7話 作業終了
第二拠点の陸軍、対空部隊が補給と整備を行っている拠点の一室。地上車両に装備されている地対空用のファランクスやアンチ・エアなどの車両が整備されている、コンクリート造りの頑丈なエリアだ。
ホークが対ニック戦で使用していたファランクスやSeaRAMと同じ弾丸・ミサイルを運用する、基地防衛を担う重要な部隊のためのエリアだ。弾薬管理の一括ということで、ホークもここで補給作業を行っている。
彼が行うファランクスの運用では弾薬も宝物庫の外に出さなければならないので、無限弾薬というわけにはいかないのが実情だ。整備兵と共に兵器開発部隊の面々も揃っており、各パーツの劣化具合も調べながらの作業となる。
ジャラジャラと高速でチェーンが巻かれる音と共に、ファランクス:Block1B BaseLine2が20x102mmの高速徹甲弾 (APDS):タングステン弾芯)を食い漁る。この後は砲身の劣化具合やスピンアップを行うモーターの状況、EPUの使用具合を確認することとなり、特に問題が無いことを確認していた。魔改造とはいえベースは信頼性の高いユニットであるがために、一度の使用で何か問題が起こる確率は非常に低い。
このあたりの劣化の少なさは、発射レートをデフォルトの4500発から3000発に落としていることも好影響を与えている。一部法則が乱れているとはいえ、どのような兵器も物理的な劣化は避けられないために、あえてデチューンすることにもメリットは生まれるものなのだ。
「不思議なものです。能力が高ければよい、ということでもないのですね。」
「そゆこと。」
説明に対して「なるほど」と腕を組んで肩越しに作業を見ながら呟くのは、現代兵器とは無縁の古代神龍。合いの手を入れるのは、その夫だ。
宝物庫からはファランクスユニットが出現しており、作業員による補給作業を受けている。作業を終えると、入れ替わりに次のユニットが出現するわんこそば状態だ。
場の空気としてはとても和やかであり、重要な動作を行う場面以外は軽い雑談が各々の耳に届いている。部隊全員が兄弟の感覚であり、意思疎通がしっかりと行われていた。
この場に居るホークやハクに対しても、緊張するような動作は見られない。何かしら問題がある場合は些細なことでも報告しており、それに対し開発部隊やホークが返答を行っている状況だ。
そんな彼等は、ハクの言葉に疑問を抱いたようである。攻撃力と耐久が作るバランス関係は、何も現代兵器に限った話ではない。
「ですがハクさん、刃物だって似たようなものじゃないのですか?切れ味を重視すれば耐久が落ち、耐久を重視すれば切れ味は鈍る。攻撃力と耐久性の関係は、同じ類のものだと思います。」
「どうだろう?皆が持ってるソードの類って叩き切るのが主流だから、後者しかないと思う。刀みたいなのを力任せに叩きつけたら、一発でポッキリいくんじゃないかな。」
「あ、なるほど。ハイエルフの皆も、ソードの類でしたね。」
そう言われればそうですね。とボヤきながら、彼女は対ニック戦で使っていた一本の剣を出現させた。兵器開発部隊も息をのむほどの美しさであり、場を飾る装飾用の剣と比べても見劣りしないほどである。
装飾の類は一切ないが、逆にまたそれが良い。ストイックな印象の彼女と相まって、双方がより一層美しく映るというものだ。
「ところでマスター、カタナとはどのようなものなのですか?」
「えーっと、刀身が細くて沿っていて……刀ってあったっけ?」
「無いっすよ。NINJAでもやるつもりですか?」
「ロングコートの効果的に、どっちかってーとAssasinかな。」
「暗殺以外なんでもできそう。」
「やかましいわ。」
なんでもできる、というオールラウンダーへの誉め言葉か、その職業において最も重要なことができないという皮肉か。受け手にとってどちらとも取れるこの言い回しだが、兵士側としては前者の意味が大半なものの、ちょっぴり後者の意味が混じっている。
この点は事実であり、前線に立つなら注意してくださいという兵士の心配が照れ隠しで現れた部分だ。ホークもその心境を読み取ったが、とりあえず、先ほどの発言が兵士のボケであることは確実だ。
合いの手を入れてきた兵器開発部隊の一人に自由落下で手刀を落とし、和やかな雰囲気の中、ホークもP320のレーザーサイトのメンテナンスを実行する。格納されているCIWSの補給作業は終了し、今度はSeaRAMへのミサイル再装填作業が行われていた。
彼女からすれば棒にしか見えないミサイルが数名の作業員に抱えられながらクレーンに吊るされ、ユニット内部に格納されていく。その後にキャップのような蓋をかぶせ、装填作業は終了だ。SeaRam1機につきミサイルは11本が装填されるため、作業は繰り返し行われている。
その作業風景を見つめる彼女だが、作業場は合理的な動作の塊だ。かつて何度も感じた内容だが、見るたびに溜息が出る程に流れるような工程となっている。今回の場合においても、クレーンと呼ばれている装置の配置から人員配備や作業員の動作まで、全てにおいて無駄がない。
開発部隊と会話するホークの会話内容までは理解できないものの、何かしらの改良内容に関する意思疎通を図っていたことは読み取れていた。この補給作業を見たいと言い出したのは彼女なのだが、周りが男だらけなこともあるのと見ているだけのため、やや居づらい雰囲気が自分自身を侵食していた。
《第二拠点CICよりホーク総帥、ガルム少佐から無線交信の要求が入っております。》
そんな雰囲気をかき混ぜる、一通の無線連絡。ホークだけでなく現場作業員にも聞こえており、作業は一時中断となった。
ん?と言いたげな表情のホークは、なんだろうかと2秒ほど思考を巡らせる。目線を上に向けて考えるも事前に何か話題があったワケでもなく、内容に関して思いつかない。その横でお茶を飲みながら表情を伺っているハクは、何かあったことだけは読み取れていた。
《……すまん、何だろうかと考えてた。了解、なんか聞いてる?》
《いえ、詳細までは。こちらが伺っておりますのは、原文ままですが「相談事がある」とだけ……。》
その言い回しで、彼はある程度の内容を理解した。ようは他人に聞かれたくない相談事があり、こうしてプライベートな無線で連絡してきたのである。大抵はガルム個人の興味やお願い事であり、I.S.A.F.8492の他部隊を巻き込む内容だ。
《了解。ちょっと場所を変えるから、待っててもらうよう言っといて。》
《了解しました。》
場所を変え、ホークが無線を繋げるよう伝えると、CICは再び了解の旨を返す。2秒ほど空白の時間が発生し、無線から声が流れ出した。
《突然すまんなホーク、今いいか?》
《珍しいな、どうした?》
《今夜だが、久々に古参共でメシでもどうかと。メビウスやマクミランも乗り気だ。場所は第二拠点陸軍本部の一室、既に手配は済ませてある。》
彼の喋り方は相変わらずであり、建前無くストレートに用件を伝達する。そしてまた、必ず根回しを済ませたうえで連絡してくるのだ。
今回のような内容は非常に稀なものの、ここまでされては受ける側としても断るのも野暮である。それはホークも例外ではなく、相方に確認は取っていないものの了解の返事を返していた。
会食の場所を難しく言っていたガルムだが、第二拠点CICが入るビルのことだ。その最上階にある多目的ホールにおいて開催されるのだろうと、ホークは勝手に想像している。
とはいえ現段階では想像であり、詳しいことは行けば分かるだろうと思考を放棄。そして再び、補給作業に戻った。
「どうかされましたか、マスター。」
「突然なんだけど、今夜ちょいと晩さん会になってね。たぶん4人だと思う。野郎共のむさ苦しいやつだ、悪いけど夕飯は食堂で済ませて欲しい。」
4人と言う人数で、彼女もI.S.A.F8492創設時の4人による会合と判断した。こればかりは彼女やディムース、各大元帥であろうとも介入できない組み合わせのために、彼女も了解の旨を返す。
この段階で、ホークは以前の無線交信を思い出す。ガルムとメビウスが、ホーク達タスクフォース8492が拠点とするティーダの町に行きたいと言っていた内容だ。
行きたい、というのは上空を飛ぶわけではなく、地に足をつけて町を見て回りたいという要望である。彼なりに世界観を知ることで、何か役立つ場面があるのだろう。
とはいえ、もちろん簡単に許可を出せるものでもない。空では無敵の強さを誇る二人だが、地上ではホークより弱い程の始末である。
そのために、護衛の強化も必須となる。第二・第三分隊に近接~中距離戦闘用の装備を揃えるよう指令を出すと、彼は補給作業を続けるのであった。