表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第8章 様々な欲望
151/205

2話 もっと東の状況

陸路はともかく、空路・海路の全てにおいて誰も近づかない場所、深淵の森。一歩森に踏み込めば、木々が発する癒しの香りに紛れて細かな日光が空間を切り裂く大森林だ。

生い茂る木々もさることながら、強力な魔物が群雄割拠する場所でもある。方位磁石でも使わなければ迷子になる確率の高い場所である上に危険が伴うため、踏み居る者は皆無の場所だ。実力を試したい冒険者でも、森の西側にある草原が目視できる距離までというのがセオリーとなっている。


海沿いながらも、そんな森の奥深くに陣取る1つの軍隊。そのうち海軍の約半数と陸軍のほぼ全ての部隊が、この地に陣を構えている。

軍隊と呼ぶには非常に少ない人数ながらも少数精鋭で構成される彼等は、そんな僻地でスローライフを楽しんでいた。それは末端の隊員までが同様であり、例えば警戒の任に着くまでのわずかな時間も対象だ。



「そろそろ交代だな。お前は昨日、畑の手伝いをしていたんだろ?小麦の調子はどうだ?」

「順調だ、小麦は育っている。見ての通り、今日もハイエルフの部隊が手入れ中だ。」

「機械使わずに人力だろ、大変だねぇ。」



今までも、小規模ながら小麦を栽培していたことのあるハイエルフ。確かに人力に近い管理のため、この規模の農場を管理するとなると、苦労が無いと言えば嘘になる。

それでも、「自分たちが皆の食の一端を支えている」という自覚と前代未聞の栽培規模となる農場を前にすれば、遣り甲斐は高まるというものだ。汗水を流す事には慣れている一行は、一心不乱に職務に励んでいる。安全と言う最優先事項をI.S.A.F.8492が守っているからこそ、職務に集中できる状況が作られていた。


拠点周囲は担当部隊の装甲車両と歩兵隊、上空では偵察ヘリが飛び、陸と空から拠点の周囲を監視している。偵察ヘリかと思えばアパッチが飛んでいたりと状況が理解しづらいことも時たま発生しているものの、基地の安全を守っていることに違いは無い。

その点からいえば、海に関しては毎度の如く静かなものらしい。演習という名目でちょくちょく出向している第一機動艦隊の状況は、クルージング船と言っても差し支えのない程だ。



「畑は基地の外にあるからな、何か起こらないか心配だぜ。俺達が守らなくちゃな。」

「なーにがハイエルフの皆が心配、だよ。お前の場合は、「リーフィアちゃんを守らなくちゃ」の間違いだろうに。」

「おまっ!?え、ええい!そろそろ時間だ、遅れるなよ!!」

「はいはい、お熱いねぇ。」



このように美人の恋人ができた同僚を揶揄う光景も、時たま各所で展開されている。表向きは照れ隠しを行っている兵士だが、内心では話が別だ。彼にとっての戦う理由が、また1つ追加されたことになる。

それ故に体に負担をかけない範囲で鍛練の量を増やしていたりと、以前にも増してトレーニングに励んでいる。その結果が僅かながらも実力に反映されているのだが、アハ体験の類で本人がすぐに気づくことが無いのが悔やまれる点だ。


警戒任務に就いた彼は、HK416のセーフティを解除する。周囲の微かな変化に気を配り、3パターン設定されている巡回ルートを相方と共に進んでいく。

声を掛け合うハイエルフの声が微かに聞こえるも、その程度のことが集中力を邪魔することは無い。この時ばかりは彼もパートナーの事を忘れ、兵士としての職務を全うするのであった。



======



場所は第二拠点の屋内、数百人が入れる陸軍用のブリーフィングルーム。部屋の作りはコンクリートを基礎として石膏ボードの内側に断熱材がある程度で非常に簡易となっており、装飾の類も皆無である。

無機質な白の壁紙で統一されていることがシンプルさを強く印象させており、机と椅子は大学の講義室のようなレイアウトだ。教授として教鞭を執る人物が立つ「お立ち台」には昔ながらのオーバーヘッドカメラが後付けされており、手元の用紙をスクリーンに映せるよう改造されていた。



「―――以上のことにより、金属より硬い魔物には、これらのような特徴が挙げられます。」



その装置を使って教鞭を執っているのは、狐族と呼ばれる種族の人物。知識に優れる彼女たちがI.S.A.F.8492の左官や部隊長クラスを相手に魔物の説明を行っていた。

銃や砲などの兵器を使う彼等にとって、獲物の固さというものは重要な情報となる。彼女たちがこの地に来てから定期的に行われている講義は、10回目となった今でも最重要教育項目に位置付けられている程だ。


今回の講義では、滅多に見ることのない魔物や兵器の話となっている。具体的にはゴーレムや魔導兵器が主となり、古代龍など、歩兵の銃では歯が立たない相手の解説だ。

この講義における内容が纏められた議事録はホークや大元帥クラスも見ており、各自が所持している兵器で対応可能かどうかの目安程度は行えるほどになっている。怪しければ出し惜しみせずにロケットランチャーや爆発物系統・航空支援を使うよう指示が出ているために、万が一の場合でも対処方法は確立されていた。


しかし、それでも彼等の常識が通用しないことがあるのがこの世界である。特に魔法と呼ばれる分野は、言ってしまえば「なんでもアリ」に匹敵しているため、隊員から投げられる質問も少なくない。今回は、自己再生の類に関する質問が投げられていた。



「例えばですが、相手の死亡を確認したのちに復活する、と言うようなこともあり得るのでしょうか。」

「蘇生薬と呼ばれる類のものは世界で2-3個程が存在しますが、これは病死の類にしか有効ではありません。出血多量での死亡など、外部損傷が原因で死亡してから生き返らせる薬はありません。」

「貴重過ぎて使えない、って感じですか。」

「はい。死亡と判断した後の復活となりますと、自己再生の類ですね。その場合でも、死亡後に発動するものは認知されておりません。目に見えて損傷部分が再生され始めるので、見た目的にも分かりやすいとは思います。」

「死体を操る魔物、職業などは?」

「居るとは聞いたことがあるのですが、詳細までは……。」

「了解です。」



その他、細かい質問事項が出たものの、時間通りに講義は終了。後日に各々がレポートを作成し、文書管理部署による認識度のチェックが行われることとなる。過去に問題が起こったことは無いが、認知度が低ければ追加で講習を受けることになるシステムだ。

しかし、講義自体は終了したものの、受講者が出ていく気配はない。部隊長クラスの人間は席を空けるも、端の通路に立ったままだ。いつのまにか狐族の受講者が増えており、部屋の隅の一角にチョコンと座って待っていた。



「早く早く、始まっちゃうよ!」



そして扉の開いた廊下から聞こえてくるのは、ハイエルフ達の慌てた声。緊急時以外で廊下を走ることは禁じられているため、早歩きでゾロゾロとブリーフィングルームへやってきた。

しかし、部屋の中はI.S.A.F.8492のオエライサンが勢ぞろい。現場の隊員とは明らかに違う雰囲気や佇まいを感じて、騒がしかった一同も静かになり席に着いた。


時刻は、次の講義の開始3分前。場が静かになった十数秒後、部屋の前方にある教員用の開き扉が音を立てた。

扉を開けたのは、水色の長い髪が印象的なハクである。扉を保持したまま壁際に寄ると、後ろに居た人物を部屋の中へと通した。



「総員起立!ホーク総帥に注目、敬礼!」



メイトリクス大元帥の言葉で、全員が姿勢を正して彼を敬礼で出迎える。ハイエルフや狐族は、慣れないながらも周りの動きに追従した。

そんな敬礼を向けられた彼は、教壇に向かって歩きつつ反応はしない。とはいえ、そこは総帥という役職故。手にしていた書類を置いてから一同に向かい敬礼し終わると、受講者も姿勢を解除した。



「開始3分前だけど始めた方がいいのかなってぐらいの満席具合ってーのと、なんだかアイサフのメンツが目立つね。今回は今更の話ばっかりだぞ、メイトリクス?」

「いやいや、総帥が教鞭を執られることなんて滅多にありませんからね。皆心待ちにしております。滑り込みで来る奴らも大量に居るはずですよ。」



ホントかよ、とホークが言葉を返した数秒後、確かに大量の隊員が後方の扉から部屋へと雪崩れ込もうとしていた。しかし部屋の中に「立って」いるのが上級兵士ばかりのために、勢いで突っ込めないというのが現状である。

そのために食堂のモニタを使って席数不足を補うこととなり、これにより5分遅れで講義が開始されることとなった。予定がズレたものの大した問題ではない上に兵士たちの気持ちは分かるために、ホークも苦笑しながら対応するのであった。


その後、彼の講義も無事に終了。陸海空の軍隊に関する簡単な解説と、2つの意味を持つI.S.A.F.の説明。また、超エース級と呼ばれる強力な戦闘員の存在や、I.S.A.F.8492の立ち位置などを解説した。

これにより、飛行機と車両という言葉で括られていた乗り物に対し、輸送車両や戦車、戦闘機、輸送機などの言葉が浸透することとなる。流石に戦闘機と攻撃機の区別は難しいために、このあたりは戦闘機の呼び名で統一されていた。モニタ越しにA-10に乗るパイロットたちが若干不満げな顔を見せていたが、仕方のない話である。

例によって動力や飛行原理などに食いついた狐族一同だが、専門学を極めた内容になるために担当部署が設置され、基礎の基礎から教育を行うこととなった。


最後にメイトリクスから第二拠点において発生した防衛戦闘についての報告があり、ホークもこれに耳を傾けることとなる。基本としてはHK416や417による迎撃で完了しており、一度だけグレネードランチャーを使用したようだ。

戦闘回数そのものは5回と非常に少なく、そもそも付近に近づく魔物が少ないようだ。彼が狐族に尋ねたところ、深淵の森とは思えないほどに安全な区域となっている。戦闘は結界を維持する際に防壁の外へ出たときに発生しており、その結界の維持も予定通りに行われている。


戦闘・防衛判断共に現場レベルで最適なものが行われており、ホークが案ずることは何もない。悪い言い方をすれば、総帥という職種が居なくても組織が問題なく機能している証である。

もっとも、これは彼が望むところだ。講義終了後に互いの部隊の状況などを報告し合う雑談に花を咲かせる一同を横目見ながら、彼もまた己の用意を進めるのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ