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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第7章 Faceless Soldiers
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19話 たまにはダラなエースたち

「んっ……っ!?」



断熱が効いているために少し肌寒い室内ながら、カーテンの隙間から差し込む太陽光。ぼーっとしながらダークブラウン調に落ち着いた部屋の装飾を流し見て時計に目をやると、彼女は上半身を起立させた。

昨夜は遅くまで長風呂という豪遊をしていたために発生した、完全な寝坊である。しかし隣りで熟睡中の夫を見て、今日は午前中が休みになっていたことを思い出した。


飛び起きたためにやや残っていた眠気も吹き飛んだため、ハクは行動を開始する。シンクで顔を洗いサッパリすると、相方を起こすために再び部屋へと戻ってきた。



「おきてくださーい。」

「……、んー……あと、5、世紀……。」



タスクフォース8492として活動している最中は目立っていなかったものの、彼は朝が弱かったことをハクは思い出す。着替えこそ終わっていないものの彼女の行動準備はバッチリだが、相方はミノムシ状態だ。

時計の短針は10の値を回ったところであり、朝と言い張るには難しい時刻となっている。時計の概念が徐々に分かってきた彼女は、5世紀という時間までは不明なものの彼が起きる気を持っていないと判断し、どうしたものかと溜め息をついた。


枕を奪おうにも、今は使用すらしていない。かわいらしく耳元に息でも吹きかけようかと思えば、彼はミノムシ状態のために効果は微量。司令官としての用心深さがこんなところでも表れているのではないかと考えると、「らしい」という感想がびったりで、彼女は思わず苦笑した。



「まーすーたー、もう10時ですよ~。」



ゆさゆさとミノを揺らして数秒待つも、状況は変わらない。実はここでもミノの効果が表れており、布団がショックを吸収しているために多少荒い揺り篭程度の衝撃になっていた。



「きょーは、ごごからだろ~……。」



布団越しで籠っている気の抜けた声が聞こえると、彼女は思わず黙ってしまう。確かに彼の言う通り今日は午前中が休みとなっており、補給などの作業は午後からだ。



「……それを仰られますと、返すお言葉が見つかりません。でーすーがー、長たる者、つねに凛として規律正しく居るべき……。」



今までに経験や前例がない、I.S.A.F.8492という特殊な軍隊。そんな相手に持論を言いかけ、彼女は言葉を詰まらせた。


目の前の男は、特殊という項目に値する典型的な例だろう。タスクフォース8492を指揮する時の威厳など欠片どころか微粒子レベルで今は無く、これがI.S.A.F.8492のトップと言われても、彼女ですら疑い掛けてしまう。

だからこそ、戦時では己の力を発揮できている。必要のない時は階級に関係なく休むからこその、イレギュラーの発生時における正確無比な対応ができるのではないかと考えた。


実質的に戦闘のない司令官も、兵士と変わらず生き物である。肉体ではなく頭を使う司令塔だが、責任を背負うことに対する精神的な疲れも含めると、受ける疲労の度合いは現場と比較しても変わりない。

そう考えれば、休めるときには限界まで休むという行動も必然だ。野生の動物が食べられる時に無理をしてでも食べることと似ており、今ある状況が、明日はどうなるか分からない。


だんだんと分かってきていたようで、まだまだ遠い彼の背中。手を伸ばせば届く距離にあると言うにも関わらず、彼女が憧れた「王」としての在り方は、未だその全容を見いだせない。



「……わかり、ましたっ。」


「……んぁ?」



ボフっという音と共にマットレスが沈み、寝ぼけつつも寝返りを打ったホークの身体が途中で止まる。「ならばしっかりと休もう」と意見の変わった彼女が、寝間着ではないものの身を横たえたのだ。寝返った先に彼女の身体があったため、途中で止まった形である。

状況把握に数秒ほどかかった彼だが、やることは1つ。モゾモゾとミノを解いて彼女にも布団をかけると身を寄せ合い、再び夢の世界で身体を休めるのであった。



=======



結局のところ時刻は11時を回ることとなり、朝と言い訳するには無謀となった。昇った日が雲間から差し込み、時折微かなジェットエンジンの音が聞こえる程度で相も変わらず平和な時間が広がっている。


微睡ののちに二度寝してしまったハクと共に、ホークは欠伸と共に起床する。十分に頭皮が乾かないまま寝たために、三次元な寝ぐせもバッチリに決まっていた。

その姿は、休日をダラけて過ごす一人の青年。まるで、一軍隊のトップにはとても見えない。いつかディムースが普段と戦闘時のギャップのことを言っていたが、こうして見ると言葉通りなのだなと彼女は苦笑してしまう。


しかし流石と言うところで、顔を洗うと表情がスイッチする。怠けモードは終了し、いつものお気楽な彼となった。

こうなると物事はトントン拍子で進むこととなり、こちらも珍しく昼まで小屋の中で微睡んでいたヴォルグ夫妻、そして新たに加わったハティ夫妻と共に朝食、兼昼食を取る。あまり重くないメニューをゆっくりと食すと、予定時刻まで雑談に花を咲かせていた。



「ちなみにですが、私が起きなかった場合はどうなるのでしょう?」

「どうなると言うより、「飯抜き」って言えば起きると思ってる。」

「這ってでも起きますね。」



真面目な表情でのおバカな話に笑うヴォルグに釣られ、ハティの妻も明るい表情だ。ハティ自身は落ち着いた性格であり口元を緩める程度に留まっているが、とてもリラックスしている様子を見せている。

話は変わり、タスクフォース8492として活動している一行の話になっている。マクミランのことはハティもよく覚えており、参加メンバーを聞いて「ランク詐欺じゃないですか」とツッコミを入れていた彼も、戦闘内容を聞いて眉間にシワが寄っていた。



「……えっ、アースドラゴンを相手にされたのですか?」

「ああ、昨日だな。主様が、一撃で仕留めていたぞ。」

「一撃!?」

「自分っていうか、爆弾落としただけだけどね。」



呑気な口調で会話するホークとヴォルグだが、言っていることはハティからすれば「アタマオカシイ」。フェンリル王と自負する彼等が束になって敵わない古代神龍を一撃など、前代未聞の話だ。

結果として彼の奥さんが完全に怯えてしまっており、その反面、「えっこの人が」と言いたげな表情が入り混じっていた。明らかに動作がぎこちなくなったために、ハクが宥めることになる。



「ところでマスター、彼女に名前は差し上げないのですか?」

「えっ。あ、いや、嫌って訳じゃないんだけど、ほら自分は名前つける能力が乏しいからさ。」

「そうでしょうか?私もですが、親父やお袋も気に入っておりますが。」

「そうですよマスター。以前聞いた説明も含め、私も良い名だと思っております。」



おだてられ、それならばとホークは悩む。季節的に初夏が近づいていることと、ハクレンの時のように花から何かを連想しようと、左手を口に当て、右手を左肘に当てて悩んでいた。



「ハティ、彼女はフェンリル王なのかな?」

「いえ、フェンリルですね。」

「りょうかい。……それじゃ、ウヅキ。気温が上がって暑くなる前の季節に、白くて清楚な4枚の花びらを咲かせるんだ。」



予想外に風流だった選定理由に、視聴者は口を半開きにして驚いていた。ローマ字でuの発音を多用するために柔らかな印象であり、彼女の性格にもマッチしている。

名を与えられた本人は嬉しそうにハティと名を呼び合っており、場の雰囲気的にも異議なしで確定と言った様子だ。しかしそうなると、ハクレンは1つのことが気になってしまう。



「主様。今更ですが、ハクレンとはどのような花なのでしょう?」

「正確にはハクモクレンって言うんだけど、こっちも奇麗な白い花びらだね。大きくて厚みのある花びらで、普通の花とは違って、上向きに閉じたように咲くんだ。落ち着きと気の強さを兼ね備えていたから、これにした感じ。」



質問したハクレンに対するホークの言葉に、ハクレンとウヅキ以外のメンバーが感銘の声を上げる。まさにピッタリと言いたげな表情をして、当事者のハクレンに顔を向けた。当の本人は前足で顔を擦っており、珍しく恥ずかしげな表情を見せている。

そうこうしているうちに時間になったようで、ホーク達は席を立って食器を片付けた。数分で作業を終わらせると全員が背伸びを行い、午後の活動のために気合を入れる。L-ATVのエンジンに火が入れられ、一行は第二拠点に向かって走り出した。


第二拠点の陸軍陣地ではマクミラン達もダラけた午前を堪能しており、ホークと同じく昼食後は気を引き締めなおす。今までの戦闘で実感した負の場面を補うために、最適な装備を選定していた。フルフェイスマスクで顔を隠しているためにメンバーを変更しても相手方は気づかないだろうが、ホークの指示により選抜メンバーはそのままであることが決定された。



暗さの中に森が浮かび上がる夜の景色とは打って変わって、時折エンジン音が響き渡るも、暖かな潮風が抜ける落ち着いた環境。とても先日の戦闘とは似つかない穏やかな場所で英気を養えたタスクフォース8492は、新たな行動のために補給作業を開始するのであった。




「あれっ。そう言えば総帥、あの捉えた盗賊の頭ってどこ行ったんです?」

「あっ。」



ふとした拍子に気づいたディムースだが、時すでに遅し。大規模な戦闘とニックの尋問により、ホークもすっかり存在を忘れ去っていた。抜け目が無いように見える彼でも、仲間以外の事となれば意外と抜けている部分があったりする。


どうするかと悩んだホークだが、結果としては放置することを選択した。アースドラゴンの軌跡を追って部隊が編制されている恐れもあり、BLU-122を投下したためにあのエリアは重点的に調べられる恐れがあるのだ。

そんなところに飛び込めば、タスクフォース8492は確実に怪しまれる。尋問したところで霧の盗賊団そのものは壊滅しているために、今の彼らが使える情報は薄いだろう。



以前の彼も言っていたが、猿も木から、なんとやら。

珍しくミスらしいミスをしたホークはテンションを落とすも、周りに慰められながら作業を進めるのであった。

賑やかなエース達ではじまり、ダラで終わる。第二拠点は、平和そのものです。

次章もよろしくお願いいたします。

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