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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第8章 様々な欲望
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6話 北の状況2/2

各国の現在事情の最終話です

追放されたとはいえフーガ国における華だった彼女が、結婚している。深い息と共に呟かれたこの一文で、音という音が一時的に消滅した。

耳をすませば、金属製のグラスに揺れる水の音すらも聞こえるのではないかと錯覚するほどだ。しかしそんな静寂も数秒で、大きな波乱に変わることとなる。



「け、け、結婚だと!?」



耐えきれず、会議に参加していた人物の一人が声を大にして叫んでしまった。それを皮切りに、各々が自分の考えを口にする。他人の意見など耳にもくれず、それらしい否定文を並べるだけだ。

現実に対し思考の類が全く持って追いついておらず、焦る様子が表情にも表れている。彼等にとっては、まさに寝耳に水どころか熱湯レベルの大事だからだ。


とはいえ、先ほどの防戦一方から出てきた、エンシェントに対する反撃のチャンスでもある。そのために、彼等の勢いは収まらない。



「今まで隠しておったのか、エンシェント殿!」

「ひた隠しにはしておらん、ハクの両親である国王と王妃は存じておるぞ。」

「我々は初耳ですぞ!?」

「結婚をした段階で、ハクは既に王族ではないからのう。下々の娘の一出来事など、わざわざこのような場で言う必要もあるまい。」



目を瞑り水を飲んで正論を言うエンシェントにマシンガントークを炸裂させる右翼派一行だが、彼はダンマリを決め込んで受け流している。彼等からすれば、そのような重大案件が自分たちの耳に入っていないことが腹立たしくてしょうがない。

もっとも、どちらに正義があるかと言えば、エンシェントの言う通りだ。彼が見せた対応はホークが見せた煽り耐性の高さを学んだ点であり、老いてなお他人から学ぶべきこともあると、彼個人が感心している内容の1つである。


この行動により原因の所在がハッキリとしており、エンシェント側の者までもが当時ハクを追放した側の敵に回ることになる。

そんななかで、閉じているのではないかと錯覚する程に目が細い一人の長老が、周りを制する。ある程度静かになったところで、目の細さに追従するかのような発声でエンシェントに言葉を投げた。



「エンシェント殿や。ハク殿と結婚したその御仁と、面識は?」

「ああ、何度か酒は飲み交わしたぞ。ワシ個人の意見じゃが、フーガ国の精鋭と比べても決して見劣りはせぬ。」

「そうかそうか。それともう1つの問いじゃが……。」



その長老は満足そうに頷き、細い目をうっすらと開いて質問した。



「ハク殿は、幸せそうでしたかの?」



この場においては、エンシェントよりも遥かに上。純粋に彼女の幸せを願っている、フーガ国で活躍した元武人だ。



「ああ、間違いない。」



問いに対し、僅かに口元を緩めてエンシェントが返す言葉も1つだけ。それを聞いた老兵も、一層にこやかな顔でもって返事をした。

この問いに、多くの言葉は必要ない。シンプルな気持ちから出た分かりやすい老人の問いは、簡潔な答えでもって幕を閉じた。



―――と、一連の美談で終わればエンシェントにとっても楽な話である。

そうは問屋が卸さない、というどこかの国の文言は、この状況にピッタリだ。文字通り蚊帳の外だった集団の腹に沸いた虫は、まだ収まりを見せていない。



「も、元とは言え王女の婚姻を我々に無断で承認するとは何事か!」

「そのような規定は定められておらんよ。そもそもにおいて、王女を追放するという事柄そのものが過去に例が無い事象じゃ。」

「あ、相手は王族、最低でも貴族なのでしょうね!」

「はーて、あ奴は王族だったかのう……いや、少なくとも王族貴族の類ではないか。ある意味では王かもしれんが、本人は否定しておったしの。」

「貴族ですらないとは何事か!?」

「元王女の結婚相手が貴族以上でなければならない、という決まりは無いと思うがの。」



腕を組んで天井を見上げながら答えるエンシェントの口調は、落ち着いているように見て取れる。実際のところは今回の案件に前例がなく法律としても整備されていない範囲の内容のために、話し合いをしたところで各々の主張を言い合う場になると諦めているためだ。

そんな心配に沿うように、会議の出席者、特に当時ハクを追放した連中は自分の考えをぶちまけている。その興奮も5分ほど続き、淡々と事実を回答するエンシェントによって、徐々に熱気も冷めてきた。



「一応言っておくが強制的な結婚ではないぞ?ハクも同意しておる、由緒正しき婚姻じゃ。」

「し、しかし貴族ですらない男との結婚など……。」



語尾が消え入るこの言葉に、エンシェントは応じない。そもそも失脚させたお前らの責任であると目と口を閉じて訴えており、周囲もその意図を理解していた。

自分の娘を良いように使われるケストレルも、この流れで多少は憂さ晴らしができただろう。先ほどから王妃と揃って口1つ開いていないが、このような本心は口にできないため仕方がない。


とはいえ、誰かが口を開かなければならないのも、また事実。黙っていては、会議という者は進行しない。

口を開いたのは、先ほどハクの幸せを確認した老人だった。



「えーと、そろそろ良いか。随分と話が逸れたのう。どうじゃ、法で整備できぬというならば、フーガ国の最高権威者に決定してもらわぬか?」



その言葉で数秒考え、全員が壇上のケストレルに顔を向ける。王妃も顔を向けており、ケストレルが決議を下すことが決定した。

反応は、不動。表情1つ変えずに、彼は己の考えをまとめ上げた。



「5年程前に我が下した決定は、皆も覚えているはずだ。娘と国を天秤にかけ、我は後者を選んだ。故に王女でなくなって以降、娘が誰と結婚しようが、国がとやかく口を挟む筋合いはない。」



娘よりも国を選んだ王としての覚悟は、彼が王である限り変わりはしない。そのために感情のない表情で答えた彼の言葉で、円卓の場は収まった。

誰であろうと、今のハクを縛ることは不可能である。親としてケストレル個人が言えば話は別だが、彼もエンシェントと同じく娘の幸せを祈っている。そのために、再び政の場に引きずり出すつもりは皆無であった。



=========



けっきょく議会での話は流れ、場所はとある家の地下室。悪人とは暗く狭いところで話をするのが好きなものだが、彼等がそう呼ばれるかどうかは今後の対応次第である。

いい話がある。そう言って先ほどの会議において、ハクを使って自分たちの政治をアピールしようとしていた連中を集めたのは、一人の龍の亜人。とある貴族であるのだが、名が残るような活動はしていない人物だ。



「こんなところに呼び出しておいて、なんだ?」

「近々、邪人国がこの町に攻め入ることになっている。」



本来ならば驚くべき発言でも、場は静かなものだ。地下独特の冷たい雰囲気が、場に居る全員を飲み込んでいる。

とはいえ、うかつに「知っていました」と言えないことも、また事実。全員が各々の情報ルートから「もしかしたら」程度に入手していた情報だけに、知っていながら対処していなかったことを自白するような真似はできないのだ。



「我々竜人は、常に強く在らねばならない。それは皆さん、共通の認識だと思います。」



その言葉で、全員が軽く頷いた。発言者はグループで最も若いものの、言っていることは全員が目指しているゴールである。

人の姿でも驚異的な戦闘能力を持つハクだが、セオリーで行けば、竜の亜人とは竜の姿になった時の方が戦闘能力が高いのだ。攻撃範囲や威力、魔力などが比較にならないほど高まるのである。鱗などにより防御力も向上するために、I.S.A.F.8492も空対空ミサイルでは火力が足りないと判断している。


文字通り、一国を相手にできる程の力。それを他国に振るおうという思いが今まで生まれることが無かったために敬意を抱かれ「最強」と呼ばれる座に就いてきた一族だが、そのバランスもここ数年で崩壊した。

かつての栄光を、取り戻すため。老兵組を蹴落とそうと企む集団には、良くも悪くも竜の亜人としての誇りが最重要課題となっていた。国としても軍事力を増強するべきとの意見が、彼等の中で一致している。



「ですが、かつてよりこの地に住まう玄人の意見は、そうではない。生い先を案じて保守に回っているのでしょうが、彼等が政権を握っている以上、どうにもなりません。」

「だから、邪人国に頼むと?」

「頼むというか、利用するの言葉の方が正しいですね。本土侵入、かつ首都への進軍や接近を許したとなれば、保守派の意見力は弱まるでしょう。」

「ちょとまて、仮にも我らがフーガ国だぞ?数の暴力ができる邪人とはいえ、そう上手くいくのか?」



その他、不安要素はいくつもある。もし仮に邪人国がフーガ国への進行に成功し首都目前に迫ったとして、攻撃がそこで止む保証は無い。

また、5年前より軍事力は弱まったところで、フーガ国の地を守るのは竜の亜人と呼ばれる種族だ。過去数千年にわたり強者として君臨し、周囲から恐れられる戦闘能力を持つ種別である。


特に、ドラゴンの姿になった時の破壊力は人型と比べて桁違いだ。単純に物理的なスペースと燃費の関係で普段は人型になっている彼等だが、いざという時は老若男女を問わずに姿を変える。

強い国を目指す彼等とて、そう簡単に勝敗が決まる状況とは思えない。邪人が従える魔物の軍勢が相手とて、こちらとしても対処できる程に収まっているからだ。



「ああ、この情報までは流れていないのですね。連中は、我々が竜に変化することを封印する魔法も、持っているようです。」

「なんと!?」

「馬鹿な!」



例によって故・勇者の入れ知恵である。竜としての血が流れている一族に対し有効な魔法となっており、邪人族が抱える魔法部隊が実行を行う手筈となっていた。

とはいえこれらは、密かに情報を集めていた彼等でも初耳であり、ハクの婚姻に匹敵するほどの内容だ。下手をすれば自分達にも危険が及ぶため、何か手を考えなければならない状況である。



「分かるかと思いますが、人の姿で邪人国の大軍は相手できません。本土侵入は許すことになりますが、町の防壁手前で和平交渉を行うよう、内通者を通して手配してあります。もちろん、見返りも相当数が必要ですけどね。」



変化というよりは変身的な魔法を封じることが本当ならば、この解決策は妥当どころか最適解だ。

ここだけ切り取れば暴走した邪人国に対する裏方工作のファインプレイに見えるのだが、目的は単に対立した政権を蹴落とすための自爆ネタである。自ら進んで国民を危険に晒す以上、どのような手を使っても悪の存在以外に変わりはない。


結果的に、この作戦で権力を手に入れるということで方針が決定されてしまう。水面下で動きを見せる様々な思惑は、根底が揺れ、溢れ出す時を待っていた。

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