと戻りづらいことも拍車をかけている。そのことを言うと、周りからエスパーダ隊に対するブーイングが巻き起こった。



「仰る通り。私たちはともかく、マスターを食堂より追いやるとは言い訳無用!」

「そうですハクさん、言語道断!戦争だ!」

「戦争だ!」

「戦争だわ!」

「戦争です!」

《戦争です?》

《とりあえず君たちはお口閉じて。》

「「「「はいっ。」」」」

《そこ、口に出さなくても意思表示は分かるんだぞ。M82を用意しない。》

「はい。」



飯時を潰された鬱憤と暇潰しもかねて盛り上がる一室だが、ツッコミ役が居ないために無線を使いながらもホークがそれに徹している。珍しくハクから始まりディムース、ヴォルグ、ハクレンと続いてリュックまでもが乗ってきた一連の流れは、マクミランへのお叱りで幕を閉じた。

自分が居る座席も、せめてこんなノリだったらなと考えるメビウスだが、そうは言ってもそんなことに成りはしない。八方塞のために、ホークを催促して回答を待っていた。


十秒ほどの沈黙を破って出てきた解答は、まさかのネタ晴らしである。タスクフォース8492が鳥と呼ばれる集団の一員であり、ホークが取り仕切っていることをカミングアウトするという内容だ。

タスクフォース8492が関係することは機密事項としてエスパーダ隊のみが知るに留めることを条件として出すらしいが、これはホーク自身が今まで隠し通してきた内容である。疑問が芽生えたのはホークの周りも同じであり、全員が静まり聞き耳を立てていた。



《し、しかしホーク。自分で言っておきながら何だが、タスクフォース8492が関係しているとバラしてしまって良いのか?》

《エスパーダ隊が機密事項を守り我々と西の帝国とのパイプに成り得るかどうか、試す機会でもある。自分の部下が楽しみにしていた一時を奪った罪だ。精々、王への報告義務と国益への影響との間に揺れるが良いさ。》

「うわぁ……。」

《……お、おう。》



彼の意見としては中々に強烈な意図が含む内容となっており、メビウスはエスパーダ隊側でないことを安堵した。任務と呼ばれる職務上の義務と自分自身が騎士となった国を守るためという「誇り」だが、この2つのうちどちらかを選択しなければならないという葛藤の大きさは、ストレスで胃に穴が開きそうになる度合である。

とはいえ、このままエスパーダ隊がこの宿で暮らすとなればヴォルグとハクレンがホワイトウルフではないことは遠からず露呈するだろう。そうなった時に町を巻き込んでタスクフォース8492に目が向けられないよう、先手を打つ意味も含まれていた。


これらの意図を理解したメビウスは、感謝の言葉を述べると場に戻った。ガルムがインディのランスを手に持っているものの、非常に重そうな表情を浮かべていた。

場の雰囲気を壊さないためにメビウスも参加してみたものの、下手をしたらギックリ腰になりそうなレベルの重さである。これを片手で振り回すというのだが、細身なエスパーダのどこにそんな筋力があるのかと二人は同じ疑問を抱いていた。


グリップの先を床において細部まで眺めると、技術レベルは高いとは言えないながらも細部の装飾も怠らない一品となっていた。

対峙した時はそこまで気が回らなかったものの、端から端までの長さは2m程。メビウスが知る「馬上槍」とよく似ているおり、細長い円錐の形にヴァンプレイトと呼ばれる大きな笠状の鍔がついていた。


これは擦れ違いざまに相手を突くための武器であり、ワイバーン戦においてもインディが戦法として実戦に使っている。翼竜騎士同士の戦いでは擦れ違いよりもラインをクロスさせて攻撃する方法が主らしく、インディはそのことを熱心に説明していた。

一方のガルムとメビウスも、熱心にそれを聞いている。互いに乗り物や武器は違えど同じ空においてドッグファイトを展開する職業だけに、この手の話は自然と盛り上がることとなった。


エスパーダもガルムの真似をして気絶しかけたことを告白して場が笑いに包まれると、ガルムはスライスバックと呼ばれるマニューバの有利性や注意点を事細かく説明する。

そのなかで対気速度や重力加速度の話が出てきてエスパーダ一行は勉学が足りないことを自覚するのだが、説明の内容は非常に理にかなっている。まるで翼竜騎士に成り立ての頃のように、3人は話に聞き入っていた。



ホークに助けを求めたメビウスだが、結論から言えば不要だった内容だ。互いに共通する道があるのだから、単にそれを話せば自然と盛り上がるものである。

チビチビと飲んでいたエールも手伝って、気分は丁度良い高揚具合だ。朱色の光が照らす場において現れていたぎこちなさは完全に影を潜め、談笑という言葉がふさわしい。このままいけば、第一回の会談は互いに気分良く終わるだろう。



しかし、メビウスは忘れている。序盤、まったくもって予想だにしていなかった一撃を叩き込んできた小柄でパープルショートヘアーな魔術師が、今まさに口を開いた。



「鳥の姿がありませんでしたが、どうやってこの町に入ってきたのでしょうか?」



だから、なぜ、今それを―――。

鳥としての存在を隠したがっている男2名のため、インディとエスパーダは飛行技術の内容に話題を集めて二人の機嫌を取っていた。そのために、思わず険しい表情でロトに顔を向けた。



「とある冒険者パーティーと一緒に、東門から入ってきたのですよ。」

「おい?」



エスパーダ一とインディがロトに顔を向けたように、ガルムも思わずメビウスを睨んだ。周りの談笑もピタリと止み、全員が明後日の方向を向いて居る。ホークからの許可を知っているのがメビウスだけのために、この反応も無理はない。

その一文を聞いて肝が冷えたのは、発言者のロトである。遅れてエスパーダとインディも、同様の感情が身体を駆け巡った。


3人が是非とも入手したかった、鳥と繋がる情報。どのような所属に在り、どのような人物の指揮下に居るのか。文字通り、喉から手が出る程に欲しい情報だ。

会話はじめの冒頭では二人が露骨に隠した内容だけに、手に入れることは諦めていた。しかしここにきて風向きが変わっており、メビウスという男は話す気を見せている。



「我々の長と話をつけてきました。国王にもお伝えすることは厳禁との条件、ここに居る3名だけの秘密ということでしたら、お伝えすることを許可されております。」

「……ええ。メビウス殿、ガルム殿。我々エスパーダ隊の3名、絶対に口外しないことを、ここに確約します。」



思わず敬語になるエスパーダをはじめ、3人は背筋が伸び切っている。この段階で既に国王への報告義務との葛藤が生まれ始めているが、同時に自分達3人が試されていることも感じ取った。

ここで話される情報は、例え国外に漏れたとしても鳥にとっては大した影響がないのだと分かる。それを行った後に待つのは、最悪は鳥たちとの全面戦争だ。国益を考えると、それだけは絶対に避けなければならない内容である。


下手な合コンのような場は、まるで面接会場に早変わり。聞き耳を立てるタスクフォース8492の隊員と共に、大陸の端にある小さな宿屋で、大きな情報が動こうとしていた。

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