12話 町の英雄
ヴォルグさん氷魔法お願いします…(意訳:暑すぎる)
ハイエルフの3人が根掘り葉掘りされた翌日、ホークとハクは朝からアッパーライトパーク(通称)へと足を運んでいた。こちらにも置いてある無線機にて連絡を行っても良いのだが、視察がてら訪れた次第である。
今回はヴォルグとハクレンも付いてきており、せっかくなので車は使わず彼はヴォルグの背中に居る。ハクもハクレンの背中に乗っており、速度は出ていないものの一種のツーリングのような雰囲気を楽しんでいた。
ホークがマールとリールに用があることを知ったヴォルグは、その意図を聞いている。質問を行ったヴォルグは、答えを聞いて納得した表情を見せていた。
整備された林道を抜けるとコテージが連なっており、一行に気づいた者は作業を止めて会釈する。何か御用かと尋ねてみれば「困ったことが無いか」と聞いてくる面白い軍の主に対する注文は特にないものの、部屋割り的には満員だ。
そのため、近々引っ越してくる新たなハイエルフを迎え入れるとなると手狭になる。そろそろ独身用のアパート的なものも欲しいかなと考えるホークだが、せっかくディムース達が作り上げたこの景観を壊しかねないので注意が必要だ。
深い森に映えるチェリー調の木材で作られたコテージと石造りの水場は、人工物ながらも、しっかりと風景として成り立っている。そこで活動するハイエルフの民族衣装が緑を基調としたものであることも、風情を作るのに一役買っているだろう。
そんな背の高い民族に混じる、小さな姿。狐族と呼ばれている小柄で女性しかいない集団は、知識と知恵を豊富に持つ。ハイエルフが持つ文化とI.S.A.F.8492との良いクッション材になっており、彼等を頭脳で支援していた。
こちらは全員が大正ロマンな服装で、ホークは夏場の熱中症を心配している。露出が多めなハイエルフは心配ないが、こちらは熱が籠りそうな状況だ。
そんな心配もあるが、ホークがここを訪れたのはマールとリールに会うためだ。辺りを見回すと二人の姿を発見し、彼は姉妹の元へと歩みを進めた。彼の接近に気づき、一同は姿勢を正して出迎える。
「話中悪いね、ちょっと教えて欲しい。自分達と無関係の人が町に入るときって、何か制約とかはあるのかな?」
「解答します。通常でしたら検閲を受けることなどが必要でしょうが、タスクフォース8492はティーダの町で絶大な人気を誇っています。厳密には宜しくないでしょうが、門兵への融通も利くと思います。」
「りょーかい、ありがとう。そしてもう1つ、悪いんだけど今回の遠征には同行者が二人居てね。マールとリールは、留守番を頼みたいんだ。」
「承知しました!」
「はい!」
「悪いね。」
元気よく返事をする二人だが、それを聞いていた狐族の一人が、何故留守番なのかと疑問を投げる。確かにタスクフォース8492ならば、二人ほど護衛対象が増えたところで然程影響はないだろう。
「うーん。せっかくだし質問形式でいこうか。マール、何故だと思う?」
「はい。戦闘において、私たち姉妹は完全に護衛される対象です。タスクフォース8492における攻撃力と防衛対象の均衡を崩さないため、でしょうか。」
おお。と、ヴォルグは思わず声に出てしまう。彼女の回答はパーフェクトであり、道中にヴォルグが質問を行って得た答えと合致していた。
ホークが正解と答えると、自然と拍手が沸き上がる。真剣な表情をもって回答していたマールは恥ずかしそうに顔を下げて頭の後ろに手をやるが、嬉しさから尾っぽは空に向かって伸びていた。
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《空域、気象条件クリア。フォーカス1-1、離陸を許可する。》
《フォーカス1-1了解、テイクオフ。》
《フォーカス1、離陸後は方位2-6-0へ向かい低速で飛行せよ。フォーカス1-2、離陸を許可する。方位2-7-0、距離2000で進路変更しフォーカス1-1と編隊を組め。ポイントアルファ通過後は、空中管制機ゴーストアイの指示を受けろ。》
《フォーカス1-2了解、誘導に感謝する。》
かなりの割合で日が雲に隠れている昼過ぎ、2機のMV-22Bオスプレイがヘリポートから飛び立った。積み荷はタスクフォース8492と空のエース二人であり、目標進路はティーダの町の脇にある人気のないエリアだ。
ヘリコプターモードで上を向いていたプロペラが徐々に前を向き、航空機モードに移行する。一般的なヘリコプターでは物理学的に不可能な時速400㎞を超え、巡航速度500㎞/hを目指して2つの機体は加速を続けている。
《Focus1, this is Garuda team. Standing by to provide close support, over.》
フォーカス1、こちらガルーダ隊。近接支援を行うために待機する、オーバー。
高度2000mに達した時点で洋上側から合流する、2機のF-15E戦闘機。近距離空対空ミサイルと空対地ミサイルで武装した機体はオスプレイの遥か上に付き添い、海上を飛行する。
ゴーストアイと共に対空レーダーに目を光らせるも、付近は平和そのものだ。白波を見下ろしている乗員もリラックスしており、機内では陽気な会話が弾んでいる。
「F-35BD?また酔狂な機体にしたな。意見収集で開発仕様書は俺も読んだが、機銃無しだろアレ。」
「あったところで自分の腕じゃ下手な鉄砲だよ。それより兵装次第で垂直離着陸もできるし、ステルス性を捨てればAIM-9が4連続発射になるから色々と便利なんだよ。ハリネズミ化すれば、AIM-120Dも10発搭載できるしね。」
「その場合の垂直離陸は?」
「できません。」
「そりゃそうだ。」
ホークが乗り換える機体の話で盛り上がる一番機だが、ガルムやメビウスも最新型の機体には興味がある。CFA-44やADFX-01で使用されている技術の一部もフィードバックされており、B型にしては主翼面積も大きいのが特徴だ。
デメリットとして、F-35の派生シリーズの中では超低速域を除いて機動性が最も悪い。とはいえホークの腕からすれば必要十分量は確保されているため、彼が乗るならば不足のない機体に仕上がっていた。
ところでオスプレイに同乗しているエースパイロット2名だが、引きこもり宜しく出発直前に「街に出る服がない」と騒ぎ始める始末であった。そのためにホークが「正装でいいんじゃない」とアドバイスを投げたため、二人してパイロットスーツで搭乗している。
そんな話やティーダの町の話をしている間に、フォーカス隊は目的地に到着する。周囲に目線がないことを確認して町から遠い地点に着陸を行うと、フォーカス隊は復路を飛んで行った。
UAVの偵察情報によると、都合よくエスパーダの部隊は留守のようだ。もっともソレを確認して着陸したわけだが、ホークとしては彼女達が戻る前に宿へ入りたいと考えている。
「随分と慎重だな。」
「まだ、タスクフォースが鳥ってのはバレてないのよね。ここまでくると、どこまで隠せるか楽しくなってきてさ。」
「む。いいのか?俺達が奴らと話をして。」
「『きっかけ』としては良いんじゃないかと思ってる。西の帝国は自分たちと同盟関係にありたいみたいだからね。情報も多そうだし、マイナス面ばっかりじゃないよ。」
そう話しているうちに、一行は東門のエリアへと接近する。いつかはバレるもんだ、と気楽に呟くホークは、P320とタクティカルナイフを用意した。
それにより各々が武器を構え、交戦体制へと移行する。パイロットの二人は用心深さを見て、「らしい対応だ」と静かに苦笑していた。
「総員、近接警戒配備。」
いつ何時だろうと、彼の道は変わらない。タスクフォース8492を見て近づいてくる門兵に対し、いつでも戦闘に持ち込めるように構えがとられた。
それを見て「そういやそうだった」と自分の対応を恥じるのは、門兵側である。急いで門に戻ると、普通の冒険者を迎える様子でスタンバイした。
「おかえりなさい、タスクフォース8492。あれ、幼い姉妹は?」
「別のところで活動している。代わりに冒険者登録を行っていない2名を連れてきているのだが、対応は必要か?」
そう言われ、門番は上司の元へと走って行く。この世界においてもあまり例のない事象であるために、どうしたものかと上司も考え込んでいた。
相手はタスクフォース8492であり、今更、町のために不利益を働く可能性も非常に低い。また、拒否の類の返事をして他の町に移住されても町にとってはマイナスだ。
そのために、二人がティーダの町に滞在する間の保証金を取る制度に決定する。町に入るための料金2名分、銀貨1枚とは別に、金貨2枚を保証とすることに決定した。何か問題を起こせば、これが没収となり更に罰金が乗せられることとなる。
この点以外は特に支障は無く、いつもは空を飛んでいる2名はティーダの町へと足を踏み入れた。ホークから情報を聞いていた彼等も、実際にその目で見ると、見えてくるものはまた違ってくる。
舗装されていない道に、地震が来たら崩れそうな木造住宅と細い梁のテント。それでも住民達は力を注ぎ、各々が逞しく生活している。そんな情勢は、二人の目でも明らかだ。
そして子供たちがタスクフォース8492に気づくと、わっと騒いで近寄ってくる。それにつられて老人たちも声を掛けるなど、すっかり有名人扱いだ。
一通りあいさつを交わし、ホーク達は宿泊していた宿へと足を進める。今日はシビックが店を手伝っており、タスクフォース8492の帰還を心から喜んでいる様子だ。
面白いやつだな。と、どこかの若者が続きを言いそうな発言をしたメビウスだが、時計を見ると驚きの表情をしている。どうやら電波式の腕時計が正常に同期しておらず、時刻がズレている様子だ。
戦闘機に乗っている際はGで時計の機構が壊れるために、普段は使用していない。陸軍と違って時刻合わせの習慣も無いために、今の今まで気づくことがなかったのだ。
そのために、ちょっと外に出てみると言い、彼は玄関の扉を開けた。向いたところで意味がないのだが無意識で顔を上に向け、電波時計のスイッチをリセットしていた。
「おい、そこのアンタ!」
店内に居るホーク達にも若干聞こえる程の声が響いたのは、その時であった。
みなさま熱中症にはご注意を。