13話 色々と急に
「お客様とのご対応中、大変失礼致します!」
竜人と協力が結ばれたタイミングで扉がノックされ、ドアの向こうで兵士が声を荒げた。
「どうした?緊急なら入っていいぞ。」
「失礼します!」
少々荒くドアを開け、情報兵のワッペンをつけた兵士が入ってきた。手にはA4のような用紙があるが、それが自分に伝えたい内容だろう。
「緊急の伝達でございます!勇者が住む王宮屋上にて、屋上部を清掃する動きが確認されたため報告しに参りました!」
その言葉で、空気が固まる。今までに行ってきた詳しい偵察事項をエンシェント側に伝えた事はないのだが、察したようだ。
「……そうか、輸送隊と陸上部隊に出撃命令を出してくれ。問題の予想日は分かるか?」
「出撃命令、承知しました!予想日に関してですが、資材や食材等を運搬する兆候は無いため、数日先かと思われます。引き続き監視中です。」
「わかった。報告ありがとう、他に無ければ下がっていいぞ。」
「ハッ、失礼します!」
再び多少荒くドアを閉め、廊下を走っていく音が木霊する。相当急いでいるのだろう、現場も慌しいと思われる。
「エンシェント、ハクさん。悪いけど会談はここまでだ、島から離れて欲しい。」
「あいわかった。しかしハクは、ホーク殿に付いていくと思うぞ?」
「ん?あ、そうか。奴隷だから、もう自分が主になるのか……。」
「……左様で、ございます、マスター……。」
うおっ、その呼び名は、こそばゆい。ただでさえ総帥とか呼ばれてムズムズしてるのに……!
「えーっと……マスターって呼び方、何とか成りません?って、あ、ダメダメ。会話に魔力使うんだから、話しちゃダメだよ。」
もういいよ、好きにして。発言のさなかに、しなーっと残念そうな表情見せないでくれ、抗えないでしょ。
とはいえ、力が戻っていない彼女を戦闘には連れていけない。その点だけは、譲らない。
「でも力が戻っていないんだから、戦場は……。」
……はずだった。言いだしっぺで、先程とは違う、悲しげな表情in coming.
あ^~自分の意思が歪むんじゃ~。狙ってやってんじゃねぇだろうな……。
仕方が無いから王宮制圧までは炊飯部隊と同行させよう、ここは女性も多い。はて、そう言えばメシは作れるのだろうか。
ともかく前線だけは絶対にダメだ。もしもの時の責任が取れないし、今のハクには魔法が通じてしまう。
そのことを説明すると異議申し立てするようにこちらのメンタルを抉ってくる表情をするが、流石にこればかりはこちらの意見を通してもらう。
「(仲間になったからには)自分は君を大切にする。そんな状況に君を出して、無闇に傷つく姿を見たくない。呪いを完全に無効化できたら来ても良いが、これでもダメか?」
そう言うと、ハクは目を見開いて驚いている。随分と予想外の言葉だろう、自分でも思う。しかし、偽り無しの本心だ。
……彼女の顔が赤い。思い返して自分も赤い。あーあー、何も言ってないぞー!
そうだ、彼女は自分の配下であり仲間だ。だから大切にしなくちゃいけないんだ。
決して下心なんて無い。微塵も無い。オッケイ?
「ふぉふぉふぉ。なんじゃ、急接近じゃの。お似合いではないか。」
黙ってろブッ転がすぞこのオッサン。傷を抉ってくるんじゃねぇ!
===30分後===
さっさと準備しろとエンシェントを本土に蹴り飛ばし、自分はハクを炊飯部隊に送り届ける。軽い説明だったが、部隊は快く受け入れてくれた。その足で、狙撃後にバーベキュー地点を制圧する予定のグリーンベレー特殊部隊と合流する。オスプレイを駆使して輸送任務を行っているフォーカス部隊もその場に居り、打ち合わせを進めていく。
元々進軍を予定していたこともあって、各部隊の準備は数時間で終了した。そして輸送艦隊の前に全員が集合し、自分が激励の言葉をかける。
「集合ご苦労、状況は整った。これより、選抜部隊によるエメリア王国開放作戦を発令する。現在、タスクフォース000が勇者暗殺のため敵国領土内に潜伏している。また、敵地上空にはビッグアイ偵察部隊が常駐している。」
現状では、暗殺成功の報告は入ってきていない。そのため、彼らが置かれている状況を簡単に説明する程度だ。
「続いてシルビア王国の情報だ。王国内部西側には翼竜部隊が配備されており、5体の古代龍も確認されている。これを東側の平地に誘き出し、航空部隊が撃滅させる。航空部隊は翼竜隊の制圧を迅速に行い、制空権を確保しろ。地上には複数の魔導兵器、噛砕いて言うと戦車のようなものだ。それが配備されており、全体で国防軍と成されている。陸軍は勇者軍が一般市民に手を出せないほど迅速に行動し、敵部隊を殲滅せよ。王国への突入タイミングは、暗殺が成功してからになる。自分からの作戦開始の合図を待て。以上、『いつも通り』に行ってくれ。」
あえて鼓舞させるようなことはせず、要点を再確認して終わらせる。自分の敬礼に、全員が答えた。
この日は輸送を担う連合艦隊が出航し、1日後には人気のないエリアに接岸する。深夜のうちに、全ての強襲部隊が森に入り、車両を木の陰に隠して待機するところまでたどり着いた。
当初の予定通りに西側と東側に分布し、エンシェントが率いるドラゴン部隊により、隠密の状況下に入っている。これで、周りからは気づかれないらしい。事実、魔物の一匹にも襲われなく、100mほど先までやってきても不自然に遠ざかっていた。エンシェントの眷属は複数居り、交代で隠密の状況を維持してくれているらしい。
情報総括を担うフォード1からの情報では、どうやらBBQパーティーは明日実行らしく、衛生が整っていない住民は、複数地点にある防空壕に移動されているようである。街の景観の見栄だろうが、人が減る分、こちらとしても仕事がしやすくなる。地図に防空壕の地点をマークし、各部隊により一層の注意を促した。
これにて、自分が用意できることは全て終了。あとはマクミランが、事を成すのを待つだけだ。奴ならば、絶対にやってくれると信じている。
そして次の日の16時過ぎに、彼から報告が入る。報告を受けて発した自分の言葉で、全部隊は行動を開始した。
「ホークより全軍に告ぐ、作戦開始。」
第一章の山場を迎えました。直後の大規模戦闘シーンではあの有名なパイロットも……!?