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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第8章 様々な欲望
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10話 関心があります

7/28、7/31 料理の内容とハクの感想に手を加えておりますが、全体的な流れに変更はございません。

生き物、時に人間の味覚とは贅沢にできている。日々の手料理が至高であることは疑う余地はないものの、時たまジャンクフードを筆頭とした「大衆」の味に舌鼓を打ちたくなることもあるのが一例だ。

晩餐会に出席する夫を見送った今の彼女も、今日はそんな気分で居た。I.S.A.F.8492の第二拠点にある食堂はジャンク系とは程遠いものの、万人に合わせた大衆の味だ。


それがどうだ。食堂に入ると待ってましたと言わんばかりに出迎えられ、言われるがままに、ディナーコースを決められており、成すがままの状態だ。

どうやら、誰かがすでに彼女自身の料理を手配していたらしい。ホークはそのようなことを言っていなかったため、彼を招待した誰か。ガルム少佐もしくはメビウス少佐なのだろうと、席に座った彼女は誰にも聞こえない溜息をついた。


もっとも、これは当然の配慮である。その手のことには疎い人間の多いこの世界だが、I.S.A.F.8492の隊員ならば不思議ではないことだ。


そんな彼等が選ぶのだから、悪いものは出てこないだろうと、彼女は落ち着いて辺りを見回す。コンクリート造りの食堂に色的な温かみはないが、使用する面々によりそんな色も塗り替えられている。

アルコールの類が許可されているのは非番の者だけとホークが言っていたことを思い出した彼女だが、確かに作業着や戦闘服を着て酒に手を付けている者は居ない。それでも皆、ワイワイと賑やかに食事を楽しんでいる。料理を受け取るために並んでいる者も、多種多様の職種となっていた。


そんな百鬼夜行を1分ほど眺めていると、特徴的な集団がやってくる。見てくれは一般的な兵士と一緒だが、耳をすませば特徴的な様子を振りまいている60名の部隊であった。



「俺は夕食を行う!」

「俺は食事を行う!」

「今日はビフテキ日和だ。」

「俺は(最後の)ビフテキの防衛を行う!」

「貴様ァこれでもくらえ!」

「かかってこい!我が胃袋に勝利を!」

「「バンザァァァァァァァイ!」」

「おいデルタの連中、食堂で暴れんな!奴らを止めろ小隊長!!」

「了解! 貴様等食事1つマトモに出来んのかァ!!」

「強情な奴等め……。」



とにかくやかましく無駄に士気が高いと評判の、デルタ歩兵小隊。どこぞの旧兵らしい言い回しが特徴で右に曲がりかけている者が多いのだが、根は真っ直ぐな真の兵士だ。ホークが死ねと言えば即座に全員が腹を掻っ捌く、そう言った連中である。

顔を傾けそんな一行を見ていると、彼女も視界の外から声を掛けられた。



「あら、ハクさん。お久しぶりで。相変わらずデルタ小隊は賑やかね、ホーク総帥は?」

「お久しぶりです、マスターは本部で晩餐を兼ねた会議を行っております。ところでなぜこちらに?今日は非番ですか?」

「いえいえ、訓練上がりのところ。会議みたいなものよ。お一人でしたら、ご一緒しても?」

「そうですか、お疲れ様です。空いてますよ、どうぞ。」



ちょこんと椅子に座る彼女に陽気な声をかけてくる女性の名は、普段は佐渡島(仮名)に居るライダー1。女性だてらと言っては失礼だが、あのAC-130編隊、ライダー隊を管制する隊長その人だ。

互いに落ち着いた性格だが、彼女は気の強い側面も持っている。特に、男性隊員からの「からかい」の言葉には、情け容赦なく対応する様子を見せており、男性隊員もそれを楽しんでいる格好だ。


以前の女子会で二人は意気投合しており、互いの私生活を話すようなことも行っている。互いに会う機会は滅多になく、実際に過去にも3度しかない。

サラダを中心に鶏肉などのタンパク質が盛られた皿と白米、みそ汁が乗った盆を机に置き、ハクの対面に腰かける。盆の空きスペースにちゃっかり小さなフルーツゼリーが居座っているところが、女性らしさを出していた。


とはいえ、彼女からすればハクは不思議な状態だ。目の前には何もなく、ただ毅然として教科書張りの姿勢で椅子に腰かけているだけである。

まさかホークが戻ってくるまで待つのかと問いを投げたライダー1だが、コース料理が用意されていることをハクが説明している。へぇ、と感心したライダー1だが、その時、ハクの椅子の後方からきた男性集団の一人に声をかけられた。



「おっ、死神に乗る美人発見!なんだ一人か、そろそろ相手してくれる―――って駄目だハクさんもいるのか。すいません、忘れてください。」



過去によりこの手の話を向けるなとホークから注意されている基地の隊員だが、どうやら彼女には気づいていなかった様子だ。背もたれのしっかりした座席だったために、単純に姿が隠れていたのである。歩みを向けるうちに、特徴的な水色の髪と白い服が目に飛び込んでいる。

しかし会話内容に関しては、ハクはあまり気にしていないようである。彼の発言が完全に冗談であることを感じ取っており、それは昔彼女に向けられていた感情とは程遠い。そのために、男ならばこんなものかと受け流している。



「お相手か、良いだろう。基地の外で、空に向かってケツの穴を広げて待っていろ。105mm(=AC-130Jの主砲=M102榴弾砲)を狂いなく命中させてやる。」

「拡張されちゃう……。」

「拡張どころか肉片にすらならんだろ。それにしたって命中精度とんでもねぇな、冗談さておき実戦できるのか?」

「高度3000程度なら、私の隊の1番機で7割ってところかな。誤差半径を10cm貰えるなら、全機100%を保証する。」

「やるぅ。」



ハイレベルな技術を汚い花火に使おうとする発言に、ハクも思わず苦笑してしまう。こうして気軽に下品な内容を話していても、目の前に座る女性もまた超エース級なのだと感心させられた。

彼女が話す攻撃は、ハクは未だ見たことが無い。シルビア王国解放戦では後方に居たために、見る機会は無かった。知っているのは、戦闘機による空対空攻撃のみである。


しかし、威力に関しては想像に容易い。男隊員の一人が「肉片にもならない」と言ったということは、少なくとも人間一人は消し飛ばせるということだ。

未だ知らぬ、空対地攻撃の全容。他にもエーテンという機体のことをホークよりレクチャーされたことのある彼女だが、彼等が持ち得る攻撃能力は未知数だ。



「立て込んでるところ悪いけど、どいてくれ。」



そんな男性集団の後ろに立つ、炊飯部隊の数名。手にはレタスが中心となったサラダの皿があり、静かにテーブルへと置かれたのだ。

置かれた皿をまじまじと見る一行だが、明らかに食堂の基準とは格が違う。盛り付け1つに至っても乱れは無く、まるで絵のようにバランスが纏められていた。


邪魔をしては悪いと、男一行は遠くのテーブルへ撤収する。「なんだか凄いな」程度しかコメントできないライダー1と相槌を打つハクだが、手を付けないわけにもいかないので、ワインに軽く口を付けるとサラダへと手を伸ばした。普段の箸とは違い、今回の料理はナイフとフォークで食すとのことであり、彼女も久々に使うものだ。どうやら今回は、品のあるテーブルマナーが求められるようである。



「……どう?」

「……言っては失礼ですが、あまり変わりありません。ハイエルフのハーブでしょうか、今までにないドレッシングが掛けられた程度です。」



だよね。と砕けた言葉でライダー1も同意するが、これは仕方のない話だ。少し質の良いレタスを使っているものの、調理する工夫はドレッシング程度である。続いて出てきたオニオンスープも非常においしく感じる一品ではあるが、頬が落ちるような美味しさには程遠い。


期待度が高かっただけに少し落胆した彼女だが、食欲を刺激する匂いに釣られて思わず横を向いてしまう。再びやってきた炊飯部隊の手には、次の皿が用意されていた。

長皿に、鶏肉を使用した料理が3種類、少量ずつ配置されている。まずは、と言わんばかりの形相で、右から順にと説明を受けた唐揚げから手を付けた。



―――戦慄、驚愕。これは、彼女の知る「唐揚げ」とは別物だ。二度揚げや漬ける時間を長く取るなど行い一手間を加えていたホークといえど、流石にこれ程のこだわりを持っては調理を行っていない。


また、調理人としての腕前も、炊飯部隊長とホークを比較しては雲泥だ。素材や油の温度管理、調味料の馴染み具合に対し徹底的に拘って作り上げた「KARAAGE」とは、止め処ない暴力的な食感で本能を刺激する。

かぶりつけ、食らいつけ。今回は品のある食事であることは理解している。それでも、元王族という肩書など投げ捨ててもこの2つを実行したい感情が、地上最強剣士である彼女に向かって襲い掛かる。鶏肉が口の中で肉汁を出して暴れており、彼女の理性に対し攻撃を弱めない。


この鳥は、死してなお攻撃力を衰えてはいない。それどころか、どこにでもある塩という武器を手にしているだけだと言うのに、油という鎧も纏った現状は、生前よりも遥かに強力な攻撃力を見せている。



「……そんなに?」

「……ええ、恐ろしい程に。」



以心伝心する、食の感情。ハクの好意で1つを分けてもらうよう提案されたライダー1だが、コース料理の内容を分け与えるのはマナー違反である。また、料理人はそこまでを考慮してレシピを組んでおり、大抵は食べきれる量に調整していることを説明すると、彼女は感銘を受けるのであった。


この世界においてもコース料理に近いものはあるが、大抵は一皿が多量である。食べきれない量を御前に用意して「わざと残す」ことが正義となっているために、料理人がそこまで考慮する必要はない。

そのために、食後に受ける印象は人によってマチマチだ。食べ合わせのバランスもさることながら後半では満腹になってしまうパターン、逆に遠慮してしまってやや空腹感が残るパターンも珍しくはない、いずれにせよ料理人が意図した「コース」とは異なるモノになる場合がほとんどである。また、大抵は美味しい料理の組み合わせ程度であり、食べ合わせも考慮するのは稀となる。


故に彼女も、コース料理とはいえそこまでやるのか、という第一印象を抱いている。人によってえり好みが異なり受け取り方も違う食感を考えた上で食べ合わせの美味しさも考慮しなければならないのだから、考えただけで頭が痛くなりそうな内容だ。

ならば次は、と覚悟する彼女は、ワインで口の中をリセットすると、今度は横の盛り合わせに挑みかかる。ハンバーグと呼ばれていた肉の加工品に似ているが「多分、それは「つくね」よ」とライダー1から説明をうけ、納得しながら一部を割ってソースを絡めると、何事が起こるのかと期待しながら口に入れた。


―――またもや、戦慄。うまい、という言葉すら下品に感じる程の味わい。先程の美味いという感情ではなく、美味しいの言葉が適切だろう。


柔らかいからと言って飲み込むのではなく、噛み締めればしっかりと肉汁が出てきている。その量もまた適切で、マヨネーズベースのソースに温泉卵という凶悪な組み合わせの濃厚さに、振りかけられたハーブの風味と口に僅かに残るワインの酸味が相まって、上品な印象を与えていた。ほんのわずかに姿を現すマスタードの微弱なパンチが、それらを一層に引き立たせる。

先ほどと違い強烈なパンチは無いが、落ち着いた旨さ。この鳥に攻撃力は無いが、遥かなる高見から圧力を与えてくる。自分を食べるに相応しい者かどうかを、口の中で問い詰めるかのごとく問いかける。


飲み込んでなお独特の肉汁とソースの風味が口の中にわずかに残り、余韻の時すら己にふさわしいかを問いてくる。

ワインが与えてくる繊細な風味と酸味が双方の料理にアクセントを与えていると気づいたのは、その時である。料理が出される順番による食べ合わせ、余韻の時間までもが考慮されている。コース料理とは厨房に立つ者の集大成なのだと、未熟ながらも察していた。


第一、第二ラウンド共になかなかに厳しい戦いを終えた彼女だが、戦いはまだ始まったばかりである。

とり肉のハンバーグってあまり見ない気がします

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