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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第8章 様々な欲望
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5話 北の状況1/2

同じ邪人が治める国でも、違いはハッキリとしている。灼熱までは行かずともカラっとした熱波が襲うディアブロ国に対し、こちらは正反対。


国名を、北邪人国。ディアブロ国とは違い、随分と種族の分かりやすい国名だ。

大陸やや東部、中国北部からモンゴルを貫き、ロシアの海岸線にまで伸びる支配範囲。加えて横方向の広さは、モンゴルの東西よりも更に広大だ。面積だけで言えば西の帝国に匹敵する、文字通りの大国である。


しかしながらその帝国とは違い、国民が住むエリアが1割も無い散々たる現状である。国の6割を占める大陸中央の山脈を挟み、カラ海に面した極寒の地域に住む民族。

そして、南側に住まう民族。I.S.A.F.8492がシルビア王国を開放した時に勇者側の援軍として現れた翼竜隊はこの地域から飛び立っており、地域南側に東西に走る山脈を超えて飛来していた。


残りは平原の多い東北部に住んでおり、これら3つのエリアに大きく区切られているのが特徴だ。形上は一国となっているが、3つの国が散らばっているようなものである。

東北部と北部はディアブロ国と真逆の天候であり、夏場でも20度を超えることは稀である。冬場は降雪量こそ1メートル弱程度だが、マイナス十度は日常茶飯事という極寒の環境に化けることが特徴だ。


そのような気候の影響で、ディアブロ国と同じく野菜の類は高値で安定している。タンパク源としては魚介類が主流となっており、動物肉の類はあまり出回らない。時たま一定量の食用魔物が手に入った場合、地域住民からの好感度アップを目的に配給される程度となっている。

魔物の使役が可能な民族であるが、食用の魔物を使役して殺すというわけにはいかないのが歯がゆい点だ。理由は単純で使役されている魔物は同様の境遇にある魔物を仲間と思っており、ソレを殺すとどういうわけか遠距離でも伝達し、反逆が発生してしまうのである。ちなみにこれはディアブロ国も同じであり、そのために食料問題が解決できていない。



「ようやく暖かくなってきたな。」

「ああ、ようやくマトモなメシが期待できる。」



早朝勤務において白く可視化する吐息を目にしなくなり、太陽が昇れば冬着もやや暑く感じる頃。毎年の事ながらも、北に住まう民族は春の訪れを心の底から歓迎している。今日は非番な二人の兵士も、ようやく冬が終わったと軽口をたたき合っていた。

春を歓迎する理由は人によって様々だが、やはり言葉通りの食糧事情が最大の要因だ。身体を資本とする兵士からすると、やはり食事は元も重要な事項の1つである。



「そういや聞いたか?進軍が近いらしいぜ。」

「本当かよ、あの話。」

「ああ、間違いない。いよいよ俺達がドラゴンを倒し、世界で最も強い種族になる時だ。」



半年ほど前の戦いにおいて、彼等がはじめて体験した圧倒的敗北。勇者軍の支援に向かった翼竜隊の全てが、鳥という前代未聞の物体によって叩き落された。

故に、鳥を討って敵討ちとするべし。国民の意見は、約半数がこれである。フーガ国がI.S.A.F.8492と関わりを持っていることを北邪人国が知っている理由は、フーガ国に居る内通者からもたらされたリーク情報が要因だ。




しかし、その一方。残り半数のうち過半数は、攻撃的な今の祖国を嫌っていた。

邪人と呼ばれる種族の中にあるのは強い祖国であって、喧嘩っ早いことは履き違えである。強くありながらも誇りを持ち戦いに筋を通すことこそが、彼等が求める祖国の姿だ。


しかし国の背広は、今や鳥を討つことしか頭にない。今回のフーガ国への進軍理由に至っては、「鳥と接触したから」という理由で攻撃するほどの呆れ様だ。世界的食糧難の際に隣国が北邪人国を支援しなかった事に怒るなど、自己中心的な印象が特徴的だ。

確かに北邪人国の総力を挙げれば、例えドラゴンの連中が相手でも負けることは無いだろう。今となっては故人となった勇者は、この世界における上位種を封じる知識を置き土産としていた。


場所は、とある居酒屋の地下室。石造りで薄暗い室内において、誇り高き祖国を取り戻すため、老若男女十数人によりクーデターの計画が練られていた。

クーデター組みの中には軍の関係者も複数混じっており、そのために実行部隊は根回しが完了している。隊長格に絶対的に従う軍の決まりが、ここばかりは良く働いている状況だ。



「そもそも今更だが、上の奴等は鳥を相手に勝てるとでも思ってんのかね。」

「そこまで考えてないだろうよ。フーガ国にしたって、ドラゴンに変身?変化?する魔法を封じたところで、連中が強いことには変わりない。どれだけ被害が出るのやら。」

「いつまでも、あの勇者の幻影に憧れてんだろうよ。確かに強かったけどな。不死身の英雄なんてのは、長く戦場で生きた奴がホザく過信だろうに。」



口を開けば、今回の進軍に関するバカバカしさが次々と顔を覗かせる。冷静に考えれば当然の内容でも、視野が狭まっていると見えないものだ。



「フーガ国には悪いが、この機会を利用する。本陣がドラゴンとドンパチやっている間が勝負だ。我々の仲間の部隊の進軍順路も、本陣から途中で離脱し「奇襲部隊」となるよう組んである。奇襲先がどこかは置いといて、まず成功するだろう。」

「良い案だな。進軍中の、国の警備体制は?」

「相手が相手だからな、過去一番に薄くなるって話だ。ただし、あまり早いと進軍部隊が気づいて戻ってくる可能性もある。町の入り口の門と、城門の突破が最重要課題だ。国の周囲に居る偵察兵にも注意しなければならない。」

「了解、色々と難しいな。だが最も重要だ、頼むぞ。」



その他、必要事項を手短に打ち合わせて議会は解散となる。同じ国内においても様々な思惑が交差する現実だが、辿り着く答えは、その中において1つしかない。



=========



そのような矛先を向けられる、第二拠点から真北にいった海の近くにあるフーガ国。近くと言っても四方を山に囲まれており、平野部でもかなりの標高だ。首都がある場所は標高3000mを超えており、一般的には高地と呼ばれる土地柄である。

首都と言ってもフーガ国が抱えている町は少なく、首都を境に東に1つ、西に2つの町がある程度となっている。シルビア王国への進軍後に町村合併のようなことが行われ、民族内部の絆が強化された格好だ。



「ふざけたことを抜かすな!!」



敗戦を機会に結束が強まっているはずの民族だが、例外も存在する。フーガ国の首都、王宮近くに位置する議事堂の円卓。上座にある壇上に座る国王と王妃も耳を傾けるこの会議において、民意を代表するかのごとく凄まじい怒号が発せられた。

装飾輝く椅子とテーブルの上に飾られた硝子の類が砕け散りそうな、文字通りの大声である。この国において相当の権力者であるエンシェントドラゴンが、未だ誰も見たことのない形相と権幕で発言者グループを罵った。



事の発端は、彼も数年前から噂程度に聞いていた話である。フーガ国上位陣の一部において、力が戻った場合はハクを王族として迎えなおそうという動きがあるという噂話だった。

とはいえ、数年前の彼女は勇者により力を失っていた状態。また解除方法も不明だったために、将来は絶望視されていた。そのために起こるはずがないという前提で話が進められており、結果として彼等は、弱者となっていたハクを王族から追放している。構成するメンバーとしては若者が多く、竜の亜人として強者であることに誇りを持つことを強く意識している集団だ。


現状は、全くの想定外の状況だ。力を失ったがために彼女を王族から追放したというのは彼等にとってもまだ筋が通る内容なのだが、追放先で力が復活したという事実とハクが置かれていた状況が「怪我の治療をしていた戦士を、戦力外という理由で部隊から追放した」という、この国において最もタブーとされる内容と合致してしまったために、言い訳ができない状況下に置かれてしまっている。

先程の罵声が向けられた先に居た発言者グループは、いわば政党のようなものである。敗戦を受けて「強い祖国」を作るためとそれを国民にアピールするために、今まで活動を続けてきた状況だ。



その活動も、彼女一人の状況変化で大きく狂わされることになる。彼女を王族として復活させるという発言も、やぶれかぶれに出された最後の一手と言っても過言ではない。

一族屈指の軍隊が、まさかの人族に敗れてから早5年。そんな5年の月日が流れてから『鳥』が作り出した状況とは、それほどまでに彼等の計画を狂わせていたのである。



話は戻り、円卓の場だ。5年ほど前に追放しておきながら、今更「ハクを戻そう」などという発言が追放者の口から出れば、比較的温厚なエンシェントが怒り狂うのも当然である。彼女にとっても第二の親と言って過言でない彼は、敗戦後も彼女の身を案じ続けてきた一人だ。こちらは、前者と違って老兵を中心に構成されている。

実の両親は現在進行形で王族、かつハクの追放を最終的に決定しているために、この発言には逆らえない。とはいえ住民からすれば「苛立った家臣を抑えるのに必須だった」という認識で通っており、仮に彼女が復帰したとしても国王・王妃が咎められることはないだろう。この点は、エンシェントを筆頭とした親日ならぬ親ハク派が続けてきた水面下の活動の賜物である。


頭に血が上ったエンシェントだが、その剣幕は還暦間近の人物すらをも圧倒する。追放者一同は、彼の一言で黙り込んでしまった。

反論がないために、エンシェントも数秒で落ち着きを取り戻す。チラリとケストレル国王を横目見ると、彼も視線を合わせて軽く頷いた。


これは、二人が事前に決めていたアイコンタクトである。とある事実を公にせよという、国王直々の内容だ。



「第一、ハクを迎えるとなると王族権に関して問題が起こるぞ?」

「はっ?」



エンシェントの発言で、全員の顔に疑問符が浮かぶ。実はハクがホークと結婚したことを知っているのは彼女の両親とエンシェントのみであり、この国にとっては文字通りの爆弾に匹敵する内容なのだ。


そのために、投げられた一石で会場は阿鼻叫喚と化すことになる。

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